創作 「鳥籠の町」林美沙希
知っているようで知らない町並み。1匹の猫に話しかけられたものだから、これは夢だと悟った。
こんな所で眠れやしないよ。あそこに行くといいさ。
雑草と廃墟と荒れた海に囲まれた、普通の家がひとつ。そこに向かうことにした。
ごめん下さい、誰かいませんか?
すると、品の良さそうなお婆さんが出てきた。私をじっと見つめて、笑顔で迎えてくれた。私の住んでた家と同じ、甘いポプリの香り。ここはどうやら忘れ去られた町らしく、このお婆さんと猫以外は誰もいないのだという。
自分には甘いのよね。クッキー食べない?
と言ってくれたので、いただいた。そしてひとつ、気付いたことがある。この家、写真の数が異常だ。
どうしてこんなに写真があるんですか?
はっと私を見る。
助かったのよ、私だけ。
このお婆さんに、この町に、一体何があったのだろうか。
あなたは今、鳥籠の中にいると思っているでしょう。でも、本当に鳥籠の中にいるのは私。自分の選択に後悔して、それにずっと囚われて生きていく。家族も友達も、全員を見捨てて出ていった私は、もうこの町から出ることはできない。私みたいには、なってほしくないわ。
お婆さんが一心に見つめていたのは、私の家族写真だった。
目が覚めてからは、もうトンネルを出ていく気にはなれなかった。この町には、私の大事な人が集まっている。カモメと潮風と穏やかな海。いつもの景色が、とても美しく思えた。
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