マッスルガール第1話(4)
ジホは大きなバッグを手にした。白鳥プロレスの人たちに挨拶した。
「お世話になりました」
「うん、元気で」
ジホに挨拶を返し、練習を始めるぞ、とみんなで気合入れようとしているところに、青薔薇軍の連中が乗り込んでくる。
「何すんだよ、てめえら!」
舞が先頭をきって入ってきた女につかみかかった。
続いて入ってきた郷原光司が答えた。
「何って今日からここはわれわれ青薔薇軍のものです」
電車の通り過ぎる音がした。
「ちょっと待って」
後ろから梓が入ってきた。
「白鳥プロレスは解散しない」
メンバーに喜びの色が走った。
「・・・借金はどうするんですか?」
郷原光司は借用書を取り出して見せた。
梓は彼の前にひざまずいた。
「返済を待ってください。必ず返しますから。お願いします」
梓は床に頭をこすりつけた。
郷原は梓を見下して笑い続けた。
「勘弁してくださいよ」
「梓さんやめてください」
「頭上げてください」
メンバーは口々に声を発した。舞がみんなが駆け寄った。
「お願いです。ここを守りたいんです。ここはみんなの家なんです。みんな私の家族なんです。・・・お願いします」
梓はひたすら頭を下げ続けた。
その姿にジホは母を思い出した。
「ネックレスは・・・あなたが新しく家族になる人にあげなさい・・・!」
ジホは郷原の前に進み出た。ネックレスを黙って彼の前に差し出した。
「これはどういうことですか?」
「借金の代わりです」
「ほおーっ・・・ずいぶんといい品のようですね」
郷原はネックレスを手にした。
梓は立ち上がった。
「ダメよ。それはジホのものでしょう・・・!?」
「僕のお母さんのです」
「そんな大切なもの、絶対にダメ!」
「お母さんは・・・死にました」
「だったら、なおさら」
「お母さんは、これを新しい家族にあげなさいと言いました・・・僕も一緒に戦った。ここは僕の家族です。家族を守るのは当たり前です」
「キム・・・!」
郷原はゆっくりと手を叩いた。
「泣かせる話じゃないですか」
そう言って梓を見た。
郷原を見つめ返した時、
最強の女子プロレスラーは誰だ!?
マッスルガール杯
2011
優勝賞金 1.000万円
の参加募集の広告が彼女の目に飛び込んできた。
郷原は借用書を見せながら話し続けた。
「白鳥プロレスに生き延びる道はありません!」
「郷原さん・・・三ヶ月待ってください」
「三ヶ月・・・?」
「三ヶ月後に開かれる全日本マッスルガールカップに勝てば、借金と同じ額の賞金が出る。勝って、借金を返済します」
「・・・いいでしょう。三ヶ月待ってさしあげましょう。ただし・・・負けたらここを引き渡し、解散していただきます。それと」
郷原はネックレスを二人の前にかざした。
「ネックレスも、いただきます」
梓はネックレスを取り返そうとした。ジホはその手を制した。
「勝てばいいんです」
「キム・・・!」
ジホは梓にうなずいて見せた。梓も返した。
「みんなやるよ!」
「おうっ!」
メンバーは力こぶしをつくった。
梓は言った。
「マッスルガールカップで勝負だ!」
彼女らの練習にはこれまでにまして力が入った。
練習振りを見ながらジホは言った。
「梓さんはみんなのお母さんです」
「お母さん・・・?」
「お母さんは・・・やさしくて、強くて、あたたかくて、近くても遠くても、いつも見守ってくれています。お母さんは太陽です」
「太陽か・・・キム、お母さんのこと大好きなんだね?」
ジホは嬉しそうな照れ臭そうな表情を梓に返した。
「絶対に勝って、ネックレス取り戻すから」
「はい。みなさんが力を合わせれば、絶対に勝ちます」
「うん」
梓がそこから離れた後、ジホの携帯が鳴った。ジホは携帯を持って外に出た。
電話は事務所の社長からだった。
「ジホ! お前いったいどこにいるんだ?」
「僕は戻らない」
「ああん?」
「僕はあなたのところには戻りません」
ジホはそう言って携帯を切った。