※宇宙戦隊キュウレンジャーのファンフィクションです。
個人的妄想と捏造で構成されております。
公式関係各所とは全くの無関係です。
でも、もし、万が一、公式がこんな作品作ってくれたら狂喜乱舞します。Vシネでよろしく勇気。
「俺ガン」ならぬ「俺ツルギ」です。
この作品の前提。
・キュウレンジャーの時代から360年くらい過去
・ツルギはこの時点で250歳くらい(本人にも正確な歳は不明)
・宇宙連邦成立前、即ちドン・アルマゲ発生前
・ホウオウソルジャーとして覚醒前
『今回の敗戦により、鳳ツルギの連合軍での大隊指揮官としての任を解き、減給処分とする。』
そう通告を受けたのは、完全撤退を終えて首都惑星に戻ってから二週間ほどたってから。オライオンは激怒して連合軍司令室のブリーフィングパネルを殴り付けて破壊し謹慎を命じられ、キマリは新任の指揮官に従わず、その足で軍本部を出てしまった。他の者たちもおとなしく命令に従う者もいれば、あからさまに反抗の意思表示をする者もいる。部隊は混乱を極めていた。皆、鳳ツルギと言う人間に対して信頼をし、付き従っていたからだ。彼らの忠誠心が向かうのが政府ではない所がツルギとしては複雑でしかない。民主主義と言う物を形なりにも提唱していく為には、個人に付き従うのは危険だからだ。現に元老院側は自分達の地位を脅かすのではないかとツルギを敬遠しているではないか。
さて、任を解かれた当のツルギは休暇ができたと笑って、惑星チキュウにある自分の研究施設に戻り、研究に籠りきりになっていた。
『ツルギおかえり』
『新しい仲間ができたよ』
ツルギの作り出したプロトタイプのアンドロイド達は、今も研究者たちと共に施設で働いている。研究者達が年老いていなくなって次の研究者に変わっても、彼らはずっとツルギと共に長い年月を生きてきた。その寿命は単純に経験値となり、彼らのデータ量は知識と呼ぶにふさわしい物になっていただろう。だからツルギがいなくても施設は優秀なままだったし、代が変わっても研究が続けられるし、一人の人間では寿命でできないような研究も続けられていた。ツルギがこの世で一番最初に作り出した彼は、アルタイルと名付けられていた。物事の最初を表す"A"、そして宇宙を目指していたツルギが、星の名前から取った名前。
『今度は何の研究をするんだい?』
「俺様自身だ」
『ツルギを研究する?』
「そうだ、このホウオウキュータマについて、俺様は何も知らなすぎるからな」
手の中にあるホウオウキュータマを見つめるツルギの表情は、少し寂しげに見えた。自分達は元から長い寿命を与えられているが、ツルギは違う。一度失ってから長い時を生かされているのだが、その心情は彼以外の誰にもわからない。
『……ツルギは、普通の人間に戻りたいのか?』
「んー、どうだろうな、今はまだこの"死なない体"は必要だ。けれどそれがいつまで続くのかもわからないし、ぶっちゃけケガをすればめちゃくちゃ痛い。研究者として原理を知りたいと言うのもあるが、俺様が死ぬことがあるのならそれを知っておきたい」
『君は前にもキュータマの研究をしていたじゃないか』
「そうだな、この命をもらってすぐに調べたが、ある種のエネルギー蓄積装置と言うことしかわからなかった。だが今は、あの時よりも技術が進歩している」
『確かに、君と僕たちのおかげで、この宇宙の科学技術は飛躍的に進歩したな』
「だろ?だからもう一度調べてみるんだ」
ツルギは持っていたホウオウキュータマを親指と人差し指でつまみ持ち、光にかざすように掲げた。小さな丸い球体の中で、さながら炎が燃えるようにゆらゆらと内部のエネルギーが揺れる。
「この、何かの模様も気になるんだ」
『模様?』
「ほら、表面のここにあるだろ?」
ツルギが指し示すそこには、白っぽくギザギザした模様の様なものがうっすら見えている。
『ボクの知っている何にも当てはまらないね』
「何か……とても意味があるように思えてな」
その意味が何なのかわからないが、ツルギは知らなくてはならない様な気がしていた。
鳳ツルギが前線から居なくなり、連合軍内部の士気は明らかに落ちていた。常勝の指揮官が居なくなり、その側近も謹慎と無断欠勤とあれば、残るは無名の凡庸な指揮官のみ。更に連合軍と言う特性上、出身星系も種族も言語すらもバラバラな兵士達を指揮するのは並大抵の事ではなかった。如何に今まで鳳ツルギと言う存在に頼り切り、依存していたのかが浮き彫りになり、軍の上層部はまさに頭を抱える事態となっていた。
そんな絶好の機会を反統一側が見逃す筈もなく、今までに無い大攻勢に転じてきた。同時多発的に様々な星系に進行し、その勢力図を少しずつ拡げにかかっていた。ほどなく二つほどの星系が落とされ、その星系の元老院議員達は議会に鳳ツルギの復職を提案してきた。自分達で追い出しておいて呼び戻す等と元老院の面目が丸潰れだと反対する声が上がるものの、概ねの議員達は自分達の星系が敵対勢力に支配されてはたまったものではないと、自分達の利益を最優先させる事にしたようで、提案はあっさりと賛成可決された。
「断る」
『……なっ?!何だと?』
通信画面すら見ること無く、ツルギは手元の細かい機械のパーツを組み立てたりバラしたりを続けている。
「俺様は今研究に忙しい、戦争したいなら勝手にやってくれ」
『貴様、元老院命令に逆らうのか?』
「軍に所属してはいるが、今や俺様は指揮官の任を解かれ、謹慎中のただの一兵士に過ぎんからな。別にいつ辞めても構わないぞ」
画面を見ずとも、連合軍司令長官の顔がみるみる赤くなり、怒りを表しているだろうことは予想の範囲内。後はどれだけ有利に自分の能力を売り付けるか、ツルギはそのタイミングを見計らっている。組み上がったパーツを持ち上げ、色々な角度から眺めて満足そうに次の部品へと手を伸ばす。司令長官は周りの側近達に宥められ、少しだけ落ち着いた口調でツルギを説得しようと試みる。
『もともと宇宙統一は貴官が提案して始まった事なのだろう?それを途中で投げ出すことになるが、それでもいいのか?』
「宇宙が一つきりの国家であれば、国家間の争い事は起こらないからな。そのために元老院の設立を提案して形ばかりの議会制を提案してみたが、どうやらその元老院では俺様が目障りらしくてな、今日まで冷遇されてきた身としては助けてやる義理は持ち合わせちゃいない」
『…………』
再び司令長官の顔が苦いものに取って変わるが、ツルギはそこでようやく顔を上げ、通信モニターに向き直った。
「条件付きでなら復帰してやらないこともないぞ」
『……聞こうか』
不敵不遜、ツルギは面白そうに相手に笑って見せた。ついでに勿体ぶったように白衣の下の長い足を組み、その膝に手を乗せた。
「戻るにはそれなりの地位と権限を寄越せ。この場合地位はどうでもいいんだが、全軍を俺様が指揮できるようにする為の権限だ。おそらく貴官辺りの地位が必要になるな」
もちろん自分の地位と権限を寄越せと言われて素直に応じる司令長官ではない。今度こそ怒りを爆発させて画面の向こうで頭まで紅潮させ怒鳴り散らしていた。もちろん通信音声をカットしたツルギには全く聞こえてはいなかったが。
さて、自分達で罷免しておいて、果たしてこちらの条件を受け入れるだろうか?まあ、結局のところ俺様以外に有能な人材は見受けられないので受け入れざるを得ないだろうが、どのような体面でそれを行うのか見物だな、ツルギは意地悪く考えていた。
数日後、元老院からの正式な辞令が届き、鳳ツルギは連合宇宙軍司令長官として、全軍を指揮する事になった。
キュータマの研究は一旦アルタイルに任せて、軍に戻ったツルギが一番最初に行ったのはオライオンとキマリを側近として呼び戻す事だった。ツルギの常勝の裏には二人の力が不可欠だった。オライオンの活躍はもちろん言うに及ばず、キマリもツルギの突然の思い付きにも対応できる緻密な補給、人員配置ができる貴重な存在だったからだ。
「ツルギ、朗報だぞ」
キマリが嬉しそうに司令室に駆け込んできた。
「前から開発していた戦闘型ドロイドのの統括システム構築が間に合った」
「そうか」
ツルギの研究で作り出したアンドロイド達は、知識学習型AIと疑似感情を作り出すAIを持ち、限りなく人間に近い存在と言え、最初から戦争の道具として使うのをツルギが拒否していた。気持ち的にはかわいい我が子を戦争に出せるか、と言うものだったのだろう。もちろん人命とアンドロイド、どちらが大事なのかと言われれば人命に違いないのだが、自由意思で軍に入ったのではないアンドロイド達に戦わせるのはやはり納得ができなかった。その代わりに提示したのは、感情も持たず学習もしない、統括するメインサーバーからの指示でのみ動くドロイドシステムを作り出すことだった。ドロイド達には感情はなく、ただサーバーから送られるプログラムされた指示に従う道具としての存在。それが、実用化にこぎ着けたのだと言う。
「これでずいぶんと戦いやすくなるな」
「そうだな」
「なんだ?嬉しくないのか」
「すぐに向こうも同じシステムを作り出してくるだろう」
「だが、当面犠牲者を減らすことはできるだろう?」
「ああ、その間にある程度の星系を落としておきたい」
キマリは不思議な顔をしていて、ツルギは苦笑する。
「何か、おかしな事を言ったか?」
「珍しいな、そんな言い方をするのは。敵対していても、やがては統治する民と星なのではないのか?」
「………そうだ。だが、俺様が甘さを見せればその分統一に時間がかかり、争いも長引くだけだから手加減はしない」
前回の敗戦の後、道を間違えたと言っていたが、それはひどく穏便に宇宙の統一を成し遂げるための道だった。恐らく、あの後ツルギは全て自分が背負う覚悟を決めたのだろう。そして最終的には自分が作った元老院すらも無くすつもりなのだ。
「どんな心境の変化か知らんが、俺は最初からそうしろと言っていたから、いいんだけどな」
不敵に笑う様は戦場で敵を前にした時の物で、キマリはある種の神聖さすら感じていた。
「ふふん、鳳ツルギの伝説はもう始まっているんだぞ?停滞などないさ」
自分が望んでいた道を彼が進み出していくのを、心酔したように見守っていた。
一方、兵士達の統括は副司令に任命されたオライオンが行っていた。謹慎中はすることがなくひたすら筋トレに励んでいたため、以前よりも更に質量の増した体躯からは想像しにくいが、きめ細かい指揮の執れる人物である。ひたすら真面目に日々の業務をこなす姿は、自然と尊敬と畏怖を集めていった。それと平行して、敵への作戦漏洩の首謀者を探す任務も割り当てられており、実はもっとも多忙を極めていた。
たまりかねたオライオンが、司令長官室に現れたのはツルギが司令長官に就任してから、約二ヶ月ほど経過した頃だった。
「おいツルギ、部隊を再編しながら憲兵の真似事などできん」
「お前らしくもない、珍しく弱音を吐くんだな」
「弱音も吐きたくなる。軍の奴ら、適材適所、個人の能力評価、全く考慮せずに運用してやがる。全てを一から編成し直しだ!」
バンッと掌でツルギの執務デスクを叩く。ハラハラと決裁待ちで積み上がった書類の何枚かが床に滑り落ちていった。
「凡庸な指揮官に言葉すら通じない相手とのコミュニケーションなど無理だろうなぁ」
ツルギもいくつかの星系言語は習得しているものの、全宇宙の全ての言語を理解するのはさすがに不可能である。彼の"大統領になったらやることリスト"の筆頭に、まずは統一言語の制定とその教育と言うものがあったのは言うまでもない。
「そうだなぁ、国家内レベルでの統括能力のある奴らは幾人かいるから、そいつらを補佐に入れてやる。1ヶ月で何とかしろ」
「はぁっ?!1ヶ月だと?!バカか?!」
「スパイの炙り出しができない以上、いずれドロイドシステムの情報は敵側に回るだろう。対策と攻略方を考え出される前に叩いておきたい」
「…………ううむ……」
「それと、憲兵の真似事はこっちで何とかする」
ケロリと笑ってオライオンの肩を叩き、トレードマークの深緋色のコートをひらめかせて、ツルギは司令長官室を出ていった。
ドロイドシステムの投入と、鳳ツルギの速攻的な作戦により、以前の敗戦により統一反対勢力の支配下に落ちた星系国家を取り戻し、ついでにその周辺をも味方引き入れた。多くの国が戦争を望まないにも関わらず、宇宙ではあちこちで対立が起き戦争に至っている。それらを軍事力で平定し、柔軟な政策で取り込むのがツルギの方針であり、元老院へは事後報告のみしてさっさと条約を締結して陣営へと引き入れていた。彼の目に余る越権行為に元老院ではまたぞろツルギへの非難が続出していたが、先の戦いで彼以外に勝てる見込みがないのも事実と思い知らされで、それらは不平不満の域を出る事はなかった。
一方、復活後すぐの勝利に酔いしれる兵士達ばかりではなく、民衆や一部の政治家の間では鳳ツルギ待望論が囁かれ始めたのもこの頃で、ツルギの方も敢えて政治的な言葉を発信しだした。休暇中に行っていたキュータマの研究でわかったことは、キューエナジーは無限ではないこと、僅かではあるが手に入れた頃よりエネルギー量が減っている事、その蓄積方法が不明である事、それらを鑑みて宇宙統一を急ぐべきだと判断した。更に何十年もたつと当時の理想ではなく利己と保身のみで動く輩ばかりに成り果てた元老院に見切りを付け、宇宙の責任の全てを自分が背負う覚悟をしたのもあった。
『鳳ツルギという人物は、それまで少年のような無邪気さと理知的な大人の狭間のような男だったが、そこから少年らしさが削ぎ落とされ、冷徹さが増したように感じられた』と、後の歴史でオライオンが語っている。
もちろん態度が冷たくなったとか、部下への優しさが無くなった訳ではなく、作戦や敵対する者(この場合は元老院も含まれる)への容赦が無くなったとでも言うのだろうか。以前なら選ばなかったであろう選択肢を取り始めたのだ。
「五年で宇宙を一つにする、俺様が永久的な平和を約束しよう」
大言壮語、おおよそ実現不可能な事のようだが、ツルギが言うとなぜかできるように思えてしまうのが彼のカリスマ性とも言えようか。彼に心酔していた者達は諸手を上げて賛成したし、どちらにもついていなかった者達はある種の期待を込めて賛成した。
後の世に宇宙統一戦争と呼ばれた、最も大きな戦いが起こるのは、それから僅か二年後の事である。
Episode of 鳳ツルギ
chapter3 微睡む翼
大変長らくお待たせしました。そして、たぶん全体の中でも一番おもしろくない部分かとは思いますが、一応前フリしないと次が意味不明になってしまうといけないので。これでもすんげーはしょってナレーション説明だけで終わらせてるのですけどね。
ええと、うん、長くなるとは思ってましたが、想像より更に上を行く長さになりそうです(笑)。はやくジャークマター戦争に持ち込みたいところですが、たどり着けるのかなぁ(笑)。
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??
マシュマロ
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個人的妄想と捏造で構成されております。
公式関係各所とは全くの無関係です。
でも、もし、万が一、公式がこんな作品作ってくれたら狂喜乱舞します。Vシネでよろしく勇気。
「俺ガン」ならぬ「俺ツルギ」です。
この作品の前提。
・キュウレンジャーの時代から360年くらい過去
・ツルギはこの時点で250歳くらい(本人にも正確な歳は不明)
・宇宙連邦成立前、即ちドン・アルマゲ発生前
・ホウオウソルジャーとして覚醒前
『今回の敗戦により、鳳ツルギの連合軍での大隊指揮官としての任を解き、減給処分とする。』
そう通告を受けたのは、完全撤退を終えて首都惑星に戻ってから二週間ほどたってから。オライオンは激怒して連合軍司令室のブリーフィングパネルを殴り付けて破壊し謹慎を命じられ、キマリは新任の指揮官に従わず、その足で軍本部を出てしまった。他の者たちもおとなしく命令に従う者もいれば、あからさまに反抗の意思表示をする者もいる。部隊は混乱を極めていた。皆、鳳ツルギと言う人間に対して信頼をし、付き従っていたからだ。彼らの忠誠心が向かうのが政府ではない所がツルギとしては複雑でしかない。民主主義と言う物を形なりにも提唱していく為には、個人に付き従うのは危険だからだ。現に元老院側は自分達の地位を脅かすのではないかとツルギを敬遠しているではないか。
さて、任を解かれた当のツルギは休暇ができたと笑って、惑星チキュウにある自分の研究施設に戻り、研究に籠りきりになっていた。
『ツルギおかえり』
『新しい仲間ができたよ』
ツルギの作り出したプロトタイプのアンドロイド達は、今も研究者たちと共に施設で働いている。研究者達が年老いていなくなって次の研究者に変わっても、彼らはずっとツルギと共に長い年月を生きてきた。その寿命は単純に経験値となり、彼らのデータ量は知識と呼ぶにふさわしい物になっていただろう。だからツルギがいなくても施設は優秀なままだったし、代が変わっても研究が続けられるし、一人の人間では寿命でできないような研究も続けられていた。ツルギがこの世で一番最初に作り出した彼は、アルタイルと名付けられていた。物事の最初を表す"A"、そして宇宙を目指していたツルギが、星の名前から取った名前。
『今度は何の研究をするんだい?』
「俺様自身だ」
『ツルギを研究する?』
「そうだ、このホウオウキュータマについて、俺様は何も知らなすぎるからな」
手の中にあるホウオウキュータマを見つめるツルギの表情は、少し寂しげに見えた。自分達は元から長い寿命を与えられているが、ツルギは違う。一度失ってから長い時を生かされているのだが、その心情は彼以外の誰にもわからない。
『……ツルギは、普通の人間に戻りたいのか?』
「んー、どうだろうな、今はまだこの"死なない体"は必要だ。けれどそれがいつまで続くのかもわからないし、ぶっちゃけケガをすればめちゃくちゃ痛い。研究者として原理を知りたいと言うのもあるが、俺様が死ぬことがあるのならそれを知っておきたい」
『君は前にもキュータマの研究をしていたじゃないか』
「そうだな、この命をもらってすぐに調べたが、ある種のエネルギー蓄積装置と言うことしかわからなかった。だが今は、あの時よりも技術が進歩している」
『確かに、君と僕たちのおかげで、この宇宙の科学技術は飛躍的に進歩したな』
「だろ?だからもう一度調べてみるんだ」
ツルギは持っていたホウオウキュータマを親指と人差し指でつまみ持ち、光にかざすように掲げた。小さな丸い球体の中で、さながら炎が燃えるようにゆらゆらと内部のエネルギーが揺れる。
「この、何かの模様も気になるんだ」
『模様?』
「ほら、表面のここにあるだろ?」
ツルギが指し示すそこには、白っぽくギザギザした模様の様なものがうっすら見えている。
『ボクの知っている何にも当てはまらないね』
「何か……とても意味があるように思えてな」
その意味が何なのかわからないが、ツルギは知らなくてはならない様な気がしていた。
鳳ツルギが前線から居なくなり、連合軍内部の士気は明らかに落ちていた。常勝の指揮官が居なくなり、その側近も謹慎と無断欠勤とあれば、残るは無名の凡庸な指揮官のみ。更に連合軍と言う特性上、出身星系も種族も言語すらもバラバラな兵士達を指揮するのは並大抵の事ではなかった。如何に今まで鳳ツルギと言う存在に頼り切り、依存していたのかが浮き彫りになり、軍の上層部はまさに頭を抱える事態となっていた。
そんな絶好の機会を反統一側が見逃す筈もなく、今までに無い大攻勢に転じてきた。同時多発的に様々な星系に進行し、その勢力図を少しずつ拡げにかかっていた。ほどなく二つほどの星系が落とされ、その星系の元老院議員達は議会に鳳ツルギの復職を提案してきた。自分達で追い出しておいて呼び戻す等と元老院の面目が丸潰れだと反対する声が上がるものの、概ねの議員達は自分達の星系が敵対勢力に支配されてはたまったものではないと、自分達の利益を最優先させる事にしたようで、提案はあっさりと賛成可決された。
「断る」
『……なっ?!何だと?』
通信画面すら見ること無く、ツルギは手元の細かい機械のパーツを組み立てたりバラしたりを続けている。
「俺様は今研究に忙しい、戦争したいなら勝手にやってくれ」
『貴様、元老院命令に逆らうのか?』
「軍に所属してはいるが、今や俺様は指揮官の任を解かれ、謹慎中のただの一兵士に過ぎんからな。別にいつ辞めても構わないぞ」
画面を見ずとも、連合軍司令長官の顔がみるみる赤くなり、怒りを表しているだろうことは予想の範囲内。後はどれだけ有利に自分の能力を売り付けるか、ツルギはそのタイミングを見計らっている。組み上がったパーツを持ち上げ、色々な角度から眺めて満足そうに次の部品へと手を伸ばす。司令長官は周りの側近達に宥められ、少しだけ落ち着いた口調でツルギを説得しようと試みる。
『もともと宇宙統一は貴官が提案して始まった事なのだろう?それを途中で投げ出すことになるが、それでもいいのか?』
「宇宙が一つきりの国家であれば、国家間の争い事は起こらないからな。そのために元老院の設立を提案して形ばかりの議会制を提案してみたが、どうやらその元老院では俺様が目障りらしくてな、今日まで冷遇されてきた身としては助けてやる義理は持ち合わせちゃいない」
『…………』
再び司令長官の顔が苦いものに取って変わるが、ツルギはそこでようやく顔を上げ、通信モニターに向き直った。
「条件付きでなら復帰してやらないこともないぞ」
『……聞こうか』
不敵不遜、ツルギは面白そうに相手に笑って見せた。ついでに勿体ぶったように白衣の下の長い足を組み、その膝に手を乗せた。
「戻るにはそれなりの地位と権限を寄越せ。この場合地位はどうでもいいんだが、全軍を俺様が指揮できるようにする為の権限だ。おそらく貴官辺りの地位が必要になるな」
もちろん自分の地位と権限を寄越せと言われて素直に応じる司令長官ではない。今度こそ怒りを爆発させて画面の向こうで頭まで紅潮させ怒鳴り散らしていた。もちろん通信音声をカットしたツルギには全く聞こえてはいなかったが。
さて、自分達で罷免しておいて、果たしてこちらの条件を受け入れるだろうか?まあ、結局のところ俺様以外に有能な人材は見受けられないので受け入れざるを得ないだろうが、どのような体面でそれを行うのか見物だな、ツルギは意地悪く考えていた。
数日後、元老院からの正式な辞令が届き、鳳ツルギは連合宇宙軍司令長官として、全軍を指揮する事になった。
キュータマの研究は一旦アルタイルに任せて、軍に戻ったツルギが一番最初に行ったのはオライオンとキマリを側近として呼び戻す事だった。ツルギの常勝の裏には二人の力が不可欠だった。オライオンの活躍はもちろん言うに及ばず、キマリもツルギの突然の思い付きにも対応できる緻密な補給、人員配置ができる貴重な存在だったからだ。
「ツルギ、朗報だぞ」
キマリが嬉しそうに司令室に駆け込んできた。
「前から開発していた戦闘型ドロイドのの統括システム構築が間に合った」
「そうか」
ツルギの研究で作り出したアンドロイド達は、知識学習型AIと疑似感情を作り出すAIを持ち、限りなく人間に近い存在と言え、最初から戦争の道具として使うのをツルギが拒否していた。気持ち的にはかわいい我が子を戦争に出せるか、と言うものだったのだろう。もちろん人命とアンドロイド、どちらが大事なのかと言われれば人命に違いないのだが、自由意思で軍に入ったのではないアンドロイド達に戦わせるのはやはり納得ができなかった。その代わりに提示したのは、感情も持たず学習もしない、統括するメインサーバーからの指示でのみ動くドロイドシステムを作り出すことだった。ドロイド達には感情はなく、ただサーバーから送られるプログラムされた指示に従う道具としての存在。それが、実用化にこぎ着けたのだと言う。
「これでずいぶんと戦いやすくなるな」
「そうだな」
「なんだ?嬉しくないのか」
「すぐに向こうも同じシステムを作り出してくるだろう」
「だが、当面犠牲者を減らすことはできるだろう?」
「ああ、その間にある程度の星系を落としておきたい」
キマリは不思議な顔をしていて、ツルギは苦笑する。
「何か、おかしな事を言ったか?」
「珍しいな、そんな言い方をするのは。敵対していても、やがては統治する民と星なのではないのか?」
「………そうだ。だが、俺様が甘さを見せればその分統一に時間がかかり、争いも長引くだけだから手加減はしない」
前回の敗戦の後、道を間違えたと言っていたが、それはひどく穏便に宇宙の統一を成し遂げるための道だった。恐らく、あの後ツルギは全て自分が背負う覚悟を決めたのだろう。そして最終的には自分が作った元老院すらも無くすつもりなのだ。
「どんな心境の変化か知らんが、俺は最初からそうしろと言っていたから、いいんだけどな」
不敵に笑う様は戦場で敵を前にした時の物で、キマリはある種の神聖さすら感じていた。
「ふふん、鳳ツルギの伝説はもう始まっているんだぞ?停滞などないさ」
自分が望んでいた道を彼が進み出していくのを、心酔したように見守っていた。
一方、兵士達の統括は副司令に任命されたオライオンが行っていた。謹慎中はすることがなくひたすら筋トレに励んでいたため、以前よりも更に質量の増した体躯からは想像しにくいが、きめ細かい指揮の執れる人物である。ひたすら真面目に日々の業務をこなす姿は、自然と尊敬と畏怖を集めていった。それと平行して、敵への作戦漏洩の首謀者を探す任務も割り当てられており、実はもっとも多忙を極めていた。
たまりかねたオライオンが、司令長官室に現れたのはツルギが司令長官に就任してから、約二ヶ月ほど経過した頃だった。
「おいツルギ、部隊を再編しながら憲兵の真似事などできん」
「お前らしくもない、珍しく弱音を吐くんだな」
「弱音も吐きたくなる。軍の奴ら、適材適所、個人の能力評価、全く考慮せずに運用してやがる。全てを一から編成し直しだ!」
バンッと掌でツルギの執務デスクを叩く。ハラハラと決裁待ちで積み上がった書類の何枚かが床に滑り落ちていった。
「凡庸な指揮官に言葉すら通じない相手とのコミュニケーションなど無理だろうなぁ」
ツルギもいくつかの星系言語は習得しているものの、全宇宙の全ての言語を理解するのはさすがに不可能である。彼の"大統領になったらやることリスト"の筆頭に、まずは統一言語の制定とその教育と言うものがあったのは言うまでもない。
「そうだなぁ、国家内レベルでの統括能力のある奴らは幾人かいるから、そいつらを補佐に入れてやる。1ヶ月で何とかしろ」
「はぁっ?!1ヶ月だと?!バカか?!」
「スパイの炙り出しができない以上、いずれドロイドシステムの情報は敵側に回るだろう。対策と攻略方を考え出される前に叩いておきたい」
「…………ううむ……」
「それと、憲兵の真似事はこっちで何とかする」
ケロリと笑ってオライオンの肩を叩き、トレードマークの深緋色のコートをひらめかせて、ツルギは司令長官室を出ていった。
ドロイドシステムの投入と、鳳ツルギの速攻的な作戦により、以前の敗戦により統一反対勢力の支配下に落ちた星系国家を取り戻し、ついでにその周辺をも味方引き入れた。多くの国が戦争を望まないにも関わらず、宇宙ではあちこちで対立が起き戦争に至っている。それらを軍事力で平定し、柔軟な政策で取り込むのがツルギの方針であり、元老院へは事後報告のみしてさっさと条約を締結して陣営へと引き入れていた。彼の目に余る越権行為に元老院ではまたぞろツルギへの非難が続出していたが、先の戦いで彼以外に勝てる見込みがないのも事実と思い知らされで、それらは不平不満の域を出る事はなかった。
一方、復活後すぐの勝利に酔いしれる兵士達ばかりではなく、民衆や一部の政治家の間では鳳ツルギ待望論が囁かれ始めたのもこの頃で、ツルギの方も敢えて政治的な言葉を発信しだした。休暇中に行っていたキュータマの研究でわかったことは、キューエナジーは無限ではないこと、僅かではあるが手に入れた頃よりエネルギー量が減っている事、その蓄積方法が不明である事、それらを鑑みて宇宙統一を急ぐべきだと判断した。更に何十年もたつと当時の理想ではなく利己と保身のみで動く輩ばかりに成り果てた元老院に見切りを付け、宇宙の責任の全てを自分が背負う覚悟をしたのもあった。
『鳳ツルギという人物は、それまで少年のような無邪気さと理知的な大人の狭間のような男だったが、そこから少年らしさが削ぎ落とされ、冷徹さが増したように感じられた』と、後の歴史でオライオンが語っている。
もちろん態度が冷たくなったとか、部下への優しさが無くなった訳ではなく、作戦や敵対する者(この場合は元老院も含まれる)への容赦が無くなったとでも言うのだろうか。以前なら選ばなかったであろう選択肢を取り始めたのだ。
「五年で宇宙を一つにする、俺様が永久的な平和を約束しよう」
大言壮語、おおよそ実現不可能な事のようだが、ツルギが言うとなぜかできるように思えてしまうのが彼のカリスマ性とも言えようか。彼に心酔していた者達は諸手を上げて賛成したし、どちらにもついていなかった者達はある種の期待を込めて賛成した。
後の世に宇宙統一戦争と呼ばれた、最も大きな戦いが起こるのは、それから僅か二年後の事である。
Episode of 鳳ツルギ
chapter3 微睡む翼
大変長らくお待たせしました。そして、たぶん全体の中でも一番おもしろくない部分かとは思いますが、一応前フリしないと次が意味不明になってしまうといけないので。これでもすんげーはしょってナレーション説明だけで終わらせてるのですけどね。
ええと、うん、長くなるとは思ってましたが、想像より更に上を行く長さになりそうです(笑)。はやくジャークマター戦争に持ち込みたいところですが、たどり着けるのかなぁ(笑)。
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