ある日の気づき

長澤正雄の量子理論(の「さわり」の部分だけの)紹介

下記の記事では、簡単にしか触れなかった長澤正雄(以下、長澤。敬称略)の量子理論の内容に
ついて、少しだけだが紹介したくなった。
量子論のイメージ - ある日の気づき

まず、いわゆる量子力学の「観測問題」について、長澤の理論では「悩む必要がなくなる」!
あと、いわゆる「ベルの定理」について、物理学者の間での定説とは異なる、非常に刺激的な
主張が書かれている。
そうした派手な話の前に、まず、「粒子」が実在するとして、2スリット実験で「干渉縞」の
ような模様ができる場合でも、一方のスリットだけを通ったとして説明できるというところを
ざっくり説明する。

長澤の量子理論の基本的前提は、「物理現象は確率過程である」ということであり、特に、
入口関数(初期関数)と出口関数(終期関数)を指定した「量子論的粒子」の運動の道筋は、
1つの確率過程である。
「取りうる全ての道筋」を確率空間として、各道筋に確率密度が対応している。
入口関数は、準備した環境での初期物理量、出口関数は、観測する物理量の指定に対応する。

「量子論的粒子の運動方程式」は、時間が前向きの方程式と後向きの方程式の対で表される。
ここで b はベクトル値関数で、電磁現象が関係しない場合は、恒等的に 0 に取れる。

∂Φ1/∂t + (1/2) σ² (∇ + b(t,x))² Φ1  + c(t,x) Φ1 = 0  (時間が前向き)
-∂Φ2/∂t + (1/2) σ² (∇ - b(t,x))² Φ2  + c(t,x) Φ2 = 0  (時間が後向き)

対であることを明確にするため、「双子の運動方程式」とも呼ぶ。各々の解、Φ1を発展関数、
Φ2を逆向き発展関数という。μ = Φ1Φ2 が「運動の道筋」分布の確率密度となる。
ここまでの概念設定で、以下の数学的理論展開がうまくいってしまうのが、長澤の量子理論の
玄妙なところ。

「運動の道筋という確率過程を定義する確率微分方程式」は双子の運動方程式と数学的に同等。
∴「双子の運動方程式」を解くと「運動の道筋という確率過程を定義する確率微分方程式」が
得られる。
「運動の道筋という確率過程を定義する確率微分方程式」から、数学的に同等の偏微分方程式が
得られる。その偏微分方程式を解けば、運動の道筋が確率過程として「分かった」と言える。

ここで、発展関数Φ1、逆向き発展関数Φ2の対を次のように指数関数表示する(指数関数
表示は常に可能。R = (logΦ1Φ2)/2, S = log(Φ12)/2 とおけばよい)。
Φ1 = eR+S
Φ2 = eR-S

なお、R は「分布の生成関数」、S は「ドリフト-ポテンシャル」と呼ばれる。
ここで、複素発展関数Φを次のように定義する(i は虚数単位)。
Φ = eR+iS

すると、Φはシュレーディンガー方程式を満たすが、長澤の理論では、シュレーディンガー
方程式は、何らかの「波」に対応しているわけではなく、あくまでも、運動の道筋に対応する
複素発展関数の満たす方程式なので、波動方程式とは呼ばず、複素発展方程式と呼ぶ。
複素発展関数と、その複素共役を対にしたものから、元の発展関数と逆向き発展関数の対を
再構成できる。∴複素発展関数と「発展関数と逆向き発展関数の対」は数学的に同等である。
ただし、複素発展方程式(シュレーディンガー方程式)は、直接的には入口関数と出口関数の
対と対応付けて解くことができない。入口関数と出口関数の対と対応付けた解を得るには、
双子の運動方程式への変換が必要である。運動方程式に対して「入口関数と出口関数の対と
対応付けた解」を得る(=何を観測するか指定して解く)という定式化が、長澤の理論の核心。

2スリット実験での道筋は各スリットを通る運動の道筋が「絡み合った」ものになる。絡み
合った運動の道筋に対応する複素発展関数は、複素発展関数の線形和で表される。このため、
長澤の理論も2スリット実験で「干渉縞」のような分布を予言するが、「粒子に対応する波」
など考える必要はない。
つまり、長澤の理論では、「干渉縞」のような分布は「道筋の終点の統計的分布関数」の値が
そうなるというだけで、何らかの「波」の干渉の結果生じたわけではない。複素指数関数が
オイラーの公式で三角関数と結びついているため、三角関数の性質上、そうなるに過ぎない。
ちなみに、各スリットに観測装置を付けた2スリット実験では、観測装置上に出口関数が指定
された前半の運動、観測装置上に入口関数が指定された後半の運動の各々に対し「双子の運動
方程式」を立て、それらを解くことになる。この場合「干渉縞」のない「運動の道筋」分布の
確率密度が予言される。

運動の道筋(の1つのサンプル)が、実現した粒子の運動に対応する。各サンプルに対応する
道筋は普通の意味での空間内の座標の時間発展であるから、2スリット実験においても粒子は
確かに片方のスリットだけを通ったと言える。

長澤の理論は「確率解釈」を必要としない。確率は理論の枠組みの一部として定義済の概念で、
その値についての予言は、数学的に証明可能な事実に過ぎず、後付けの解釈によって導入する
必要はない。

また、長澤の理論での物理量は、観測とは無関係に、常に実数値の組として定義されている。
つまり、長澤の理論では「観測問題」は存在しない。「入口関数と出口関数を指定して「双子の
運動方程式」を解く」という理論の定式化に従えば、「観測問題」の例として知られる実験結果
全てが説明できてしまう。

ベルの定理は、長澤の量子理論の立場から見ると、「議論の前提が間違っている」事になる。
(「古典論が成り立っていない」事は示せたかも知れないが、量子力学が完全な理論である
とか、物理法則が局所的変数では説明できないといった事は示せていない)。理由は以下。
(1) 数学的意味が曖昧な「局所的な隠れた変数」を、「量子力学の作用素による確率分布を
  完全に再現する局所的な確率変数」として定義すると、存在する例を示すことができる。
(2) ベルの論文での「局所的な隠れた変数」の記述を「局所的な確率変数」と読み換えて解釈
  する限り、数学的に成り立たない条件を、暗黙に仮定した事になっている。ベルの論文では、
 「量子力学の作用素による確率分布を完全に再現する局所的な確率変数」が、磁石の向きを
  変えて独立に行う複数の実験について、全て同じと仮定している事になる。
(3) ベルの不等式が導出される原因は、この間違った仮定にあり、局所的確率変数の非存在は
  証明できていない。単に、「局所的な確率変数」は、磁石の向きを変えて独立に行う実験の
  各々について異なっていると分かっただけ。

古い一般向け解説書には「ベルの定理によって量子力学が完全であることが示された」と書いて
あるものがある。しかし、長澤の量子理論は、量子力学の正しい予言は再現し、かつ、量子力学
では記述できない「量子論的粒子の運動」を記述する能力がある「上位の理論」の実例を与えて
いるのだから、少なくとも量子力学が「完全な理論」ではあり得ない事は明らか。

さらに、「従来の量子力学では「物理量の分散」を正しく定義していない。従って物理量の
分散について述べる「ハイゼンベルグの不確定性原理」や「小澤の不等式」は間違っている」
との、より刺激的な主張も出てくる。一般向け解説書「シュレーディンガーのジレンマと夢」の
方にも、刺激的主張のいくつかが書かれていて、単独でも楽しめる。なお、決してトンデモ本の
類ではない事は、上で紹介した入門書の記述スタイルが厳密な数学書そのものであることからも
明らか。物理現象への応用も書いてあるので、「数理物理学」の本と言うべきかも知れない。
確率過程の理論なので、ランダムな動きがある限り量子論以外にも適用できるとして、大腸菌の
動きへの適用例もあったりする。

update: 2022-12-05 16:55 : 上付き文字、下付き文字を使用

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