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1. 「感情論」における「事実誤認」と「認知バイアス」
1.1 北大西洋条約第5条
1.2 デフコン (DEFCON)
2. 核兵器による威嚇または使用に関する国際法と「核戦略」
2.1 「核兵器使用禁止条約」の非存在
2.2 「武力による威嚇」の「武力行使」から切り離しての定義は不明確
2.3 「核戦略」の言明が「武力による威嚇」と見なされたことはない
おわりに
関連記事と更新履歴
はじめに^
「ロシアは核兵器の使用をほのめかした。これは「武力による威嚇」だから許されない」という
趣旨の主張を、時々目にすることがある。筆者の漠然とした印象では、日本以外では目立たない
(というより*目につかない*)頻度でしか(あるいは全く?)主張されていないようだ。
「(しばしば認知バイアスに基づく)感情論」と「事実と国際法を慎重に吟味した議論」では
まったく違う話になる事の一例と言えるだろう。
# ↑事実については*アイゼンハワーが中国を核兵器で脅した先例*を押えていない事が明らか。
1. 「感情論」における「事実誤認」と「認知バイアス」^
まず、誰の、どういう文脈での、どういう発言が「ロシアが核兵器の使用をほのめかした」事に
なるとしての議論なのかが問題になる。筆者が「ロシアが核兵器の使用をほのめかした」という
主張を初めて見聞きした直前にあった「ひょっとしたら、このこと?」と思われるニュースは、
次のような内容だった。
「ドイツの高官が、ウクライナ紛争への NATO軍による直接介入の可能性に言及した事を受け、
プーチン大統領は、核兵器使用の想定を含む、軍の体制見直しを指示した。」
1.1 北大西洋条約第5条^
前記ニュースの前半にある「NATO軍による直接介入の可能性」の意味を十分理解する上で、
「北大西洋条約」第5条の内容は必須の前提知識なので、念のため引用しておこう。
https://www.nato.int/cps/en/natolive/official_texts_17120.htm
"Article 5
The Parties agree that an armed attack against one or more of them in Europe or
North America shall be considered an attack against them all and consequently
they agree that, if such an armed attack occurs, each of them, in exercise of
the right of individual or collective self-defence recognised by Article 51 of
the Charter of the United Nations, will assist the Party or Parties so attacked
by taking forthwith, individually and in concert with the other Parties, such
action as it deems necessary, including the use of armed force, to restore and
maintain the security of the North Atlantic area.
Any such armed attack and all measures taken as a result thereof shall immediately
be reported to the Security Council. Such measures shall be terminated when
the Security Council has taken the measures necessary to restore and maintain
international peace and security"
下記に日本語訳がある。
https://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/docs/19490404.T1J.html
「第五条
締約国は、ヨーロッパ又は北アメリカにおける一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を
全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。したがつて、締約国は、そのような武力攻撃が
行われたときは、各締約国が、国際連合憲章第五十一条の規定によつて認められている個別的
又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び維持するためにその必要と
認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに執ることに
より、その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する。
前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、直ちに安全保障理事会に報告
しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持
するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。 」
NATOの加盟国 (Member Countries) は 2023年5月18日現在、下記 Web ページにある31か国。
https://www.nato.int/cps/en/natohq/nato_countries.htm
"NATO MEMBER COUNTRIES"
https://ja.wikipedia.org/wiki/北大西洋条約機構#加盟国
北大西洋条約第5条を見れば、どれか1つの加盟国と交戦すれば、全加盟国と交戦することに
なると予想できる。つまり、「まったなしでの世界大戦」を覚悟せざるを得ないわけだ。
さて、NATO という組織の性質を評価するには、北大西洋条約の条文だけを見るのでは不十分な
ことは明らか。活動実績も見ておくべきであろう。Wikipedia での説明の「対テロ戦争」および
「介入した紛争」にある*参加した武力紛争全て*で NATO 側が一方的に攻撃を開始している。
その回数からも、戦前(=「明治国家」)の日本やナチスドイツ以上の攻撃性と言えるだろう。
https://blog.goo.ne.jp/deeplyjapan/e/0c1b3c4d9bd64994f589fbd8664c9a51
「戦後の体制はナチ2.0だったんだなと、毎週結論してる気がするが、否定できない。」
1.2 デフコン (DEFCON)^
以上、引用したニュース前半の状況を受けて「存立危機事態」発生の可能性をロシアが懸念し、
何らかの対応をとったという見方には、それなりの根拠があることを、ここまで述べてきた。
次に、同様な状況にアメリカが陥ったと仮定し、アメリカの反応を予想する際は、特に想像を
逞しくする必要はない。冷戦期に時々ニュースに登場した下記用語の説明を参照すれば十分だ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/デフコン
「デフコン(アメリカ英語: DEFCON)とは、「Defense Readiness Condition」の略で、通常は
戦争への準備態勢を5段階に分けたアメリカ国防総省の規定を指す。
「デフコン5」は完全な平時であり、「デフコン1」だと完全な戦争準備態勢(非常時)となる。
例を挙げると、デフコン5では核攻撃機はアメリカ本土地上待機であるが、デフコン1だと24時間
3 - 4交代でアラスカまたは北極圏上空待機となり、その他も地上待機となる。
...
レベル
...
デフコン 2
最高度に準じる防衛準備状態を示す。キューバ危機の際に一度だけ宣言されたことがある。
1962年10月23日に宣言され、戦略航空軍団はB-52爆撃機の一部を空中待機、残りのB-52とB-47は
滑走路待機となった。これは戦略航空軍団についてのみ11月15日まで継続された。また沖縄の
恩納村においては核弾頭ミサイル・メイスBの発射準備が実施された。」
# 気球撃墜祭りは「歴史は繰り返す。最初は悲劇として、二度目は茶番劇として」の新たな実例。
# 2023-03-15: 気球撃墜祭りの総括的な記事
https://ameblo.jp/sayamayotarou/entry-12793684941.html
「現在ぱったりと情報は途絶えましたが、あの騒ぎは一体何だったのでしょうか?」
「そもそも、たとえプロペラが付いていたとしても時速300キロのジェット気流で流されている
あんな大きな気球をソーラー駆動のプロペラでコントロールなんてできるわけがない」
「最新鋭の戦闘機が出動してわざわざミサイルで撃ち落とした映像がまるで撃墜ショーの
ようにニュースで報道されていましたが最初の二個は確かに中国の気球らしかったみたい
だけどその後何個か撃ち落としたものはどうやらアメリカが飛ばした気象観測用の気球」
「モンティー・パイソン」
「その中でジャングルを行軍していた部隊が「敵がいた」と誰かが叫んで先方に機関銃の
一斉射撃を浴びせるのですがその敵というのは実は蚊が一匹飛んでいただけ」
「その蚊にめがけて集中砲火を浴びせるというパロディなのですがまさにそれ」
「アメリカの非友好国に対する印象操作は度を越えています」
# 2023-03-03: 高価な米国製新鋭戦闘機の唯一の「空戦実績」は気球の撃墜
# 英国の情報筋;露Su-57戦闘機が長距離R-37Mミサイルでウクライナの飛行機を撃墜
# 「最初の航空機の納入後4年間は控えめな初期能力のみに制限されていたF-22と、
# まだ激しい戦闘作戦にはほど遠いF-35」
# 「Su-57 とは異なり、F-22 は戦闘で見通し外兵器を使用したことがなく、
# その唯一の「勝利」は 2023 年に米国とカナダの上空で気球を撃ったこと」
# 2023-02-18: 気球の出自確認ほか
# 米国戦闘機が撃墜したのは趣味の気球クラブの気球だった(笑)
# 「ちなみに、気球は12ドル、ミサイルは40万ドルだそうだ。」
# 「人件費等あるだろう。いくらかかったのか」
# スノーデン:UFOヒステリーはノルトストリームの爆弾発言から目をそらすため
# MoA -10日間にわたるパニック的な宣伝の後、気象観測気球の無意味さはついに埋没した
# 今回は↓気球撃墜祭り(笑)の様相
# 2023-02-13: 北米をめぐる政治的行動様式は不器用「大砲で蚊を撃つ」
# 「米軍が北米の空域で物体を撃墜したのは、この1週間で3度目だ。世界第一位の米空軍は、
# 以前にもUFOのために軍隊を動員し、「蚊を大砲で撃つ」に等しい劇的な効果を世界世論に
# もたらしたことがある。
# また、このような「重い任務」を引き受けて物体を攻撃した米軍の最新鋭戦闘機F22は、
# インターネット上で「バルーン・キラー」と呼ばれている。」
# MoA -空軍は、失敗した米国の気象観測気球を撃ち落とすために何百万ドルも費やした。
# 2023-02-13: MoA -中国、「先に撃て、後で話せ」の姿勢を否定
# 2023-02-10: No. 1699 アメリカは中国を戦争兵器で包囲しながら 気球に大騒ぎ
# 2023-02-08: ↓キューバ危機(トルコ米軍基地への核配備に起因^^;)より茶番劇っぽい
# 2023-02-07: Defcon Warning System発の情報によると、「中国の気球が米国上空に風で
# 流された」事から派生した騒ぎを受け、米軍は 2023-02-02 にデフコン2 を宣言した。
# 米軍は気球を撃墜した。2023-02-07 時点での宣言は、デフコン3に戻された。
# 2023-02-08: ↑キューバ危機では武力衝突発生寸前まで行ってしまったが、今回は ....
デフコン宣言が「武力による威嚇」という議論は見聞きしたことがない。なお、キューバ危機に
おいて、アメリカおよび NATO を含め、アメリカと軍事同盟を結んだいかなる国も、武力攻撃を
受けていたわけではない。現在の状況下で「NATO 直接介入の可能性を、西側の高官が公言した事
受け、大統領が核兵器使用の想定を含む軍の体制見直しを指示した」のがロシア側であるから?
「武力による威嚇」だと主張しているなら、おかしな話だ。かと言って、他には「特筆に値する
状況/構図の違い」があるようにも思えない。
一般に、国際法における「自衛権」、「自助」、「衡平の原則」を、*ロシア側視点も含めて*
考慮しない議論は、いずれも事実誤認と内集団バイアスに囚われていると判断せざるを得ない。
冷戦+デタントを通じて確立された安全保障の不可分性を含む国際法の諸原則に注意すべき。
「ダブルスタンダードと不処罰はもういらない。西側はロシアを挑発する。
その結果NATOの国境にあるベラルーシの核兵器」→関連
∵国際法の第一原則である「主権国家間の対等性」に照し、西側諸国とロシアの関係において、
「いわれもなく一方的に攻撃した」のが西側諸国であることは明らか。
# ↑西側諸国のロシアへの制裁やウクライナへの武器提供は違法な戦争行為であることに注意。
# 2014年のクーデターで成立した傀儡政権+ネオナチのロシア語話者への迫害を含めた経緯を
# 考慮して、クリミアやドンバスの独立とロシア連邦への加入、ロシアの特殊軍事作戦 (SMO) を
# 含めたロシア側の行動は、「自決権」や「個別ないし集団的自衛権」に国際法上の根拠を求め
# られる。一方、西側諸国の行動を正当化できる国際法上の根拠は、欠片もない。
2. 核兵器の威嚇または使用に関する国際法と「核戦略」^
まず、核兵器の「保持」や「開発(に必要な実験)」については、規制する条約が存在するが、
核兵器を明示的に指定して、その「使用」を規制する条約は存在しないことに注意しよう。
「国際司法裁判所 (ICJ) による勧告的意見」はあるが、それほど明快とは言えず、「勧告的意見」
には、そもそも法的拘束力がない(国際司法裁判所は、係争の全当事者が事前に合意した場合
にのみ、法的拘束力のある*判決*を行うことができる。もっとも、アメリカには、事前に合意
して始まった裁判の判決をも無視した「前科」がある事実を念のため指摘しておこう)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ニカラグア事件#アメリカの判決履行拒否
https://hiro-autmn.hatenablog.com/entry/2015/06/16/211528#後の経緯
2.1 「核兵器使用禁止条約」の非存在^
# いわゆる「核兵器禁止条約」は*核兵器保有国による使用*を禁止できていない。
核兵器禁止条約が何の役にも立たないことが明白となった ← 状況の簡潔な要約を含む記事
「核保有国が参加しない核兵器禁止条約」
# 核兵器禁止条約自体の14条、17条にもある通り、国際法の第一原理は国家主権の尊重。
# ∴*核保有国も合意済の条約である国連憲章や戦時国際法/国際人道法の解釈が重要。
# ∵核保有国も合意済かつ核兵器に明示的に言及する条約は、*使用*には触れていない。
https://ja.wikipedia.org/wiki/核兵器の威嚇または使用の合法性国際司法裁判所勧告的意見
「国連総会の諮問に対して裁判所は、「核兵器の威嚇または使用は武力紛争に適用される
国際法の規則(中略)に一般的には違反するであろう」としながらも、
「国家の存亡そのものが危険にさらされるような、自衛の極端な状況における、核兵器の威嚇
または使用が合法であるか違法であるかについて裁判所は最終的な結論を下すことができない」
とした。」
核兵器の*実戦使用による被害*を受けたことのある国の国民として「理不尽」と思わざるを
得ないが、これも国際政治の現実である。この他、劣化ウラン弾も人体と環境への超長期的な
影響に鑑みて禁止されてしかるべきだが、アメリカの反対で禁止条約は成立していない。
# 劣化ウラン弾関連記事
& 「放射能のキノコ雲」が西側を恐れ戦かせているーロシア安全保障会議書記の警告
P> 西ヨーロッパを脅かす「放射性雲」- ロシア治安保障局長 (↑同じ記事の別訳)
F> https://note.com/ftk2221/n/n70f34cbc1884
「ポーランドではすでに放射線量の上昇が確認されている」
「西側諸国がウクライナに供給した劣化ウラン弾の破壊により、放射能雲がヨーロッパに
漂着している」
Q> MoA:ウクライナ戦況報告: Khmelnytskyでの爆発 - Bakhmutの避難 - 長距離ミサイル
W> 劣化ウランの爆風がポーランド、ドイツ方向へ流れる(笑) ウクライナ
「劣化ウランがヨーロッパに戻ってきた」 - ポーランド東部で放射線上昇が記録される
Q> フメルニツキ-ロシアは劣化ウラン弾を蒸発させたか?: ラリー・ジョンソン
「ロシアがウクライナの都市フメルニツキーを空爆した際、複数の大爆発の後にガンマ線が
急増したとの報告があり、注目を集めている。このガンマ線の増加は、ロシアの爆弾が英国
から供給された劣化ウラン弾を粉々に吹き飛ばした結果ではないかと、専門家は推測」
Q> 放射能パニック:
ロシア軍のミサイルがウクライナの弾薬庫(Khmelnytsky)を直撃、大爆発を引き起こす:
ポール・セラン
「5月12日頃、フメルニツキーでガンマ線の急上昇が検出され、翌日も上昇し、その後も上昇した
ままである」
「劣化ウランからのガンマ線放出が少ないことを考えると、フメルニツキーでガンマ線が急上昇
したのは、破壊された劣化ウラン弾の備蓄が非常に多く、ウランの粉塵が空気中に舞い上がった
ことを示す」
「テルノポル、フミルニク、ノバヤ・ウシツァの町は、明らかに通常の基準値で推移していた」
「このことは、フメルニツキーの異常が本当にスパイクであることを示し、フメルニツキーの
備蓄品が劣化ウラン弾を含んでいるという主張を裏付ける」
M> 東洋経済:ウクライナにウラン弾を供与 英国の重大責任
放射能汚染で「イラク戦争の悲劇」再現も
Q> ウクライナ西部 劣化ウラン弾爆破現場 火消しロボットに消火させている
劣化ウラン弾は「核兵器」ではなく「通常兵器」の岸田政権 2 ~広島市は核を容認~
「広島市が「劣化ウラン弾」の危険性に触れている文章をHPから一時的に非公開に!
英国のウクライナへの劣化ウラン弾提供を岸田政権が支持した中で!」
英国が劣化ウラン弾を供給する意味
米英教官がウクライナ兵に劣化ウラン弾取り扱い教練を開始
野党、劣化ウラン弾を黙認する劣化首相を非難
劣化ウラン弾は「核兵器」ではなく「通常兵器」の岸田政権
「呆れたことに広島出身の岸田総理は劣化ウラン弾を「核兵器」とは思っていないのです。
山本太郎議員は「通常兵器と言っているのは戦争屋だけですよ。」と返しました」
英国、劣化ウラン弾をウクライナに供与
劣化ウラン(DU)弾とは
プーチン大統領;欧米が核兵器使用を開始すれば、ロシアも対応せざるを得ない
「イラクやユーゴスラビアで米軍が劣化ウランを使用して攻撃した場所では、... 関連する
放射性同位元素を含む放射性物質への曝露に関連した先天性欠損症や稀な形態の癌が増加」
ザハロワ外務省報道官;英国によるウクライナへの劣化ウラン弾供与は新たな挑発
英国の劣化ウラン弾の計画は欧州全域に脅威をもたらす
ベラルーシへの戦術核の配備はNATOからの挑発に対して採った対応
「ロシアはかねてからNATOの東方への拡大に関して、もしもロシア側が安全保障上の脅威を
受けたならば核兵器を使うとのロシア軍の軍事ドクトリンを公にしている。その脅威が
たとえ通常兵器によるものであっても、核兵器によるものであっても、その判断を左右
するものではないと補足説明さえをもしていた。つまり、安全保障上の脅威であるか
どうかだけがロシア側の判断基準であるという」
ルカシェンコ(ベラルーシ大統領)コメント
地雷、劣化ウラン、重要な追記事項 : 劣化ウラン弾とその弊害1/3
2.2 「武力による威嚇」の「武力行使」から切り離しての定義は不明確^
次に、上記で「核兵器の威嚇または使用」、武力不行使原則の根拠である国連憲章2条4項で
「武力による威嚇又は武力の行使」のように、国際法の議論では「威嚇または使用/行使」が、
セットにされて出てくる文脈が非常に多いことに注意する。さて、それでは何が「武力による
威嚇」にあたる行為で、何が「武力の行使」にあたる行為なのか、どう区別されているのか?
という疑問が湧くが、これは、意外にも、調べ始めると「一筋縄ではいかない」を通り越して、
「(少なくとも筆者には)手に負えない」問題と判明してしまった。
具体的に国際法上の「武力による威嚇」と「武力行使」の定義を与えようとしている文献自体、
「ニカラグア事件」の「ICJ 判決」くらいしか見つからなかった。
前記 ICJ 判決の全文が下記にある旨を、以前、ある読者の方からコメント欄で教えて頂いた。
https://www.icj-cij.org/public/files/case-related/70/070-19860627-JUD-01-00-EN.pdf
しかし、ここでは、簡潔にまとめられている、下記の和文解説に基づいて議論する。
https://hiro-autmn.hatenablog.com/entry/2015/06/16/211528#武力攻撃の存在
「...
反乱軍への武器や兵站その他の援助(訓練・軍事演習等)は、武力攻撃には含まれないが、
「武力行使」または威嚇にあたる。」
残念ながら、「武力行使」と「(武力による)威嚇」の区別に踏み込んだ内容ではなかった。
しかし、「反乱軍への武器や兵站その他の援助(訓練・軍事演習等)」のような、単なる声明
などではない、実際的な「軍事行動」の一部に対して、「または威嚇」という但し書きがある
ことから、(軍事行動に対応しない)単なる声明や発表を「武力による威嚇」と判定する際は、
かなり慎重に内容や文脈を考慮すべきではないだろうか?少なくとも一節を聞きかじった程度で
軽々しく判断すべき事だとは考えられない。
# 結局、国際法上は「武力行使または武力による威嚇」全体で一つの概念と考える方が便利。
# 上記 ICJ 判決の和文解説によれば、西側諸国のウクライナへの兵站や軍事訓練の提供は、
# ロシアへの「武力行使または武力による威嚇」なので、 国際法上*西側諸国は既にロシアと
# 交戦中*となる。しかも、西側諸国は明らかにエスカレーションを招く行動を続けている。
# 少なくとも「武力による威嚇」の定義が曖昧という認識は、メディアリテラシーの一環。 i.e.
# 西側標準言説では下記などの西側示威行動を{報道/言及しない、「威嚇」と呼ばない} 。
# 櫻井ジャーナル: NATO軍が10月17日からロシアとの核戦争を想定した軍事演習を実施
# ∴これまでの経緯や公表済核戦略の内容も考え合せて、「より挑発的」な側を見極めるべき。
2.3 「核戦略」の言明が「武力による威嚇」と見なされたことはない^
上記の論点を受けて、本節を締めくくるにあたり、指摘しておきたいことが、いくつかある。
まず、冷戦期には「核戦略」というものが大っぴらに議論されていて、「現代用語の基礎知識」
とか「イミダス」のような一般的な用語集にも説明が載っていた(今ならネット検索で十分 )。
https://ja.wikipedia.org/wiki/核戦略
https://kotobank.jp/word/核戦略-43703
... (本ブログ内の*関連記事*も参照)。
「核戦略」の議論が「武力による威嚇」という話は聞いたことがない。「かくかくしかじかの
状況で、かくかくしかじかの方法/範囲/程度で、核兵器を使用する」という話を米国政府の
高官が公に発表していたにも関わらずだ。ロシアが同様の発表をしたら「武力による威嚇だ」と
主張するのでは、筋が通らない。というか、ロシアの発表は、冷戦時のアメリカの「核戦略」に
較べて条件の指定が具体的で*回避しやすい*。さらに今次ウクライナ紛争に際して内容を変更
してもいない(2020年時点の発表内容を変更したとの発表はない)。
にも関わらず、ロシア側の発表だから?「武力による威嚇」と決めつけるのは、おかしな話だ。
事実誤認と内集団バイアスの産物、あるいは*悪意によるプロパガンダ*と疑わざるを得ない。
まさかとは思うが、「それぞれの正義と絶対の正義、そして国際法の記事で言及したマンガ/
アニメ「沈黙の艦隊」を連想して国際関係/国際法をイメージしているなら、*絶対にやめて
欲しい*。国際政治の状況はマンガ/アニメほど単純ではないし、第一、あのマンガ/アニメの
ストーリーには、国際法の常識を無視している箇所が、いくつもある。例えば、物語の序盤で、
潜水艦の艦長が「独立国やまと」を宣言し、「国際法により領海は12カイリ」と言う場面がある。
「人工物は国家の*領土*になり得ない」事が確立した国際法の一部と知っている人は、笑いを
こらえるのに苦労したはずだ。この程度の国際法知識はないと、中国と東南アジア諸国の間での
領海紛争や、日本の沖ノ鳥島近辺の国際問題の理解に支障をきたしてしまう。
おわりに^
アメリカは、ソ連/ロシアへの先制核攻撃を検討したことが、少なくとも、過去に2回ある。
1回目は第二次大戦終了直後、2回目はソ連崩壊直後で、公開された公文書の裏付けがある。
# 米国の戦略空軍総司令部が1956年に計画した先制核攻撃のプランでは人口密集地帯も
# 攻撃の目標
# http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201512270000/
# 2015.12.27 21:29:04 櫻井ジャーナル
# アメリカのSAC(戦略空軍総司令部)が1956年に作成した核攻撃計画に関する報告書
# (SAC Atomic Weapons Requirements Study for 1959)が公開され、話題になっている。
# http://nsarchive.gwu.edu/nukevault/ebb538-Cold-War-Nuclear-Target-List-Declassified-First-Ever/
# https://ja.wikipedia.org/wiki/予防戦争
# https://duckduckgo.com/?q=ウォルフォウィッツ・ドクトリン
# https://en.wikipedia.org/wiki/Wolfowitz_Doctrine
# http://www.nytimes.com/1992/03/08/world/us-strategy-plan-calls-for-insuring-no-rivals-develop.html
∴「単なる事実」。さらに、1回目の時期に、チャーチルが、ソ連への都市爆撃を含む核攻撃を
主張していたことを示す文書も公開されている。↓ソ連への先制攻撃論はこんな人も言っていた。
# https://ja.wikipedia.org/wiki/ジョン・フォン・ノイマン
# 「ソ連への先制攻撃を強く主張」
ソ連崩壊直後に元スパイが西側に「手みやげ」として持ち込んだ情報や、ロシアによる冷戦時の
(グラスノスチを発展的に継承した)情報公開では、KGB による情報操作工作活動の実態なども
暴かれたが、ソ連が西側に先制攻撃を企てていたという情報は出てきていない。「身の程を知って
いる」現在のロシアによる先制攻撃は、なおさら「ありそうもない」。ラプラスならずとも、
「西側諸国が「ナチ 2.0」」との主張を理解する際に「「Deep State」などの仮説は無用」では
ないだろうか(笑)。表面に現れている事実の冷静な分析だけでも十分だ。
なお、武力行使開始直前のプーチン演説は、真剣に受け止めるべきだ。第二次大戦の戦訓に鑑み、
ロシアは*自国が深刻なダメージを被るまで何もせずに待つことはありえない*という意思が、
行間から溢れていることは明らかなので。