赤氷鳥軍新歓戦線2017の報告
拝啓
この手紙をあなたが読んでいるということはもう本島は梅雨入りしたのでしょう。
ここには数ヶ月に及ぶ私たちの新歓という名の地獄での壮大な死闘の一部始終が綴られています。
全ては去年の10月、ひとりの青年吉原の一言によって始まった。
「水曜の訓練後に上官の役職を引き継ぐ内容の会議を開きます。」
19歳にしては明らかに老けすぎている彼の容貌と言葉に僕らは圧倒された。当時新米隊員だった僕らは役職を持つなどという考えは毛頭ない。成長に対する喜びと責任に対する不安が混ざり合って、とても異様な空気になったことを記憶している。
そして会議当日
「役職決めます」
と異様に老けた19歳は切り出した。
吉原はいわゆる上に立ちたがるタイプの人間だ。その性格もあって基本上官からの連絡を回すのも当時の彼の仕事だった。
「まずは会計。担当したいという者、前へ。」
「はい。」
こうして役職はどんどん決められていった。
役職を引き受けられて喜ぶ者、役職をもらえなくて泣き叫ぶ者、反応は様々。
そんな中、新歓代表という役職を引き受けた二人の若僧、石上と安楽。
石上は2016年戦場でポイフルを食べながら歩いていたところを前総司令官長濱に拾われた経緯をもつ。イギリスから単身で本国に来て、身寄りもなく浮浪者の生活を送っていた彼はいわば命を救われたのだ。その恩もあり、新歓代表は彼の夢だった。
安楽は新歓代表に危険などなく、他の役職なんかよりはめんどくさい仕事もないという安易な考えから引き受けた。この発想が後々彼の命取りとなってしまった。
そしてこの時僕らはまだこれから自分たちが巻き込まれる新歓のおぞましさを知る由もなかった。
月日は淡々と過ぎ去り3月。
僕らは千葉長生郡での集中訓練を終え、個々のスキルに磨きをかけ、また仲間としての絆は強固なものになっていた。
はずであった。
身体の故障により集中訓練に行くことができなかった、新歓代表を引き受けた安楽が姿を見せなくなったのだ。
代表のプレッシャーに耐えられなくて逃げて夜中の繁華街で遊び歩いている、薬に溺れてしまっただの様々な噂が隊員の間で飛び交っていた。
「あいつ、クラブ通ってナンパしまくってるって本当ですかね…?」
「そんなことできないだろ、だってあいつ童貞だろ?私あんなやつとクラブで会ったらその日はもうチョベリバって感じだわ。てかこのビート良くない??」
「渡邉中尉、それもそうですが…」
「絶対お前が薬すすめたんだろ!堀池!!」
「俺はもうやめたって何度言えばわかんだよ!」
「小島だよ!!!」
「…」
「…」
隊員の間では疑念が広がるばかりでした。安楽がほとんどの新歓のデータを握っている。いくら普段からよく考えて訓練している石上でもデータが無いのでは新歓戦線の指揮をとるのは困難なことである。
私たちは話し合おうと安楽を何度も呼び出そうとした。しかし返ってくる言葉はいつも決まって
「悪い、今日オールだわ笑」
しかし時というのは残酷なもので、事態は全く解決することはないまま新歓第一次決戦の火蓋が切られようとしていた。後に合格発表と呼ばれる戦いである。
胴上げ、その隙を狙って首を取る、という戦法を核に攻め込んだもののロシアの特殊部隊クリムゾン、ルーマニアの秘密工作部隊サーペンツなどのを護衛につけていたため作戦は見事に失敗。
あふれ返す新入生に果敢に攻撃をしかけるものの全くといって良いほど私の仲間は撃ち落とせなかったと後々語っていた。
私はスイマと呼ばれる別の敵の奇襲を受けていたためその場に駆けつけることはできなかった。
援軍を送ろうかと石上に連絡したところ悲哀と屈辱に満ちた声で
「もういい笑今回は俺らの負けだ。」
と受話器の向こうから返ってきた。
普段からよく考えている石上でさえも何もできなかったことは私たちに痛烈な印象を残した。
合格発表の戦いを終えて二週間ほど経つと私は体育会の集いという戦場に立っていた。
この戦いは東生協という複雑かつ非常に狭い場所でのものだったので機動力を重視して私、福田、吉田の三名による少数部隊を形成し望んだ。
ここではクロスなどの大型の武器が邪魔となり他国の護衛は低脳にも身動きが取れず、合格発表よりは新入生に接近することができた。
福田が目の前に新入生がいても何もしなかったことを吉田に咎められ多摩川で入水自殺したことを除けば、私たちの戦いぶりは悪いものではなかったと記憶している。
中でも撃ち落とした新入生のひとりにポンタと名乗る一際単純なやつがいた。
ポンタは戦場の奥の一角に構えていた私たちの基地に丸腰で乗り込んできたのだ。
「僕、奈良から出てきたんですけど…」
私たちは迷うことなく撃ち落とした。
「僕、アーチェ…」
そのまま捕虜にしてやった。
フクイというやつも捉えた。仕留めること自体はそう難しくはないが男性器に似たシルエットをした男でありローションをかぶって頭から鉄格子を抜け出すので捕虜にしておくのが少し厄介であった。しかし他の部隊に捉えられては同じ手法で抜け出すということを繰り返していた。
私たちはGPSを埋め込みいつでも仕留めておける状態にしてあったので今回はそのまま泳がせておいた。
そしてその数日後、昨年最も犠牲者を出し、最も戦闘が激しかったというサークル紹介を迎えた。
2日間に渡るこの戦いにむけて私たちは一年間訓練してきたようなものだ。
普段からよく考えている石上の指揮のもと僕らは完璧な布陣をしいた。
我々は成果は少なかったものの私たちは善戦していた。
そこで現れた妖艶な女サキ。
サキは単身私たちのところへ潜り込み戦いの後も長期滞在していた。その美貌と立ち振る舞いから身辺の女に手を伸ばしがちな吉田含め隊員は皆捉えられるだろうと安心しきっていた。
しかしサキは実はもの凄い戦闘力を持ち合わせていた。捉えてやろうと普段からよく考えている石上が自信ありげに攻撃を仕掛けたところ、為すすべもないまま返り討ちにあい惨殺された。
それはそれは無惨であった。
サークル紹介を終え、隊員の怪我も癒えてきたころ私たちは東海B部隊との合同軍事演習を行っていた。私たちとしては多くを得ることができた有意義な演習であった。
しかし演習がもうすぐ終わろうとしたその時、3人の新入生が奇襲を仕掛けてきた。名前はナカタニ、ニシムラ、カトウ。
不意をついたつもりかもしれないが東海B部隊の前で歯が立つわけがない。愚かなやつらだ。
すぐに捕虜にされた。
カトウは童貞だった。愚かなやつだ。
この収穫に満足してしまったのかその後戦況は芳しくなかった。
なんやかんやでデブ捕獲。
新歓の長きに渡る戦いも終盤を迎えていたころ私は信じられない言葉を耳にした。
「ポンタが脱獄した。」
私は耳を疑った。あのポンタにそんなことできるはずがない。
「後を追えないのか?GPSは埋め込んであるはずだ。」
「それが、もうポンタは死んでしまったんだ…」
話を聞くとポンタは私たちが捉えた時からアーチェリーブという中国系武装団と連絡を取っていたらしい。このアーチェリーブが彼の脱獄を手助けすると言葉巧みに連れ出したのだ。しかし脱獄した直後にアーチェリーブから矢を撃ち込まれたとか。
最後にミユウという女を捕まえた。しかし捉えられてから生気がなくなってしまった。時々目もラリっている。女の管理は基本堀池が行っているのだが、彼に事情を聞いても俺は何も盛ってないの一点張り。要観察である。
以上が今回の私の知る新歓の全容です。私たちはこの死闘で大切な仲間を多く失った。彼らの死は決して無駄にしないよう来年、再来年も新歓に向けて日々訓練に励んでください。希望はあなたたちに託します。
敬具
追伸
以下にその他の小さな戦いの結果を簡潔に記します。
ドウジョウ 中島の顔面に対して手足が短すぎることが原因で捕獲失敗。
カワサキ 中島の顔面に対して手足が短すぎることが原因で捕獲失敗。
クマサカ 中島の顔面に対して手足が短すぎることが原因で捕獲失敗。
ハットリ 吉原の職務怠慢により逃亡。
ミドリ 捕虜のナカタニが生理的に無理であったためボートを漕いで逃走。
三部昇格に向けて頑張ります。
文責:川村
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