ある日の気づき

核戦略の歴史とウクライナ情勢

節へのリンク
1. 核戦略の基本的な用語とデータ
# 相互確証破壊第一撃戦略第二撃戦略
# 世界の核弾頭一覧米国の核兵器は欧州のどこに配備されているか
2. 核戦略の歴史における「ミッシングリンク」
# ABM条約中距離核戦力全廃条約
# ロシアの核ドクトリンロ米核戦力の比較ロシア領土の核の傘
# 極超音速ミサイル
3. 軍事衝突発生中に核使用の可能性を公言することの先例と、その際の評価
# 朝鮮戦争の時系列
関連記事と更新履歴

はじめに^

https://ja.wikipedia.org/wiki/ジェラルド・ワインバーグ
「ロンダの悟り第一番
それは危機のように見えるかもしれないが、実は幻想の終わりにすぎない。」 (GMW01)

ジェラルド・ワインバーグは、ソフトウェア開発者としての経験をベースにコンサルタント業と
著述業をしていた人。よって、著作に登場する数多くの「格言」は、開発プロジェクトに対する
助言、ないしコンサルタント業についての助言となる事を意図していて、国際政治とは関係ない
はず ... なのだが、なぜか、上記など「西側視点でのウクライナ情勢」に対する警句のように
見えるものが、いくつもある。そのどれもが、「うまくいっていないプロジェクトへの助言」を
意図したものなので、おそらく、「西側諸国のウクライナプロジェクト」がうまくいっていない
ということなのだろう。この記事では、それらの「助言」を (GMWxx)のように引用していく。
(GMW は Gerald M. Weinberg という、ミドルネームを含むワインバーグの筆名にちなむ)。
# 2024-01-01: 西側諸国の指導者たちには、ワインバーグの警告は届かなかったようだ。
https://qrude.hateblo.jp/entry/2024/01/01/063000
「欧米にとって「ウクライナ」とはプロジェクトである。プロジェクトは結果を出さなければ
ならない。利益、ロシアの弱体化、そして理想的にはクーデターとプーチン打倒だ。それは
うまくいかなかった。プロジェクトは採算がとれず、続ける意味がない。」
# そもそも、このプロジェクトを始めるべきではなかった。^^;

1. 核戦略の基本的な用語とデータ^

「助力についての教訓 ...
教訓第三番
助力が効果的であるためには、問題の明確な定義に関する相互の合意が必要である。」(GMW02)

さて、「国際法上の「武力による威嚇」と核兵器」の記事では、核戦略という用語だけ出して、
内容や意味合いには全く触れなかった。冷戦後はマスコミに登場する頻度がめっきり減っていた
用語でもあるので、説明を補足しておきたくなった ... というのが、本稿の執筆動機になる。

まずは、例によって Wikipedia の説明を見ておく。以下の部分が、基本的と考えられる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/核戦略
「理論」
「留意すべき点として核兵器には短期間のうちに社会の機能を停止させるほどの物理的破壊力が
あり、したがって核攻撃がないとしても核兵器の保有によって相手の軍事行動を強く規定する
ことができる。つまり相手国が攻撃的行動を行えば自国が懲罰的な報復を行うことを核兵器に
よって威嚇することで、相手国の攻撃的行動を思いとどまらせること、すなわち核抑止が可能
となるのである。
ただし一般的な抑止の概念を検討すれば、三つの条件が必要であると考えられている。
    相手国に耐え難い損害を与える報復能力
    報復能力を使用する意志
    事態の重大性・緊急性についての相互的認識
以上の三つはまとめて「抑止の三条件」と呼ばれており、核抑止にも適応して考えることが
できる。」
「分類」
...
「1961年の柔軟反応戦略 (flexible response strategy)は、ゲリラ戦から核戦争まであらゆる
事態に対して、事態のレベルに応じた軍事力によって抑止する戦略。アメリカ統合参謀本部
議長を務めたマクスウェル・テーラーらが提唱。ジョン・F・ケネディ政権で採用。
...
大量報復戦略 (massive retaliation strategy)。 1954年のニュールック戦略などを指す。
相互確証破壊(MAD)
詳細は「相互確証破壊」を参照」
https://ja.wikipedia.org/wiki/相互確証破壊
「核兵器を保有して対立する2か国のどちらか一方が、相手に対し先制的に核兵器を使用
した場合、もう一方の国家は破壊を免れた核戦力によって確実に報復することを保証する。
これにより、先に核攻撃を行った国も相手の核兵器によって甚大な被害を受けることになる
ため、相互確証破壊が成立した2国間で核戦争を含む軍事衝突は理論上発生しない。」
「相互確証破壊成立の要件
一方の先制核攻撃でもう一方の核戦力が壊滅してしまう状況では、相互に相手国に届く
核ミサイルを持っていても相互確証破壊が成立しているとはいえない。そのため「敵の
先制核攻撃で破壊されずに核攻撃能力を生残させること(生残性)」が相互確証破壊が
成立する要件である。」

相互確証破壊 MAD に関連して、下記の用語が、時々使われる。
https://kotobank.jp/word/第一撃能力-90769
「第一撃能力 ...
核兵器保有国が同じ核兵器保有国に対して,核先制攻撃を加えた場合,相手の核報復力を
破壊する能力をいう。」
# 2022-10-24: 近年のアメリカでは「第一撃能力」を↓ "Nuclear Primacy" とも言う。
# https://alzhacker.com/russia-responds-to-americas-plan-to-win-ww-iii
https://kotobank.jp/word/第二撃能力-91767
「第二撃能力 ...
相手国から第一撃が先制的に打込まれたのちに,残存している核ミサイル,核搭載有人機
などを用いて,相手国にただちに報復攻撃を加えられる能力をいい,この能力がそのまま
核抑止力となる。そこで,第二撃能力は,核兵器の保有量だけでなく,核兵器の所在の秘匿,
非脆弱性などによってつくられる。」

これらの用語は、冷戦時の米ソ対立の文脈で登場し、使用されていたものだが、米英仏 vs
中露の文脈での核戦略を巡る状況は、関連技術における若干の違い以外、冷戦時と同じ構図に
なっている。少なくとも、戦略方針レベルでの基本的な概念は、両陣営とも冷戦時と同じだと
考えてよいだろう。。

次に、基本的な数量的データとして、下記を挙げておこう。
https://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/nuclear1/nuclear_list_202106
「世界の核弾頭一覧」
なお、核戦略における意味/位置付けを評価する際、地上配備分は*どこにあるか*に注意が
必要なことは明らか。この点について一つ押さえておくべき事実は*アメリカ以外の国の核は
全て自国領の中にあるが、アメリカの核はNATO 諸国を始めとする世界中の米軍基地にもある*
ということだ。↓
【図説】米国の核兵器は欧州のどこに配備されているか

以上の用語説明およびデータから、すぐ分かることがある。ロシアと中国がアメリカを仮想敵と
して第一撃能力を持つことは不可能ということだ。両国政府が、前述の意味での「第一撃」を
考えた形跡は(当然、予想されるように)これまで全くない。一方、アメリカが、過去に何度か
「第一撃」を検討した事実を「国際法上の「武力による威嚇」と核兵器」で述べた。どの国が
世界平和にとって最も脅威になりうる国かは、この比較に基づいて考えて見るべきだろう。
なお、ロシアと中国がアメリカ以外の国への第一撃を検討したという形跡も全くない。さらに
多極化世界」を標榜する両国には、第一撃を検討する*動機*が見当たらない事にも注意。
まして、西側諸国を攻撃した場合、アメリカの核が「発動されるかも知れない」というリスクも
存在するわけだから、両国には何らメリットが見当たらない「第一撃」を恐れるのは「杞憂」と
思われる。ただし、「核兵器使用は核兵器で攻撃された場合だけ」と表明している中国と違い、
ロシアは「通常兵器での攻撃に核兵器で反撃することもありうる」としている件を、ロシアの
核戦略(公式発表内容)およびロシア視点での核戦力比較記事から引用しておこう。
記事の日付に注意されたい。なお、このサイトは「ロシア文化や観光名所の紹介なども含めた
広報サイト」で、RTSputnik とは少し意味合いが違う。かなり多くの国の言語で、同様な
ページが用意されているようだ。「観光立国」とか「インバウンド」とか言うなら、日本でも
同様のサイトを用意した方がいいのではないだろうか(笑)。日本では、各自治体が頑張って
地元の紹介ページを作っているが、それだけでは、例えば多国語対応にも限界があるだろうし、
「日本文化」を俯瞰してアピールするといったことができないはずだ(これは真面目な話)。

https://jp.rbth.com/science/83882-roshia-kakuheiki-shiyou-shin-jyouken-kouhyou
「ロシアが核兵器使用の新条件を公表
科学・技術2020年6月24日ニコライ・リトフキン
ロシアの核政策の基本は従来通り「専守防衛」だが、同国は核攻撃を実行し得る新条件を
挙げている。
 2020年6月半ば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「核抑止分野の国家政策」を
承認した。文書には、国際紛争時におけるロシアによる核兵器使用の条件がすべて挙げら
れている。いわゆる「ロシア連邦核ドクトリン」が公開されるのは初めてのことだ。
「ロシアは核兵器を専ら抑止力として見ており、その使用は、やむを得ない場合の究極の手段」
「「核の脅威を小さくし、核戦争を含む武力紛争を招きかねない国際関係の悪化を許さない
ため、あらゆる必要な措置を講じている」と核ドクトリンには記されている。
その上で、国際的な緊張が高まり、直接的な対立が起こった場合に、ロシアが核兵器を使用する
一連の条件が挙げられている。第一に、... 第六に、....」
「ロシア政府は、「究極の手段」に踏み切ることも辞さない追加の条件も挙げている。
その中には、「ロシアおよび(ないし)その同盟国の領土を攻撃する弾道ミサイルの発射に
関する信用に足る情報の入手」や、「敵国によるロシアおよびその同盟国の領土に核兵器
ないしその他の大量破壊兵器の使用」といった条件が挙げられている。
その他、核兵器の使用の指示は、「機能不全に陥れば核兵器に相当する被害をもたらすロシア
連邦の最重要国家・軍事施設に対する敵の攻撃」や、「ロシア国家の存在そのものを脅かす
通常兵器を用いた攻撃」に際して出されるという。」
# 上記ロシアの核ドクトリンへの認識不足が核戦争のリスクを高めているとの指摘がある。
元ロシア大統領、「キエフ政権」の「完全な」解体を求める
「クリミア半島は、2014年のマイダンクーデター後にウクライナから分離し、
住民投票で圧倒的な支持を得た後にロシアに加盟した半島」
「先月、メドベージェフはキエフに核警告を発し、半島を標的とした「深刻な攻撃」の試みは、
「核抑止力のドクトリンの基本に規定されているものを含む、あらゆる保護手段の使用の根拠
となる」と警告」
プーチンの2月21日の演説の重大な意味 (←ロシア連邦議会年次教書演説(2023))
「プーチン氏の発言は、国際法というレンズを通して読むと、西側諸国を震撼させるもの
であるはずだ」
「プーチンは国際法を専攻していたことを忘れてはならない。プーチンの演説は、NATOに
対する法的根拠を示すものであった」
「西側諸国がロシアを攻撃した方法を、私の計算では30種類も挙げている。NATOのロシア国境
への拡大、ロシア国内のテロリストの支援、経済戦争、テロリストによる北流パイプラインの
妨害、ウクライナのクーデターと戦争への資金提供、ロシアの核爆撃機を含むロシア国内の
目標へのウクライナへの直接攻撃支援、ロシアの破壊と分割を企てること、などなど」
「その中で、重要な発言があった。
「つまり、私たちを一回で終わらせるつもりなのです。つまり、ローカルな紛争をグローバルな
対立に発展させるつもりなのだ。これは我が国の存立にかかわる脅威であるから、我々はこの
ように理解し、適切に対応する」」
「プーチンの言葉の選択は、ロシアの核ドクトリンに照らして極めて重要である。核兵器は、
"ロシアまたはその同盟国に対する核および他の種類の大量破壊兵器の使用に対応し、また
国家の存在そのものが脅かされる場合に通常兵器を使用してロシアを侵略する場合に使用
することができる "と述べているのである」
「世界は今、核戦争の入り口に立っている。ロシアは西側諸国に警告を発し続けている」
「西側は警告を無視し、二の足を踏み続けている」
「冷戦後、3つの重要なことが変化し、核兵器の応酬の確率が変化した。
1) 核拡散は、最初の攻撃者の身元がターゲットにとって不確かであれば、MADがバイパス
されることを意味する。予想外の方向から現れたミサイルは、最も明白な容疑者によって発射
されたのではない可能性がある。
2) MADは、両当事者が合理的な行為者であることに依存する。
西側諸国は、ノルドストリームを破壊した時点で、合理的でなくなった。
3) ロシアは現在、効果的なミサイル防衛シールドを持っているかもしれないが、NATOは
持っていない」
# 英国のウクライナへの劣化ウラン弾供与発言への反応も、下記の状況が背景にある。
英国の劣化ウラン弾の計画は欧州全域に脅威をもたらす (←劣化ウラン弾関連記事)
ルカシェンコ(ベラルーシ大統領)コメント
# ↑筆者の私見では、ルカシェンコ/ベラルーシの認識とプーチン/ロシアの認識は、
# 多くの論者が述べている/(暗黙の)前提にしているほどには一致していない。例えば、
# *ルカシェンコは*「特殊軍事作戦が短期間で終結するだろう」と述べたことがあるが、
# ロシアから特殊軍事作戦の具体的な終結時期見通しが公式に発表されたことはない。
モスクワ、米国の欧州におけるルールベースの秩序を呼び込む
「プーチンの「ロシアは米国が何十年も前からやっていることをやっているだけだ」という」
発言に、ワシントンは反応に窮している」
「要は、第三国に核兵器を配備しないという相互約束は、2021年12月にモスクワが
ワシントンに提案した、ウクライナがNATOに加盟しないという約束と並ぶ提案の1つ」
「アメリカはそれを無視」
「問題の核心は、1962年のキューバ・ミサイル危機と同様に、ロシアがベラルーシに戦術核を
配備したのは、国境近くに駐留する米国のミサイルに注意を喚起する報復的なもの」
「ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコの欧州5カ国の金庫には、推定100個の
核兵器が保管されている」
「さらに悪いことに、米国は「核シェアリング」と呼ばれる物議を醸す取り決め」
「非核保有国であるNATO諸国の戦闘機に核装備を取り付け、米国の核爆弾で核攻撃を
行うようパイロットを訓練する。核拡散防止条約(NPT)の締約国である米国が、核兵器を
他国に渡さないと約束し、NATOのシェアリングに参加する非核保有国も、核保有国から
核兵器を受け取らないと約束した中で、このようなことが起きている!」
「NATOは昨年、核シェアリング・ミッションに7つのNATO諸国がデュアルキャパブル航空機を
提供したと宣言した。これらの国は、米国、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、
トルコ、ギリシャとされている。そして、すべてNPTの加盟国である!」
「"ルール・ベース・オーダー"へようこそ!西側諸国にとっては完全に許されることでも、
ロシアにとっては禁じ手なのだ!」
# ↓条約締結交渉時からの姿勢の変化↑もロシア側認識の深刻さを示す。
「2020年に国家の核政策の基本を公開したことには、パートナーらに新戦略兵器削減条約の
延長を促す意味があるという。」
# 本ブログ筆者による注)だとすれば、この狙いは、達成されたということになる。
# https://ja.wikipedia.org/wiki/新戦略兵器削減条約
# 「2021年1月26日、アメリカ合衆国のジョー・バイデン大統領とロシアのウラジーミル・
# プーチン大統領が電話会談し、同年2月に期限を迎える新戦略兵器削減条約を、2026年2月
# までの5年間延長することで大筋合意した。」
# また、最近のロシアの核使用条件についてのプーチン発言は、上記の*発表済の核戦略*を
# 確認/反復しているに過ぎない。

https://jp.rbth.com/science/85803-roshia-us-kaku-senryoku-no-hikaku
ロ米核戦力の比較:ロシアが上回る分野は?
科学・技術2021年11月19日ウラジーミル・エフセエフ
過去10年間で、ロシアは、核兵器とその運搬手段の開発において多くのブレークスルーを
達成し、多くの分野でアメリカを大きく凌駕した。
 ロシアと米国は、戦略核兵器の量的均衡を保っているが、それぞれの構造は異なっている。
これに関連し、米指導部は、今後有望な戦略ミサイル・システムの開発の分野でロシアに
遅れをとっていることを憂慮している。かつて米国は、ロシアの軍事力を過小評価し、
武力紛争(主にアフガニスタンとイラク)に多額の費用を費やした。これには、年間
約1千億ドルを要した。
# 筆者注)この記事には書かれていないが、ロシアは極超音速ミサイル既に実用化している
# (艦載用の別モデルの試験も成功)。極超音速ミサイルは現在の迎撃用ミサイルより*相当*
# 高速なので既存の軍事技術では迎撃できない。これらが、現時点でのロシアの第二撃能力の
# 「切り札」だと考えられている。下記は↓極超音速ミサイル技術関連記事(英文)。
# Moon of Alabama : Why Hypersonic Missiles Are Real Game Changers - by Gordog
# 2023-01-14: E-wave Tokyo の極超音速ミサイル関連の和訳記事
# ジルコン 極超音速巡航ミサイル
# ロシア海軍 アドミラル・ゴルシコフ級 22350型フリゲート
# 「プーチンの新兵器」
# 2024-03-22: 芳ちゃんのブログ記事「アヴァンギャルド
#「米ミサイル防衛システムを使い物にならなくしたとプーチンが豪語する極超音速ミサイル」
しかし、アフガニスタンから米軍が撤退し、イラクでも兵力が大幅に削減された今、状況は
変化し始めている。2022年度の米国の国防予算では、戦略核兵器を含む新開発に多額の資金を
割り当てる予定だ。

https://jp.rbth.com/science/83152-roshia-ryoudo-kaku-kasa-banzen-ni-naru
ロシア領土の核の傘が万全になる
科学・技術2020年1月24日イーゴリ・ロジン
 5年後にはロシアは核戦力の最新化を完了させる。ミサイルサイロへの先制攻撃に耐えて反撃
できるミサイルも配備される予定だ。
 ロシアは核戦力の更新を活発化させている。2024年までに、地上軍の老朽化した核ミサイルや
ソ連製の兵器はすべて消えるだろう。
 この目標を達成するため、国は2010年代初めに22兆ルーブル(39兆円)以上の予算を充てて
いる。結果として、ロシアは「核抑止」の枠組みで地上配備型大陸間弾道ミサイルの規定数を
満たすことになる。
# 筆者注)次節で述べる「アメリカが「第一撃能力」を実現しようとしたこと」への対抗策。
# (アメリカ製の高価な武器を買わされるだけの)どこかの島国(笑)と違い、自国での開発。
# ∴ 「軍事ケインズ主義」的な経済効果もある。^^;

2. 核戦略の歴史における「ミッシングリンク」^

「ボールディングの逆行原理
ものごとがそうなっているのは、そうなったからだ。」(GMW03)
# https://qrude.hateblo.jp/entry/2024/01/03/065000_1
「ウクライナでロシアが西側諸国より優れている理由は、彼らは紛争をプロセスとして見ている
からだ。ロシア人は出来事をフィルムとして見ている。私たちは写真として見ている。彼らは
森を見ているが、私たちは木を見ている。だから私たちは、紛争の始まりを2022年2月24日と
したり、パレスチナ紛争の始まりを2023年10月7日としたりする。私たちは、自分たちを悩ませる
文脈を無視し、理解できない紛争を起こす。だから戦争に負けるのだ。」

「西側視点でのウクライナ情勢」では「過去の経緯」が、{ほとんど/まったく}言及されず、
全てが「突然、ロシアがウクライナへの侵略を開始した」とか「突然、ロシアが「核の使用」に
言及した」といった具合に始まることになっている。ところで、開発プロジェクトのトラブルが
「突然、始まった」と描写されている間は、そのトラブルに解決の見込みはないとしたものだ。

ロシアが巨費を投じて「第二撃能力」強化のための新兵器/新軍事技術開発に注力した契機は、
下記の2つの条約からの離脱をアメリカが一方的に宣言したから。なぜか、この関連について
説明しない核戦略関連記事ばかりが目につく。
- ABM条約
- 中距離核戦力全廃条約
どちらの条約も、アメリカはロシアの違反を理由に一方的離脱の意向を表明し、ロシアの反論を
無視して、そのまま離脱に進んだ。なお、後者については、中国の不参加も*口実*にした。
ロシアの違反や中国の不参加は*単なる口実*と考えられる理由は、以下の通り。
- どちらの条約も、「第二撃戦略」の実効性を確保する目的の条約。つまり、「第二撃戦略」を
 採用している限り、条約を維持する方が、緊張緩和+軍事費削減の観点から有利。
 * ABM によるミサイル迎撃は、第二撃能力への直接的障害に成り得る。
 * 中距離核戦力全廃条約の趣旨は、NATO諸国とロシア間での中距離弾道ミサイルの到達時間の
  短さのため、「首刈り」による司令部機能喪失が第二撃能力を阻害するリスクを回避すること。
- 中国の核は、前記データが示す通り、アメリカの第二撃戦略にとって障害に成り得ない数量。
- アメリカが条約破棄する目的は、ロシアの「第二撃能力」を阻害し「第一撃能力」の実現を
 目指すためと考えるのが、最も理解しやすい(というか、他には明快な説明が見当たらない)。

そうしてアメリカが欧州全域に「ミサイル防衛システム」を展開し始めたので、ロシア側では、
「ミサイル防衛システム」を無効化する技術なしには「第二撃能力」の維持は困難と判断した。
そして、超音速ミサイルなどの技術開発に国家の総力で取り組んだと考えないと、いろいろと
辻褄が合わない。
# さらに、「ミサイル防衛」という言葉の胡散臭さも、つとに指摘されている。
# https://note.com/ftk2221/n/n01f4b419e4fa
# 「逆キューバミサイル危機」
# 「ヨーロッパに向けて発射されたイランのミサイルを撃ち落とすことを目的とした
# 対弾道ミサイル・システムを収容するために両国に設置されたとされる米軍基地について、
# クレムリンが10年以上前から何を言ってきたかを考えればいい」
# 「ロシア側は常に、このような施設は二重目的であり、自国に向けた核武装巡航ミサイルを
# 設置するための隠れ蓑であると反対していた」
このように見てくれば、以上の論点は常識的にすら思えるが、明言している記事を見る事が、
日本では少な過ぎる。この問題について複数の記事を掲載している例外的(=貴重)なサイト
での検索結果が下記。
マスコミに載らない海外記事 : DuckDuckGo検索Google検索
https://blog.goo.ne.jp/deeplyjapan/s/ABM条約 (ブログ内検索機能)
特に、ロシア側の認識が2018年3月の一般教書演説で明示されたことの説明は下記が詳しい。
DEEPLY JAPAN: プーチンの2018年一般教書演説:強制MAD
同演説の英文原稿が下記で参照できる。
http://en.kremlin.ru/events/president/news/56957
なお、「米国の第一撃戦略指向」という認識自体は、以下の記事でも共有されている。
耕助のブログ: No.341 米国の役割の再定義:米国は盛者必衰の運命にあることを知るべき
E-wave Tokyo: 米国とNATOが挑発を主導し、核シナリオの条件を作っていると学者が警告
櫻井ジャーナル: アメリカの求心力低下が予想以上に進んでいることが明らかになってきた

ちなみに、通常戦力や米軍のお家芸である「広範囲への高速な部隊展開能力」についても強化
図られた模様。

3. 軍事衝突発生中に核使用の可能性を公言することの先例と、その際の評価^

「三本指の法則
自分が誰かに指を向けているときには、あと三本の指が指しているものに注意。」(GMW04)
# プーチンを指さしている方々への警句のようにも見えるということで。

シャーロック・ホームズが聖書から行う引用と言えば「太陽の下に新しきものなし」。何事も
探せば類似例は見つかることが多い。 
軍事衝突発生中に、核使用の可能性について*アメリカ合衆国大統領が*公言した先例が存在
することに調べているうちに気がついたので、「核戦略」からは離れるが、書いておく。
(舞台は、朝鮮戦争。総司令官のマッカーサーが核使用を*しつこく*提唱してトルーマンに
クビにされた後の話。タイムラインは、下記。

https://america-info.site/korean-war
1950年
...
***中国が人民義勇軍として北朝鮮応援に参戦***
中国が参戦し、状況が悪化します。
11月30日、トルーマン大統領は記者会見で、アメリカが原子爆弾の使用を検討して
いると認めています。

1951年
12月31日-1951年1月7日 第三次ソウルの戦い
国連軍と中国・北朝鮮が戦い中国軍の戦術的勝利
北朝鮮が再びソウルを陥落
...
ダグラス・マッカーサーは、戦争を延長する許可をトルーマン大統領に求めました。
らに、中国の港湾封鎖と核兵器による中国の都市の爆撃要請もしました。
トルーマン大統領はマッカーサーの要求を拒否しましたが、マッカーサーは要求を諦めず、
大統領の決定を公然と批判しました。
...
4月5日、トルーマン大統領は、ダグラス・マッカーサーを不服従を理由に解任し、
マシュー・リッジウェイが着任しました

1952年
...
11月4日、ドワイト・D・アイゼンハワーがトルーマンを継いで大統領になりました。
そして29日には、韓国へと向かいました。
...
戦争は1953年まで、国境線争いをして続いていました。
この年、アメリカの新大統領に就任したアイゼンハワーは、平和交渉が始まらなければ、
朝鮮戦争を終わらせるために、核兵器の使用を含むどんな力でも用いると述べました。
このアイゼンハワーの瀬戸際の脅威(核戦争の瀬戸際への脅威)が効果をもたらしました。
まあ、実際は、ソ連のスターリンが3月に亡くなったことなども影響しているそうですが、
アメリカの教科書では、上のようにアイゼンハワーのおかげ!みたいに書かれてました^^;
....

追記: ウクライナのロシア領クルスクへの侵攻は同地の原発を目指していた可能性を指摘する
櫻井ジャーナルの記事に、前記「アイゼンハワーの核兵器による恫喝」参考文献の記載あり。
Daniel Ellsberg, “The Doomsday Machine,” Bloomsbury, 2017)
上記文献↑への言及のある2024年8月14日の記事から、 関連箇所を引用しておく。
「ロシア政府はアメリカ/NATOが約束を守らないと悟り、話し合いで問題を解決できないと
腹を括っているはずだ。そこで原発を攻撃するという一種の「原子力恫喝」を試みたのかも…
アメリカ政府は核による恫喝を交渉で使ったことがある。」
「例えば、ドワイト・アイゼンハワーは1953年に大統領となった直後、泥沼化した朝鮮戦争
から抜け出そうと考え、中国に対して休戦に応じなければ核兵器を使うと脅したとされている。
休戦は同年7月に実現」

コメント一覧

hobby4oldboy
@syokunin-2008 >1952年
>11月4日、ドワイト・D・アイゼンハワーがトルーマンを継いで大統領になりました。
>そして29日には、韓国へと向かいました。
>は記述が不正確

御指摘ありがとうございました。_o_ 下記の重大な引用行抜けを見落としていました。
「戦争は1953年まで、国境線争いをして続いていました。」
syokunin-2008
1952年
11月4日、ドワイト・D・アイゼンハワーがトルーマンを継いで大統領になりました。
そして29日には、韓国へと向かいました。

は記述が不正確。
1952年11月4日とはアメリカ大統領選挙で欧州軍最高司令官だったドワイト・D・アイゼンハワーが現職大統領であるトルーマンに勝利した。
ところが
翌年の1月20日まではトルーマンが大統領のままなのですから、
「そして29日には、韓国へと向かいました。」が事実なら一民間人が勝手に戦地に赴いたとの不可解な話になります。明らかな違法行為であり、これは2016年11月の安部晋三首相がニューヨークのドナルド・トランプに会いに行った逸話と同じで民間人の違法な外交交渉なので
トランプ政権の最初の首席補佐官フリン中将による中米ロシア大使との電話会議で野党民主党からの追求で辞任に追い込まれた不祥事の朝鮮戦争版。たぶんトルーマンに頼まれたか、それとも何かの裏取引があったか?
そもそも朝鮮戦争ほど不可解な戦争はありません。
安保条約下での日本ですが、もっと正しく表現すれば朝鮮戦争が今も継続下での日本国であり、米軍だと思うから勘違いするが首都東京を支配する「横田空域」などはアメリカ軍ではなくて国連軍ですよ。理由は不明だが、ソ連が欠席したので安保理で国連軍の錦の御旗を手に入れる
全ての根源が、今も朝鮮戦争が終わっていない事実に尽きるのですが、何故かこの事実を日本人有識者は考えたくないのです。、
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