本記事は、別記事からリンクした Finian Cunnigham の論説への筆者のコメントを
独立させて作成後、段階的に加筆してきた。 今回の「問題評論家の実例」追加を機会に、
取りあえず人物名を見出しにして節を分けた。
また、これらの「問題評論家」の類型を、「タカ派政治ゲーム分析家」と命名した。
1. Finian Cunnigham (本記事では、FC と略す)
2. Paul Craig Roberts (本記事では、PCR と略す)
3. Andrew Korybko (本記事では、AK と略す)
4. 「タカ派政治ゲーム分析家」ではない論客たち
1. Finian Cunnigham ^
「ウクライナでもっと早く行動しなかったのをプーチンは後悔している」
西側「右翼/保守」寄り論客の「親ロシア的」見解は、ロシア公式見解より「タカ派」的
である場合がある。冒頭のリンク先記事で言及されている「I told you」も、その一例。
なお、Finian Cunningham はアイルランド出身 。他の例: Paul Craig Roberts(米国人)。
「プーチンの後悔」は、2022年9月30日にロシア連邦に加わった地域の住民感情、i.e.
「なぜ、もっと早く助けてくれなかったのか」という思いへの配慮という面もあるはず。
2022年までのプーチンの考えは、「自分の法的責任範囲は*ロシア連邦国民*の安全で、
それが最優先。ウクライナ領内のロシア語話者への責任は、あくまで「道義的」なもので
国際法に照し、ロシア国民が安全ならば、武力行使は避けるべきだ」というものだろう。
プーチンの最近の演説や談話には、「ロシア文明は、国境の外にも広がっている」という
趣旨の論点が、しばしば含まれている。筆者の私見では、これも「ドンバス住民を8年も
「孤立」させた過ちを繰り返すつもりはない」という意図の、内外へのメッセージだろう。
国際法の観点からは、具体的に介入のタイミングをいつにするかは、難しい問題だった。
少なくとも 2014年からミンスク合意を独仏両国が(特に、当時の独首相メルケル主導で)
持ちかけてきた頃の戦闘状況は、ドンバスの両共和国側が有利に進展していたわけだし、
「ミンスク合意」の交渉中、およびミンスク2も含め「当事者(ウクライナ傀儡政権+
ドンバス両共和国)への合意遵守の働きかけ」を継続中の介入は、有り得ない。何より、
西側諸国(+ウクライナ傀儡政権)がミンスク合意を端から「単なる謀略的時間稼ぎ」と
考えていると*最終的に見極めを付ける事*は、非常に重い政治的決断だった。つまり、
それは、現にそうなっているように、*かなり長期に渡り得る西側との全面的な対決*を
意味する。∴気楽に言いっぱなしできる西側論客/評論家と国家元首では、立場が違う。
とは言え、プーチン自身にも「西側に騙された」という苦々しい思いがありそうな事は、
例えば、タッカー・カールソンのインタビューでの発言の端々から伺える。ちなみに、
とあるプーチン評伝によれば、最初の大統領任期中のインタビューで「自覚的な欠点」を
質問された際「人を信じ過ぎる事」と即答したそうだ。^^; (サンクト・ペテルブルグの
行政官だった頃、「同市に(当時は不足気味だった)物資を輸送するから」ということで
営業許可した運送業者が、実は専らモスクワに物資を輸送していた事が発覚し、市議会で
批判されて苦しい立場にたった事があるとのこと)。それでも、一国の代表が、ロシアの
国家元首である自分に面と向かって「守る気のない政府間合意+条約のあっせんまでする」
とは、信じにくかったのだろう。西側に約束を破られた場合、さらには西側と全面対決に
なった場合の対策も並行して進めていた事は、結果から見て明らかではあるが。
話は変わるが、Finian Cunningham の記事は、中国の台湾への「先制攻撃」を煽るような
議論も含んでいる。中国当局は「先制攻撃」を全面的に否定している。そもそも、2014年
以後のドンバスでは、既に戦闘状況、さらにはロシア語話者の人道危機すら存在していた。
一方、台湾に戦闘状況は(まだ)ない。「一つの中国」論の立場から「国内問題」として
扱えば、国際法上の武力行使禁止規定は回避できるはずとは言え、「モンテビデオ条約」の
第1条(国家の要件)は満たす台湾への武力行使に際し、「自衛権」による合法性主張が
困難な状況は、中国にとって得策ではない。∴中国当局が Finian Cunningham の無責任な
煽りに影響されて「先制攻撃」に踏み切ることは、ないだろう。∵中国当局は、西側の
支配層や評論家に比べて、国際法の地政学的状況への影響を真剣に考えているからだ。
少なくとも、グローバルサウス諸国の支持を得る上で「国際法重視の姿勢」を示すことの
有効性は、プーチンが実証してきたわけで、西側以外の諸国の指導層が「国際法」を口に
することが近年目立ってきているのも、「プーチンの国際法重視戦略」が発端だと思う。
2. Paul Craig Roberts ^
実を言えば、本記事で取り上げた問題が気になりだしたのは、この人物の言説から。
背景として留意すべき点の一つは、共和党関係者なので、その言説に共和党のプロパガンダ
あるいは選挙キャンペーンとしての側面が*議論のあちこちに*含まれる事。
最近の「過激」発言例(↓自ら示唆しているが、この手の発言は多い)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2344.html
「今になってやっと、プーチンはことの成り行きに愚痴をこぼし始めたが、私はずっと前から
警告していた。「この戦争は長くなりすぎるぞ」と。」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2340.html
「プーチンはどれだけ現実をわかっているのだろうか?」
# ↑この手の「勇ましい」議論における暗黙の前提は、「プーチン/ロシアが、もっと
# 「決然」と対応すれば西側諸国は、より「理性的」に対応し、紛争は早くおさまる。」
# ということのようだ。しかし、本当にそうだろうか?「穏かに対応すれば、付け上がる」
# ような連中が「少し強く出ると、パニックを起こす」ことはないと、何故言えるのか?
# 無責任な議論で他国の国家元首の判断をあげつらう暇があったら、自国の政策に対して、
# 一市民/国民として提言すべきでは? e.g. Catlin Jonstone は、そうしている。→1、2
3. Andrew Korybko ^
今回この人物を取り上げたのは、下記の*あまりに無神経な記事*を見たため。
Five Lessons That Russia Can Learn From The Latest Israeli-Lebanese War
ロシアがイスラエル・ヒズボラ戦から学べる5つの教訓(和訳1)
ロシアがイスラエル・レバノン戦争から学ぶことの出来る5つの教訓(和訳2)
i.e. ↑下記の特徴から*BBCや他の同類メディアのプロパガンダと区別が付かない*。
「1. 各種報道における言語や単語の武器化」
「「大胆」、「強化」、「標的」などの用語を使用…イスラエル政権の侵略の性質を歪曲…
肯定的または中立的に見せ…」
「和訳2」著者のサイトにある Andrew Korybko (以下AK)記事の翻訳の数から、AK への
評価の高さが伺えるのだが、この記事は、さすがにどうかと思う点があったようで、何か
奥歯に物が挟まったような「言い訳」が最初に書かれていたりする。
FC、PCRとも共通の特徴だが、AKは国際政治を「指導者間のゼロサム・ゲーム」としてしか
見ていない。上の記事は、その事に由来する問題/「分析」の限界を、あまりにも明白な
形で顕在化させた。i.e. AK は politician という意味の政治家しか、想像できないようだ。
statesman という意味での政治家は、politician と違い、国内の一般民衆や「大国」では
ない国々を、「操作対象/オブジェクト」としてではなく、意志や感情を持つ主体と捉える。
西側以外の国々には、statesman(複数だから本当は statesmen …「性差別言語問題」を
避ける意味で statesperson/statespeople が「政治的に正しい」)が、案外多いように思う。
i.e. FC, PCR, AK 等の「政治ゲーム分析家」は、西側マスコミ/主流メディアに出ずっぱりの
プロパガンダ屋/スピンドクター連中と比較すれば、*かなり妥当な分析を示せる*のだが、
時として現実の複雑さを捉え損なっている。
例えば、AK はザンゲズール回廊を巡る問題の分析に際し*イランの明白な経済的動機*を
見落としている。
4. 「タカ派政治ゲーム分析家」とは異なる論客たち
前述のケイトリン・ジョンストン (Catlin Johnstone) は「タカ派政治ゲーム分析家」と
明らかに異なり、人々の感情や暮しから目を離さない代表的な論客と言えよう。
別のタイプで少なくとも*人々の暮しから目を離さない*論客には、*まっとうな経済学に
基く分析*を (1)主にするマイケル・ハドソン、(2)併用するペペ・エスコバルが含まれる。
もう一つの論点として、「タカ派政治ゲーム分析家」たちは、軍事の専門知識を欠くことが
経歴上の特徴のようだ。スコット・リッターやラリー・ジョンソンなど、軍事の専門家だと
経歴から明白な論客が「タカ派的言説」を述べた例を、筆者は見たことがない。
以上
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