雨の記号(rain symbol)

韓国映画「ビューティ-・インサイド」から⑦




 韓国映画「ビューティ-・インサイド」から⑦



 暗闇の底で光が生じた。遠くで誰かが呼んでいるようだ。
 その声はどんどん近づく。遠くじゃない。すぐ耳元だ。
「もしもし、もしもし! 終点ですよ」
 女が自分の肩を叩いている。
 ウジンは顔を上げた。
 向かい側の窓に男の顔が映る。頭の禿げた中年男だ。他に人の顔は映っていない。
 ウジンは天を仰いだ。嘆息した。がっくり肩を落とした。
 彼は電車をおり、駅の昇降階段をひとり歩いて上がっていく。
   
—― ずっと彼女と一緒にいたかった。でもそれは叶わなかった。



 ウジンは約束の場所に立った。イスは時間通りバス停に姿を見せた。しかし彼女に声をかけるわけにはいかなかった。こんな変わり果てた姿で声をかけようものなら、変態扱いされるのがオチだからだ。
 ウジンにできるのはそばで彼女を見ていることだけだった。
 イスは時計を見、ウジンのやってくるはずの方向を見、周囲に目をやるのを繰り返す。
 二人の視線がちらと交錯した瞬間もあった。しかし、イスはウジンに気づきはしなかった。

—― 会う約束はしたけど、イスが待ち続けているのは昨日の僕…、二度と戻れない姿をした男だった。

 イスの携帯が鳴った。
 職場の上司からのようだった。
 イスは”寝坊をした”の弁解を入れ、叱られてタクシーで約束のバス停を去った。
 ウジンは手をこまねいてイスを見送るしかなかった。
 タクシー内のイスからメールが入った。

—― ごめん、約束を守れなくて…。

 イスにメールを入れた後、ウジンは別人の姿で家具店にやってきた。彼女と距離を置いた場所から仕事ぶりを見守り、怪しまれられたくないので買い物もした。
 
 家に引き上げ、落ち込んでいるウジンのもとにイスからメールが届く。

—― 何かあったのですか? 待っていたのに。

 彼女は自分に好意を寄せてくれていた。
 自分だってこのまま消えたくない。彼女のためにやれることは何でもやりたい。
 ウジンは自分を奮い立たせた。


 
 イスの提案したコンセプトを汲み、デザインと設計に着手した。アレックスから試作品として送り届けた。
 製品を見て上司はイスに言った。
「かわいい子は仕事もできるのね」
「メールを送っただけです」
 はにかんで答えるイスに上司は親指を突き出す。
 包装を解き終えて上司はさらに感心する。
「ほんといい」
 何人かの見習い社員も集められている。上司は言った。
「イス、見習い社員の教育をお願い」
「わかりました」
 上司は見習い社員に訓示する。
「しっかり見て学んでください。3か月後には正社員教育よ」
 元気よく返事する見習い社員たち。
 イスはアレックスから届いたテーブルの感触を確かめる。
 携帯を充電する窪みがある。イスはふと思いだす。音楽の流れる携帯をグラスに入れたのを…あれで自分は発想を刺激されたのだと…。
 

 

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