エラ呼吸の話が続いているので、少し空気呼吸をする肺についても話題にしてみましょう。
水中で暮らす魚と軟体動物はみなエラを使って水中の酸素を取り込み二酸化炭素を排出するガス交換をしています。魚やイカ、タコのエラは、写真のウーパールーパー(メキシコサンショウウオ)のエラの様に体外に飛び出してはいませんが、外の水がエラの表面を流れてそのまま排出されるという点では、外部環境に露出していると言えるでしょう。
このようにエラは水中という外部環境に解放されているために川などの淡水ではエラを通して体内に水が染みこんだり、海水では体から水分が抜ける脱水をおこしたりするので、それを避けるためにエラや腎臓の仕組みを利用して体の水分バランスを調節しています(水中の動物たちの呼吸2を参照)。
一方、陸に住んで空気呼吸をする爬虫類、鳥類、哺乳類はガス交換に肺を使っていますが、これらの動物たちの肺は気管・気管支という長い管の先の奥深くに配置されていて、エラのように空気中に解放されてはいません。
もしヒトの肺がエラと同じように体の外に露出していたらどうでしょうか?
具体的なイメージとしては、毛細血管が張り巡らされた薄いシートが本のページのように重なっているクモの書肺です。
例えば図のように背中に多数のヒダが本のページのように重なった翼に似た肺が背中から生えているとしましょう。(はからずも天使のようになりました 天使の翼は呼吸器官ですか!?)
ページの間を空気が流れてガス交換を行い、その全ページの総面積は肺胞表面積と同じ80平方メートルあるとします。(以後、「翼の肺」と言う)
露出しているために、埃で汚れる、傷つきやすい等の問題はありますが、呼吸のための運動が不要、病気の発見が早い、などの利点があるでしょう(この図の場合仰向けに寝られないのも欠点ですが)
この場合、重要なことは翼の肺の表面が薄い水の層で覆われていることです。その水に溶けた酸素が肺表面の細胞膜を通って毛細血管へと吸収され、二酸化炭素はその逆を通って排出されるからです。カエル等の両生類が呼吸の50%を皮膚呼吸に頼っているために常に皮フを湿らせていることと同じです。
このような状況では翼の肺表面から水の蒸発が無視できない量になります。
○翼の肺表面から蒸発する水分量を見積もる
多少荒っぽい話ですが、洗濯物が乾く過程を参考にします。
普通のタオル(30×70cm)を濡らして水分が100g残るように絞ります。これを、湿度30%で気温25℃の無風状態という爽やかな気候の時に陰干しすると1時間後には水分が蒸発して約70g軽くなりました。
さて、タオルの表面積は表と裏を合わせて0.42平方メートルです。肺の表面積は約80平方メートルなので、タオルの約200倍もあります。この湿ったタオルと同じ割合で肺の表面から蒸発すれば1時間に14kg(70gX200=14000g =14リットル)もの水分が蒸発することになり、脱水して干からびるのを避けるためには大量の水分を取らないといけません。
○肺が体の奥にあると干からびない理由
ヒトが呼吸をする毎に、乾燥した空気は鼻、喉、気管、気管支を通って徐々に肺胞に到達します。
息を吸うときには空気は気管・気管支の熱と水分で加温、加湿されて水蒸気で飽和してから肺胞に到達するために、肺胞表面から水は蒸発しません(この時空気は37℃となって含まれる水分は1リットル当たり0.044g)。
息を吐くときは、水分で飽和した37℃の肺胞気が逆に流れて気道に熱を与えて温度が下がると、それと共に飽和水蒸気圧も減少して呼気中の水分量も減ります。鼻から出る呼気が25℃に下がっていたとすると含まれる水蒸気量は1リットルあたり0.023gに減っています。
成人の安静時の1回の換気量は約500ml、大きく息をするときは2000~3000mlになります。1日の内では、安静に寝ている、食事する、歩く、仕事する、などの状況で換気量は変化しますが、それを平均して1回1000ml 1分間に20回呼吸するとしましょう。すると1分間の換気量が20リットルとなります。乾燥した空気を吸って、吐くときの水分量は1リットル当たり0.023gでしたから、呼吸で失われる水分量は毎分0.46g(0.023g×20リットル=0.46g)、つまり1時間で約28g(0.46X60=27.6g)、1日では660gとなります。翼の肺では1時間に14kgでしたからそれのほぼ1/500程度とかなり少なくなっています。
空気呼吸動物は呼吸する空気の温度と湿度を調節するために、肺を体の奥深くに収めて、口や鼻、長い気管・気管支を通過させていると言えるでしょう。
海に住む魚は脱水を避けるために大量の海水を飲んでいますが、陸上の私たちはそれができないので、水分を逃がさないように調節しています。
こうして肺胞を湿潤状態に保ってガス交換を維持し、かつ呼吸に伴って過剰な水分が失われないようにして、体の中の“海”を守っているのです。
水中で暮らす魚と軟体動物はみなエラを使って水中の酸素を取り込み二酸化炭素を排出するガス交換をしています。魚やイカ、タコのエラは、写真のウーパールーパー(メキシコサンショウウオ)のエラの様に体外に飛び出してはいませんが、外の水がエラの表面を流れてそのまま排出されるという点では、外部環境に露出していると言えるでしょう。
このようにエラは水中という外部環境に解放されているために川などの淡水ではエラを通して体内に水が染みこんだり、海水では体から水分が抜ける脱水をおこしたりするので、それを避けるためにエラや腎臓の仕組みを利用して体の水分バランスを調節しています(水中の動物たちの呼吸2を参照)。
一方、陸に住んで空気呼吸をする爬虫類、鳥類、哺乳類はガス交換に肺を使っていますが、これらの動物たちの肺は気管・気管支という長い管の先の奥深くに配置されていて、エラのように空気中に解放されてはいません。
もしヒトの肺がエラと同じように体の外に露出していたらどうでしょうか?
具体的なイメージとしては、毛細血管が張り巡らされた薄いシートが本のページのように重なっているクモの書肺です。
例えば図のように背中に多数のヒダが本のページのように重なった翼に似た肺が背中から生えているとしましょう。(はからずも天使のようになりました 天使の翼は呼吸器官ですか!?)
ページの間を空気が流れてガス交換を行い、その全ページの総面積は肺胞表面積と同じ80平方メートルあるとします。(以後、「翼の肺」と言う)
露出しているために、埃で汚れる、傷つきやすい等の問題はありますが、呼吸のための運動が不要、病気の発見が早い、などの利点があるでしょう(この図の場合仰向けに寝られないのも欠点ですが)
この場合、重要なことは翼の肺の表面が薄い水の層で覆われていることです。その水に溶けた酸素が肺表面の細胞膜を通って毛細血管へと吸収され、二酸化炭素はその逆を通って排出されるからです。カエル等の両生類が呼吸の50%を皮膚呼吸に頼っているために常に皮フを湿らせていることと同じです。
このような状況では翼の肺表面から水の蒸発が無視できない量になります。
○翼の肺表面から蒸発する水分量を見積もる
多少荒っぽい話ですが、洗濯物が乾く過程を参考にします。
普通のタオル(30×70cm)を濡らして水分が100g残るように絞ります。これを、湿度30%で気温25℃の無風状態という爽やかな気候の時に陰干しすると1時間後には水分が蒸発して約70g軽くなりました。
さて、タオルの表面積は表と裏を合わせて0.42平方メートルです。肺の表面積は約80平方メートルなので、タオルの約200倍もあります。この湿ったタオルと同じ割合で肺の表面から蒸発すれば1時間に14kg(70gX200=14000g =14リットル)もの水分が蒸発することになり、脱水して干からびるのを避けるためには大量の水分を取らないといけません。
○肺が体の奥にあると干からびない理由
ヒトが呼吸をする毎に、乾燥した空気は鼻、喉、気管、気管支を通って徐々に肺胞に到達します。
息を吸うときには空気は気管・気管支の熱と水分で加温、加湿されて水蒸気で飽和してから肺胞に到達するために、肺胞表面から水は蒸発しません(この時空気は37℃となって含まれる水分は1リットル当たり0.044g)。
息を吐くときは、水分で飽和した37℃の肺胞気が逆に流れて気道に熱を与えて温度が下がると、それと共に飽和水蒸気圧も減少して呼気中の水分量も減ります。鼻から出る呼気が25℃に下がっていたとすると含まれる水蒸気量は1リットルあたり0.023gに減っています。
成人の安静時の1回の換気量は約500ml、大きく息をするときは2000~3000mlになります。1日の内では、安静に寝ている、食事する、歩く、仕事する、などの状況で換気量は変化しますが、それを平均して1回1000ml 1分間に20回呼吸するとしましょう。すると1分間の換気量が20リットルとなります。乾燥した空気を吸って、吐くときの水分量は1リットル当たり0.023gでしたから、呼吸で失われる水分量は毎分0.46g(0.023g×20リットル=0.46g)、つまり1時間で約28g(0.46X60=27.6g)、1日では660gとなります。翼の肺では1時間に14kgでしたからそれのほぼ1/500程度とかなり少なくなっています。
空気呼吸動物は呼吸する空気の温度と湿度を調節するために、肺を体の奥深くに収めて、口や鼻、長い気管・気管支を通過させていると言えるでしょう。
海に住む魚は脱水を避けるために大量の海水を飲んでいますが、陸上の私たちはそれができないので、水分を逃がさないように調節しています。
こうして肺胞を湿潤状態に保ってガス交換を維持し、かつ呼吸に伴って過剰な水分が失われないようにして、体の中の“海”を守っているのです。