もっと空気を

私達動物の息の仕方とその歴史

水中の動物たちの呼吸14

2022-11-22 18:00:00 | 日記
エラ呼吸の話が続いているので、少し空気呼吸をする肺についても話題にしてみましょう。

水中で暮らす魚と軟体動物はみなエラを使って水中の酸素を取り込み二酸化炭素を排出するガス交換をしています。魚やイカ、タコのエラは、写真のウーパールーパー(メキシコサンショウウオ)のエラの様に体外に飛び出してはいませんが、外の水がエラの表面を流れてそのまま排出されるという点では、外部環境に露出していると言えるでしょう。

このようにエラは水中という外部環境に解放されているために川などの淡水ではエラを通して体内に水が染みこんだり、海水では体から水分が抜ける脱水をおこしたりするので、それを避けるためにエラや腎臓の仕組みを利用して体の水分バランスを調節しています(水中の動物たちの呼吸2を参照)。
一方、陸に住んで空気呼吸をする爬虫類、鳥類、哺乳類はガス交換に肺を使っていますが、これらの動物たちの肺は気管・気管支という長い管の先の奥深くに配置されていて、エラのように空気中に解放されてはいません。
もしヒトの肺がエラと同じように体の外に露出していたらどうでしょうか?
具体的なイメージとしては、毛細血管が張り巡らされた薄いシートが本のページのように重なっているクモの書肺です。
例えば図のように背中に多数のヒダが本のページのように重なった翼に似た肺が背中から生えているとしましょう。(はからずも天使のようになりました 天使の翼は呼吸器官ですか!?)

ページの間を空気が流れてガス交換を行い、その全ページの総面積は肺胞表面積と同じ80平方メートルあるとします。(以後、「翼の肺」と言う)
露出しているために、埃で汚れる、傷つきやすい等の問題はありますが、呼吸のための運動が不要、病気の発見が早い、などの利点があるでしょう(この図の場合仰向けに寝られないのも欠点ですが)
この場合、重要なことは翼の肺の表面が薄い水の層で覆われていることです。その水に溶けた酸素が肺表面の細胞膜を通って毛細血管へと吸収され、二酸化炭素はその逆を通って排出されるからです。カエル等の両生類が呼吸の50%を皮膚呼吸に頼っているために常に皮フを湿らせていることと同じです。
このような状況では翼の肺表面から水の蒸発が無視できない量になります。

○翼の肺表面から蒸発する水分量を見積もる
多少荒っぽい話ですが、洗濯物が乾く過程を参考にします。
普通のタオル(30×70cm)を濡らして水分が100g残るように絞ります。これを、湿度30%で気温25℃の無風状態という爽やかな気候の時に陰干しすると1時間後には水分が蒸発して約70g軽くなりました。
さて、タオルの表面積は表と裏を合わせて0.42平方メートルです。肺の表面積は約80平方メートルなので、タオルの約200倍もあります。この湿ったタオルと同じ割合で肺の表面から蒸発すれば1時間に14kg(70gX200=14000g =14リットル)もの水分が蒸発することになり、脱水して干からびるのを避けるためには大量の水分を取らないといけません。

○肺が体の奥にあると干からびない理由
ヒトが呼吸をする毎に、乾燥した空気は鼻、喉、気管、気管支を通って徐々に肺胞に到達します。
息を吸うときには空気は気管・気管支の熱と水分で加温、加湿されて水蒸気で飽和してから肺胞に到達するために、肺胞表面から水は蒸発しません(この時空気は37℃となって含まれる水分は1リットル当たり0.044g)。

息を吐くときは、水分で飽和した37℃の肺胞気が逆に流れて気道に熱を与えて温度が下がると、それと共に飽和水蒸気圧も減少して呼気中の水分量も減ります。鼻から出る呼気が25℃に下がっていたとすると含まれる水蒸気量は1リットルあたり0.023gに減っています。
成人の安静時の1回の換気量は約500ml、大きく息をするときは2000~3000mlになります。1日の内では、安静に寝ている、食事する、歩く、仕事する、などの状況で換気量は変化しますが、それを平均して1回1000ml 1分間に20回呼吸するとしましょう。すると1分間の換気量が20リットルとなります。乾燥した空気を吸って、吐くときの水分量は1リットル当たり0.023gでしたから、呼吸で失われる水分量は毎分0.46g(0.023g×20リットル=0.46g)、つまり1時間で約28g(0.46X60=27.6g)、1日では660gとなります。翼の肺では1時間に14kgでしたからそれのほぼ1/500程度とかなり少なくなっています。

空気呼吸動物は呼吸する空気の温度と湿度を調節するために、肺を体の奥深くに収めて、口や鼻、長い気管・気管支を通過させていると言えるでしょう。
海に住む魚は脱水を避けるために大量の海水を飲んでいますが、陸上の私たちはそれができないので、水分を逃がさないように調節しています。
こうして肺胞を湿潤状態に保ってガス交換を維持し、かつ呼吸に伴って過剰な水分が失われないようにして、体の中の“海”を守っているのです。
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水中の動物たちの呼吸13

2022-11-07 18:08:04 | 日記
頭足類の進化と地球生命の起源について
イカやタコの進化について調べていたところ、2億7千万年前に隕石と共に地球に飛来したウイルス遺伝子がオウムガイの遺伝子に変異をおこして、イカやタコの様な知的な軟体動物が生まれたとの文献がありました(Steele2018年)。
近年の宇宙探査が進むにつれて、このように地球の生命の起源を宇宙に求めるパンスペルミア説(宇宙汎種説)を支持する発見が増えています。

最近のはやぶさ2の報告では
・はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウの資料の分析が、先月9月23日の宇宙航空研究開発機構(JAXA)と東北大チームから発表されました。
それによると、標本に含まれる硫化鉄の結晶中の、直径数マイクロメートル(=数ミクロン)の微細な穴状の隙間に有機物と塩類、などを含む炭酸水が発見され、そのほかに銅、硫黄もみつかった。

今年の6/10日の発表では、水と反応して生じた鉱物とともに、23種類のアミノ酸が検出され、グルタミン酸やアスパラギン酸、グリシン、バリンなど、生命活動に関係の深いアミノ酸が含まれていたとのこと。
また8/16日の発表では含水ケイ酸塩と脂肪族炭化水素の多い有機物の混合した組織は、水とともに有機物と鉱物が反応してできた後、30℃以下の温度に保たれていたようです。

このような現在までの発見をもとに、小惑星リュウグウの誕生をシミュレーションしたところ、リュウグウは45億7千万年前の太陽系誕生時に、太陽近くのチリが太陽系の外縁に移動して外縁部の氷とともに母天体を形成した。そこに含まれていた放射性物質の熱で融解して水と岩石からなる小惑星となった。その後母天体は太陽系の内部へ移動して小惑星と衝突して砕けて、リュウグウができたと推定されました。

このように生命の元になる物質が宇宙には豊富にあり、地球環境以外でも生命が発生した可能性が示唆されています。宇宙と地球生命の関連とパンスペルミア説をみてみましょう。
ガイドとして参考にした論文はカーシュビンク教授とスティール博士によるものです。
○最古の生命の証拠
41億年前の地球は小惑星の落下による頻繁で激しい衝突があったとされる時代(後期重爆撃期)である。
しかし、
・41億年以前の地球では生命はすでにかなり高いレベルにまで複雑化していた証拠がある(Weiss & Kirschvink 2000)。
・2015年に西オーストラリア州の41億年前の岩石(ジルコン)中の黒鉛微粒子の炭素同位体から陸上微生物圏出現の可能性が指摘された(Bell 2015)
・2017年42 億年前のカナダの岩石中から微生物生命の報告(Steel 2015)

これらの発見から、隕石が頻繁に衝突する環境で生命が複雑なレベルにまで進化していたとは考えにくいので、この時代の生命の痕跡は隕石と共に飛来した遺伝子あるいは生物ではないかという主張があります。

それを裏付けるように
宇宙での生命あるいは生命の元になる物質の存在が報告されています。
・2014年木星の衛星エウロパに内部海があると推定された。
・2015年ラブジョイ彗星の電波望遠鏡観測で毎秒50~60Lのエチルアルコールと糖類が放出されていて、彗星内でアルコール発酵菌の活動が示唆された
・2016年チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸したロゼッタ ミッションでは、水蒸気と酸素とアミノ酸が噴出していることを観測
・2018土星の衛星エンケラドスから噴出する有機物を含む水蒸気と内部海が発見された。

・2019年には隕石中からRNAを構成する主要な成分のリボースが発見されて、宇宙空間
に核酸の成分が存在することが明らかになった。
・2019年11月 木星の衛星エウロパで水蒸気を測定した。地表下の塩水の海は生命に適した材料をすべて備えていると(NASA)。
・2020年小惑星帯にある準惑星ケレスは表面の岩石の内部に広大な海洋があると明らか
になった。
・前述した小惑星リュウグウで見つかった、アミノ酸や有機物の発見。
(この他にも多くの報告)

また宇宙空間で微生物が生存できることが報告されています。
・2011年 国際宇宙ステーション(ISS)の外に、微生物、およびそれらの胞子を約1.5年の間宇宙の太陽放射と真空にさらした結果、クロレラを含む藻類とシアノバクテリア、などの生物が生き残った。
・2018年 ISS の外側の窓に付着した宇宙塵から抗酸菌属の細菌(結核やライ病の菌)が確認されて、その遺伝子配列が北欧沿岸バレンツ海の抗酸菌に類似していたとの報告(Grebennikova 2018)
・2019年 太陽の紫外線の流入を遮断した場合、枯草菌(納豆菌もこの仲間)の胞子は地球軌道上の宇宙で 5 年以上生存(Horneck1999)

隕石中の微生物は地球への落下でも熱から保護されるという研究があります。
・2000年 南極で発見された火星からの隕石の分析で、衝突時に隕石内の温度は表面の数mmより深部では40℃以下であり、生命や生物物質が温存されるとの報告(Weiss & Kirschvink 2000)。

このように、宇宙にはRNAを構成する分子、アルコール発酵菌、衛星内部の海洋と有機物など生命の材料は豊富にあるようです。また細菌や藍藻類は宇宙空間の真空や放射線の下でも生存可能であり、特に隕石の内部にいれば落下時の高温からも守られることがわかってきました。

ウイルスと地球生物の多様性についても多くの発見と報告があります。
・隕石と共に地球に飛来したレトロウイルスは遺伝子を修飾したのか!?
レトロウイルスとは遺伝情報としてRNAだけを持ち、動物の細胞に感染すると逆転写酵素によりそのRNAからDNAを作って動物の細胞のDNAに組み込まれて新たな形質を発現することがあります。その組み込まれたウイルスの遺伝子は内因性レトロウイルス (ERV) と呼ばれ、過去の感染時期もわかります。

① (確認されている事実)
・ヒトの全ての遺伝情報の約8%が「内因性レトロウイルス」であり、例えば約1億5000万年前に組み込まれた遺伝情報は、ヒトを含むすべての哺乳類の胎盤形成に利用されている。
② (タコやイカでの推測)
・タコやイカの遺伝情報はヒトよりも多く、大きな脳と洗練された神経系、カメラのような目、柔軟な体、瞬間的に体色と体形を切り替える形態変化能力がある。このような形質はその祖先のオウムガイから進化したというより、隕石に含まれたレトロウイルス遺伝子が組み込まれたか、あるいは凍結されたタコの胚が2億7500万年前に宇宙から軟着陸したか、と考える方が合理的という主張(Steel 2015)。

③ (ダーウイン進化で説明できない生物?)
・真核生物のクマムシ類の極限耐性(wiki)
乾燥 : 体重の85%を占める水分を3%以下まで減らした極度の乾燥状態に耐える。
温度 : 100 ℃の高温から、ほぼ絶対零度(-273℃)の極低温まで耐える。
圧力 : 真空から7万5000気圧の高圧まで耐える。
放射線 : X線の照射を受けた生物の50%が死亡する半致死線量は、ヒトでは4グレイであるが5000グレイの高線量に耐える。
宇宙空間での耐性:2007年、宇宙空間に10日間さらされたクマムシは蘇生し、生殖能力も失われなかった。

これらの環境耐性は、地球上で自然選択・適者生存で獲得するにはあまりにも過剰な形質であり、それにふさわしい地球外宇宙環境で誕生し進化した後に地球へ飛来したと考える方が合理的であるという主張(Steel 2015)。

以上のような観察結果や研究報告を元にカリフォルニア工科大学カーシュビンク教授は2003年の地学雑誌に地球の生命は火星の生物に由来すると主張しています。
“40億年前地球が隕石の爆撃を受けていたとき、火星では生命の誕生に適切な環境があり、岩石の中で生息していた細菌が、火星への隕石衝突によって多数の岩石とともに宇宙へ飛び出した。その中には10年以内の飛行時間で地球に飛来する岩石もあったので、そのような火星の生命が着地し、地球生命の起源となった。”

また2018年にオーストラリアの分子免疫学者のスティール博士は恒星間空間には生命や遺伝情報が行き来して生物圏を構成しているとする論文を発表し概略では、以下のような主張を展開しています。
“古来より信じられてきた、地球は特別であり宇宙の中心であるという天動説は、太陽が中心という地動説へと修正され、さらに太陽は銀河に含まれる多くの恒星の一つに過ぎないと明らかにされてきました。それと同じように、地球は生命に取って特別な惑星であって、生命発生において特異な環境であるとの考えは、天体の運動における天動説のようなものではないか。
銀河内には生命に適した系外惑星が1000億ある(この数字は?)と言われている。
これらの惑星の間で隕石や、彗星という形で物質の交換が頻繁に行われて銀河全体あるいは太陽系周辺の局所的な星域が単一の接続された生物圏を構成しているのではないか。
地球の生物圏は、恒星間宇宙の生物圏というはるかに大きなシステムの一部であり、系外惑星の集合体が相互接続された生物圏を構成していることが示唆される。“

頭足類の進化についてはさらに驚く報告があります
・2017年 タコやイカの一部はRNAを自分で編集してタンパク質を変化させ環境に適応しているという報告です。一般に動物の遺伝情報の変化は、突然変異などでまずDNAレベルでの変異が起こり、そのDNAによる形質をもつ生物が自然選択(適者生存)で生き残るとその遺伝情報が徐々に種全体に広がると考えられています。
 しかし頭足類では、DNAの情報がRNAに写された後にその情報が大量に書き換えられます。それによりタンパク質やその働きが変わって、DNA変異がなくても遺伝情報の調整をして環境への適応範囲を広げているという発見です。
・2020年の報告では、イカではRNA編集は特に神経細胞内で大規模に行われ、神経系に大幅な改変を加えるというまったく新しい様式の生命活動を行っていて、これが知能の高い理由かもしれない、とのことです。

頭足類は魚類から哺乳類まで広く適用されている自然選択・適者生存の進化プロセスからは大きく離れた存在のようです。(イカやタコは、本当に地球外生命の末裔なのでしょうか!)

参考文献(主なもののみ)
JL Kirschvink. 地学雑誌 112(2) 187-196, 2003
小池 日本惑星科学会誌 27:180-9, 2018
EJ. Steele. PBMB 136 : 3-23, 2018
EA Bell. PNAS:112(47)14518-21, 2015
BP Weiss & JL Kirschvink. Science 290 : 791-5, 2000
G.Horneck. Adv. Space Res23 : 381-6, 1999
wikipedia.org/wiki/Tardigrade、および Jönsson et al., 2008
Liscovitch-Brauer. Cell 169, 191–202, 2017
Vallecillo-Viejol. NAR 48 : 3999–4012, 2020
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