『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』
タラ・ウェストーパー著 村井理子訳
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訳者の村井理子さんが訳す本の多くが興味深いという理由で読みました。
著者を見て選ぶことはよくあるけど、訳者を見て選ぶって私的には珍しいのですが、この村井さんは英語圏の女性の今を描いている本を多く訳されていて面白い物が多い。
そして、大きな黒いラブラドールレトリバーを飼っていて、その犬についての本も出しています。
この本は私の見ているツイッターのタイムラインでも評判だったので、アマゾンさんで買ってみました。このところ再読や積読ばっかりしてたから、久しぶりの注文😉
全米400万部突破、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー第一位
オバマ夫妻やビルゲイツも絶賛
という帯もすごいけれど、内容も凄かったです。
以下内容に触れていますので、内容を知らないで読みたい方は注意してください。
著者タラ・ウェストーバーさんがご自分の半生を書いたノンフィクションです。
モルモン教徒の家庭で育てられた女性とあったので、モルモン教のコミュニティーのようなところで育った人なのかと思って読み始めましたが、そうではありませんでした。
著者の父親がモルモン教というだけでなくサバイバリストという思想に固執した人で、アイダホ州の山の上で家族だけで孤立して生活していました。
父親は学校も病院も全て政府の陰謀のもとに作られているから関わらずに生きるという極端な思想と後に著者自身も学んで疑った精神的な疾患(統合失調症や双極性障害)が合わさっていて、家族はそれに従って生きざるを得なかったという環境。
その基礎にあるのはキリスト教の終末思想と神の審判というところから来ているようですが、モルモン教はその中でも特殊なもののようです。
ただし、モルモン教やモルモン教徒の人々がみんなそうでは無いのは読んでいるとわかります。どちらにしても日本人にはキリスト教の考え方からして理解しづらいのですが、アメリカにはサバイバリストと言われる、終末(これには災害や核戦争なども含まれる)に備えて食料や燃料を備蓄したり、武装したりしている人たちが少なからずいるそうです。
著者はこんな環境で学校にも行かず、ホームスクーリング(家庭で教育する)というような教育もほとんど受けずに育ち、さらに父親からの強制的な労働だけでなくネグレクトとも言えるような危険や暴力にさらされます。その部分はもちろん衝撃的です。
でも、そんな環境から大学に行き、自分の中の父親や家庭からの影響と闘いながら勉強を進めていく様子が私にはよりインパクトがありました。
洗脳されるという事の恐ろしさ、そこから抜け出る困難さがビシビシ感じられて、人間の根元ってなんなんだろう?ということまで考えてしまいました。
この困難な状況から抜けられたのは、この本の題名であるエデュケーション(教育)を受けたから。
学校に行かずに系統的な勉強をしていないし、常識としての歴史や科学を学んでいない著者が大学では新たな困難に会います。生活習慣もあまりに周囲と違うので、馴染むことができません。
そんな中で、諦めずに学び、彼女の能力を伸ばそうとしてくれる周囲や教授に出会うことができたのは本当に凄い。
教育の力、学ぶという事の力は彼女に新しい世界を見せたけれど、それを自分のものにする能力と努力もあったという両方の力だったのだと思います。
すごく特殊な環境であった著者の物語ですが、そこから家族とは何か、親とは何か、宗教や信条とは何か、教育とは何か、学ぶとは何か、学問とは何か、ということを考えさせられる本でした。
読み出したら止まらなくなってしまってしまいました。読み応えがある本です。
これはアメリカでベストセラーになるなと思いますが、日本では果たしてこういう本がベストセラーになるかな?と思います。
アメリカという国の驚くような極端な一面と知的な一面が両方感じられた本でした。