目次
はじめに
1. 単遠アーベル幾何
1.1 単遠アーベル幾何での復元に関連する重要な概念
1.1.A 用語の由来についての推測
1.2 単遠アーベル幾何は数学的構造の見方を変える
1.2.A 公理的集合論の公理系略称
2. 公理的集合論からの「逆転の発想」
3. 対数リンクと対数テータ格子
4. 単解 (mono-analytic) 構造
4.1 圏論における金言
4.2 テータリンクと「両立する構造」が「単解構造」
4.3 「単解構造」は群の作用が「正則構造」と異なる
4.4 「正則構造」は「「単解構造」と対にして再構成された環構造」
5. (数論幾何的図形の)数論的変形
6. IUT 理論における楕円曲線の取り扱い方の特徴
6.1 「悪い素数」に着目
6.2 「1点を除外した (once punctured) 」楕円曲線に着目
7. IUT 理論による対数体積 (log-volume) の評価
簡単な適用例(加筆の上、別記事に分離)
更新履歴
はじめに
以下、宇宙際タイヒミュラー理論を「IUT 理論」と書く。
この記事は、読書ノート:「宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃」の続きとも言える。
加藤文元「宇宙と宇宙をつなぐ数学」より詳しく IUT 理論について知ろうとすると、
基本的には*数学者ないし数学者予備軍向け*に書かれた文書を読むしかないわけで、
「宇宙と宇宙をつなぐ数学」は「中学生でも分かる」ように書かれたこともあって、
例えば「宇宙際Teichmüller理論入門」を読もうとすると、あまりにも大きい難易度の
違いに辟易することになる(∴大学生向け「宇宙と宇宙をつなぐ数学」続編を切望)。
# あと、京都大学数理解析研究所の一般向け講座(G) に基本概念を紹介しているものがある。
多くの素人数学愛好者にとっては*知らない用語の密度が高過ぎる*ので、初見はもちろん
2、3回目くらいでも「そもそも目がすべってしまって、内容を追うどころではない」
状態に成りやすいと思われる。(←個人の感想です)。
とりあえず、筆者が主に下記文書の(「読書百遍」と心で唱えながらの^^;)読み返しを
通じて形成した*主観的イメージ*を書き留めて見た。正確性や有用性の保証はできない。
フリーソフト利用時と同様、"as is" で提示されているものと考えて頂きたい。
とは言え、筆者としては、*かなり蔓延してしまっている単純な誤解/無理解のいくつか*を
解消することには役立つはずだと信じている。
記号 : 文書表題
[KF01]: 宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃
[HY01]: 宇宙際Teichmüller理論入門
[HY02]: 続・宇宙際Teichmüller理論入門
[HY03]: 絶対 Galois 群による数体の復元 (⊂星裕一郎の講演)
[HY04]: 乗法的情報による加法構造の復元 (G)
[MS01]: 宇宙際タイヒミュラー理論への誘い (⊂望月の出張・講演)
[MS02]: A Panoramic Overview of Inter-universal Teichmuller Theory
[MS03]: The Mathematics of Mutually Alien Copies: from Gaussian Integrals to
Inter-universal Teichmuller Theory.
[MS04]: 多項式の解の近似がとりもつ数論と幾何の関係 (G)
[MS05]: 数体と位相曲面に共通する「二次元の群論的幾何」(G)
# 下記の著者も望月新一だが、別記事での略称に合せる。
[EssLgc]: On the Essential Logical Structure of Inter-universal Teichmuller Theory in Terms of
Logical AND "∧"/Logical OR "∨" Relations: ....
[Rpt2018]: Report on Discussions, Held during the Period March 15 - 20, 2018, Concerning
Inter-Universal Teichmüller Theory (IUTch)
[TK01]: ガロア理論とその発展 (G)
[YG01]: “宇宙際” についての FAQ
[YG02]: A Proof of the ABC Conjecture after Mochizuki
[YG03]: 素数定理とRiemannゼータ関数 (G)
[FI01]: Fukugen
[FI02]: Arithmetic Deformation Theory ... Notes on the Work of Shinichi Mochizuki
参考: [KF01]p.272と[HY01]p.15に(記号は違うが)同じ式が出て来る。
[KF01]p.218の図6-7は[HY02]p.10の図(後で引用)を簡略化したもの。
1. 単遠アーベル幾何
IUT 理論は「遠アーベル幾何 (anabelian geometry) 」に基づいていると言って特に問題は
ないのだが、より実態に踏み込めば、「遠アーベル幾何に望月がもたらした新機軸の数々に
基づいている」と表現した方が良さそうだ。
中でも、決定的に重要な新機軸の1つは、単遠アーベル幾何 (mono-anabelian geometry) 、
特に、その核心である*再定義された「復元」の概念*。
# 「復元」概念の重要性は[FI01] で強調されている。「単遠アーベル幾何」は、[MS01]では
# 「絶対遠アーベル幾何」と呼ばれているが、ここでは [HY01]、[HY02]での用語に従った。
元々の遠アーベル幾何の問題設定は、数論的基本群(≈ 基礎体 K のガロア群)が作用する
数論幾何的な「図形」2組 G1↷M1、G2↷M2 が所与で、群の同型 G1 ≈ G2 から
「図形」の同型 M1 ≈ M2 が言えるか?という体裁(答が yes であれば「復元」できたとする)。
# ↑「図形」と書いたのは「数論*幾何*」の対象だからで、実際は代数的構造^^;
単遠アーベル幾何では、抽象的な位相群としての作用 G ↷ M から、基礎体 K および
G のガロア群としての K への作用を、所与の G ↷ M と整合的に(再)構成できるか?と
問題設定し、答が yes であれば「復元」できたとする。
復元過程で、完全な同型ではなく、少し違う部分(e.g. 小さな直積因子の付加)がある
「剛性が崩れている」場合も含めて扱うと、「「不定性」を許容した上での両立、同型、
等価 … 」という* IUT理論で決定的に重要な役割を演ずる概念*が得られる。
IUT 理論における技術的詳細の多くは、「不定性」が大きく成り過ぎないようにする工夫。
それらの工夫の中でも、特に技術的な概念は「行進 (procession)」という「多重同型」の
数を押えるための数学的構造。
1.1 単遠アーベル幾何での復元に関連する重要な概念
単遠アーベル幾何での復元を説明する際、「エタール的」、「フロベニウス的」という
概念区分が、概ね次のような意味合いで使われる。
- 群の作用 G ↷ M および、その作用から構成された対象は「エタール的」。
- 基礎体 K の環構造からの派生物から構成される環論的対象は「フロベニウス的」。
復元は「あるフロベニウス的対象と対応する同種のエタール的対象が同型」という命題を
確認することで完了する。同型が成立する場合、その同型は「クンマー (Kummer) 同型」と
呼ばれる。単遠アーベル幾何の文脈では、この意味での「クンマー (Kummer) 同型」を確認
するための枠組みが「クンマー (Kummer) 理論」と呼ばれる。
[HY02]P.9の図
[HY02]P.10の図 (「単遠アーベル的輸送」=[KF01]での「対称性通信」)
1.1.A 用語の由来についての推測
「エタール的」/「フロベニウス的」:
筆者は、分かっていない。^^; 代数幾何の「エタール射」や数論の「フロベニウス写像」と
カタカナ部分が共通なので、何かそのあたりと関連/類似性があるのかな?と想像している。
「クンマー同型」/「クンマー理論」:
多分、数学者クンマーが確立した「体論」における(既に「古典」とされる)定理の拡張と
(何らかの意味で)見ることができる事からの命名。筆者は「基礎体に含まれる 1 の巾根が
重要な役割を演ずるという点が共通だから?」と推測(単遠アーベル幾何でのクンマー同型
では群作用の「円分剛性」が重要と説明されている+「1 の巾根」は単位円の等分点だから)。
1.2 単遠アーベル幾何は数学的構造の見方を変える
単遠アーベル幾何での「復元」は、日常語のイメージに近いわけだが、理論上で重要な点は
元々の遠アーベル幾何の問題設定で考えられていた「復元」より強力な概念であること。
つまり、単遠アーベル幾何での「復元」が可能なら、元々の遠アーベル幾何の問題設定でも
「復元」可能というだけでなく、次のように数学的構造/対象への新しい見方を可能にした。
数学的構造/対象 A, B, X があって、単遠アーベル幾何での意味で A から X が復元可能、
かつ B から X が復元可能なら、A と B は X の復元に関しては「等価」と見なせる。また、
X からは当然 X が復元可能なので、この文脈では、A, B, X は等価と見てもよい。つまり、
全く異なった数学的構造/対象であっても、「復元」概念をテコにすれば等価と見なせる。
e.g. 「ZFC/NBG 公理系での集合」と「真のクラスである圏」が「等価」でありうる。
∴ZFC/NBG 公理系の範囲内の集合に閉じた議論とは相性が悪いが、圏論的概念(「圏同値」や
「自然変換」など)とは馴染みやすい。既存の圏論的手法の枠に収まらない発想も含むので、
数学全体にも革新的影響を及ぼし得る。
さらに、「特定の対象を復元可能なデータの一部」や「特定の対象を部分的に(不定部分を
残して)復元可能なデータ(の一部)」と関連付けた「数学的対象/構造」の「等価性」への
一般化も同様に可能。この状況を「データ」の方を中心にして見直す/言い換えることにより、
*「数学的対象/構造」を「復元用データの入れ物」として見る/扱う*事が可能になる。
つまり、IUT理論で常用される「復元用データの入れ物」としての数学的対象/構造」は、
単遠アーベル幾何から生まれた発想/概念。
別記事で引用した資料に「全ての細部に時間を費すことなしにIUT理論を知りたい場合、
遠アーベル幾何の結果は「ブラックボックス」と見なせ」という下りがあるが、その際は
ここで述べた「単遠アーベル幾何から派生する「数学的対象/構造」の見方」も含めて
受け入れる必要がある。∵例えば [HY01] でも最初から「数学的対象/構造」をデータの
入れ物扱いして、「入れ物としての工夫」をどうすべきかという話をしているからだ。
IUT理論への誤解/無理解は、「数学的対象/構造」を「復元用データの入れ物」として
見る事への躓きが原因の場合も多いように見受けられる。∵この観点を身につけないまま
IUT4部作を読んだ場合、数学的構造を構成する際の技術的詳細の複雑さに目が眩んで、
本記事で概観している IUT 理論の「基本ストーリー」すら見失なう恐れがあるからだ。i.e.
IUT理論の技術的詳細の多くは、前述の通り「不定性」の制御が目的で、手段としては、結局
*「復元用データの入れ物」として効果的な「数学的対象/構造」の構成*が大半を占める。
完成形の「復元用データの入れ物」は「IUT理論の近付き難い印象」の一因と思われる程度に
複雑だが、アインシュタインの言う "as simple as possible, but not simpler" を心がけて構成
されたことが、望月の Web ページや加藤文元の証言から伺える事は別記事でも言及した。
なお、「復元用データの入れ物」を構成する際の出発点と見られる発想は、単純と言えば単純
ではあるが、かなり「突き抜けた」もの。別記事での言及時に内容を全く説明しなかったので、
次節で簡単な説明を試みる。公理的集合論を踏まえての発想なので、念のため、比較的有名な
集合論の公理系の名前(というか略称)を 1.2.A で述べておく。
なお、望月のIUT4部作の第4論文での集合論的側面のフォーマルな説明は、1.2.A とは別の
公理系に基づいている。*そこでの議論に便利だから*ということのようだ。なお、集合論の
公理系は、けっこう色々あるようで、数学基礎論レベルでの厳密な議論の際は、公理系依存で
技術的詳細に差があるということだ。
因みに、かなり多くの数学分野で、集合論の公理系の差は問題にならない。数学者の大半が
日常的に使う「集合論の公理」は、選択公理くらいかも知れない。∵「あらかじめ与えられた
集合の部分集合」に基づく議論は、「素朴集合論」で考えても矛盾は起こらないので。
1.2.A 公理的集合論の公理系略称
ZFC: 提唱者2人の名前 (Zermelo+Fraenkel) と選択公理 (axiom of Choice) から。なお、
元々提唱された公理系は選択公理を含まないので ZF と略す。
この公理系では「類=クラス(class) 」という概念は定義しない(「集合」だけ定義)。
NBG: 提唱者3人の名前 (von Neumann+Bernays+Gödel) から。
この公理系では「クラス」も定義される。集合だけを扱う限りでは ZFC と実質的に同等。
「真のクラス」とは「集合ではない(=集合と見なすと矛盾が生ずる)クラス」のこと。
なお、「グロタンディーク宇宙」を「集合」として扱うには、ZFC/NBG に加えて何らかの
「巨大基数公理」≈「構成的定義を書き下せない(ほど「大きい」)集合が存在する」
≈「グロタンディーク宇宙が*集合として*存在する(という意味合いの)公理」が必要。
これらの用語について、下記で説明されている。
https://www.mathsoc.jp/meeting/kikaku/2017haru/2017_haru_usuba-p.pdf
2. 公理的集合論からの「逆転の発想」
IUT理論は、(ものすごく大雑把には)下記 (1)-(4) のような発想 が出発点になった。
(1) 「ホッジ・アラケロフ理論」において「局所的に(≈ p進数で)」成立する命題が、
「大域的に(≈ 普通の数(⊂複素数)からなる、ある集合で)」も成立すれば、
(2) ABC 予想(と論理的に同等だと判明済の数論幾何での予想群)が証明できるはずだが、
(3) *普通の (≈ ZFC/NBG 公理系での)集合*の範囲内では、成立し得ないので、
(4) *仮想的な「都合の良い集合」*の中で、所望の命題を成立させるための計算を行う。
*仮想的な「都合の良い集合」*は「従来の集合論の公理のどれかを満さない「集合」」の
はずなので、「どの公理を否定すべきか」考えて、「自分自身を*要素としては*含まない」
という公理を否定し「自分自身を要素として含む(x∈x)*かのような*性質」が必要と想定。
# i.e. ラッセルのパラドックスを回避するための公理を否定する「突き抜けた」発想だが、
# 最初から実際は「集合」ではなく「圏」として実現する心積りなので、矛盾の心配はない。
# この着想時点で、「x∈x」の両辺を区別するラベル(完成したIUT 理論の「リンクを挟んだ
# 「圏/宇宙」間の対応を管理するラベル」に相当)の理論上の役割が示された事に注意。
完成したIUT理論では「対数テータ格子 (log-theta/log-Θ lattice)」という「リンクで
結ばれた圏の(2次元)無限列」で、構想時点で想定した*仮想的な「都合の良い集合」*が
「自分自身を要素として含む*かのような*性質」を実現。
[FI01]の"Mutually Alien"の項にある対数テータ格子の図
[MS01]の§3 にある対数テータ格子の図
対数テータ格子の図で交点に対応する圏(宇宙)の各々を、以下では「ノード」と呼ぶ。
(ここだけの用語だが、グラフ理論(および応用分野)での一般的な用語の流用でもある)。
なお、IUT理論で対数テータ格子を図示する際、慣例的に縦が対数リンク、横がテータリンク
だが、対数リンクの列を1つだけ取り出して図示する際は、その限りではない。
2種類のリンク両方共、「自分自身を要素として含む*かのような*関係」と解釈可能。i.e.
- ノードを*仮想的な「都合の良い集合」*、対数リンクを「自分自身を要素として含む
*かのような*関係」と解釈。
- 対数リンクで結ばれた縦の無限列を*仮想的な「都合の良い集合」*、テータリンクを
「自分自身を要素として含む*かのような*関係」と解釈。
3. 対数リンクと対数テータ格子
「対数リンクの役割」は、「対数によって、かけ算が足し算に写像される」事を利用して、
「テータリンク」の先での足し算復元に必要なデータを、*縦の無限列で*保持する事。
対数リンクは、全ての素数(正確には「素点」だが、本記事は基礎体を有理数とした場合の
言葉を流用してしまう)p での p 進対数、つまり「全ての局所的データ」を保持している。
1ノードに閉じた範囲では、対数の定義に*同じノードの足し算*も関与してしまう。
(∵対数は、底のN乗をN倍つまりN回の足し算に写す。)∴テータリンクと両立できない。
# p進対数の実際の定義は log(1-x) の巾級数展開による。∴足し算も関与。
対数リンクは、*別ノードへのリンク*なので、リンク元での入力、リンク先での出力を
個別に別のテータリンクで渡すことにより、「正則構造(1ノード内の環としての構造)」
への依存を避けられる。これが、対数リンク、そして対数テータ格子が必要な理由。
「対数リンクの受け側が用意する「入れ物」」=「対数殼 (log-shell)」
「対数リンクの送り側が用意する「入れ物」」=「テンソルパケット (tensor packet)」
cf.
テータリンクは、送り側の対数殼の部分集合と受け側の対数殼の部分集合の対応を扱う。
テータリンクによる対応≈「ホッジ・アラケロフ理論で局所的に成立する命題の大域版」
対数テータ格子で縦の無限列(対数列 (log line))がデータ保持に必要な理由は、
巾と対数は非可換(log(x))^N ≠ log(x^N) なので、対数テータ格子における
「4ノードからなる単位格子」の図式は非可換だから。
i.e. 単一あるいは有限個のテータリンクでは、*対数リンクでしか保持できない足し算
復元用のデータ*を漏れなく渡せないから(単位格子が可換なら単一テータリンクで十分)。
∵単一のテータリンクで不可能なのは明らか。テータリンクが有限個である限り、最初の
テータリンク先で足し算を復元するためのデータを保持する対数リンクのリンク元からは、
データが渡ってこない事になる。
無限列にすると、「ヒルベルトの無限ホテル」のようなイメージで、行が1つずれている
「対数リンクの送り側と受け側のノード」からのデータを、全てテータリンクで渡せる。
以上について、より正確な説明は、「HY01]p.38の下記を参照。
「†(q_E)^N→ ‡q_E なるリンクと対数リンクの非可換性から, 単一の対数リンクによる
“入れ物としての対数殻” は, †(q_E)^N→ ‡q_E なるリンクと両立的でない」
「†(q_E)^N → ‡q_E なるリンクと対数リンクの非可換性を同義反復的に解消するために,
対数リンクの無限列を考えて, それによって生じる対数殻たち全体を “入れ物”として
利用する」
4. 単解 (mono-analytic) 構造
IUT 理論において「単解構造」は基本的アイデアの1つ。←[YG02]pp.368-369 を引用する。
In philosophy,
scheme theories are “arithmetically holomorphic structures”
a proof of the abc conjecture after Mochizuki of a number field,
and by going out the scheme theory(a), we can consider
“underlying analytic structure” of the number field.
The Θ-link is a kind of Teichmüller dilation of
“arithmetically holomorphic structures”(b) of the number field
sharing the “underlying analytic structure”(c).
"Mochizuki’s ideas of “underlying analytic structure” and
the multiradial algorithm are really amazing discoveries".
(a)-(c) の記号と強調は筆者による。←概念間の下記関係への注意喚起。i.e.
「「スキーム論から離れる(a)」事で、「共通下部構造である「単解構造」の上に (c) 」
「(変形された ∴ 互いに異なる複数の)「正則構造」たち (b)」が存在する」という
新たな「哲学」/「物の見方」/「理論的枠組み」が、 IUT 理論によって示された。」
IUT 理論への単純な誤解/無理解の大半は、上記の論点に気づかない事が*心理的契機*
なのだろうと筆者は推定する。望月たち IUT 理論の専門家にして見れば、理論の名称を
「宇宙際*タイヒミュラー理論*」にした上で、導入的解説↓では必ず「テータリンクは
古典/元祖タイヒミュラー理論での「変形」に相当する」と述べているのだから、まさか
「「変形」前後では「別の形になっている」という*当然の論理的帰結*」が数学者にまで
見落されるとは、思いもよらない事だろう。テータリンクによって*異なる「正則構造」*が
定義される事への*論点を絞った専門家による説明*を見掛けないのは、多分このためだ。
# 導入的解説↑の例: [KF01]で言及されている [MS01]。 「イメージ」は [KF01]p.121 図3-2。
# 「足し算とかけ算を「正則構造」の2本の「座標軸」と見て、一方の軸の縮尺を変える。」
# (少し見かけは違うが)↓[KF01] 図3-2 と同じ意味の図↓が [MS01]の§2にある。
しかし、別記事で述べたように、認知バイアスは専門家にも初歩的間違いを犯させ得るし、
大半の素人には、元祖タイヒミュラー理論での「変形」を説明された後ですら、その含意 i.e.
「リンクは*複数の異なる正則構造*間の対応である事」が、あまり印象には残らないだろう。
よって、以下では、論理上は必要不可欠な前記論点への*焦点を絞った説明*を試みる。
4.1 圏論における金言
「対象はほかの対象との関係で完全に決まる」(「圏論によるトポロジー」p.8)
同書は、上の標語を「圏論における金言の一つ」とし、裏付けとして「米田の補題」の系
「「対象」の同型は「対象からの射の集合」の同型あるいは「対象への射の集合」の同型と
論理的に同値(「ベーシック圏論」 p.125 系4.3.10/原著の無料pdf p.104) 」を挙げる。i.e.
X ≅ Y ←→ C(X,-) ≅ C(Y,-) ←→ C(-,X) ≅ C(-,Y)
ここでの記号の定義は下記の通り。
対象 X, Y、各対象からの射の集合 C(X,-), C(Y,-)、各対象への射の集合 C(-,X), C(-,Y)
各々の対の同型 (≅) 、必要十分/論理的に同値 (←→)
次に「ある1つの集合の上に2種類の構造が定義されている状況」に対して、上記の金言を
当てはめる。例えば、実数体2つの直積に、複素数体としての構造を定義した場合を考えて、
2種類の射を「実解析的 (mono-analytic) 写像」と「正則 (holomorphic) 写像」だとして、
「実解析的写像」が「実解析構造」、「正則写像」が「正則構造」を決めると考える。
# 「(実)解析的」=「(実数係数)巾級数に展開可能」、「正則」=「複素解析的」
つまり、この例で正則写像の各成分(実数部と虚数部)は実解析的だが、各成分が実解析的
でも正則とは限らないので、実解析的写像と正則写像は、別の構造を決めると考える。なお、
この例での実解析的写像と正則写像の差は「複素数のかけ算との両立(=可換)性の有無」。
# ∵ https://ja.wikipedia.org/wiki/コーシー・リーマンの方程式#等角写像
# 「この形式において、コーシー・リーマンの方程式は構造的にヤコビ行列が次の形式の
# ものになる条件に等しい。」という文の下にある形の実成分二次正方行列全体の集合Sは、
# 複素数全体と環同型。ヤコビ行列の形式への上記条件は、S の全要素との可換性と同値
# である事が計算で確かめられる(a, b が 0 でない場合の可換性各1例の計算で十分)。
# より直観的な説明1: 「複素微分可能性」は、「複素線型写像での近似可能性」だから。
# より直観的な説明2: 「複素微分」という関数への演算が、「複素線型」だから。
さらに、実数体2つの直積間の実解析的写像とは、成分毎に実解析的な写像のことなので、
単解析的 (mono-analytic) と呼んでも違和感はない。漢字文化圏の特権で、「単解析的」を
「単解」と短くしても、意味とのつながりは十分に保たれる。
4.2 テータリンクと「両立する構造」が「単解構造」
IUT理論では、上記の考え方をテータリンクに当てはめる。テータリンクは環構造と両立せず、
環としての同型ではないが、単遠アーベル幾何での復元により、「足し算も含めた対応」にも
なっている。
そこで、「かけ算とは両立し、かつ単遠アーベル幾何での復元により「足し算も含めた対応」
にもなるような関係」によって決まる、*環構造とは別の構造*を考える。上の例との類比を
常に意識できる利点を考慮して、この新たな構造を考える文脈では、環構造を「正則構造」と
呼び、新たな構造を「単解構造」と呼ぶことにしたのだと思われる。
IUT理論以前には、そもそも「このように定義される構造が有り得る」という発想がなかった。
しかし、圏論的には、先の例を「射とかけ算の両立の有無で別の構造が決まる」と解釈する
のは*極めて自然*で、ある意味では*常識的*ですらある。
i.e. 「射と足し算の両立の有無で別の構造が決まる」というアイデアは「コロンブスの卵*」
という側面もある。しかし、「単遠アーベル幾何で「足し算」が復元できる」という認識を
持っていないと「かけ算とのみ両立し、足し算も含めた*意味のある*対応」が存在し得る
という発想に至るのは、難しいというより*不可能*だろう。そもそも「足し算とかけ算」
という、集合内の演算だけを前提にすると、土台が単に「集合」とだけ規定された場合は、
「違う構造」を考察する手がかりが掴めない。
* 余談: この逸話はイタリアの建築家の逸話が元ネタで「コロンブス版」は創作とのこと。
4.3 「単解構造」は群の作用が「正則構造」と異なる
土台が単に「集合」とだけ規定された場合を扱うには、その集合を「傍から眺める視点」が
必要。結論から言えば、「構造と両立する群の作用」の違いによって、構造を識別する。
先の例でも、次のように群の作用の違いを示せる(「複素数」を「実数体2つの直積」に
演算が定義されたものと見て、成分ごと(実部と虚部)に分けて群の作用を見れば、同じ
条件で2種類の構造を比較した事になる。∴作用は実数成分の二次正方行列で表すとする)。
(1) 「実数体2つの直積」の微分(単解構造)は、二次可逆行列全体がなす群の作用と両立。
(2) 複素数の微分(正則構造)と両立する作用は、「複素共役」、「0 でない複素数倍」、
両者の合成といったもの。∴対応する二次可逆行列のなす群は二次可逆行列全体がなす群の
真部分群/真部分集合。
↑導入説明用の例。↓IUT理論で定義された意味の単解構造での例[HY01]p.39
「例えば, 有理整数環 Z に関する剛性を考えてみましょう. 環としての Z の自己同型は
恒等写像しか存在せず, つまり, 環としての Z は非常に強い剛性を持つ対象であると
考えられます. 一方, その単解構造, すなわち, 例えば, 下部乗法モノイド Z× や下部
加法加群 Z+ は, その自己同型全体が非自明 — 前者は無限群, 後者は {±1} — となり
弱い剛性しか持ち得ません」
「このように, 単解構造への移行は, 一般に, 様々な “数の集まり” から (そもそも
正則構造によって保証されていた) 剛性を奪います:
正則構造 : Z ↶ {1}⇝単解構造 : Z× ↶ 無限群,Z+ ↶ {±1}」
上の例では、作用する群の構造自体が違うわけだが、IUT 理論では同型な群の作用の仕方が
違う場合を含めて(というか主にその場合を)考察する。「作用の仕方が複数ある場合」を
考察する都合上「多重射」という概念を導入する。また、群の作用は、その群の同型写像と
合成できるので、「ある作用に異なる群同型が合成された場合」を含めて考察する都合上、
複数の同型写像を束ねた「多重同型」の概念を、「多重射」の特別な場合として導入する。
4.4 「正則構造」とは「「単解構造」と対にして再構成された環構造」の事
[MS01] で言及されている元祖タイヒミュラー理論は、下記で簡単に紹介されている。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sugaku/72/1/72_0721094/_pdf/-char/ja
「タイヒミュラー空間とは,リーマン面の複素構造の変形空間のこと」
「タイヒミュラーは ‘擬等角写像に関する極値問題はリーマン面に付随する解析函数を誘導
する’ ということを発見し,リーマン面上の正則微分形式が定める局所座標系を一方向に
引き延ばす変形を考えた.これに擬等角写像論を用いて完全な証明を与えたものが Ahlfors
による論文」「その後,… より洗練されたパラメーター付けを完成したものが,…
タイヒミュラー空間の理論」
# 下記は「より洗練されたパラメーター付け」の例。
https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~kawazumi/Aoyama20S.html
→https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~kawazumi/Aoyama20S07.pdf
https://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1777-09.pdf
「リーマン面上の正則微分形式が定める局所座標系」は、実数上で2次元。それを一方向に
引き延ばす事で変わるもの、変わらないものを、「単遠アーベル幾何」での見方と並行的に、
まず「擬等角写像」の「定義域側」と「値域側」を別々に見て、各々の内部構造がどうなって
いるか?という観点から考察しよう。まず、実数2次元での微分構造は、軸ごとに決まるので、
変わらない。リーマン面の局所座標系内での複素数の演算構造自体は*当然*同じ。
変わったのは、実数2次元の局所座標系と複素微分(=正則構造)の関係/対応付けだ。
つまり、実数の座標系階層(下部構造)は共通だし、複素数での演算の階層に閉じた見方
では、違いを検出できない。∴「擬等角写像」の「定義域側」と「値域側」の構造の違いは
構造の階層間関係の中にあると考えるしかない。
IUT 理論でも、テータリンクの送り側(domain)と受け側(codomain)の違いは階層間の関係に
あると考える。つまり、環構造と両立しないテータリンクが定める「異なった正則構造」は、
共通の下部構造である「単解構造」と上部の環構造の関係の違いから生ずると考える。
別記事で引用した[YG01]での説明の該当箇所を再掲する。
「R² に異なる 2 つの正則構造を入れると, どちらも C で同じもの」
「正則構造のみしか見えない視点では両者をつなげることはできませんが, 下部構造の R² を
考えると非正則なつながり方が見えてそのズレを計ることができる, ということと類似の
ことを宇宙際 Teichmüller 理論ではします.つまり, 数体の数論的正則構造 (=環構造) を
非スキーム論的に変形し, 変形前と変形後は環としては同じものですが, スキーム論だけ
では見えないそのつながり方をmono-analytic な視点を導入して見えるようにしてズレを
計算する, ということをします. 」
環構造での演算に閉じた見方だけで「単解構造」の存在を考慮に入れないと、「正則構造が
リンクを挟んで変わる」ことの意味を理解できない事情は、元祖タイヒミュラー理論と共通。
IUT 理論の新しさは、「単解構造」を、1つの集合内の演算構造としてではなく「他ノード
との関係」に基づいて圏論的に規定すること。←1ノード内の視点では群の作用を通さないと
存在の認識が困難。∴扱いは、集合内の演算だけで識別可能な構造より、繊細な意識が必要。
# IUT 理論の上述した側面に「モデル理論(数理論理学の一分野)」の専門家たちが注目している。
スキーム論は、環の内部構造に閉じて定義される概念である「素イデアル」を「点」と見なして
構築された空間概念である「アフィンスキーム」を基礎とする幾何。
IUT 理論は、「単遠アーベル幾何」の意味での(つまり群の作用からの)加法構造の「復元」を
前提とし、「単解構造」の存在で特徴付けられる、新種の幾何と言えよう。
5. (数論幾何的図形の)数論的変形
イヴァン・フェセンコの下記解説論文で、IUT 理論は「数論的変形理論」と呼ばれている。
"Arithmetic Deformation Theory via Arithmetic Fundamental Groups and
Nonarchimedean Theta-Functions, Notes on the Work of Shinichi Mochizuki"
"Abstract. These notes survey the main ideas, concepts and objects of
the work by Shinichi Mochizuki on inter-universal Teichmüller theory,
which might also be called arithmetic deformation theory, …"
∵「古典/元祖タイヒミュラー理論⊂複素多様体の変形理論」
http://www1.econ.hit-u.ac.jp/kawahira/courses/16S-tokuron.pdf
「「ベルトラミ方程式」とは,(1 次元)複素構造の変形度合いを「ベルトラミ係数」
として指定し,それを実現するような同相写像を求めるための偏微分方程式である.
「ベルトラミ係数」のノルムが 1 より真に小さいとき,その同相解は「擬等角写像」」
IUT 理論には「複素多様体の変形理論」の鍵概念「小平・スペンサー写像」の数論的類似と
見なされ得る概念「数論的小平・スペンサー写像」 が現れる。∴「数論的変形理論」と
呼ぶことは、フェセンコが IUT 理論の意義を高く評価していることの現れ。i.e.
フェセンコは、IUT 理論(+今後の展開)は「元祖タイヒミュラー理論」との類似の域に
とどまらず、一般の「複素多様体の変形理論」との類似をも含むと見ている。
「複素多様体の変形理論」の概要が下記で紹介されている。
https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/activity/lecture14-kawamata.pdf
なお、ホッジ・アラケロフ理論には「局所的な数論的小平・スペンサー写像」 が現れる。
∴この点でも、IUT 理論は、ホッジ・アラケロフ理論の大域版という意味合いを持つ。
6. IUT 理論における楕円曲線の取り扱い方の特徴
6.1 「悪い素数」に着目
# 正しくは、素数より一般的な場合を扱える概念である「素点」に着目するのだが、
# その前提での説明は筆者の能力を超えるので、基礎体が有理数体で「素点」が素数と
# 1:1 に対応する場合についてのイメージを述べるだけにする。_o_
整数係数楕円曲線の定義方程式の判別式の絶対値を(必要なら変数変換して)最小にする。
その時の判別式を割る(=割り切る)素数を(その楕円曲線の)「悪い素数」という。
「悪い」とは「その素数を法として作った「有限体係数の方程式」が、その有限体上の
楕円曲線の定義方程式にはならない」という意味。
∵楕円曲線の定義方程式は判別式が 0 であってはいけない。それは楕円曲線の定義の一部。
(判別式が 0 の場合「尖点 (cusp)=尖った点」が現れて、性質が違う図形になるから)。
注)素数が元の定義方程式の判別式を割れば、方程式の係数を素数で割った余りを有限体の
要素と見なしてできる「有限体係数の方程式」は、判別式が 0 になる。
定義方程式の係数を素数で割った余りと置き換えて、係数を有限体の要素と見なす操作を
(その素数による)「還元 (reduction)」という。
IUT 理論では、楕円曲線を「悪い素数」で「還元」した場合に現れる cusp を基準にして
定めた点の「座標(ラベル)」を「(テータ関数の特殊値という形で)「宇宙間の通信」
(=「単遠アーベル的輸送」)が可能なデータの定義」に利用する。
それらの点は、l を 5 より大きい任意の素数として、2l個決めて理論を展開しておく。
(当然ながら、この素数 l は「悪い素数(正しくは悪い「素点」)」とは無関係。)
最終目的である「ABC 予想と同値な数論幾何の諸命題」を証明する際は、l を十分大きな
素数に固定することで、必要な評価が得られる。
6.2 「1点を除外した (once punctured) 」楕円曲線に着目
遠アーベル幾何は基本的に「双曲的(な計量が定義できる)(hyperbolic)」図形についての
命題から構成される。楕円曲線から一点を除くと「双曲的」という条件が満される。
∵種数(穴の数)が1より大きい代数曲線は双曲的。楕円曲線は(代数的な扱いの際は
基礎体上1次元なので「曲線」と呼ばれるが、複素数上の楕円曲線は実数上では2次元で、
位相幾何的な曲面と見なせば)トーラスと同相になり、種数1。∴穴を1つ足せば双曲的。
なお、種数には純代数的(∴例えば、有限体上の「図形」に対しても意味を持つ)定義も
あるのだが、複素数で考えた場合、位相幾何的に定義されるものと一致。
ちなみに、望月新一の専門は「双曲的な数論幾何的図形の研究」。
7. IUT 理論による対数体積 (log-volume) の評価
ABC 予想と同値な数論幾何の諸命題(いずれも不等式で表現される点は ABC 予想と共通。
ヴォイタ (Vojta) 予想、スピロ (Szpiro) 予想など)に現われる代数曲線に関係する量
(「点の高さ」、「数論的直線束の次数」など)は、各々の定義に関連する部分集合の
「対数体積」によって取り得る値の範囲が制限される。∴関連する集合の「対数体積」の
大きさが適切な範囲に収まる事を示す一般的な手段があれば、それらを一気に証明できる。
IUT 理論の主定理 3.11 と系 3.12 は、その「一般的な手段」。
# なお、「対数体積 (log-volume) 」は,、集合の「測度( 長さ、面積、体積など)」の対数と
# 思って良い(定義は [HY02]p.44 にある)。
系3.12 は「対数体積」についての「不等式」そのもので、主定理 3.11 は「対数体積」の
計算に使われる「多輻的 (multiradial) 」アルゴリズムを述べている。
主定理 3.11 の多輻的アルゴリズムには「単遠アーベル的輸送」に伴う不定性が付随する。
∴計算結果は、「一つの値」ではなく「値の範囲」になる。
因みに、このような「値の範囲」を扱う計算は、コンピュータによる数値計算において
誤差を一定範囲に収めるために使われる「区間演算」という手法と似た考え方と言える。
「単遠アーベル的輸送」に伴う不定性の一つに、ガロア群を「出自を忘れて」単に位相群と
見なし、「可能な作用」全てを「多重射 (poly-morphism) 」として考慮する事に由来する
ものがある。可能な作用全てによる「軌道 (orbit) 」が対数体積の増加に寄与する。
∴対数体積の増大を適切な範囲に収めるには「可能な作用」の数を押える必要がある。
そのために考案されたのが行進 (procession) という概念で、群の作用対象となる集合の
部分集合の単調増大列/単調減少列であって、作用が包含関係を保存するものを用意する。
つまり、逆に言えば、「可能な作用」に対し「部分集合の単調増大列/単調減少列の保存」
という条件を追加することで、数を押える。前述した「2l個のデータ」への「可能な作用」の
増加を「行進」で抑えた結果、「l を十分大きく取れば、対数体積が適切な範囲に収まる」
という条件が実現されている。