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ヨンタバルの一団は夫余に姿を見せていた。ヨンタバルは勢い盛んな夫余の地を一山あてる場所と踏んでいる様子である。
この地を根城にでもしたか、ヨンタバルは召西奴を頭首にしたてて遠行に出すと宣言した。
この頃、金蛙王無事帰還をかねた祭事が盛大に行われようとしていた。神女たちは舞台回しの役割だが、朱蒙はその一人をくどいて戯れ事にひたった。
それを知らされて金蛙王がやってくる。朱蒙のだらしない姿を見て彼は怒りを露にした。剣を抜いた。
(第3話より)
「この愚か者!」
金蛙王に朱蒙を殺すつもりなど毛頭ない。しかし、神女に手を出した朱蒙のあまりの愚かさに腹が立ったのだ。しばし、朱蒙に剣を突きつけた後、金蛙王は剣を投げ出して言った。
「朱蒙や。お前のために嘆く母親があまりに不憫ではないか」
朱蒙がおわびを入れているところに母親のユファ夫人が駆けつけてくる。
「陛下、これ以上陛下と王室を辱めないように私たちをここから追い出してください」
ユファは朱蒙の情けなさ至らなさ、王子としての資格のなさをとうとうとわびた。
「もうよい。それくらいにしなさい。王子として迎鼓祭に出席しなかった罰、杖打ちニ十回に処しなさい」
力なくそう言って金蛙王が行こうとした時、帯素王子が王に願い出た。
「二十回なら丈夫な男も寝込むほどの重刑です。朱蒙王子は明日、私とともにタムル弓を見るため、長い旅に出ます。杖打ちは後日にしていただけませんか」
少し思案して金蛙は言った。
「そうしなさい」
帯素の母ウォンビと弟のヨンポは怪訝そうに帯素を見ていた。
朱蒙は帯素にしがみついて礼を言った。
その様子をヨミウルとプドウクブルが物陰で見ていた。
「あれでもヘモスの子と思われますか?」
「いや」プドウクブルは首を振った。「ヘモスの子ならばあのように情けないはずがない。判断を誤っていたようだ」
ヨミウルは朱蒙の方をじっと見ながら言った。
「私は依然として只者ではないような気がしています」
部屋で解せない顔をしている母親とヨンポに帯素は言った。
「宮の中ではあいつに手が出せません。しかし、外へ出たならどうにでもなります。杖打ちを二十回も受けたのではせっかくの機会を逃します」
「それでは・・・」
「明日タムル弓を見に行く遠出が朱蒙を殺す絶好の機会です。この旅で朱蒙を殺して見せます」
朱蒙は母親の前で小さくなりながら謝った。
「プヨンはどうなりましたか」
「杖で十回叩かれて追い出された」
「耐えられましたか」
ユファは息子をにらみつけた。
「どんなあやまちを犯したか、やっとわかったか。明日はタムル弓を見に出かけねばならない。もう遅いから休みなさい」
「いったい、タムル弓って何ですか。なぜ、弓を見にそんな遠くまで行けとおっしゃるのですか」
「タムル弓は夫余の始祖が建国のために、一生、手放さなかったという神器だ。夫余の王子タムル弓を見て精気を受けなければならない」
朱蒙は考え込んでいる。
「なぜ、黙っている。宮外へ出るのがおそろしくなったか?」
「いいえ、見ていてください。今度こそ、失望させないようにします」
翌日、兄弟三人は金蛙王の前に立った。
「外へ一歩出たら、お前たちは王子ではない。そのつもりで行ってこい」
三人は勇んで宮の外へ飛び出していった。まっしぐら始祖山めざして馬をはしらせた。罠が待っているとも知らず、朱蒙は二人の兄に従って馬を走らせた。自分が一人前なのを兄たちに見せようとさえした。図に乗った朱蒙は二人の罠にまんまとかかり、底なし沼に沈んでいった。いくらもがいても一人では外へ抜け出せない。頭までしずみ、もはやこれまでという時、一本のロープが朱蒙の右手にかかった。頭まで沈んでも朱蒙は気力を残していた。ロープが飛んできて手首にかかった瞬間、朱蒙はそのロープを必死に握りしめたのだ。
朱蒙を救ったのは商団の頭首召西奴とそれに従うウテだった。
「気がついたのか」
意識が戻った朱蒙は召西奴に声をかけられて訊ねた。
「ここはどこだ」
「あの世じゃないから心配するな」
「ここはどこだと聞いている」
「生意気なやつだ。お前を救ってやったのは私なのにそれがわからないのか」
呆れて行こうとする召西奴の腕を取ると、召西奴は朱蒙の手を振りほどいた。押さえ込もうとする朱蒙をけり倒し、手にしたムチで身体を打った。その瞬間、召西奴の兜が飛んだ。長い髪が表出した。朱蒙はあっけに取られた。
「女だったのか・・・」
この瞬間に朱蒙は召西奴に魅せられたようだ。
召西奴は逃げないようこの男をしばりつけておけと配下に命じた。
朱蒙は縄をかけられたまま、商団の取引を見物することになる。取引は決裂する。相手が品を奪い取ろうとしたからだ。
相手を打ちのめした召西奴は大将の首を取るようウテに命じる。ウテは出来ないという。どうしても取りたいなら自分でおやりなさい、と。
相手は許されてすごすご引き揚げていった。
これまで埋もれていた朱蒙の資質(度量の広さ)がここで芽を出し始める。
「商売をする者が心が狭いな。頭首はお前より、敵を許したあの方がやった方が商団のためになる」
頭首をくさされてウテは朱蒙の喉もとに剣を突きつける。
「自分も守れない者がいらぬ口出しをするな。むやみにでしゃばったら死ぬことになるぞ」
「卑怯者」
朱蒙は叫んだ。
「言いたいことがあるなら、縄をほどいて勝負しろ」
朱蒙の言葉に、少しは見どころのある男のようだ、と召西奴は見たようだ。
召西奴は朱蒙を供の男と格闘させる。それでケピルと賭けをする。ヨンタバルと賭けていつも損をしているケピルはこの時とばかり供の男に乗る。
「チョータッ(いいよ)」
と召西奴もなぜか上機嫌で朱蒙に乗った。
朱蒙は最初苦戦するが、召西奴の挑発やあざけりを受けて必死で逆転勝ちする。
息を切らしながらも、やったぞ、という顔の朱蒙。やっぱり、見込んだとおりだ、の召西奴の顔。どこかで似たような場面が・・・と考えて思い出した。誇り高い振る舞いなど見せなかった男ヘモスが、唯一得意げなポーズを取った瞬間があった。召西奴がこの世に生を受けようとしていた時、ヘモスは商団を襲ってきた山賊を打ちのめした。ヨンタバルの見ている前だった。
それが蘇ってきたせいか、朱蒙と召西奴の見つめあう場面が妙におかしい。
朱蒙が運命の道草を食っている時、帯素とヨンポは始祖山に到着しつつあった。苦労を重ねながら二人は洞窟内のタムル弓の場所にたどりつく。
その頃、商団から解放された朱蒙も洞窟に近づきつつあった。
タムル弓を握った帯素は必死で弦を張ろうとするが弓はピクとも動かない。帯素とヨンポの二人はそれをあきらめて山をおりた。
疲れて休んでいる時、朱蒙はふと人の話し声を聞く。兄たちだ。身を乗り出そうとして思わず引っ込む。二人が自分の話をしていたからだ。兄たちは自分を殺したと思い込んでいるようだった。それを知って、朱蒙は絶望と悲しみに沈む。
朱蒙も火をかざしてようやくタムル弓の場所にたどり着く。タムル弓の前に跪く。立ち上がり、足をひきずりながらタムル弓のそばに立つ。
朱蒙は力をふりしぼって弓の弦をかけた。しかし、弓を引こうとした時、弓は鈍い音を立てて二つに折れてしまった。
夫余宮に戻ってきた帯素とヨンポは途中で朱蒙を見失ってしまったことを報告していた。かねて打ち合わせたとおりの申し訳なさそうな演技だった。
金蛙王は大将軍に朱蒙の生死の確認を行うよう命じる。
金蛙王の命令に不満のウォンビはヨミウルを呼び、陛下の命令をヨミウルが止めてください、と頼み込むが、私はエセ占い師ではありません、とはねつける。
生死の確認をおこなえとの命が出て、引っ込みのつかない帯素たちも探索に出ようとするが、朱蒙は疲れた身体を引きずりながら宮へ戻ってきた。
三人が無事戻ってきた事でお祝いの席が用意される。
その席で金蛙王は三人に弓を見てきたか、そして、弦を張ってみたか、と問う。
「はい。張りました。あのように強い弓は見たことがありません。あれこそ、真の神器です」
帯素は答える。
ヨンポも答えた。
「はい。兄ほどすぐには張れませんでしたが、苦労して張ることができました」
朱蒙は跪いて答えた。
「お許しください、陛下。始祖山にもたどりつけずに帰ってきました」
部屋に戻って、ユファは朱蒙を問いつめた。
「私には見たと言ったではないか」
朱蒙は見た弓が折れたことと、兄たちが自分の死を望んでいたことを話し始める・・・。
「だから怖くて、陛下の前でほんとのことが言えなかったのです」
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