韓国ドラマ「青い海の伝説」第12話⑩
韓国ドラマ「青い海の伝説」第12話⑨
★★★
トイレから戻って来る時、セファはスアと鉢合わせした。
「戻ってきたのね」とスア。
「そうよ」と腕を組むセファ。「ここは私の家だからね」
「…」
「1年半後、ジュンジェと一緒に引っ越すの」
「結婚でもする気?」
「分からないけど、特別な予感はしてるそうよ」
「特別な予感?」
「私を好きになる予感よ」
「彼がそう言ったの?」
対抗心を露にしながらセファは頷く。
「なるほど…だけど、それはジュンジェの口癖よ」
「えっ?」
「こんなことを考えてるでしょ? ”彼は私のことが好きなの?””勘違いかしら””やっぱり好き?””でも、付き合おうとは言わない…」
「あなた、心の声が聞こえるの?」
「典型的なキープだからわかるだけよ」
「キープって?」
「思わせぶりな態度で相手のことをつなぎとめることよ」
「…」
「ジュンジェはあなたの手に余る男だもの。今のあなたはいけすの魚ってわけよ」
「魚じゃないわ」
「いいえ、魚よ。諦めて川なり海なり、元いたところに帰りなさい」
「…」
★★★
電話が鳴る。
手にするものの応接に出る気もならずベッドに投げる。
椅子の上に座り込みマ・デヨンはずっと考え込んでいる。
また電話が鳴る。
繰り返し電話を入れ続けているのはカン・ソヒだった。
マ・デヨンが電話に出ないので苛立っている。
「もう〜、早く出てよ」
何度かけても出ない。
「母さん」
しかめつらの彼女に声がかかった。
チヒョンだった。
そばに来て腰をおろす。
「どうしたの?」
チヒョンは母親をじっと見た。
「僕の父親は誰?」
ソヒは一瞬迷い、答える。
「父さんなら部屋で寝てるわ」
チヒョンは表情を変えずに質問を続ける。
「実の父親のことだよ」
ソヒは優しい顔になる。
「急にどうしたの?」
「前から気になってたんだ。聞けなかっただけで…」
ソヒはチヒョンの手を取った。
「あなたの父親は…自分なりにあなたを愛してるわ。姿を見せないのも正体を現さないのも、あなたのためだと考えているからなの」
「…」
「だから理解してあげて」
握った手に力をこめた。
「私たちは孤独なのよ。お互いを支え合わなきゃいけないの。わかってくれる?」
「そうみたいだね」
チヒョンは力ない声で頷いた。
「そうするしかないみたいだ…」
チャ・シアは酒をぐびっとあおった。
「来たわね。座って」
通りの屋台だった。そこに現れたのはテオだった。
冴えない表情でシアの前に座る。
「どうしたの?」
「まずは飲んで」
酒を勧めてから、シアは写真を取り出しテオの前に置いた。
シアの写真だ。テオは訊ねる。
「これ、何?」
「あげるのよ」シアは言った。「バカね。みんなの前で隠し撮りするなんてさ」
テオはガクっとなる。
「そうじゃなくて…」
説明しようとするがシアは聞く耳を持たない。
「言い訳はいいの」
テオは呆れる。
シアは続ける。
「それに応えられないけど、あなたの気持ちは真剣に受け止めてるわ…」
シアの類まれな想像力にテオは頭をかいた。
「だから私の前では何でも正直になっていいの」
「…」
「辛い?」
「辛くない」テオはたまらず答える。「本当だ」
シアはグラスの酒をあおる。
「テオ、よく聞いて」
シアは屋台の明かりに目をやる。
「私はもう7年よ…大学に入って以来、ジュンジェをずっと思い続けてるのに…」
しんみりと話しだしたシアにテオは目のやり場に困った。シアを見て話を聞いてたら、シアの想像力がどこまで広がるのかが怖くなる。
つまみに手を伸ばす。何でもよかった。
「なぜ友人関係を維持できたかわかる?」
テオは手につまんだものを口に運ぶ。かじったらキュウリだった。
「気になるでしょ?」
とシアは笑った。
テオはシアの前から動けない。相手がしんみり話してるのに話を聞かない振りもできない。ムシャムシャ口を動かして話を聞く。
「何も求めなかったの。相手に負担を与えないようクールに接してきた」
「…」
シアは自分のグラスに酒を注ぐ。
「適度な距離を保ってきたのね」
そう言ってまたぐっと飲み干す。
ふうっと息をついて言う。
「それが大人の恋じゃないかしら」
「…」
この後、シアはテオを待たせて散々荒れた。ジュンジェに電話を入れ、泣きわめき、懇願し、愚痴と妄想を並べた。
「ジュンジェ、お願いだから切らないで。切らないでったら…! 予感って何? 少しは私にも目を向けてよ。…あなたとは細かい手順を飛ばして―すぐに結婚したいわ…身近な人だけで小規模な式を挙げるの。今、流行ってるから…景色のきれいな海辺かお花畑で…来てくれた人たちに美味しい料理をたくさん振舞うのよ…子供が生まれたら慈善団体に寄付もするわ。それが…それが流行ってるから」
そう言いながら、ワ〜ンワン泣き出した。
「ジュンジェ、お願いだから切らないで…! 私は今まで何をやってたの? 私の努力と苦労は無駄だったの? そうなの? シュンジェ…ジュンジェったら…!」
シアから愚痴を並べられ、泣きつかれてジュンジェは困惑した。
顔をしかめて言った。
「そこはどこだ? 道端でそうやって騒いでると通報されるぞ。今日はもうおとなしく家に帰れ。…テオと一緒なのか? だったらテオに送ってもらえ。いいか、もう切るぞ」
シアは愚痴を並べているが、ジュンジェは電話を切った。
隣で成り行きを聞いていたナムドゥは言った。
「シアの泣き言か…年末恒例だな」
「…」
「この時期になると溜まっていたものが爆発するんだよな」