もっと空気を

私達動物の息の仕方とその歴史

水中の動物たちの呼吸17

2023-02-22 18:00:00 | 日記
空気呼吸する魚たち-3

今回は湿った環境なら1年以上も空気呼吸して生存可能という驚きのポリプテルスです。
ポリプテルスは、約4億年前のデボン紀に条鰭類が現在の魚類・陸生四肢動物へと適応放散を開始する前に派生したと考えられています。

ポリプテルスとは「多くのヒレ」という意味で小さく分かれた背びれが尾まで連なっています。稚魚には両生類の幼生のように1対の外鰓があり成長すると消失し、魚類と両生類に進化する分岐点にある動物と考えられています。

ハイギョや初期の陸生4足動物と同様に、頭の上に大きな対の開口部(気門)を持っていて、そこを通して空気を吸い込んで肺呼吸をしている。
まず、頭部を水面上に出して、気門弁を開き、胴体を膨らませると空気が肺に吸入される。その間、頬咽頭腔も拡張して空気を溜めて、気門弁を密封してから頬腔を縮めるとそこの空気が更に肺へ補充される。
息を吐くときは、肺からのガスが広がった頬咽頭腔に移動すると呼気はエラのすき間から出始め、頬咽頭腔が縮むにつれて完全に排出される。
こうして、呼吸の最大93%を気門の呼吸が占め、ほとんどエラを使っていません。

カナダのマギール大学では、このポリプテルスを使って魚が陸上動物へと進化する過程の変化を研究しました。
ほぼ1年間陸上でポリプテルスを飼育したところ、幼魚が成長する間に解剖学的および行動的に大きな変化を示しました。胸の骨格とそれを支える支持が強くなって、歩行中に頭蓋骨を持ち上げて頭/首の動きが大きくなるという変化が起きたとのことです。
その結果、胸ヒレを体に近づけ、頭を高く上げて、ヒレが滑らないようにして効果的に歩きました。
魚が最初にヒレを持って陸地を歩いたときに起こった可能性も反映していると推測されています。

下記のURLで歩行する動画を見ることができます。
https://www.youtube.com/watch?v=mKxRe0hAQmg&t=8s
この動画を見ると、胸びれを腕のように使う両生類のイモリや、は虫類の蛇がくねって移動するようにも見えます。
初めて陸に上がった動物は、敵のいない新天地の湿地帯をこの様に進んでいたのでしょうか。

参考文献
1.Canada McGill Univ 
https://www.mcgill.ca/newsroom/channels/news/walking-fish-reveal-how-our-ancestors-evolved-land-238477
2.Graham JB Nature communications Published 23 Jan 2014
3.Ishimatsu A Aqua-BioScience Monographs, Vol. 5, No. 1, pp. 1–28 (2012)
4.Wikipedia:ポリプテルス
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水中の動物たちの呼吸16

2023-02-07 17:44:10 | 日記
空気呼吸する魚たち-2
今回は幼生ではエラ呼吸ですが、成魚になると肺を使って空気呼吸をする魚の話題です。

はじめはハイギョ(肺魚)
約4億年前の古生代デボン紀に出現した魚類で、現在生きている種はオーストラリアハイギョ1種、ミナミアメリカハイギョ1種、アフリカハイギョ4種の、計6種。
硬い骨を持つ硬骨魚類は肉鰭類(にくきるい:分厚い肉質のヒレをもつ)と条鰭類(じょうきるい:線条の硬骨と膜でできたヒレを持つ)の2系統あり、ハイギョとシーラカンスは肉鰭類で、それ以外の現在のほとんどの魚は条鰭類です。陸生の4足動物は肉鰭類から進化したと考えられています。ハイギョは多くの魚と違って気道につながる鼻を持っています。

ハイギョの幼体は両生類と同様に外鰓(体の外に広がるエラ)を持ちエラ呼吸ですが、成長に伴って肺が発達します。成魚では酸素呼吸の90%を肺から採っているので数時間ごとに息継ぎのために水面に上がります。炭酸ガスの排出に使う器官は肺が30%、鰓が70%であり、主にエラで排出しています。
水が干れても地中で「夏眠」と呼ばれる休眠状態になりますが、これは代謝率を低下させてエネルギーと酸素消費量を制限するという冬眠とよく似た生理的状態です(英語版wikipedia)。

アフリカ肺魚の1種:プロトプテルス・ドロイとその解剖写真(Wikipedia)



図のハイギョの肺は胞状構造がよく発達して吸い込まれた空気から酸素を取り込む多くの毛細血管のために暗赤色のスポンジの様にみえています。

ハイギョの心臓は条鰭類と同じ1心房1心室ですが、心房と心室には不完全な中隔があって左右の血流が混合しないように調節されています。このため心房・心室の左側には肺からの酸素化された血液が流れ、右側には全身の組織から脱酸素化された血液が流れていて、2心房2心室に向かう進化の初期状態になっています。

この2つの血流は、心臓球から出るときもほぼ分離しています。
酸素化された血液の80~90%はエラのない動脈弓から大動脈を通り全身の組織へ酸素を供給した後に大静脈を通って静脈洞に流入しています。Johansen et al(1968)Bassi(2010)
一方、酸素の乏しい静脈血はエラを通って二酸化炭素を放出した後に肺動脈―肺―肺静脈と流れて酸素化された後に心房へ流入します。

このように血液循環は心臓→全身→心臓と一巡する回路のほかに心臓→えら→肺→心臓という回路もみられるので、陸生4足動物の呼吸循環系への萌芽の状態といえるのです。

次も空気呼吸する魚です

参考文献
福田芳生 ハイギョの進化古生物学 The chemical times 2006 no.3
Ishimatsu A. Evolution of the Cardiorespiratory System in Air-Breathing Fishes.
Aqua-BioScience Monographs, Vol. 5, No. 1, pp. 1–28 (2012)
Wikipedia:ハイギョ(日本語版と英語版)
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