ある日の気づき

「数論的タイヒミュラー空間」について

朝日新聞デジタルの*見るからに信憑性の乏しそうな(嗤)*下記の記事からの話題ではあるが…

https://www.asahi.com/articles/ASS5W30WYS5WPLBJ005M.html
ABC予想証明に新理論? 望月氏「著者は無知」と一蹴、混迷深まる…(A)

まずは、上記記事自体(以下「(A)」ないし「記事(A)」として言及)について。
有料記事ということで全文を読んではいないのだが、無料で読める部分から受ける印象は、
以下の理由により、かなり悪い。
(1) 数学の学術的議論の場においては、*混迷など存在しない*。i.e.「IUT 理論への懐疑論」なる
ものは、記事(A) を含む*非学術的な場での IUT 理論を学術的に論じ得る専門知識を欠く言説
によって広められているに過ぎない。つまり、(A) の著者は「IUT 理論への懐疑論」に加担している。
(2) 状況 (1) の影響もありそうだが、望月がマスコミ取材全般に*かなり神経を尖らせている*事は、
ホームページの「コンテンツの報道目的での使用を禁止する」との注意書きからも伺える。よって、
「望月氏「著者は無知」と一蹴」とあるが、何を、どう尋ねて、どう聞いたのか知れたものではない。
(3) arxiv.org にプレプリントがアップロードされてから日が浅く「査読を経て学術誌に受理」されて
いないどころか、*研究仲間による検証セミナーの実施すらされていそうにない*論文で「問題解決へ
光明が差し込む」ことなど*有り得ない*が、それすら分かっていない事を曝け出している書き振り。
(4) 純粋数学の話題での arithmetic は、多くの場合「算術」ではなく「数論(的)」と訳すもの。

記事(A)自体については*取り敢えず*これくらいにして、話題に上っている論文と著者についての
*漠然とした印象*を述べる。なお、IUT 理論関連の論文ほどではないが、分量自体かなりあるし、
前提としている数論幾何の予備知識も素人の手に負えないので、数学的な真偽判定をする積りはない。^^;
とは言え、まず押さえておける事は、Arithmetic Teichmuller Space 関連の一連の論文の意図は、
IUT 理論の主定理 3.11 を使わずに、系3.12 を証明しようというもの。
さらに言えば、遠アーベル幾何も使わず、複数の宇宙も利用しない。単一の宇宙内で、ある種類の
「位相体(の環としての構造)の歪み」を定義し、IUT 理論での宇宙間の環構造(「正則構造」)の
歪みと同じ役割をさせることが可能だと主張している。つまり、次のストーリーの成立を主張。

(1) p進数に対し、複素数の擬等角写像に相当する写像を定義する。
(2) 複素数の擬等角写像と関連する古典タイヒミュラー空間と並行的な p進タイヒミュラー空間を
上記 (1) の写像に対して定義し、この写像概念に依拠して、「局所的な系3.12 」を示す。
(3) 「局所的な系3.12 」から、大域的な本来の系3.12 {相当の、を含意する} 命題を示す。

イヴァン・フェセンコが注意しているように「アメリカには遠アーベル幾何の専門家が
いない」ので、いかにも「アメリカ発」の理論らしくはある。
上のストーリー (1)-(3) の一つの危さは、「IUT 理論で遠アーベル幾何によって証明された
命題を、上のストーリーで証明した命題が含意している」という主張を、「遠アーベル幾何の
知識には乏しい」という条件下で、正しく証明可能か?というあたりにありそうだ。
例えば、IUT 理論での証明に現れる「対数体積」は、遠アーベル幾何で*定義可能性*が
証明されるというもの。「IUT 理論での諸命題を、数論的タイヒミュラー空間理論の命題
から示せる」という部分は、数論的タイヒミュラー空間理論の骨組みの部分より落し穴が
多くなりそうな気がする。

とは言え、少なくとも主張を証明しようとする姿勢および望月とも対話する姿勢を維持して
いるので、「トンデモ系」の主張を撤回しないショルツェらと違い、著者は*まとも*な人物
ではあるようだ。
もっとも、メールのやりとりは、まだ一往復。両者とも自分のメールをホームページで公開。
望月から: K.Joshi の論文中の IUT 理論への言及での間違いを指摘。望月の立場からは当然の反応。
なお、望月は Joshi が*IUT 理論について*「無知」だと言っている。Joshi 論文自体の評価も辛口。
Joshi から:  上記への返信。「自分の理論の内容も見て欲しい」、「間違いは修正する」と言ってる。

最後に、記事(A) の著者への苦言の意味で、マハトマ・ガンジーの警句を引用しよう。
「誤りは、たとえ何度伝えられたとしても、真実になるわけではありません。また、
真実は、誰にも見られなかったからといって、誤りになるわけではありません」

付録1:IUT理論を巡る状況に関連する文書への機械翻訳の適用について
IUT 理論についてのネット上の言説には、記事(A) など、IUT 理論の内容を知っている
数学者の意見を読んだことがないとしか思えない ものが、数多く存在する。
この*問題状況*への対応として、手軽に実行可能な提案を一つ(議論の相手に勧める
こともできるだろう)。

Google翻訳には文書をアップロードすると、全体を翻訳した文書を生成する機能がある
(初期画面で[ドキュメント] と書かれた部分をクリックすればよい)ので、ともかく
以下の文書を*英語に多少とも抵抗があれば和訳して*読むことだ。数学の専門的内容は
含まないので翻訳品質は「まあまあ」。∴かなりの部分は、十分意味が取れる。
(1) 現状に関する簡単な報告(望月新一)
(2) 研究と普及の特定の側面について 望月新一のIUT理論(イヴァン・フェセンコ)
(3) 先駆的な数学研究について(イヴァン・フェセンコ)

(1) は望月の2024年1月2日のブログからリンクされている。望月がスティックス (Stix) に
送信したメール2通がリンクされている(送信日は2022年6月30日2022年12月30日)ので、
これらも(和訳して)読む意味はあるだろう。
(2)、(3) は俯瞰的/全体的な状況の分かりやすい記述を含む。

あと、望月の論文は*学術的な研究会議*で議論され、*査読を経て論文誌に掲載*された。
一方、IUT 理論への誹謗・中傷を含む文書で*学術的な公式審査を通過したものは皆無*。
これらは客観的な事実であり、数学的知識とは関係なく取材すれば確認できるはずなのだが、
記事(A) の著者は、そもそも確認しようとすらしていないのだろう。望月やフェセンコの文書
には、これらの事にも言及されているのだが。

高度に数学的/専門的内容を含む文書の翻訳品質はよくないが、主に初めの方にある事が
多い*数学的内容に立ち入らない部分*は「そこそこ」の訳が得られるので、和訳結果を見る
意味があるかも知れない。ともかくダウンロード+アップロードだけの操作で可能な事だから、
試しても悪くはないはずだ。
例えば、望月の文書は、議論相手の文書のどの記述について述べているのか分かるように
書かれているが、IUT 理論を「批判(実際は単なる誹謗・中傷)」している連中の文書は、
望月の論文の名前にしか言及していないことは、素人にも確認できる。
つまり、連中は*望月の論文に実際に記述されていること*について述べている証拠を
何一つ提示しないのだから、誹謗・中傷と判断するのが合理的だ。報道機関を名乗る以上、
この程度の確認は*当然の義務*だろう。いい加減、過去の冤罪事件への加担等への反省を
行動で示して欲しいものだ。

付録2:数学固有の用語や「言葉使い」がある箇所で、ネットでの機械翻訳品質が下がる例
identify: 日常的には「識別する」の意味で使われる事が多いが、数学では「同一視する
(同じものと見なす)」の意味で使われる事が多い。
field: 日常語や物理学では「場」が基本的訳語だが、数学、特に代数や数論の文脈では、
「体」という代数構造(有理数全体や実数全体の集合での四則演算構造)を指す事が多い。
(この概念の日本語での用語が、ドイツ語での用語 Körper に由来するため)。

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