ミケマル的 本の虫な日々

『旗本婦人が見た江戸のたそがれ』


『旗本婦人が見た江戸のたそがれ 井関隆子のエスプリ日記』
      深沢秋男著    文春新書

 紀ノ国屋で買った本のうちの一冊です。

 著者の深沢氏が鹿島神宮の大宮司だった鹿島則文の収拾した「桜山文庫」(昭和女子大図書館所蔵)に収められている井関隆子の日記を発見し、その内容が非常に興味深いので、その研究を行い、『井関隆子日記』等を以前に出版しているらしい。それらの内容から、一般の人にも判りやすく抜粋したのが、本書となったらしいです。

 井関隆子さんが、55歳から60歳までの間に記した日記なのですが、ちょうど江戸の末期(天保11年から15年)の江戸の様子が書かれています。おまけに、この人は江戸の旗本に嫁して、すでに未亡人になっているのですが、義理の子どもや孫が幕府や大奥の中枢に仕える重役であったため、江戸城内の様子も詳しく書かれているところが、歴史的価値があると考えられるようです。

 歴史的に興味深いということも色々あるのですが、それよりも、隆子さんの博識、客観的で忌憚の無い意見がすばらしい 後妻なので、直接血のつながりに無い子どもや孫なのですが、彼らはもちろん親戚の人たちも、皆隆子さんのところに来て、城内で起こったことやお勤めの事などを、報告している所をみると、その見識で一目置かれていたということが良くわかります。

 しかし、まじめ一方ではなく、お酒を飲むのが好きで、源氏物語やお月見など風流も愛し、男女の仲や男色などについても書かれており、面白い人でもあったようです。

 江戸時代にも、好奇心旺盛で、博識で、客観的意見を持つ、こんな女性がいたのだなと、とても感心しました。 そして、経済的にも恵まれていたけれども、離れに住んで、悠々自適な生活を送りながらも、血のつながりが無い家族にも尊敬されて暮らす彼女は、理想的な隠居暮らしと言えるでしょうね。

 冒頭に「日々の生活を記録することが、後々の人が読んだら役に立つかもしれない」という動機で書き始めたと記されているということなので、隆子さん、役に立っていますよと言ってあげたいな、などと思いました。

 

 

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