韓国ドラマ「青い海の伝説」第18話⑤
韓国ドラマ「青い海の伝説」第18話④
★★★
チヒョンはナムドゥを人気のない場所に連れて行った。
「じつはジュンジェの仕事が気になって調べたんです」
「ああ…そうですか」
「あなたはジュンジェとは違うようですね」
ナムドゥはチヒョンを見つめ返す。
「ジュンジェは…裏金を狙って詐欺を働いていましたが、あなたは仕事を選ばない」
「…」
「純粋な悪人だ」
「ええ。否定はしませんよ。食事も仕事も好き嫌いがないんです。何でもありだ。それで何か?」
「明日にでも…いや、今日にでも牢屋にぶち込める」
「…」
「どうする? 僕につかないなら刑務所行きだ」
チヒョンは不気味に笑った。
ナムドゥは愛想笑いを返す。
「これでも年上です。タメグチは困りますよ」
「…」
「私は常にお金持ちの味方です。お父様の遺産を相続されるそうですね。わざわざ脅かさなくてもいくらでもあなたに付きますよ」
「…」
「お望みは?」
「ジュンジェを消す」
「消す? どこへ?」
「この世から完全に」
「う~ん、実は…今、すごくほしいものがあるんですが…手にいれるためには、私もヤツが邪魔なんです」
「…」
「いいでしょう。長い付き合いなのでためらっていましたが、やりましょう。いつかは終わる仲だ」
ナムドゥはチヒョンと別れ、ジュンジェたちのところに戻った。
ジュンジェと目が合ったナムドゥは不気味な笑みを浮かべて頷いた。
★★★
ジュンジェらはイルジュンの遺体分析にあたった解剖医の説明を受けた。
「死因は…急性心不全です」
カン・ソヒはほっとした表情になった。
ジュンジェは訊ね返した。
「心不全ですか? 毒物中毒ではなくて?」
「毒物中毒の場合は唇が暗褐色になります。故人の唇は青かった。心不全で見られる現象です」
ナムドゥはちらとチヒョンを見た。2人は一瞬目が合った。チヒョンはすぐに目線を外す。
「毒物中毒死特有の死斑も出ていません。診療記録から見ても心不全で間違いないかと」
「化学薬品ならそうでしょうが、トリカブトでの毒殺なら心不全と症状が似ているはずです」
カン・ソヒは目を落とす。
ジュンジェは言った。
「遺体を解剖してください」
ジュンジェは驚きを見せる。チヒョンも同様だ。
「これまでに何があったのか知りたい」
横からカン・ソヒが言った。
「お父さんを切り刻む気?」
「だから? 何かやましいことでも?」
「そうじゃないわ。あの人は…独り寂しく息絶えたのよ。これ以上苦しめたくないの。解剖でいったい何が得られるの?」
「お前が殺した証拠だ」
「何を言いだす!」
チヒョンが横から口を出す。ソヒが制した。
「いいのよ」ソヒはジュンジェを見た。「この10年間―あなたはあの人に一度も会いに来なかった。どうして急にそんなことを言いだすの?」
「…」
「お金のために?」
ジュンジェは呆れた。
「お金がほしいならぜんぶあげるわ。だから」
涙声でジュンジェの手を握ろうとする。
ジュンジェは振り払う。
「あの人を楽に逝かせてあげて。あなたのお父さんなのよ」
ソヒは涙ながらに訴える。
「そんな残酷なことはやめて」
ジュンジェは言う。
「その完璧な演技に誰もが騙され続けてきたが、ここに至ってはもう通じない」
ジュンジェはカン・ソヒに付き添ってきた男に言った。
「僕は実の息子です。家のトリカブト。この女が持っていた針と大量の抗コリン薬、他殺が疑われる状況なので解剖をお願いします」
「私が長男です」
チヒョンが前に進み出る。
「父が認めた唯一の息子です。10年ぶりに姿を見せた弟は、遺産問題で父と争っていました」
「…」
「僕と母は解剖を希望しません。父も望まないはずです」
ソヒはチヒョンの胸に顔を埋める。
ジュンジェはしばしチヒョンと睨み合った。
ホ・イルジュン宅に警察車両が列をなしてやってくる。各課の捜査員が次々と入っていく。
先頭に立って捜査令状を握っていたのはホン刑事だった。
「徹底的に調べろ!」
2階からカン・ソヒがゆっくり降りて来る。
ホン刑事が声をかけた。
「喪服姿はちと気が早いのでは?」
ソヒは下りて来てホン刑事の前に立った。
「じきに葬儀ですから」
「解剖されるかもしれない時に…大丈夫ですか?」
カン・ソヒは平然と笑う。
「大した自信だ」
「何とでもおっしゃってください。私の話なんてどうせ信じないでしょ?」
行こうとするソヒにホン刑事は言った。
「もしかして、カン・ジヒョンさんをご存じで?」
一瞬、ソヒは身を固くする。動揺する。
しかし、次の瞬間には冷静さを取り戻す。
「私に何か聞きたいなら、今後は弁護士を通してください」
「ああ、弁護士ですか…弁護が必要な状況なんですね。無理もない。双子の妹の名前だ」
「…」
ホン刑事はポケットから何か取り出す。
「古い写真が出てきました」
カン・ソヒに向けてかざす。
「二人はそっくりですよね」
写真の裏側を見る。
「一卵性?」
ソヒはとぼける。
「何の話かわからないわ」
「妹さんは現在どちらにお住まいで?」
ソヒはホン刑事を睨み返す。黙って背を返す。
「それともあなたが…ご本人かな?」
ソヒは一瞬足を止めたが、答えずに行ってしまった。
間違いないようだ…ホン刑事は笑みを浮かべた。