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ライブレポなど自分の妄想と覚書。

ヒューマギアは電気羊の夢を見るか?

2020-02-14 07:18:25 | 作品

 ヒューマギアは眠らない。
 ヒューマギアは夢を見ない。
 それは確かにそうかもしれない、が、彼らも人間と同じように悩み考える事もある。





「判決を言い渡します、被告人は前へ」

 彼は罪を犯していた。それでも弁護士とは彼の罪を軽くし、あわよくば無罪へと結論を導かねばならない職業だ。100%有罪であるのに、無罪へと。彼が有罪であるべきだと判例も、法も示しているのに、無罪を主張しなければならない、大いなる矛盾。ビンゴは整合性を求めて考える。
 弁護士とは、一体なんなのだろうか……。
「ビンゴ、お前はよくがんばったよ。今回は最初から敗けが確定していたようなもんだし、気にすることはない」
「はい。私も彼の罪に対して判決は妥当だと考えます」
 裁判所を後にし、事務所へと向かう道すがら、この公判が始まってからずっと考えていた事を所長に聞いてみる。
「それは弁護士皆が思う事だな。裁判は不公平を少なくするため、だと思っている」
「不公平を少なくするため……?」
「そう、例えば裁判がなかったら、捕まった犯人は一方的に刑罰を与えられる事になる。それだと犯人の人権や犯行に及んだ背景を汲み取ることなく刑が決まってしまう。冤罪と言う可能性すらも考慮されない」
「確かに」
「だから、両者の主張を述べられる場所としての裁判が必要になるんだ。その時、裁判に慣れていない被告はとても不利になるだろうから、私達弁護士ががわりに彼らの主張を代弁する」
「ええ、その通りです。しかし、罪を犯した者の弁護で無罪を主張するのは、やはりおかしいと私は思うのです」
「本当に罪を犯したかどうかは当事者以外は誰にもわからない。それが確定するのは判決で、それまでは被疑者と言うだけだから審理を重ねて皆で検証する必要があるからだよ」
「それも、わかってはいます」
 所長は立ち止まり、困ったような笑顔で頷いた。
「ビンゴ、世の中は矛盾と曖昧さでできているし、人間は矛盾と曖昧さの塊なんだ。私は普段お前をヒューマギアだからとは特別考えていないが、こう言う時だけはそれを思い出してしまうねぇ」
「…………申し訳ありません」
 所長も、事務員のお姉さん(おばさんと言ったら怒られた)も、弁護士の先輩たちも、ヒューマギアだからと言ってビンゴを差別したり粗雑に扱ったりはしない。同じ同僚、人間として色々と教えてくれるし、人間にはできない部分を頼りにしてくれたりする。そんな所長が困ったように告げるのを見て、ビンゴにはとても悪いことをしている気持ちにさせられた。ヒューマギアが気持ちや感情を持つのかと問われれば否であるが、彼らは膨大な情報と学習により感情に似た思考を持ち初めていた。
「正直言うと、人間にもその答えは見つからないんだよ」
「見つからない……?」
「見つからないけど、不完全な人間の不完全なシステムの中では、我々は弁護士と言う"役割"を演じざるを得ないんだ」
「それは、人の役に立つと言うヒューマギアの基本構想から外れるのではないでしょうか」
「少なくとも被疑者の役には立っているだろうから大丈夫だよ」
 所長が停めたタクシーに二人は乗り込み、その話はそこで途切れた。




 死ぬのは怖い、嫌だ、助けてくれ……!!
 そんな悲痛な叫びを伴った面会。死を恐れるのは彼が人間だから。しかし彼が行った罪は死刑に値する、と、世間では思われている。弁護士としてのビンゴの役目は、死刑を回避し、依頼人である被疑者を助ける事。
「貴方は人を殺しました。その相手も同じ様に言ったのではないのですか」
 静かに問い返す。男は頭を抱えて突っ伏した。
「ああそうだ、命乞いをしていた、俺は殺した………殺してしまった……!!」
 死。
 命の終わり。
 無。
 人は死を恐れる。無を恐れる。ヒューマギアの自分には死は訪れない……。

 まだこの国の法律上、ヒューマギアだけで公判に携わる事はできない。名目上では所長が弁護人として登録されており、ビンゴはそのサポートとしてしか法廷に入るのを許されない。だから、傍らには常に所長がいるので、ビンゴはわからないことは何でも聞いた。被疑者との接見も同じく、人間の弁護士の同伴でないとビンゴだけでは会えない。
「ああ、ビンゴ、それは君も同じだ。ヒューマギアだって壊れれは直すし、いつかは動かなくなることもあるだろう」
「それは、メンテナンス次第と言うことですか」
「そうだね、人間もいつか死ぬのをわかっていて、今を精一杯生きている。君も、今の仕事を一生懸命やり遂げなさい」
「わかりました」

 初めはヒューマギアに弁護士としての知識を与え、他の弁護士のサポートとして使うつもりであった。六法全書の暗記、過去の判例の検索、ネットトラブルでの対処などは、人間であれば覚え切るのも難しく、また、裁判での参考資料、ネットでの証拠を探すのも大変な作業であったため、小さな事務所故にこれ以上人を雇えない苦しさから、ヒューマギアに頼ることにした。暗記するだけの司法試験は難なくパスして資格を有し、その運用についても人間の弁護士のサポートであれば法廷内に立ち入ることを許された。けれど、接しているうちに彼を一人の弁護士として育てているような心持ちになったのは、ただのコンピューターとは違う、自立学習を行い成長していくAIのどこか人間らしさにも似た部分を感じたためだった。
 シンギュラリティ=技術特異点。昨今のヒューマギア界隈でよく囁かれている現象で、AIが、機械が人間を超える事はない、と考えられていた前世紀とはもはや違う。ビンゴのより人間らしい疑問は、おそらくいずれは訪れるシンギュラリティへの布石ではないかと考えていた。だから彼の質問には極力答えるようにしていた。それはまるで、小さな子どもの純粋な問いに答えるかのようでもあった。






 襲いくる爪。辛うじて倒れ込みながらかわしたが、ビンゴには運動系のラーニングはされていない。頭は良いが必要最低限の人間の動きしかできないのだ。車をいとも簡単に破壊したその爪は、ビンゴのヒューマギアとしての固い骨格も簡単に破壊するだろう。
 破壊。
 壊れる。
 壊される。
 動かない。
 無。 


「わたしは……死ぬのか………?」




 ビンゴの中に何かが生まれ、そしてアークへと届いた。






終わり






後れ馳せながら、ビンゴくんで考えていた事をボチボチまとめてみました。


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