昆虫の呼吸―その1
・昆虫は節足動物門に属し、甲殻類、クモ類、ムカデ類などと同様に外骨格と体節をもつ動物です。国連環境計画2011年の報告によると地球上の全生物種数は約870万種と推定されています。そのうち動物種は777万種、植物30万種、菌類61万種であり、陸上種が650万、海洋種が220万種です。
全動物種のうち、少なくとも9割が節足動物であり、更にその9割を昆虫が占めています。つまり全動物種の内8割(620万種)以上が昆虫類で全生物の内で種の数は最大です。昆虫に次いで多い、貝やタコ、イカなどの軟体動物は11万種、水棲節足動物のエビやカニは約3万種であり、脊椎動物は3.5万種(魚2万種、鳥1万種、哺乳類4,500種)と推定されています。結局、動物の種類では圧倒的に昆虫が多数を占めています。(国連環境計画 2011 08 23)
・進化史の概略
節足動物は古生代になる前に出現して、古生代を通して、アノマロカリスをはじめ三葉虫やウミサソリなどの甲殻類から、クモ類、多足類、昆虫、等へと進化・分岐していきました。
節足動物はシルル紀まで水棲だったのでエラを使って呼吸していました。
潮の満ち引きのある海岸や磯(潮間帯)ではクモやダニの祖先である半水性の海サソリとか、ムカデや多足類たちが、時々満ちてくる海水をエラの周囲に含んで地上を歩き回っていたことでしょう(現在でも、エビやカニなどは、殻の内側つまり外骨格の内側のエラを湿らせておけば数時間から1日程度は生きているので、産地直送で生きたまま郵送されています)。
ウミサソリのエラは書鰓(しょさい)と言われエラが本のページのように重なっている構造であり、そのエラの間に海水を含ませて呼吸をしていた。
デボン紀になると、ウミサソリから陸生のサソリやクモが進化しますがそれらの空気呼吸器官である書肺(しょはい)はこの書䚡から進化したものです。
多足類(ムカデやヤスデ)や昆虫類はシルル紀に気管呼吸を獲得して、陸上での生存を確立していきました。
昆虫類は、以前は多足類(ムカデやヤスデ)から進化したと言われていましたが、遺伝子解析により、シルル紀初期(4億4千万年前)の淡水域に生息していた甲殻類のミジンコの祖先から進化したとされています(Wikipedia昆虫)。
シルル紀後期には海岸線に沿った陸地には緑藻類・苔類・蘚類に覆われ、まばらに数センチの植物(クックソニア、高さ数cm)や数十センチの植物が育ち、そこにサソリやムカデなどの多足類やトビムシ類が這い回っていた。それよりも内陸部は岩と砂だけの乾燥した土地が広がっていた。
節足動物が陸に上がってから4千万年後のデボン紀後期には、肉鰭類が陸に上がり両生類が出現しましたが、すでに海辺に大型のサソリや有毒のムカデなど多くの節足動物が生息していた。 海辺の苔類や低木の湿地の森の中では肉鰭類や節足動物たちが互いに捕食し合っていたことでしょう。
トビムシやヤスデなど多種の小型節足動物は、数千万年かけて菌類や枯れ枝などの有機物を食べて分解し土壌を作って、デボン紀後期の森林の準備をしていました。
エラ呼吸と気管呼吸について
海水中で発生した原初の動物は体表の皮膚を通して水中の酸素を吸収していました。
酸素をより多く吸収するために、表皮から水中に突出した毛細血管網は葉状に形成され、それが多数集まってエラという器官が構築されたのでしょう。
つまり、エラは整然と構築された毛細血管の束でありそれを体外の海水の流れの中に曝して酸素を吸収する器官です。
一方、多足類や昆虫が採用した気管呼吸は表皮から空気を通す管を体内に張り巡らして、細胞内にまで空気を導く導管を採用して酸素を吸収します。
つまり、気管は細管の束を体内に差し込んで細胞に直接酸素を吸収する器官です。
この二つの呼吸器官はまったく異なるように見えますが、実は表皮の呼吸面積を広げるための凸と凹をそれぞれ採用した結果であり、表皮から突出(凸)するとエラになり、表皮から体内へ窪む(凹)と気管になっているといえます。
現生のサソリやクモが採用した書肺は空気中へ多数のシワ(凸)を作っているので、空気呼吸用のエラという解決方法かもしれません。
この様な比較から推測すると、哺乳類・は虫類・鳥類が採用した体内の肺は、元々エラとして体外に構築する器官を体内で構築したといえるかもしれません。
いわば、書肺を体内に作り上げたようなものでしょうか。
エディアカラ紀からシルル紀まで水という粘性と密度の大きい呼吸媒体ではエラという凸の呼吸器官を採用してきた動物は、それよりも粘性と密度が遙かに小さな空気を呼吸する必要に迫られると突然のように気管という凹の呼吸器官を進化させたということに驚くばかりです。(気管呼吸の詳細は後の回で詳述します)
参考文献
ピーター・D・ウオード「恐竜はなぜ鳥に進化したのか」文藝春秋2008年
土屋健「オルドビス紀・シルル紀の生物」技術評論社2013年
笠岡市立カブトガニ博物館 ホームページ
大阪市立自然史博物館 ホームページ
コトバンク http://kotobank.jp/word/化石
スコット・R・ショー「昆虫は最強の生物である」河出書房新社2016年
筑波大学他の報道公開資料 ゲノムデータにより明らかとなった昆虫の進化パターンと分岐時期 (原論文:Bernhard Misof他 Science 2014)
・昆虫は節足動物門に属し、甲殻類、クモ類、ムカデ類などと同様に外骨格と体節をもつ動物です。国連環境計画2011年の報告によると地球上の全生物種数は約870万種と推定されています。そのうち動物種は777万種、植物30万種、菌類61万種であり、陸上種が650万、海洋種が220万種です。
全動物種のうち、少なくとも9割が節足動物であり、更にその9割を昆虫が占めています。つまり全動物種の内8割(620万種)以上が昆虫類で全生物の内で種の数は最大です。昆虫に次いで多い、貝やタコ、イカなどの軟体動物は11万種、水棲節足動物のエビやカニは約3万種であり、脊椎動物は3.5万種(魚2万種、鳥1万種、哺乳類4,500種)と推定されています。結局、動物の種類では圧倒的に昆虫が多数を占めています。(国連環境計画 2011 08 23)
・進化史の概略
節足動物は古生代になる前に出現して、古生代を通して、アノマロカリスをはじめ三葉虫やウミサソリなどの甲殻類から、クモ類、多足類、昆虫、等へと進化・分岐していきました。
節足動物はシルル紀まで水棲だったのでエラを使って呼吸していました。
潮の満ち引きのある海岸や磯(潮間帯)ではクモやダニの祖先である半水性の海サソリとか、ムカデや多足類たちが、時々満ちてくる海水をエラの周囲に含んで地上を歩き回っていたことでしょう(現在でも、エビやカニなどは、殻の内側つまり外骨格の内側のエラを湿らせておけば数時間から1日程度は生きているので、産地直送で生きたまま郵送されています)。
ウミサソリのエラは書鰓(しょさい)と言われエラが本のページのように重なっている構造であり、そのエラの間に海水を含ませて呼吸をしていた。
デボン紀になると、ウミサソリから陸生のサソリやクモが進化しますがそれらの空気呼吸器官である書肺(しょはい)はこの書䚡から進化したものです。
多足類(ムカデやヤスデ)や昆虫類はシルル紀に気管呼吸を獲得して、陸上での生存を確立していきました。
昆虫類は、以前は多足類(ムカデやヤスデ)から進化したと言われていましたが、遺伝子解析により、シルル紀初期(4億4千万年前)の淡水域に生息していた甲殻類のミジンコの祖先から進化したとされています(Wikipedia昆虫)。
シルル紀後期には海岸線に沿った陸地には緑藻類・苔類・蘚類に覆われ、まばらに数センチの植物(クックソニア、高さ数cm)や数十センチの植物が育ち、そこにサソリやムカデなどの多足類やトビムシ類が這い回っていた。それよりも内陸部は岩と砂だけの乾燥した土地が広がっていた。
節足動物が陸に上がってから4千万年後のデボン紀後期には、肉鰭類が陸に上がり両生類が出現しましたが、すでに海辺に大型のサソリや有毒のムカデなど多くの節足動物が生息していた。 海辺の苔類や低木の湿地の森の中では肉鰭類や節足動物たちが互いに捕食し合っていたことでしょう。
トビムシやヤスデなど多種の小型節足動物は、数千万年かけて菌類や枯れ枝などの有機物を食べて分解し土壌を作って、デボン紀後期の森林の準備をしていました。
エラ呼吸と気管呼吸について
海水中で発生した原初の動物は体表の皮膚を通して水中の酸素を吸収していました。
酸素をより多く吸収するために、表皮から水中に突出した毛細血管網は葉状に形成され、それが多数集まってエラという器官が構築されたのでしょう。
つまり、エラは整然と構築された毛細血管の束でありそれを体外の海水の流れの中に曝して酸素を吸収する器官です。
一方、多足類や昆虫が採用した気管呼吸は表皮から空気を通す管を体内に張り巡らして、細胞内にまで空気を導く導管を採用して酸素を吸収します。
つまり、気管は細管の束を体内に差し込んで細胞に直接酸素を吸収する器官です。
この二つの呼吸器官はまったく異なるように見えますが、実は表皮の呼吸面積を広げるための凸と凹をそれぞれ採用した結果であり、表皮から突出(凸)するとエラになり、表皮から体内へ窪む(凹)と気管になっているといえます。
現生のサソリやクモが採用した書肺は空気中へ多数のシワ(凸)を作っているので、空気呼吸用のエラという解決方法かもしれません。
この様な比較から推測すると、哺乳類・は虫類・鳥類が採用した体内の肺は、元々エラとして体外に構築する器官を体内で構築したといえるかもしれません。
いわば、書肺を体内に作り上げたようなものでしょうか。
エディアカラ紀からシルル紀まで水という粘性と密度の大きい呼吸媒体ではエラという凸の呼吸器官を採用してきた動物は、それよりも粘性と密度が遙かに小さな空気を呼吸する必要に迫られると突然のように気管という凹の呼吸器官を進化させたということに驚くばかりです。(気管呼吸の詳細は後の回で詳述します)
参考文献
ピーター・D・ウオード「恐竜はなぜ鳥に進化したのか」文藝春秋2008年
土屋健「オルドビス紀・シルル紀の生物」技術評論社2013年
笠岡市立カブトガニ博物館 ホームページ
大阪市立自然史博物館 ホームページ
コトバンク http://kotobank.jp/word/化石
スコット・R・ショー「昆虫は最強の生物である」河出書房新社2016年
筑波大学他の報道公開資料 ゲノムデータにより明らかとなった昆虫の進化パターンと分岐時期 (原論文:Bernhard Misof他 Science 2014)