一庵 (ひとつあん)

飛べないライター『いたっきい』の愚行をさらしています。

※普段ハtwitterニ居リマス。

太平洋 (自衛隊観艦式 予行Vol.5)

2009-11-07 | 徒然

前回の記事(観艦式予行 Vol.4)はコチラ


訓練展示を行った艦艇群は面舵で転舵し、観閲部隊の北側を同航しはじめました。次は航空部隊の訓練展示です。


第1群 US-1A、US-2模擬離着水

 
 「くらま」「こんごう」後方からUS-2とUS-1が進入

最新の救難飛行艇US-2と、現在の主力救難飛行艇US-1Aが低空低速で進入しました。この2機は模擬離着水、つまり海面スレスレまで高度を落して再上昇する、シミュレーションタッチアンドゴーを行います。

 
 US-2とUS-1Aの新旧コンビ

US-1A、US-2ともに胴体がフネの底のカタチをしていることからおわかりのように、海上や湖上に離着水できます。50ktの超低速飛行、離着水距離は約1,000ft以内、波高3mでも安全に離着水可能な世界で唯一の高性能飛行艇ですが、車輪もあり基本的には陸上基地で運用されます。

製造ラインがある新明和の神戸工場は海に面しているため、造られた機体は岸壁からランプ(斜路)を通って海に入り、海上を船のように進んだ後、大阪湾から離水します。知らない人が見たらかなりビックリする光景でしょう。

 
 US-2は最新の3号機(量産初号機)が飛来。遠くに「おおすみ」(23日撮影)

US-2の3号機は、上から見ると海の色に溶け込む濃紺で塗られています。F-2戦闘機やUH-60J救難ヘリにも近い洋上迷彩は、コンバット・レスキューを意識したものです。間もなく初飛行する4号機以降もこのカラーで塗られます。

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 ブルーのラインがきれいなUS-2試作2号機(21日撮影)

21日は試作2号機が飛来しました。試作1号機は“丹頂鶴”をイメージして白地に赤のストライプ、2号機は“刀”をイメージして白地に青のストライプですが、新明和の社内ではそれぞれ「JAL仕様」「ANA仕様」と呼ばれているようです。

また航空祭などで実機を間近に見ると、エンジンがやや右を向いていることが分かります。US-1Aやその前身のPS-1は左に流れる飛行特性があったそうで、それを強引に?打ち消すための措置として、3度右に傾けられたそうです。

以前、新明和の知人から、「洋上の要救助者を助けに行こうとしても、新エンジンの排気温度がかなり高く、後部舷側のドアから救難員がボートを降ろして海に出ることができない」と聞きました。この話を、まだ試作初号機しかなかった頃に海自のテストパイロットに聞いてみたところ、「よくご存じですね。現在ではその問題も解消されています」とのことでした。

エンジンや排熱の話以外にも、一般に知られることがほとんどない多くの課題があったはずですが、モノを開発する過程で予期せぬ問題が次々に起こるのはやむを得ないことです。主翼に致命的な欠陥があり、当初は“使い物にならない”といわれたF-2も、今では航空祭でASM-2を4発も積んで機動飛行を行える高性能機になりました。
こうした問題を一つ一つ解決していくエンジニアやテストパイロットの方々には本当に頭が下がります。

 
 低空を低速で飛ぶUS-1Aと「おおすみ」(23日撮影)

US-1Aは、塗装のほか、機種の大きなセンサーマスト、コクピットのコブなどでUS-2と識別できます。洋上迷彩に塗って“なんちゃってUS-2”にしたらあっさり騙されそうですけどw

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 水しぶきが起こるほどの超低空飛行!(21日撮影)

超低空、超低速で安定したフライト。パイロットの熟練が察せられます。「いなづま」の前に出た後、先に上昇したUS-2を追って増速し、去っていきました。


第2群 P-3C×2 対潜爆弾投下

 
 150kg対潜爆弾を投下するP-3C

続いてやってきたP-3C。爆弾倉を開き、何の前触れもなくいきなり対潜爆弾を投下します。間隔空けて、2発。

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 一瞬海面が泡立ち、次いで水柱が奔騰する

映画やドキュメントフィルムでよく見る光景が、目の前にありました。例によって艦体をガン!という音が叩きます。あの水柱の近くでは、気絶した魚がたくさん浮くんだろうなあ…

P-3Cはこの対潜爆弾のほか、対艦ミサイルAGM-84ハープーンや国産のASM-1Cのほか、レーザー誘導のAGM-65マーベリック、97式魚雷を搭載できます。
また、各種の高性能センサーや衛星通信設備をはじめとする強力な通信能力を持ち、さらに豊富な機内容積を利用して電子戦機に改造されるなど、各種派生型も多数あります。

アデン湾の海賊対策に派遣されたのも、P-3Cが洋上哨戒機としてうってつけだったからに他なりません。そのときのテレビ番組で某キャスターが「P-3Cってのは、対潜哨戒機なんですよ。海賊対策になぜ対潜水艦用の軍用機を出すのか、自衛隊の不気味な意図が感じられますねえ」と発言していたのを覚えていますが、知ったように話すわりには小型船舶の発見・追跡に有利な逆開口合成レーダーを積んでいることや、そもそも10年も前にP-3Cが「対潜哨戒機」から「哨戒機」に変わったことも知らない様子でした。


第3群 P-3C×2 IRフレア発射

 
 2秒以内に60発のフレアを投下(23日撮影)

次にやってきたP-3Cが、IRフレアを一斉に射出します。まず左舷側の発射機から30発、間髪入れず右舷側から30発。一瞬の出来事でした。

IRフレアとは、その名の通り赤外線追尾ミサイルを欺瞞するためのもの。マグネシウムなどを主成分とし、燃えることで大量の赤外線を放出します。艦艇から攻撃を受ける場合、まず遠距離を攻撃できるレーダー誘導のミサイルが飛んでくる可能性が高いのですが、あの“工作船”追尾のような非正規戦では携帯型の赤外線誘導地対空ミサイルに狙われる可能性が高いため、必要な装備といえます。

なお、航空機搭載の赤外線追尾ミサイルに対しても効果はありますが、基本的に戦闘機の射程に捉えられたらP-3Cには為す術がありません。護衛機が必要です。

 
 青空をバックにフレアを投射(21日撮影)

 

以上で訓練展示は終了です。

最後のP-3Cが去った後、全艦艇が一斉に増速して東京湾を目指します。
遠くでは、「おおすみ」がLCACの収容作業を行っていました。

 
 「おおすみ」艦尾のハッチから艦内に滑り込むLCAC

艦尾では多くの陸自隊員がLCACの収容作業を見物している様子でした。たしかに陸自の隊員にとっては珍しい光景でしょう。

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 増速して浦賀水道に向かう観閲部隊艦艇(21日撮影)

 
 旗艦「くらま」以下の艦艇(23日撮影)
 2隻のイージス艦「こんごう」「あしがら」の大きさがよく分かる

それぞれの艦の入港予定時間が決まっているのでしょう。浦賀水道が近づくと、各艦の速度がバラバラになってきました。

 
 「こんごう」が減速、「あぶくま」「てんりゅう」と合流し、
 「あすか」「さわかぜ」などが前に出てくる(23日)

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 東京湾へ向かう約40隻の大艦隊。すごい光景w(21日)


ここでぐるっと艦内を回ってみましょう♪

まずは艦首から。

「くらま」艦首には主砲とアスロック発射機が、「いなづま」艦首には主砲とVLS(垂直発射システム)があります。ちょうど動作展示がはじまったようです。

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 Mk.42 5インチ砲の動作展示(21日「くらま」)

重量70tの砲塔がグリングリン動いています。整備も行き届いているようできれいにされていますが、無骨なデザインが古さを感じさせます。

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 74式アスロックSUM発射機の動作展示(21日「くらま」)

ロケットの先に短魚雷をつけたアスロック。この発射機も予想外に早く旋回します。
しかし、いずれにしても古さは隠せません。

このアスロックは、「こんごう」より新しいフネでは艦首VLSに収容されるようになりました。これをVLA(垂直発射型アスロック)といいます。
VLSは発射機と保管庫を兼ねるために構造が簡単で場所をとらず、また即時交戦性に優れ、発射機への再装填も不要なことから同時に発射できる数も増えます。
搭載場所は艦橋の直前で、「こんごう」以前のフネでは前述の74式発射機があった位置です。

 
 艦首に16セルあるMk.41 VLS(23日「いなづま」)

ん!?
バシャッと音がしましたよ???

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 クジラ発見!(21日撮影)

4頭ほど確認しました。とっさにカメラを向けましたが、潮を吹く瞬間は撮れませんでした。大型のフネでも、こんなに近くまで寄ってくるんですねえ。
いいものが見られました。

では艦橋に上がってみましょう♪

 
 「いなづま」アンテナマスト基部より、
 チャフ発射機を見下ろす

チャフはレーダー誘導ミサイルを欺瞞するためのものです。プラスチックの薄いフィルムや繊維にアルミを蒸着させたもので、ロケットで艦の上空に打ち上げられ、破裂して広範囲に広がります。

これにより電波は乱反射し、レーダー画面では白い雲が広がったように見えるそうです。第二次大戦中にはすでにその効果が知られ、英軍がドイツ相手に多用しました。対して米軍は、日本軍がレーダーと連動した対空防御兵器や航空管制を行っていなかったことからあまり使いませんでした。反対に日本軍では、紙に錫泊を塗布したものを使用したそうです。

艦橋ウィングに来ました♪

 
 浦賀水道が近づき、見張りを厳にする

艦橋に入ってみます♪

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 「くらま」艦橋(21日撮影)

 
 「いなづま」艦橋(23日撮影)

細部を見比べてみると、「くらま」は機材が古いのがわかります。しかし、観艦式の旗艦を拝命するにあたり内部も隅々まで化粧直ししているため、見た目にはとてもスッキリとしています。天井まで白く塗っているので、艦橋内も明るく撮れました。

…6日後にこの「くらま」が大損害を被るとは…

さて、艦内奥深くに入ってみましょう♪

 

まだ続くw

 

※訓練展示(艦艇部隊・航空部隊)と艦内の映像はコチラ↓をご覧ください。

例によって“Kelly Pictures” N氏の作品です。
N氏とは相模湾だけでなく、東富士演習場や三沢基地などでもご一緒することが多く、なんとなくN氏=ビデオ担当、いたっきい=写真担当と役割が決まってきています。マニアックなメディアミックスですw


■実録 平成21年度 観艦式 『最終章』

Nさん、迫力ある映像をありがとうございます!

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ、誰かタイトルの法則に気付くかと?

 

 


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1 コメント

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二篇の労作を ()
2009-11-09 06:12:37
拝見しました。


> エンジンがやや右を向いていることが分かります。 (中略) 3度右に傾けられた

→ 画像の機体の4基の発動機は各々主翼にどのような角度なのか、推力の発生する方向との3次元的な関係を知りたくなりました。しかし、この部分の記述で、あかぃりんごは、設計、施工、操縦、機体運用などなど、実に細かい、綿密な作業で試作が成立することを知りました・・・簡潔な記述に、いたっきぃの旺盛な探究心と、多くの人々が提供したた素材がぎっしり詰まっています。
 記述に、ほのぼのとした多くの善意・共感が感じらます・・・


 「くらま」の艦橋の画像ですが、きれいに手入れされている様子が素人にもわかります。あんなにきれいに物品に接するヒトの心は、モノが壊れるようには壊れないでしょう。

 しかし、それは理です。

 わずか一週間も立たない間に、思いもかけない状況で、艦体は物損事故の被害を受けました。正当な業務を行っていた方々が正当に処遇され、当事者の方々の心が平安であることを、今、共に祈りたいと願います。
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