昆虫の呼吸―その13
-肺呼吸と気管呼吸について-
節足動物は動物が出現してから今まで、個体数と種類の多様性の上で最大の成功をしています。節足動物が気管呼吸を獲得して、脊椎動物が肺呼吸を進化させた理由について考察してみました。
まずは肺呼吸から考えます。
――肺呼吸する脊椎動物の進化史概略――
〇魚が肺を獲得するまで
古生代カンブリア紀前期5.3億年前に脊椎動物の祖先である初期の魚類が現れた。(水中の動物たちの呼吸 6:2021/12月と一部重複)
C.ファーマー(1997)によると、きわめて初期の魚は全身の表皮を使って皮膚呼吸を行っていました。咽頭にある櫛状器官は口から取り込んだ水の中の餌となる微生物を濾過するための給餌器官(濾過食器官)であり呼吸のためのエラではありませんでした。
血液は心臓から全身の組織に流れ、皮膚の毛細血管で水中から酸素を取り込んだので、心臓には酸素の豊富な血液が流れていたとのことです。
(ハイコウイクティスなどの無顎類)
オルドビス紀後期(4.4~4.5億年前)に顎を持つ魚(顎口類)が現れて、活発に活動するようになると、櫛状器官はそこを通過する豊富な水流を利用して酸素を吸収するエラへと進化しました。餌をこしとる櫛状器官の機能は現在の魚のエラの前にある䚡把(さいは)として残っています。
それから3千万年後のシルル紀中期(約4.2億年前)には顎口類はエラに加えて肺を発明しました。
エラがあるのに、なぜ肺を進化させたのか、その原因については、水中の環境の変化による進化圧力や生理的な進化圧力について多くの仮説が提唱されています(詳細は「水中の動物たちの呼吸6」を参照)。
魚のうち、条鰭類(じょうきるい)は肺を浮き袋に変えましたが肉鰭類(にくきるい)は肺を温存しました。肉鰭類の中から肺呼吸をする両生類が現れ、さらに陸生に適応した羊膜類(は虫類、鳥類、哺乳類)と進化して、現在のように多種の動物が肺で空気呼吸をしています。
〇肺の成立と多様性
魚が獲得した初期の肺は、両生類や「古代魚の生き残りのポリプテルス」が持っている単純な袋に近い肺だったと考えられます。その肺は空気を取り込むために口腔に近い消化管から発生したことでしょう。
魚類には当時も現在も、体腔を拡張するためのしっかりした肋骨はないので、袋状の肺に空気を送るには、水面で口腔に溜めた空気を肺に押し込む換気法:頬呼吸(Buccal pumping)に似た換気をしていたと推測されます
実際、現生のポリプテルスの頭部には気門弁が開口していて、吸気時は頭部を水面上に出して、気門弁を開き、頬や胴を膨らませて肺と頬咽頭腔に空気を溜めて、気門弁を密封してから頬を縮め、頬の空気を更に肺へ補充します。
息を吐くときは、肺から頬咽頭腔に呼気が移動すると頬咽頭腔が縮まってエラのすき間から排出されます。こうして、気門からの呼吸が全呼吸の約93%を占め、残りがエラ呼吸からです(詳細は水中の動物たちの呼吸17を参照してください)。
初期の魚にはこの気門のような便利な構造を持っていたとの報告はないので、おそらく口を使っていたのではないでしょうか。そうすると魚類が顎を持つ(顎口類)ようになって初めて肺を獲得したのは口を閉じて頬呼吸ができたことが理由かもしれません。
更に、魚類はエラや肺を主要な呼吸器官としながらも、これ以後4億年の間に、この図に示すように体のあちこちを呼吸する装置として試した結果、木登り魚、マッドスキッパー、ドジョウなど多様な環境に適応した魚を生み出してきました(水中の呼吸15を参照のこと)。しかし、一度も気管呼吸への分化は行われませんでした。
――節足動物の起源――
次に節足動物が気管呼吸を獲得するまでの進化史の概略をみてみましょう。
初期の魚類が現れる数千万年前のエディアカラ紀後期(5.5億年前頃)に、将来は節足動物へと進化してゆく極めて原初的な祖先が海底を這いまわっていたと示唆されています。
節足動物とは、体節という体軸方向の繰り返し構造を特徴として外骨格と体節毎に関節のある肢を持つ動物のことです。
○現在までのところ、化石から明らかにされている節足動物の起源となる動物は、丸みのある葉足という足を持つ葉足動物とされています。5億年前にはアイシェアイアやハルキゲニア等が数cm程度の体長で細長い体と肢で海底を歩いて餌を捕っていました。
○エラのある葉足動物(gilled lobopods)は、最も初期に節足動物への進化に向かって分岐した動物と言われています。
約5億1,800万年前に生息していたパンブデルリオン(体長約50cm)やケリグマケラ(体長約6cm)は葉足と体の左右に11対のヒレを持っていて、ヒレの表面にはエラと考えられている櫛状の構造が認められます。
ヒレと葉足の組み合わせは節足動物の二叉型付属肢(後述の三葉虫を参照)の起源が示唆されていて、節足動物への中間型生物と考えられています。(Wikipedia 葉足動物より)
○これらの葉足動物は、デボン紀末までに絶滅したのですが、その形質を受け継いで後世に節足動物へと進化してゆく有爪動物(カギムシOnychophora)が陸上に現れました。
カギムシは、体節制、1対の単眼と触角、足先のかぎ爪、柔らかいクチクラの外皮、成長のための脱皮、など節足動物と共通する特徴があります。呼吸は主に表皮からの拡散による皮膚呼吸であり、現生のカギムシは単純な構造の気管も持っています(「化石が語る生命の歴史」より)。
○カンブリア紀には、節足動物へ向かって更に進化したアノマロカリス類やオパビニア類が遊泳していました。<カンブリア紀末に絶滅:生息時期5億2千万年前~5億年前>
どちらも各体節の背側にある櫛状のエラで呼吸して、体節の左右に付着した葉状のヒレで遊泳していました。頭部には放射状の歯と関節のある巨大な前部付属肢を持っていた。
○古生代を代表する節足動物の三葉虫は、古生代カンブリア紀前期(約5億2,100万年前)に出現しました。三葉虫は、遊泳性の種もあったが基本的には海底を這って泥の中の生物を捕食していた底生生物といわれています。
体節の側面にある多数の脚は内肢と外肢の二股に分かれ(二叉型付属肢)、内肢は歩行に使う歩脚であり、体の側面に近い外肢にはエラが付着していました(エディアカラ紀・カンブリア紀の生物)。
三葉虫はペルム紀末期に絶滅するまでの約2億7,000万年に及ぶ生息期間中に22,000種以上に分類されるほど分岐・進化したのですが、この長い進化の期間にエラの他に主要な呼吸器官は持たなかったようです。
葉足動物から三葉虫まで、体節毎に付着していたエラが主要な呼吸気管でした。
(ただし例外的に外骨格が薄くて補助的に皮膚呼吸をしていた種もいたとのこと)
また、口器は呼吸に関係しないで、もっぱら食物を取り込むだけの器官でした。
さて、昆虫の遺伝学によれば、体節毎の付属肢は遺伝子(Hox遺伝子)の働きにより様々な器官に形成されます。
三葉虫から六脚類へ至る進化の過程で、頭部の付属肢は次々と他の機能を持つ器官に変わっていきました。
図のように頭部では付属肢は唇や触角、左右の大顎や小顎に分化しています。ではエラの付着していた外肢はどのような変化を受けたのでしょうか。
ここからは推論になります。
節足動物が海から陸に進出する時に、体節毎の外肢とエラにその遺伝子が働いたとすると、体外に突出していたエラが、体節毎に体内へ向かって形成され気管になったのではないでしょうか。
もしそのような形態形成の激変が起こったとするなら、昆虫の持つ気管への移行形と思われる不完全な気管の例をカギムシにみることができます。
昆虫の祖先と言われる現生のカギムシの気管には、現在の昆虫にみられる調節とネットワークの機構がありません。
① 気門に開閉の機構がなく水分の蒸発を調整できない(従って酸素濃度の調整も不十分)。(「化石が語る生命の歴史」より)
② 気管から分岐する2~3本の気管は他の体節の気管と交通するネットワークがない(酸素や水蒸気の分布に偏りができる)。(Wikipedia カギムシ)
このようにして、体節毎の気門-気管系が形成されたと推測しました。
まとめ
脊椎動物が肺呼吸をして、陸棲の節足動物が気管呼吸をしている理由について考察してみました。
動物にとって酸素の吸収と二酸化炭素の排出、水分の保持は文字通り生死を決するものです。しかし呼吸気管の選択は自由にできるものではなく、その進化の初期の祖先の体制に依存するでしょう。脊椎動物と節足動物の進化史から空気呼吸のための器官の成り立ちを考察しました。
○初期の魚類の口は水中の餌を海水とともに取り込む濾過食器官だったので、取り込んだ大量の海水を利用してガス交換を行うエラができた。
こうして、口腔に置かれたエラは体全体へ供給する酸素の取り込み部位になった。節足動物と異なり、呼吸器の集中的な配置はそこで吸収した酸素を全身に運ぶ配管(血管)を張り巡らして循環させる循環器官を必要とした(閉鎖血管系)。
空気の取り込みには、体外への唯一の開口部である口が最も利用しやすかったことに加えて、既に咽頭のエラのために完成されていた循環路も利用することができた、と推測されます。
○節足動物では体節毎の1対の付属肢に備わったエラが体節毎の呼吸器官として働いていたので、脊椎動物のように一カ所に集中した呼吸器は生じなかった。また、エラから吸収した酸素はその体節の範囲の組織液中に酸素を拡散させたので、全身を隙間無くめぐる循環系は必要なかった。口は食物を取り込むだけの器官として働いて、体節を貫く消化管から吸収された栄養は全身の組織を浸す体液に分散して全身の細胞へ送られた(解放血管系)。上陸の機会が訪れると、体節毎に配置されていたエラは付属肢とともに気門―気管系へと分化して空気呼吸へ適応していったと推測しました。
○この推測では、肺呼吸―閉鎖循環系と気管呼吸―解放血管系という組み合わせは必然だった考えられました。
もし私たちの呼吸器が気門-気管系なら、全ての筋肉細胞に毛細気管という配管から直接酸素が供給されるので、運動能力は遙かに高くなったことでしょう。でも、体中にたくさんの気門があるので、ゆっくり風呂につかり、体を洗うことなどはできなかった。やはり肺呼吸でよかった!!!
参考文献
土屋健、エディアカラ紀・カンブリア紀の生物 技術評論社 東京 2020
ドナルド・プロセロ、化石が語る生命の歴史 11の化石生命誕生を語る・古生代 築地書館 東京 2018
スコット・R・ショー昆虫は最強の生物である 河出書房新社 2016
松香光夫ほか 昆虫の生物学 第2版 玉川大学出版 1992
https://www.trilobites.info/trilointernal.html DL:2024/7/24
Wikipedia 体節制 DL2024/7/28
Wikipedia 葉足動物、三葉虫 いずれもDL2024/6/18
Wikipedia カギムシ DL2024/8/3
-肺呼吸と気管呼吸について-
節足動物は動物が出現してから今まで、個体数と種類の多様性の上で最大の成功をしています。節足動物が気管呼吸を獲得して、脊椎動物が肺呼吸を進化させた理由について考察してみました。
まずは肺呼吸から考えます。
――肺呼吸する脊椎動物の進化史概略――
〇魚が肺を獲得するまで
古生代カンブリア紀前期5.3億年前に脊椎動物の祖先である初期の魚類が現れた。(水中の動物たちの呼吸 6:2021/12月と一部重複)
C.ファーマー(1997)によると、きわめて初期の魚は全身の表皮を使って皮膚呼吸を行っていました。咽頭にある櫛状器官は口から取り込んだ水の中の餌となる微生物を濾過するための給餌器官(濾過食器官)であり呼吸のためのエラではありませんでした。
血液は心臓から全身の組織に流れ、皮膚の毛細血管で水中から酸素を取り込んだので、心臓には酸素の豊富な血液が流れていたとのことです。
(ハイコウイクティスなどの無顎類)
オルドビス紀後期(4.4~4.5億年前)に顎を持つ魚(顎口類)が現れて、活発に活動するようになると、櫛状器官はそこを通過する豊富な水流を利用して酸素を吸収するエラへと進化しました。餌をこしとる櫛状器官の機能は現在の魚のエラの前にある䚡把(さいは)として残っています。
それから3千万年後のシルル紀中期(約4.2億年前)には顎口類はエラに加えて肺を発明しました。
エラがあるのに、なぜ肺を進化させたのか、その原因については、水中の環境の変化による進化圧力や生理的な進化圧力について多くの仮説が提唱されています(詳細は「水中の動物たちの呼吸6」を参照)。
魚のうち、条鰭類(じょうきるい)は肺を浮き袋に変えましたが肉鰭類(にくきるい)は肺を温存しました。肉鰭類の中から肺呼吸をする両生類が現れ、さらに陸生に適応した羊膜類(は虫類、鳥類、哺乳類)と進化して、現在のように多種の動物が肺で空気呼吸をしています。
〇肺の成立と多様性
魚が獲得した初期の肺は、両生類や「古代魚の生き残りのポリプテルス」が持っている単純な袋に近い肺だったと考えられます。その肺は空気を取り込むために口腔に近い消化管から発生したことでしょう。
魚類には当時も現在も、体腔を拡張するためのしっかりした肋骨はないので、袋状の肺に空気を送るには、水面で口腔に溜めた空気を肺に押し込む換気法:頬呼吸(Buccal pumping)に似た換気をしていたと推測されます
実際、現生のポリプテルスの頭部には気門弁が開口していて、吸気時は頭部を水面上に出して、気門弁を開き、頬や胴を膨らませて肺と頬咽頭腔に空気を溜めて、気門弁を密封してから頬を縮め、頬の空気を更に肺へ補充します。
息を吐くときは、肺から頬咽頭腔に呼気が移動すると頬咽頭腔が縮まってエラのすき間から排出されます。こうして、気門からの呼吸が全呼吸の約93%を占め、残りがエラ呼吸からです(詳細は水中の動物たちの呼吸17を参照してください)。
初期の魚にはこの気門のような便利な構造を持っていたとの報告はないので、おそらく口を使っていたのではないでしょうか。そうすると魚類が顎を持つ(顎口類)ようになって初めて肺を獲得したのは口を閉じて頬呼吸ができたことが理由かもしれません。
更に、魚類はエラや肺を主要な呼吸器官としながらも、これ以後4億年の間に、この図に示すように体のあちこちを呼吸する装置として試した結果、木登り魚、マッドスキッパー、ドジョウなど多様な環境に適応した魚を生み出してきました(水中の呼吸15を参照のこと)。しかし、一度も気管呼吸への分化は行われませんでした。
――節足動物の起源――
次に節足動物が気管呼吸を獲得するまでの進化史の概略をみてみましょう。
初期の魚類が現れる数千万年前のエディアカラ紀後期(5.5億年前頃)に、将来は節足動物へと進化してゆく極めて原初的な祖先が海底を這いまわっていたと示唆されています。
節足動物とは、体節という体軸方向の繰り返し構造を特徴として外骨格と体節毎に関節のある肢を持つ動物のことです。
○現在までのところ、化石から明らかにされている節足動物の起源となる動物は、丸みのある葉足という足を持つ葉足動物とされています。5億年前にはアイシェアイアやハルキゲニア等が数cm程度の体長で細長い体と肢で海底を歩いて餌を捕っていました。
○エラのある葉足動物(gilled lobopods)は、最も初期に節足動物への進化に向かって分岐した動物と言われています。
約5億1,800万年前に生息していたパンブデルリオン(体長約50cm)やケリグマケラ(体長約6cm)は葉足と体の左右に11対のヒレを持っていて、ヒレの表面にはエラと考えられている櫛状の構造が認められます。
ヒレと葉足の組み合わせは節足動物の二叉型付属肢(後述の三葉虫を参照)の起源が示唆されていて、節足動物への中間型生物と考えられています。(Wikipedia 葉足動物より)
○これらの葉足動物は、デボン紀末までに絶滅したのですが、その形質を受け継いで後世に節足動物へと進化してゆく有爪動物(カギムシOnychophora)が陸上に現れました。
カギムシは、体節制、1対の単眼と触角、足先のかぎ爪、柔らかいクチクラの外皮、成長のための脱皮、など節足動物と共通する特徴があります。呼吸は主に表皮からの拡散による皮膚呼吸であり、現生のカギムシは単純な構造の気管も持っています(「化石が語る生命の歴史」より)。
○カンブリア紀には、節足動物へ向かって更に進化したアノマロカリス類やオパビニア類が遊泳していました。<カンブリア紀末に絶滅:生息時期5億2千万年前~5億年前>
どちらも各体節の背側にある櫛状のエラで呼吸して、体節の左右に付着した葉状のヒレで遊泳していました。頭部には放射状の歯と関節のある巨大な前部付属肢を持っていた。
○古生代を代表する節足動物の三葉虫は、古生代カンブリア紀前期(約5億2,100万年前)に出現しました。三葉虫は、遊泳性の種もあったが基本的には海底を這って泥の中の生物を捕食していた底生生物といわれています。
体節の側面にある多数の脚は内肢と外肢の二股に分かれ(二叉型付属肢)、内肢は歩行に使う歩脚であり、体の側面に近い外肢にはエラが付着していました(エディアカラ紀・カンブリア紀の生物)。
三葉虫はペルム紀末期に絶滅するまでの約2億7,000万年に及ぶ生息期間中に22,000種以上に分類されるほど分岐・進化したのですが、この長い進化の期間にエラの他に主要な呼吸器官は持たなかったようです。
葉足動物から三葉虫まで、体節毎に付着していたエラが主要な呼吸気管でした。
(ただし例外的に外骨格が薄くて補助的に皮膚呼吸をしていた種もいたとのこと)
また、口器は呼吸に関係しないで、もっぱら食物を取り込むだけの器官でした。
さて、昆虫の遺伝学によれば、体節毎の付属肢は遺伝子(Hox遺伝子)の働きにより様々な器官に形成されます。
三葉虫から六脚類へ至る進化の過程で、頭部の付属肢は次々と他の機能を持つ器官に変わっていきました。
図のように頭部では付属肢は唇や触角、左右の大顎や小顎に分化しています。ではエラの付着していた外肢はどのような変化を受けたのでしょうか。
ここからは推論になります。
節足動物が海から陸に進出する時に、体節毎の外肢とエラにその遺伝子が働いたとすると、体外に突出していたエラが、体節毎に体内へ向かって形成され気管になったのではないでしょうか。
もしそのような形態形成の激変が起こったとするなら、昆虫の持つ気管への移行形と思われる不完全な気管の例をカギムシにみることができます。
昆虫の祖先と言われる現生のカギムシの気管には、現在の昆虫にみられる調節とネットワークの機構がありません。
① 気門に開閉の機構がなく水分の蒸発を調整できない(従って酸素濃度の調整も不十分)。(「化石が語る生命の歴史」より)
② 気管から分岐する2~3本の気管は他の体節の気管と交通するネットワークがない(酸素や水蒸気の分布に偏りができる)。(Wikipedia カギムシ)
このようにして、体節毎の気門-気管系が形成されたと推測しました。
まとめ
脊椎動物が肺呼吸をして、陸棲の節足動物が気管呼吸をしている理由について考察してみました。
動物にとって酸素の吸収と二酸化炭素の排出、水分の保持は文字通り生死を決するものです。しかし呼吸気管の選択は自由にできるものではなく、その進化の初期の祖先の体制に依存するでしょう。脊椎動物と節足動物の進化史から空気呼吸のための器官の成り立ちを考察しました。
○初期の魚類の口は水中の餌を海水とともに取り込む濾過食器官だったので、取り込んだ大量の海水を利用してガス交換を行うエラができた。
こうして、口腔に置かれたエラは体全体へ供給する酸素の取り込み部位になった。節足動物と異なり、呼吸器の集中的な配置はそこで吸収した酸素を全身に運ぶ配管(血管)を張り巡らして循環させる循環器官を必要とした(閉鎖血管系)。
空気の取り込みには、体外への唯一の開口部である口が最も利用しやすかったことに加えて、既に咽頭のエラのために完成されていた循環路も利用することができた、と推測されます。
○節足動物では体節毎の1対の付属肢に備わったエラが体節毎の呼吸器官として働いていたので、脊椎動物のように一カ所に集中した呼吸器は生じなかった。また、エラから吸収した酸素はその体節の範囲の組織液中に酸素を拡散させたので、全身を隙間無くめぐる循環系は必要なかった。口は食物を取り込むだけの器官として働いて、体節を貫く消化管から吸収された栄養は全身の組織を浸す体液に分散して全身の細胞へ送られた(解放血管系)。上陸の機会が訪れると、体節毎に配置されていたエラは付属肢とともに気門―気管系へと分化して空気呼吸へ適応していったと推測しました。
○この推測では、肺呼吸―閉鎖循環系と気管呼吸―解放血管系という組み合わせは必然だった考えられました。
もし私たちの呼吸器が気門-気管系なら、全ての筋肉細胞に毛細気管という配管から直接酸素が供給されるので、運動能力は遙かに高くなったことでしょう。でも、体中にたくさんの気門があるので、ゆっくり風呂につかり、体を洗うことなどはできなかった。やはり肺呼吸でよかった!!!
参考文献
土屋健、エディアカラ紀・カンブリア紀の生物 技術評論社 東京 2020
ドナルド・プロセロ、化石が語る生命の歴史 11の化石生命誕生を語る・古生代 築地書館 東京 2018
スコット・R・ショー昆虫は最強の生物である 河出書房新社 2016
松香光夫ほか 昆虫の生物学 第2版 玉川大学出版 1992
https://www.trilobites.info/trilointernal.html DL:2024/7/24
Wikipedia 体節制 DL2024/7/28
Wikipedia 葉足動物、三葉虫 いずれもDL2024/6/18
Wikipedia カギムシ DL2024/8/3
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