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韓国ドラマ「病院船」から(連載18)
「病院船」第2話➡劣悪な手術室⑤
★★★
事務長は怪訝そうにする。
「何ですって? ソン先生を追い出せ?」
「そうだ。今すぐに」と船長。
「ソン先生は患者を救ったんだぞ」
「そんなことは分かってる」
「じゃあ、なぜ?」
「予算がないからに決まってる」
船長はファイルを突き出した。
「ソン先生を受け入れてみろ」
船長はファイルを開いた。
「こんなに買えっていうのか? これじゃ船が進まない」
「…」
「ただ浮いてるだけでいいのか?」
事務長は手にしたファイルを机上に戻した。
「カネを出す必要はない」
「どういう意味だ」
「昨日みたいにソン先生が奇跡を起こせば、あっという間に病院船は注目の的になる」
「そしたら?」
「金づるがドバドバ押し寄せて来るんだよ」
「何のために?」
「そりゃ、撮影するためにだよ」
「わざわざ…?」
「ただし、タダで撮らせるわけにはいかない」
「そういうものか…」
「あとは大人しく私に任せておけばいい。すでにプロジェクトは始まっているんだ」
船長はひとつ空咳をした。
事務長の話は口先だけではなかった。
★★★
事務長がデッキに出るとすでに取材のセットが組まれつつある。事務長は満足そうに笑みを浮かべた。そこへ船長もやってきた。
「何するんだ?」
「病院船が放送されたらスターになるぞ」
船長は感心した。
「なるほど、そういうことか」
ヒョンはウンジェのいる手術室に顔を出した。
「ライトの交換? 何で先生がやるの?」
「手があるから」
「あの…なんというか…」
ウンジェは台からおりた。
「謝りたいの? 気にしないで。本当のことだし、落ち込んでもいない」
ウンジェは向き直った。
「用がすんだなら出ていって」
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ヒョンは診療室に戻った。
ひとりでぼやいた。
「手術の件もひっかかってるのか…そこまで突き放さなくてもいいだろ」
アリムがウンジェを探してきた。向き合うとアリムは飲み物を押し付けて来る。
「昨日は感動しました。医療モノの海外ドラマでたくさん勉強して、やっと看護師になれたんです。患者を救う感動を味わいたくて…そして昨日、夢が叶いました」
「ユ・アリムさん」
「はい? どうして私の名前…」
アリムは自分のネームプレートを見た。照れ笑いする。
「今日、診療でしょ」
「その通りです」
アリムは感心する。
「仕事を覚えるのも早いんですね」
「あなたは仕事が雑過ぎる」
ウンジェはそう言って歩き去った。
アリムはあわててウンジェの後を追う。
仕事は雑…ウンジェがもっとも仕込みがいもあると見ていたのはアリムだったようだ。
「あなたが救急キットの管理を?」
「そうですが…」
「麻酔剤と消毒液がないわよ」
アリムは”しまった顔”になった。
「補充を忘れていました」
「私たちのミスが患者を危険に陥れるのがわかりますか? マニュアルは飾りじゃないの」
ウンジェは台を叩いた。
「守るものよ」
アリムはウンジェからばっちり教育されてゴウンのところに戻ってくる。
ぶつぶつ口中で繰り返している。
「”マニュアルはかざりじゃない。守るものよ”分かってるわよ」
「どうしたの? 機嫌が悪いわね。”凄い医者だ”って喜んでたのに。フラれちゃった? 3人組の誰かにすれば?」
「もう、やめてください」
反発してアリムは苦笑した。
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小型船に乗り換えて医療スタッフは島へ出発した。
この時にジュニョンは言った。
「今日は歓迎会をするので、ぜひ寮に来てください」
横でアリムが訊ねた。
「そんなの誰が決めたんです?」
「僕だよ」とジュニョン。「どうです皆さん、いいでしょ?」
みんな黙っているかに見えたが、ゴウンが賛成した。
「やりましょうよ。仲間が来たんだから歓迎しないと。ですよね、事務長?」
「もちろんだ。お祝いやろう」
「あっはははは、食べたい物があったら何でも言ってください。僕が用意します」
とジュニョン。
みなの目はウンジェに注がれた。
「特にない?」
「はい」とウンジェ。
「そうなんだ。仕方ないですね」
みなは乗り気でなさそうなウンジェをぼんやり見やった。
するうち小型船は島の船着き場を目の前にした。
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診療の船が到着し、村長が連絡のマイクを握った。
「病院船が診療に来ました。希望者は自治会館に集まってください…」
医療スタッフが上陸し、自治会館に向かって歩いていると前方でトラブルが発生している。すかさずウンジェが走り出した。村長に何事かアクシデントが発生したようだ。
ゴウンはウンジェを追いかけながら叫んだ。
「先生、村長は狭心症です」