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ライブレポなど自分の妄想と覚書。

episode of 鳳ツルギ chapter 1 夢をみる人

2018-05-25 01:26:36 | 作品
※宇宙戦隊キュウレンジャーのファンフィクションです。
個人的妄想と捏造で構成されております。
公式関係各所とは全くの無関係です。
でも、もし、万が一、公式がこんな作品作ってくれたら狂喜乱舞します。Vシネでよろしく勇気。
「俺ガン」ならぬ「俺ツルギ」です。


この作品の前提。
・キュウレンジャーの時代から360年くらい過去
・ツルギはこの時点で250歳くらい(本人にも正確な歳は不明)
・宇宙連邦成立前、即ちドン・アルマゲ発生前
・ホウオウソルジャーとして覚醒前







 風が強い。砂と岩ばかりの荒れた大地には点在する低木のみで、空気も乾燥し空も巻き上げられた砂で黄色く濁っている。そこからの景色のどこにも心引かれるものは見当たらないと言うのに、彼はもうずいぶんと長いことそこに佇んでいた。茶色く色褪せた世界、唯一の色は彼の着ている深緋色のコートくらいのものだ。風にはためく裾が拡がり、まるで鳥の尾羽のようにも見える。
「こんな所で何をしている」
 砂埃の混じる風に大きな目を細めつつ小高い崖から広野を見つめる男に、もう一人が声をかけた。少し長めで左右非対称に分けた前髪を風に弄ばせる横顔は、ひどく寂しそうにも見えた。
「間もなく作戦開始だぞ、リーダーのお前がいなくちゃ困る」
「なぁ、オライオン。お前は世界の……宇宙の果てを知っているか?」
「はぁ?知るわけないだろ」
「まだ誰も見たことがないそれを目指して、俺様は宇宙を駆け巡った」
「……それは、今度の作戦と関係があるのか?」
 彼が昔外宇宙探検に出ていたことは有名で、オライオンと呼ばれた男もそれを知っているが、今は昔の冒険譚を聞いている場合ではない。
「んー、関係はないな」
 振り返った男は楽しそうにオライオンを見おろした。
「だが、俺様が今やっている事には関係しているぞ」
「………なに?」
 ポケットに突っ込んだ手はそのままに、立っていた岩場の上からひょいと飛び降り、オライオンと共に陣営へと戻る道を辿る。
「宇宙を統一して連邦国家を作るには、全ての宇宙を知る必要があるだろ」
「………むむ、そうか?」
「俺様の知らない星系、知らない星、知らない国家があったら、それはもう統一とは呼べないんじゃないか」
「うーむ……」
「だから、果てを知りたい」
 そう言って空を見上げる顔はひどく無邪気にも見えて、彼はまだ少年の頃夢見た冒険を続けているのではないかと錯覚する。
「では宇宙の果ては今後の課題にしておいて、とりあえずは目の前の戦いに集中しろ」
「真面目だなぁお前は」
 楽しそうに笑う彼はとても戦いを前にした者とは思えぬ様子で。
「今回も俺様の伝説級の強さで片付けてやるよ」
 それは大言壮語ではなく、確かな強さと自信に裏付けされたセリフ。慢心しているわけでも、敵を見くびっているわけでもない。数多くの肩書きの中に冷徹な軍略家の側面も併せ持つ彼の言葉は、事実のみを告げているのだった。そしてそれは、兵士達の中での絶対的なカリスマとなっている。彼が前線に立つと言う一点のみで勝利への道は確実となるほどに。それがどれほど危うい事なのか、その時は誰も考えもしなかった。


 まだ宇宙が統一される前、各惑星国家はそれぞれ独自の文化や思想を持ち、混沌とした世界は互いに協力したり、争いを繰り広げたりしていた。
 辺境の一惑星に産まれ、外宇宙探検に出た時に人類で初めてキュータマを手にした男は、やがて宇宙を統一すると言う夢を語るようになった。初めは誰も相手にしなかった夢物語、けれど今ではおよそ宇宙の半数が彼の意見に賛同し、半数が反対の立場を取っている。
 連合宇宙軍の勲功授与において、彼、鳳ツルギは笑顔を作りながらもどこまでも冷静であった。元老院元首の長々とした訓辞をほぼ聞き流しながら、次の戦いへと思いを巡らせる。階級が上がれば権限も増してやれることが多くなる。戦いをより有利に進めるには都合の良いことでもあった。その代わり背負うべき責任も比例するが、彼の場合はいとも容易くそれらを己の中に位置付けてしまうのだろう、その点に於いて苦とは思わないようである。
 ともかく、戦果を上げる度に階級を上げていたのではいずれ直ぐにでも元帥まで登り詰めてしまうだろう。元老院の中では彼の権限拡大を危険視する意見もあり、今回は長ったらしい名前の勲章が幾つかと報償金と、そして故郷のチキュウに官舎をあてがわれた。
(………なんてこった、住みもしない家屋敷などがらくたに等しいじゃないか)
 心の中で悪態を吐きながら、報償金の使い道を考える。軍人としての才幹を発揮するずっと以前から科学者として名を馳せたツルギは自分の研究所を設立して、ほぼ使い道の無い資金はそちらへとまわしていた。官舎については売れるなら売ってしまおうかとすら考えている。一年のうち殆どを戦場で過ごし、チキュウへはもうずいぶん帰ってはいない。帰った所で家族や友人がいるわけでもないので、当面の住む場所さえあれば現在の戦友達と一緒の時間を過ごした方が有意義だった。
 授けられたカラフルな小さな勲章たちを無造作にカーゴパンツのポケットに突っ込み、そうして直ぐに存在を忘れてしまった。

 元老院のある首都惑星から、前線へと戻る艦の中で作戦参謀からの通信を受け取り、ツルギの顔は再び軍人のそれへと戻った。参謀のキマリは長い金髪を後ろでまとめたヒューマノイドタイプのなかなかの美丈夫であるが、その辛辣かつ冷静な物言いによく誤解される。ツルギのぶっ飛んだ作戦も考えも唯一理詰めで理解できる貴重な人物である。暗号通信で送られた作戦概要にざっと目を通して、不敵な笑みを浮かべる。
『気に入らないか』
「いや、これでいい。俺様は"死なない"からな、効率よく使え」
『ツルギ、死なないからって無茶するなよ』
「わかってる」
『リーダーのお前が無茶すると、必然的に仲間も危険に晒される事になるんだからな。前線の一部が崩れれば全体に影響しかねない、頼むから自重してくれよ』
「これでも十分自重してるつもりなんだが」
 心外とばかりに抗議するツルギと、小さくため息を溢す参謀、こんなやり取りは最近では毎回だった。それだけ戦いは激化の一途たどり、統一への道はまだまだ遥か遠い。するとキマリの横からひょいと顔を割り込ませて来たのは、オライオン。
『死にかけたお前を担いで撤退の指揮を取る俺の身にもなれ』
 思い当たることだらけなので、肩をすくめてごまかそうと試みたが失敗に終わった。
『死なないと言うだけで、使えない駒は作戦には役立たないからな』
「……………なんてこった、ひどい言われようだな」
 そんな軽口が叩けるのも、お互いが信頼しているから。
「明日にはそっちに着く、それまでなんとかしておいてくれ」
『任せておけ』
 笑顔で通信画面を閉じると、シートに深く沈みしばしの睡眠を取る。
 ホウオウキュータマを手にしたあの時から、ツルギの睡眠時間は極端に減った。永遠の命が与えられたのならば惰眠を貪ることも許されるだろうに、彼の場合は生来のマグロ体質に拍車がかかった様に次々と興味のあることに没頭していった。現在主流になりつつある人形アンドロイドの製作は、大半は彼の設計をベースにしているとさえ言われている。実務は任せているとは言え、彼の研究心が無くなった訳ではない。作戦の無い時期などは、宇宙中の新しい論文や研究データなどを集めて読み耽っているものだ。ともかく、長い時間を惜しむかのようにツルギは常に動き続けていた。

 ツルギが到着した時、戦況は悪化していた。本来指揮官が戦闘中に前線から離れるなどあってはならない事だったが、元老院より指揮を任されているに過ぎない立場のツルギとしては呼びつけられれば従うしかないので、舌打ちしながらも状況の確認のために参謀を探す。
「ツルギやられたぞ!山間部を迂回していた部隊以外は全て交戦中、ジャミングで戦況も連絡も全て人力で把握できない」
 端末機で戦場全体の地図を出し、その上にシミュレーションの戦況予測を表示する。
「なんてこった、俺様のいない時に限って……」
「まるでお前がいないのを見越したかのようなタイミングだった」
「………まさかな」
「杞憂ならいい。ともかく、中央はオライオンが支えているが戦力差がありすぎる」
「どれくらいだ?」
「……ざっと見積もって倍以上」
「他は?」
「こっちは今応援の部隊を送っているが間に合わないかもしれん」
「迂回部隊は間に合うか」
「無理だな」
「ここは引き払え、迂回部隊も応援も撤退させろ」
「なんだって?!」
「戦力をできるだけ温存して前回の基地まで下がれ、無駄な戦いはするな」
「…………わかった、だが、すでに戦っている連中になんて言うんだ。下手に言えば指揮がが下がるぞ」
「……言わなくていい」
 それは、助けには行かず見捨てると言っているようなもので。
「お前はどうする」
「中央に向かう、まだオライオンに死なれちゃ困るからな」
 今さらツルギ一人が加わった所で不利な戦況は変わらないだろう。けれどそれで誰かが助かるならば彼は行く。 冷徹な指揮官としては無駄だと救援は行かせないのに、自分だけは行くと言うのだ。それが鳳ツルギと言う男だった。
「……ツルギ、無理はするなよ」
「俺様は死なない、大丈夫だ」
 いつもの不適な笑顔に、キマリは何か言いたげに口を開いたが、結局なにも言わずに指示通り撤退の準備を開始した。

 敵と味方が入り雑じり、戦略も戦術ももはや意味を為さず、ただひたすらに目の前の敵と戦うだけ。混戦の中、オライオンを目指して走る車両から飛び降りた深緋色のコート、辺りの兵士が沸き立つ。
「ツルギ隊長!」
「不死身の将軍が戻った!」
 眼前の敵を切り伏せ、離れた相手には鉛弾を食らわせ、撤退を指揮する。倍以上の敵を前に不可能なことはわかっていても、一人でも多く助かれば良いと思っていた。
「ツルギ、なんでここに来た」
「お前を助けるためだ」
「余計なお世話だ、俺は自分の身くらい守れる」
「他の部隊も撤退している、ここも時間の問題だろう」
「尚更お前が来る必要は無いだろ」
 オライオンの背後の敵の眉間に正確に銃弾を撃ち込み、二人は背中合わせに立つ。
「お前一人じゃ荷が重いだろうと思ってな」
「そりゃどうも、信用のないことだな」
「皮肉を言うな、嬉しいくせに」
 一瞬目線を交わし、互いに笑って見せ、それぞれ別方向の敵に向かって走った。

 戦闘開始から20時間以上経ちようやくこの惑星の長い長い昼が終わり、あたりは薄闇に包まれ始めた。戦闘は散発的になり、戦場のあらゆる場所に敵味方の死体が転がり、部隊はほぼ壊滅に近かったがそれでも3分の1程は戦場から脱出できていた。
 味方の最前線で殿を支えた数人の仲間にも闇に紛れて下がる様に命令を出して、オライオンはその場に座り込む。
「さすがにもうこれが限界だな」
 そう言って疲れた笑顔で手の平大の小さな透明な盾を出してツルギに見せる。オライオンが"鉄壁の盾"と呼ばれるのは、自由自在に出されるある種のエネルギー体の盾を現出できるからだ。オリオン座系特有の能力であるが、オライオンのは特別に強かった。何度彼の能力に助けられただろう、鉄壁の盾と不死身の剣、この二人だからこそここまで戦って来れた。だからツルギは彼を助けに来たのだ。
「俺様たちも引き上げよう」
 前方でキラリと光る物が一瞬見え、乾いた銃声と共にツルギの肩に熱が弾けた。間髪入れず同じ方向に銃を向けて数発撃った。どさりと敵の倒れる音が遠くで響き、ツルギは腕を押さえて膝を付く。
「ツルギ!」
 そのまま前のめりに倒れる体をオライオンが受け止めた。その傷口を見て直ぐ様自分の服を脱ぎ肩から胸にかけてを覆って縛り上げる。炸裂弾をまともに食らって肩から腕、胸の一部がえぐられたかのように"無くなって"いた。
「くっそ……またお前を担ぐのは俺か……!」
 悪態を吐いても返事はない。疲れた体を無理やり叱咤し、ツルギを担ぎ上げて走りだした。
 

 絶叫と呻き声、それは数日続いた。
 医療スタッフもできることは少なく、彼の苦しむ姿と声が呪いのように脳裏にこびりつく。体の一部が"無くなって"いるのだから再生にも時間がかかり、その間は鎮痛剤もほぼ効果が無いほどの痛みを受け続ける。常人ならば死んで楽になれるかも知れないが、どんなに体が引き裂かれようとも彼は"死ねない"。不死と言えども、その痛みまでは消えない。いやむしろ、痛みは死なない代償なのだ。
 傷が治り、動けるようになったらすぐにベッドから出る、医者やスタッフの制止も無視して。
 作戦本部に現れたツルギを見て、オライオンも参謀もぎょっとした顔を見せる。ツルギの顔色は明らかに悪く、栄養は点滴のみの状態で、痛みでろくに寝ていないので目の下くまも酷い。
「お前……大丈夫か?」
「まだ寝ていた方がいいんじゃないのか」
「問題ない、それより……」
 ツルギは自分が戦線を抜けていた数日間を埋めるが如く、貪欲に情報を求めてきた。敗戦処理も含めて、まだ今回の戦いの総括はできていない。つまり情報は整理されておらず、むやみやたらに量だけは多い。それらを一つ一つ頭に入れ、整理し、次に利用する。それは容貌と相まって、鬼気迫るものが感じられた。
「何をそんなに焦っている」
 参謀の言葉に手を止め、ゆっくりと目線を上げる。
「俺様以外に誰が宇宙統一をやれる?」
 二人は息を飲む。
 ああそうだ、この男に惹かれ、命をかけてでも実現したい夢――――。
 ここにいるのは鳳ツルギの描く未来に魅せられ、集まった者達ばかり。今まで誰もやらなかった、できなかった夢を、この男はいとも容易く語り、実現させつつあった。だが今は、その夢よりも彼の体の方が心配になる二人である。
「お前以外にできるわけないんだから、焦る必要はないだろ。とりあえず休め。そんなじゃ判断を誤るぞ」
「………そうか、そうだな。」
 少しだけ疲れた様に、ツルギは笑った。そして、自室にてベッドへと倒れ込んだ。




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