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1. 表題書籍の第一印象
2. 訳者による要約
3. 目次からの基本的な用語へのリンク
4. 「科学としての循環的宇宙論」の思想史的意義
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はじめに
より多めの時間をかけて表題書籍を読んで見る事にして、この記事も「(複数回の)読書ノート」
初回という位置付けに変更することにした(実質的内容は「読書日記」から変更していないが、
レイアウトと一部の字句/文言を変更、基本用語の検索や関連記事へのリンクを追加した)。
1. 表題書籍の概要と第一印象^
ロジャー・ペンローズ著、竹内薫訳「宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか」という本を、
改めて読み返してみた。内容は「共形サイクリック宇宙論」の一般向け解説書。(としては、
比較的難しい方だと思った。導入部分の熱力学や一般相対論の説明がけっこう「本格的」で、
入門書や解説書を少し読み直して分かった部分もあった事でも結果的に勉強になった。
Amazon と 紀伊国屋のページでのレビューでも「難しさ」を述べたものが多い印象がある。
下記の Wikipedia による解説も、かなり「本格的」で、発表後の理論の進展についても説明
していたりする。
https://ja.wikipedia.org/wiki/共形サイクリック宇宙論
「英語: Conformal Cyclic Cosmology, CCC)とは、理論物理学者ロジャー・ペンローズによって
提唱された一般相対性理論の枠組みの中での宇宙モデルである。 共形サイクリック宇宙論では、
宇宙は無限の周期で反復し、それぞれ前のサイクルの未来の時間的無限遠が次のビッグバンの
特異点と同一視される。」
「ペンローズは2010年の著書『Cycles of Time: An Extraordinary New View of Universe』で
この理論を広めた。」
2. 訳者による要約^
下記にある「訳者あとがき」の内容説明が、比較的わかりやすい。
https://honz.jp/articles/-/40244
『宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』訳者あとがき by 竹内 薫
「1章と2章では「エントロピー増大の法則」と「現代宇宙論」が詳しく説明される。これまで、
エントロピーや宇宙論に無縁だった読者でも、概要がつかめるよう配慮されている。次に、
この2つの章で指摘された矛盾点が、第3章のペンローズ説(CCC)でいかに解消できるかが
示される。」
「矛盾とはどういうことか。」
「ビッグバンの頃、宇宙は熱くて小さかった。本来、熱くて小さい物体のエントロピーは大きい
はずだ(エントロピーの比喩を用いた解説は一章に登場する。おおまかに、整頓された状態は
エントロピーが小さく、不規則でばらばらな状態はエントロピーが大きい)。
「エントロピー増大の法則が正しいのであれば、そもそも宇宙の始まりのエントロピーは小さ
かったはずだ(最初は小さくないと、その後、どんどん大きくなることはできない)」」
「ところが、宇宙の始まりを計算してみると、熱くて小さいので、とてもじゃないが、整頓
された状態とは程遠い。つまり、宇宙の始まりのエントロピーは大きかったことになる。」
この矛盾は、ペンローズの新しい宇宙論で氷解する。なんと、ペンローズは、宇宙の始まりと
終わりが「同じ」だと主張するのだ!?つまり、この宇宙がどんどん膨張して、薄まっていって
宇宙が終わったら、それは実は、宇宙の始まりのビッグバンだというのである。」
「理論的な裏付けが存在する。」
「重さがゼロで光速で動き回る物体にとっては、時間が経つこともない。彼らは「永遠」の
世界に棲んでいる。」
「ペンローズは、数学的、物理的な理由から、宇宙の始まりと終わりでは、重さゼロの粒子しか
存在しないと論じ、そこでは長さや時間が意味をもたなくなり、物理的に重要なのは「角度」
だけになると主張する。」
「その数学的な同等性を根拠に、ペンローズは、「宇宙の始まりと終わりは同じだ」という
驚愕の結論に達する。また、その過程で、宇宙の始まりのエントロピーが小さかったと結論
づけるのである。
つまり、ペンローズが正しければ、われわれは、永遠に循環する「サイクリック宇宙」に棲んで
いることになる。」
# 注)角度を保つパラメタ変換を「共形変換」という(理論名の先頭の「共形」の由来)。
2022-06-11 追記: 「現代物理の自然観」というブログの下記ページの説明も参考になる。
https://ebc111.blog.ss-blog.jp/2021-09-06
3. 目次からの基本的な用語への検索リンク^
第1部 熱力学の第二法則と根底にある謎
第1章 どんどんランダムになる
第2章 状態の数とエントロピー
第3章 位相空間とボルツマンによるエントロピーの定義
第4章 エンロトピーの概念のロバストネス
第5章 未来に向かってとめどなく増大するエントロピー
第6章 過去と未来はどこが違うのか?
第2部 ビッグバンの奇妙な特殊性
第7章 膨張する宇宙
第8章 遍在する宇宙マイクロ波背景放射
第9章 時空、ヌル円錐、計量、共形幾何学
第10章 ブラックホールと時空の特異点
第11章 共形ダイアグラムと共形境界
第12章 ビッグバンの特殊性を理解する
第3部 共形サイクリック宇宙論
第13章 無限とつながる
第14章 共形サイクリック宇宙論の構造
第15章 初期の前ビッグバン説
第16章 第二法則との折り合いをつける
第17章 共形サイクリック宇宙論と量子重力
第18章 共形サイクリック宇宙論の観測的証拠
エピローグ
謝辞
訳者あと書き
原註
補遺
索引
4. 「科学としての循環的宇宙論」の思想史的意義^
訳者あと書き「なぜ難解な本書を読むべきかなのか」という節に「ペンローズの新しい宇宙論は
人類の宇宙に対する考えに革命をもたらす可能性がある」という一節がある。多分「(CCC に限らず)
何らかの「循環的宇宙論」が科学的に裏付けられた場合の影響」を想定しての言明だろう。
ちなみに、共形の二字を外した「サイクリック宇宙論」は、超弦理論などの量子重力ベースの別の
理論を指す場合が多いようだ(下記には「共形サイクリック宇宙論」への言及がない)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/サイクリック宇宙論
「宇宙は無限の自律的な循環に従うとする宇宙論である。」
「例えば、1930年にアルベルト・アインシュタインが簡潔に考えを示した振動宇宙論
(oscillatory universe theory) は、ビッグバンによって始まりビッグクランチによって
終わる振動が永遠に連続する宇宙を理論化した。」
「スタインハートーテュロックモデル」
# この宇宙論の説明は、下記が分かりやすい。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75706
「ビックバンとは、2枚あるブレーンの衝突にほかならないのではないでしょうか?」
例えば、これらの循環的な宇宙像が将来、現時点での「ビッグバン理論」と同程度の観測的
証拠で立証された場合、もしかすると、キリスト教など「終末論」を含む世界観を持つ宗教に
とって、「進化論」より打撃になるような気がしないでもない。∵「創世記」には、*今ある
通りの姿で*世界が創造されたとは書いてない。∴「進化論」の否定は、「天動説」と同様、
ある時点で特定の(例えばカトリックの)教会組織により示された教義であって、私見では、
「進化論」と「聖書」の記述は矛盾しないようにも思われる。
しかし、循環的な宇宙像は、一神教的な「単線的歴史観」とは矛盾するのではないだろうか。
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create: 2022-06-10 06:26:46 : 「読書日記」として作成
update: 2022-06-11 21:41 : 「現代物理の自然観」というブログの説明へのリンク追加。
update: 2022-08-05 11:25 : 他記事からの参照可能位置へのid追加、リンク追加
update: 2022-10-01 23:19 : 「読書ノート」への変更関連の修正、字句修正