ある夏の日曜日の朝の事、ゆっくりとベットから下り部屋の窓を開け空を見上げる 朝とは言ってもまだ午前3時、空には星がキラキラと輝いている。
窓から顔を出していると心地よい風が私の頬を掠める
ここ数日の猛暑の中での仕事で疲れているにもかかわらず何時もの癖で早くに目が覚めてしまう 今日は体を休める為釣には行かないでおこうと思っていた そしてこの頃していなかった家族サービスでもと。
星を眺めているうちにあの渓の事を想っていた 毎年2、3回は必ず釣に行く私のお気に入りの渓だ 豊富に流れる水に広い川原、そこに棲む渓魚は皆力強い容姿そして光り輝く美しい魚体なのだ。
人気河川でもある為に釣り人は多く入っていて年々魚影が少なくはなってきている、だがその渓の中に立っている事だけで私は幸せな気持ちになれるそんな不思議な渓だ。
「そう言えば今年はまだ一度も行ってないよな」 「あの尺二寸の虹鱒を上げた淵は今はどうなのかな」そう考えているうちに何かが込み上げてきていた
もう駄目だ「よし!行ってみよう!」 私は静かに用意を済ませ"釣に行く"と書いた置手紙を残しこっそりと車に乗り込みキーを回すのと同時に車を発進させた
釣に毎週のように行く事に対して嫁はどうのこうの言う事は無いが何故かしらこんな時ビクビクしてしまう、男とは嫁には弱い生き物なのだろう 私だけでは無いとは思うが・・・
途中コンビニに寄り食料を買う この時必ず買うのがソーセージと缶ビール ソーセージは腹持ちが良いし炎天下の中でも"あめる"事は無いだろう そして缶ビールは入渓時に川の流れの中に隠しておいて"御帰還ビール"これがまた止められないのです
車は町の中から抜け出し国道275号線を順調に北上する 途中から道道に入ると私の専用道路かのように全くと言って良いほど他の車と出会わない
まぁ何時もの事だがこれほど車が走っていないのも少し寂しいものです っていうかちょっと怖い・・・

気分をまぎわらすためステレオのボリュームを上げる 時折車道脇の藪の中に光る二つの光にビクッとさせられる これはヘッドライトに反射したキタキツネの目の光なのだろう
東の空を見るとうっすらと明るくなってきた これから太陽が顔を出す時間までが私の好きな時間帯だ

全てがモノトーンの世界からまず空が青色に変わるそして山々の木々が最初は濃い緑から鮮やかな緑色に、足元を見ると太陽の光に照らされた水の流れがキラキラと光り輝く、そして後ろを振り返ると私の影が長く伸びる
あまりそのような事は気にしない人は多いとは思いますが私はその瞬間がたまらなく好きなのだ

道道から脇道に入り橋の上で車を止め川を覗き込む ここ数日の雨で水が濁っているのではと心配はしていたが水の流れは綺麗でホッとする。
車に乗り込み林道を上流へと走らせる 本当なら車止めから上流へ入渓したいのだがこの上ではダム工事が始まっており上流部への入渓は現在は不可能
上流部に入るルートもあるにはあるがそのルートは長く困難な道程で単独では無理は出来ない
ハンドルを左に切り脇道へ入る 道は急な下り坂で雨の為か水の流れた痕が深い溝となりハンドルを握る手が汗ばむ
木が倒れていて道を塞いでいるようだがなんとか通れるようだ ちょっとした空き地に車を止め釣の準備を始める
何も焦る事は無いのだが何故だか単独の時ウエーダーを履く手がおぼつかない 可笑しな自分に少し苦笑しながら準備を整えロッドを手にして渓へと歩き始める
相変わらず水の流れは力強い流れだ 水の流れの弱いところを見つけて流れを渡りようやく対岸に辿り着く。そこでロッドを継ぎラインを通す
今日は単独釣行なので久しぶりにフライフィッシングに挑戦です ティペットの先をフライのアイに通すのに多少イライラしながらも準備は完了
フライにフロータントを染み込ませキャストを繰り返す するとすぐに後ろの枝に引っかかる・・・やれやれ まぁ今日はフライの練習ということで

フライを枝から外し再度キャストを始める そして又枝に引っ掛ける・・・同じ事を何度か繰り返しながら一キロほど釣り上がる フライを見に来る渓魚はたまにいるものの私のフライに掛かる渓魚はまだいない
川辺に腰を下ろしフライを変える 変えるとはいってもフライボックスの中にはエルクヘアーカディスのみ(私はこれしか巻けないのである)でサイズをワンランク下げるだけ
フライを変えた後も私は腰を下ろしたまま川の流れをぼんやりと眺めていた 心の中では「べつに釣れなくも良いじゃないか、この渓に来られただけで」という想いと「せめて一尾」という想いがあった
背中の竿ケースの中には餌竿が入っている 餌は持って来てはいなかったがいざとなれば川虫やトンボでも餌となる フライは止めて餌釣に変えようか・・・
そんな想いの中私はゆっくりと立ち上がりまた遡行を始める
何者かの影が私の前を横切る 空を見上げると鳶がピーヒョロ~ピーヒョロ~と鳴きながら空を円を描いて飛んでいる きっと釣師の獲物を狙っているのだろう
釣れない時もまた良い事もある 普段は気にもとめない川辺に咲く野花や虫達 それらにカメラを向けあーだこーだと言いながらシャッターを切る、最近覚えた写真を撮ることの楽しみが増えるからだ
家に帰ってからカメラからパソコンに画像を取り込み一枚一枚ゆっくりと出来を確かめる そして良い写真が撮れた時は気分が良いものだ
今はまだ小さなデジカメだが一眼レフのカメラを持って渓を歩く日は近いかもしれませんね まぁ後は嫁をどう口説くかによります
私は一尾の渓魚に出会えないでまだ渓の中にいた、目の前にはあの尺二寸を上げたポイントがある
ゆっくりとその場に近づき二、三度竿を振りフライを流れに乗せる 瞬きをせずにフライの行方を追う
すると岩陰から渓魚が出てきてフライを咥えた 軽くあわせると手に伝わる魚信、なんとも心地よい
ネットを持っていないのでライディングには少し苦労はしたが八寸程の虹鱒を手にした 銀毛のように光る綺麗な魚体だ

三枚ほど写真に収めてから虹鱒を流れに帰す 最初は手の中でユラユラと揺られていたがやがてもといた岩陰に戻っていった
「今日はこの一尾で満足だ」そう思っていても次の獲物を求め竿を振る私がいる 悲しい釣師の性だ
先ほどの一尾で気が落ち着いたのか腕が上がったのかは分からないがポイント毎に渓魚が顔を見せてくれる その度に写真に収めては流れに戻す
「もうこれで本当に満足だ」 まだ脱渓地点までは来てはいなかったが私は竿を仕舞いカメラを手にし脱渓地点までゆっくりと歩き始めた
太陽はいつのまにか高く上がり気温も上がり始めた 額に流れる汗をふき取りベストの背中に入れたペットボトルを取り出し半分ほど一気に飲んだ 途中何度か足を止め花や景色を写真に収める
右上に林道が見えてきた、もうそろそろ脱渓地点だ
脱渓地点から上流部はもうかれこれ十数年は入っていない ここから先には砂防ダムがありそこからしばらく進むと壊れた橋がある、そこが車止めでした
そこに車を置き林道跡を一時間ほど歩いてからの釣始めでした
初めてこの渓で渓魚に出会えた時の事は今でも鮮明に覚えています この豊富な水の流れの中生き抜いた渓魚は皆パワフルで美しい、そして渓相がまた私好みなんですね
夏に来た時の二メートル半を超えるラワンブキの林にはビックリとさせられたものです
出会える渓魚は虹鱒が主ですがこの上流域には岩魚も多くいるそうです 私もかなり奥まで攻めましたが岩魚は小さな支流で出会った六寸ほどの岩魚一尾だけです
何時の日かこの奥の岩魚達に出会う事が私の夢でもあります ただ日帰りでは無理なのでしょうね
脱渓地点から林道に上がる その前から工事関係の車が頻繁に走っていた
ここは通行止めのゲートの先の林道である事もあり私は車に出会わないよう祈りながら車へと急いだ 何故かと言うとここでは工事関係の人と釣師との間で争い事が多いと聞いていた
釣に来て嫌な気分にもなりたくもないからである
私の日頃の行ないがよいのか一台の車にも会わずにゲートに辿り着いた、ゲート横のガードマンボックスにも人影は無し ホッとしてここで残しておいた水を一気に飲み干す。
ゲートを過ぎると道はアスファルトの道となる 歩きやすいのは良いが木陰も無くまた大量の汗が吹き出てくる 汗を拭いながら歩いていると黄色い花が目に入った

この花は確か「北の国’98時代」で 正吉が蛍に"百万本のバラの花"の代わりに送り続けた花です 後で調べて分かったのですがこの花は"大反魂草(オオハンゴンソウ)"という名前との事
北の国を全話見ている私でしたから気が付きましたが興味の無い人にはただの野花ですよね 何処にでも咲いている花ですし
車に着くとなんと私の車の近くには四台の車が止まっていた、車の中には寝ている人も 多分皆釣師なのでしょう
少し焦りながらも川に向かい流れの中に隠しておいた缶ビールを回収する やはり夏という事もありそんなに冷えてはいないが充分に旨いと感じられた
車の中で少し仮眠をとってから帰るとしよう さて嫁がどう私を迎えてくれるのが少し不安だが・・・
神に祈りながら私は横になった
END
窓から顔を出していると心地よい風が私の頬を掠める
ここ数日の猛暑の中での仕事で疲れているにもかかわらず何時もの癖で早くに目が覚めてしまう 今日は体を休める為釣には行かないでおこうと思っていた そしてこの頃していなかった家族サービスでもと。
星を眺めているうちにあの渓の事を想っていた 毎年2、3回は必ず釣に行く私のお気に入りの渓だ 豊富に流れる水に広い川原、そこに棲む渓魚は皆力強い容姿そして光り輝く美しい魚体なのだ。
人気河川でもある為に釣り人は多く入っていて年々魚影が少なくはなってきている、だがその渓の中に立っている事だけで私は幸せな気持ちになれるそんな不思議な渓だ。
「そう言えば今年はまだ一度も行ってないよな」 「あの尺二寸の虹鱒を上げた淵は今はどうなのかな」そう考えているうちに何かが込み上げてきていた
もう駄目だ「よし!行ってみよう!」 私は静かに用意を済ませ"釣に行く"と書いた置手紙を残しこっそりと車に乗り込みキーを回すのと同時に車を発進させた
釣に毎週のように行く事に対して嫁はどうのこうの言う事は無いが何故かしらこんな時ビクビクしてしまう、男とは嫁には弱い生き物なのだろう 私だけでは無いとは思うが・・・
途中コンビニに寄り食料を買う この時必ず買うのがソーセージと缶ビール ソーセージは腹持ちが良いし炎天下の中でも"あめる"事は無いだろう そして缶ビールは入渓時に川の流れの中に隠しておいて"御帰還ビール"これがまた止められないのです
車は町の中から抜け出し国道275号線を順調に北上する 途中から道道に入ると私の専用道路かのように全くと言って良いほど他の車と出会わない
まぁ何時もの事だがこれほど車が走っていないのも少し寂しいものです っていうかちょっと怖い・・・

気分をまぎわらすためステレオのボリュームを上げる 時折車道脇の藪の中に光る二つの光にビクッとさせられる これはヘッドライトに反射したキタキツネの目の光なのだろう
東の空を見るとうっすらと明るくなってきた これから太陽が顔を出す時間までが私の好きな時間帯だ

全てがモノトーンの世界からまず空が青色に変わるそして山々の木々が最初は濃い緑から鮮やかな緑色に、足元を見ると太陽の光に照らされた水の流れがキラキラと光り輝く、そして後ろを振り返ると私の影が長く伸びる
あまりそのような事は気にしない人は多いとは思いますが私はその瞬間がたまらなく好きなのだ

道道から脇道に入り橋の上で車を止め川を覗き込む ここ数日の雨で水が濁っているのではと心配はしていたが水の流れは綺麗でホッとする。
車に乗り込み林道を上流へと走らせる 本当なら車止めから上流へ入渓したいのだがこの上ではダム工事が始まっており上流部への入渓は現在は不可能
上流部に入るルートもあるにはあるがそのルートは長く困難な道程で単独では無理は出来ない
ハンドルを左に切り脇道へ入る 道は急な下り坂で雨の為か水の流れた痕が深い溝となりハンドルを握る手が汗ばむ
木が倒れていて道を塞いでいるようだがなんとか通れるようだ ちょっとした空き地に車を止め釣の準備を始める
何も焦る事は無いのだが何故だか単独の時ウエーダーを履く手がおぼつかない 可笑しな自分に少し苦笑しながら準備を整えロッドを手にして渓へと歩き始める
相変わらず水の流れは力強い流れだ 水の流れの弱いところを見つけて流れを渡りようやく対岸に辿り着く。そこでロッドを継ぎラインを通す
今日は単独釣行なので久しぶりにフライフィッシングに挑戦です ティペットの先をフライのアイに通すのに多少イライラしながらも準備は完了
フライにフロータントを染み込ませキャストを繰り返す するとすぐに後ろの枝に引っかかる・・・やれやれ まぁ今日はフライの練習ということで

フライを枝から外し再度キャストを始める そして又枝に引っ掛ける・・・同じ事を何度か繰り返しながら一キロほど釣り上がる フライを見に来る渓魚はたまにいるものの私のフライに掛かる渓魚はまだいない
川辺に腰を下ろしフライを変える 変えるとはいってもフライボックスの中にはエルクヘアーカディスのみ(私はこれしか巻けないのである)でサイズをワンランク下げるだけ
フライを変えた後も私は腰を下ろしたまま川の流れをぼんやりと眺めていた 心の中では「べつに釣れなくも良いじゃないか、この渓に来られただけで」という想いと「せめて一尾」という想いがあった
背中の竿ケースの中には餌竿が入っている 餌は持って来てはいなかったがいざとなれば川虫やトンボでも餌となる フライは止めて餌釣に変えようか・・・
そんな想いの中私はゆっくりと立ち上がりまた遡行を始める
何者かの影が私の前を横切る 空を見上げると鳶がピーヒョロ~ピーヒョロ~と鳴きながら空を円を描いて飛んでいる きっと釣師の獲物を狙っているのだろう
釣れない時もまた良い事もある 普段は気にもとめない川辺に咲く野花や虫達 それらにカメラを向けあーだこーだと言いながらシャッターを切る、最近覚えた写真を撮ることの楽しみが増えるからだ
家に帰ってからカメラからパソコンに画像を取り込み一枚一枚ゆっくりと出来を確かめる そして良い写真が撮れた時は気分が良いものだ
今はまだ小さなデジカメだが一眼レフのカメラを持って渓を歩く日は近いかもしれませんね まぁ後は嫁をどう口説くかによります
私は一尾の渓魚に出会えないでまだ渓の中にいた、目の前にはあの尺二寸を上げたポイントがある
ゆっくりとその場に近づき二、三度竿を振りフライを流れに乗せる 瞬きをせずにフライの行方を追う
すると岩陰から渓魚が出てきてフライを咥えた 軽くあわせると手に伝わる魚信、なんとも心地よい
ネットを持っていないのでライディングには少し苦労はしたが八寸程の虹鱒を手にした 銀毛のように光る綺麗な魚体だ

三枚ほど写真に収めてから虹鱒を流れに帰す 最初は手の中でユラユラと揺られていたがやがてもといた岩陰に戻っていった
「今日はこの一尾で満足だ」そう思っていても次の獲物を求め竿を振る私がいる 悲しい釣師の性だ
先ほどの一尾で気が落ち着いたのか腕が上がったのかは分からないがポイント毎に渓魚が顔を見せてくれる その度に写真に収めては流れに戻す
「もうこれで本当に満足だ」 まだ脱渓地点までは来てはいなかったが私は竿を仕舞いカメラを手にし脱渓地点までゆっくりと歩き始めた
太陽はいつのまにか高く上がり気温も上がり始めた 額に流れる汗をふき取りベストの背中に入れたペットボトルを取り出し半分ほど一気に飲んだ 途中何度か足を止め花や景色を写真に収める
右上に林道が見えてきた、もうそろそろ脱渓地点だ
脱渓地点から上流部はもうかれこれ十数年は入っていない ここから先には砂防ダムがありそこからしばらく進むと壊れた橋がある、そこが車止めでした
そこに車を置き林道跡を一時間ほど歩いてからの釣始めでした
初めてこの渓で渓魚に出会えた時の事は今でも鮮明に覚えています この豊富な水の流れの中生き抜いた渓魚は皆パワフルで美しい、そして渓相がまた私好みなんですね
夏に来た時の二メートル半を超えるラワンブキの林にはビックリとさせられたものです
出会える渓魚は虹鱒が主ですがこの上流域には岩魚も多くいるそうです 私もかなり奥まで攻めましたが岩魚は小さな支流で出会った六寸ほどの岩魚一尾だけです
何時の日かこの奥の岩魚達に出会う事が私の夢でもあります ただ日帰りでは無理なのでしょうね
脱渓地点から林道に上がる その前から工事関係の車が頻繁に走っていた
ここは通行止めのゲートの先の林道である事もあり私は車に出会わないよう祈りながら車へと急いだ 何故かと言うとここでは工事関係の人と釣師との間で争い事が多いと聞いていた
釣に来て嫌な気分にもなりたくもないからである
私の日頃の行ないがよいのか一台の車にも会わずにゲートに辿り着いた、ゲート横のガードマンボックスにも人影は無し ホッとしてここで残しておいた水を一気に飲み干す。
ゲートを過ぎると道はアスファルトの道となる 歩きやすいのは良いが木陰も無くまた大量の汗が吹き出てくる 汗を拭いながら歩いていると黄色い花が目に入った

この花は確か「北の国’98時代」で 正吉が蛍に"百万本のバラの花"の代わりに送り続けた花です 後で調べて分かったのですがこの花は"大反魂草(オオハンゴンソウ)"という名前との事
北の国を全話見ている私でしたから気が付きましたが興味の無い人にはただの野花ですよね 何処にでも咲いている花ですし
車に着くとなんと私の車の近くには四台の車が止まっていた、車の中には寝ている人も 多分皆釣師なのでしょう
少し焦りながらも川に向かい流れの中に隠しておいた缶ビールを回収する やはり夏という事もありそんなに冷えてはいないが充分に旨いと感じられた
車の中で少し仮眠をとってから帰るとしよう さて嫁がどう私を迎えてくれるのが少し不安だが・・・
神に祈りながら私は横になった
END