先日、富士急行線の寿駅⇔三つ峠駅間の踏切で、あわや大惨事という事故がありました。
ニュースは全国区になってしまいましたので、報道をご覧になった方も多いと思います。
以下、転載です。
富士急踏切で女児転倒、電車が通過…擦り傷だけの軽傷
(2007年4月9日 読売新聞)
9日午前10時15分ごろ、山梨県富士吉田市上暮地の富士急行線松久保踏切内に、女児がいるのを河口湖発大月行き普通電車(4両編成)の運転士(40)が発見、急停止したが、間に合わず電車は踏切を通過して止まった。
運転士があわてて確認したところ、女児は泣きながら1両目と2両目の間からはい出てきた。女児は近くの宮下聖菜(せいな)ちゃん(1歳3か月)で、救急車で病院に運ばれ、額の打撲と手足に擦り傷の軽傷。
富士吉田署と富士急行によると、聖菜ちゃんは身長約75センチ。警笛に驚いて線路の外に逃れようとし、踏切から幅106・7センチのレールの間に転倒、レール上の障害物をはねのけるために電車前面に取り付けられた「排障器」と地面の24センチのすきまに入り込んだらしい。
運転士は約60メートル手前で聖菜ちゃんに気づいたが、電車が止まったのは、先頭部が聖菜ちゃんのいた場所から1車両分(18メートル)通過してから。聖菜ちゃんは同線から約20メートル離れた自宅から、外出した家族を追って外に出て踏切に入り込んだとみられる。踏切に遮断機や警報機はなかった。電車の急停止音を聞いて駆け付けた曽祖父(82)は「口から血が出て、泣きじゃくっていたので驚いて抱き上げた。不幸中の幸いで本当に良かった」と胸をなで下ろしていた。
この事故、一連の報道では「女の子が線路の隙間に倒れ、その上を電車が通過した」とされています。
しかし、実際にはもっと奇跡的な出来事だったようです。
事故は、河口湖駅発大月行き普通列車で起こりました。
乗務員は3名。
本務運転士、添乗運転士(運転台にもう一人運転士がいたということです)、そして車掌です。
列車は寿駅を定刻に発車。
富士急行線最大の勾配である40.0‰(パーミル)の下り坂を慎重に下り、その先の大きな右カーブを通過していました。寿駅から三つ峠駅まではひたすら下り勾配、しかもカーブが連続する難所のため、この区間の制限速度は40km/hです。
現場の踏切は、遮断機も警報機もない第4種踏切。
踏切は、歩行者が左右の安全を確認してから渡らなければなりません。運転士も、歩行者に注意を促すため警笛を鳴らします。
今回も警笛を鳴らしながら接近しました。
事故現場を反対方向から進入した映像
(フジサン特急感謝祭用ビデオより)
と、ここでいきなり幼児が進行方向向かって左側(上写真では右)からヨタヨタと走り出してきて踏切を渡り始めたのです!
幼児が飛び出したのは列車が踏切に入る寸前、しかも現場は下り坂です。本務運転士は息を飲み、即座に非常ブレーキをかけ、警笛を鳴らしましたが、踏切までに停止するのは絶望的。さらに悪いことに、警笛に驚いた幼児は電車を見るなりそのまま踏切内でフリーズしてしまったのです。
なんといっても1歳の子供です。電車のような巨大なものがまっすぐに突っ込んでくるなんてことは、理解できないことに違いありません。
もうダメだ!
運転士がそう思ったとき、幼児はクルリと向きを変え、突然元来た方向(家の方向)に向かおうとします。
とはいっても、やはり歩き始めて間もない幼児。すぐに足をもつれさせ、踏み切りのど真ん中で転んでしまいます。
非常ブレーキをかける以外になす術のない運転士の心情はいかばかりか。。。
倒れた幼児が電車の下に消えた次の瞬間、運転台の下からガンという鈍い音が聞こえてきます。
撥ねてしまったことは明白。
・・・結局、電車は踏切を約20m通過して停止しました。
添乗運転士が即座に電車を飛び降り、後方に向かいます。
もちろん、最悪の状況を覚悟して。
すると車両の下から、泣き声が聞こえ始めます。
生きてる!
ほぼ100%の絶望から、期待と不安の入り混じった複雑な心境に変わった瞬間でした。
1両目と2両目の連結器付近から女の子が自力で這い出してくるのを見たとき、添乗運転士はひざの力が抜けそうになったといいます。。。
このときの心情を、彼は一言、「まいったよ・・・」とだけ答えています。
女の子は踏切の上で電車に撥ねられ、線路の隙間に落下し、その上を電車が通過しました。
女の子が踏切の中央で倒れたこと、列車の踏切進入速度が25km/hとずいぶん減速できていたこと、女の子が体の柔らかい幼児だったこと、先頭車両のスノー・プロウが跳ね飛ばし車輪に巻き込まなかったこと、落下した先がちょうど線路の中央だったこと、通過する電車の下で転がる女の子の手足を列車が巻き込んだり踏んだりしなかったこと。。。
いろんな幸運が重なって取り留めた命でした。
富士急行1000形
運転台下のスカート(スノー・プロウ)で女の子をはじいた
事故から10分後、救急車が到着。女の子の命に別状がないことを確認。
ほぼ同時に富士急行の関係者が到着。
すぐ近くにある交番から警官が原付でやってきたのが、25分後。。。
現場検証のあと、本務運転士が現場に残り、添乗運転士が運転を交代して大月に向かいました。
電車の運転士は、さまざまなリスクを背負っています。
今回の事故も、運転士からすれば避けようがないもの。それでも事故を起こしてしまったら責任を感じるでしょう。自殺者を轢いてしまったときでも、やはり責任の一端を感じるといいます。人の命を、自分自身が関係して終わらせてしまうとうことは精神に重くのしかかるからです。
電車の運転士は、いたっきいが想像していた以上にタフでなければならないのかな?と、あらためて考えさせられました。
今回は最悪の事態に至らず、本当に不幸中の幸いでした。
添乗運転士U、お疲れ様でした。
一歳ぐらいの子が電車が前から突進してきたらあわてて動けなくなりそうだけどこの子はどうにか動いたことがよかったんですね。
奇跡の子ですね。本当によかった。想像しただけでも恐ろしい!!
だけど本当に奇跡ですね!
のどかな景色が悲しみの景色にならずに、本当に良かったです!
ってか、こんな事ってあるんだな…
大人だったら、間違いなく気持ちよくあの世に…(以下自粛)
ホント、不幸中の幸いとはよく言ったモンですな…
子供さんが無事で何よりです。
運転手さんも暫くは心の整理がつかなかったのでしょうね?その瞬間が夢に出て来そうで。
実は私の友人Sも幼少の頃に同じ事を経験してまして、やはり線路の中に入り助かりました。なんとその時は何も知らずに電車通過~友人Sはそのまま徒歩で線路脇の自宅に帰ったそうです。事故扱いにはなってないのが…ある意味怖いです。
引用されていた読売新聞の記事で事故を知り、また運転士の年齢を見て、U氏ででない事を確認しほっとしました。
ところがU氏が添乗運転士として乗務されていたんですね。私はそれを知らずにおりました。非常に大変な思いをされたと思います。
もし万が一の事が有れば、刑事罰負う事なくとも後味が良いものでは有りません。そう言う意味では彼は非常に悪運が強いと思います。
■カプリさん
運転士曰く、女の子が踏切内でコケなければ轢いてなかったらしいです。
本務運転士も添乗運転士もコケたのを見たときは覚悟したとのこと。
でも、本当に無事でなによりでした。
■仮眠ライダー55さん
なによりでした。
でも、本務運転士はあの日以来少し調子が悪いようです。
運転士が快復するまでは、この事故はまだ片付かないのです。
■どんちゃん
大人だったら事故にあわないだろう・・・ってことはさておき、たしかに大人が同じ目に遭うと即死でしょう。
子供でも、かすり傷で済んだのはホント奇跡ですね。
■ichirouさん
友人S氏の話もすごいですね(^_^;
今回の事故のように、列車に撥ねられていたら生きていらっしゃらなかったのでは?
この子も大きくなったら「アタシぃー、小さい頃ぉー、電車にぃー、撥ねられてぇー」って話をするんでしょうか?<やや不謹慎ですね
■イニシャルDDさん
本当に彼は運がいいですね。
この件については、他にも書いていないこと(書きにくいこと)がいくつかあります。また次の機会にお話しましょう。