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鍛冶俊樹の軍事ジャーナル
(2021年9月24日号)
*韓国と豪州の潜水艦兵器
9月7日、韓国メディアは「韓国軍が最近、SLBMの発射実験に成功した」と報道した。SLBMとは潜水艦搭載型弾道ミサイルである。潜水中の潜水艦から弾道ミサイルを発射するのは容易な技術ではなく、これまでに成功しているのは北朝鮮を含めて7か国しかない。韓国がSLBMを開発しているとの公開情報もなかった。しかもこの報道には、写真がない。また「最近」とあるだけで正確な日時も不明である。 韓国国防省の公式発表でもないので、果たして本当なのか?と軍事専門家たちは疑惑の眼差しを向けたのである。
ところが15日に文在寅大統領立会いのもと、発射実験を行い成功して写真も公開された。北朝鮮は「あれはSLBMではない」などと酷評したが、SLBMを持ちながら、それを搭載する潜水艦の開発が進まない北朝鮮の焦りとしか思われない。
この9月15日と言う日は、よほど潜水艦に縁がある日なのか、同日、驚くべき発表が米英豪首脳の共同オンライン会見で行われた。オーストラリアに米英が原子力潜水艦技術を提供すると言うのである。
今までオーストラリアが原子力潜水艦を持つなどと言う話は露ほどもなく、文字通り寝耳に水と言ってもいいような発表である。しかも韓国のSLBM成功と豪原潜開発は日本にとって朗報にあらずして凶報なのである。
なぜなら日本には現在SLBMも原潜もないし、将来的にも持つ計画がないのである。韓国はSLBMを秘密裏に開発していたわけだが、米韓軍事同盟上、米国が了承していたことは疑いない。
つまり米国はインド太平洋構想とクワッド(日米豪印会合)の提唱国である日本を差し置いて韓国と豪州に、日本が持ちえない潜水艦兵器を持つことを許したのである。米国のインド太平洋戦略が、もはや日本を抜きにして展開し始めているのだ。
だからと言って米国の不実を日本は責める立場にない。日本はSLBMも原潜も持ちたいと米国に言ったことは一度もない、自国の防衛に極めて消極的な国なのである。バイデン大統領はアフガニスタン撤退に際して「アフガン国軍が戦う気のない戦争で米兵が戦死してはならない」と言ったが、その言葉は、そのまま日本に当てはまりそうである。
(2021年9月24日号)
*韓国と豪州の潜水艦兵器
9月7日、韓国メディアは「韓国軍が最近、SLBMの発射実験に成功した」と報道した。SLBMとは潜水艦搭載型弾道ミサイルである。潜水中の潜水艦から弾道ミサイルを発射するのは容易な技術ではなく、これまでに成功しているのは北朝鮮を含めて7か国しかない。韓国がSLBMを開発しているとの公開情報もなかった。しかもこの報道には、写真がない。また「最近」とあるだけで正確な日時も不明である。 韓国国防省の公式発表でもないので、果たして本当なのか?と軍事専門家たちは疑惑の眼差しを向けたのである。
ところが15日に文在寅大統領立会いのもと、発射実験を行い成功して写真も公開された。北朝鮮は「あれはSLBMではない」などと酷評したが、SLBMを持ちながら、それを搭載する潜水艦の開発が進まない北朝鮮の焦りとしか思われない。
この9月15日と言う日は、よほど潜水艦に縁がある日なのか、同日、驚くべき発表が米英豪首脳の共同オンライン会見で行われた。オーストラリアに米英が原子力潜水艦技術を提供すると言うのである。
今までオーストラリアが原子力潜水艦を持つなどと言う話は露ほどもなく、文字通り寝耳に水と言ってもいいような発表である。しかも韓国のSLBM成功と豪原潜開発は日本にとって朗報にあらずして凶報なのである。
なぜなら日本には現在SLBMも原潜もないし、将来的にも持つ計画がないのである。韓国はSLBMを秘密裏に開発していたわけだが、米韓軍事同盟上、米国が了承していたことは疑いない。
つまり米国はインド太平洋構想とクワッド(日米豪印会合)の提唱国である日本を差し置いて韓国と豪州に、日本が持ちえない潜水艦兵器を持つことを許したのである。米国のインド太平洋戦略が、もはや日本を抜きにして展開し始めているのだ。
だからと言って米国の不実を日本は責める立場にない。日本はSLBMも原潜も持ちたいと米国に言ったことは一度もない、自国の防衛に極めて消極的な国なのである。バイデン大統領はアフガニスタン撤退に際して「アフガン国軍が戦う気のない戦争で米兵が戦死してはならない」と言ったが、その言葉は、そのまま日本に当てはまりそうである。
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【正論】自衛隊最高指揮官になる覚悟は
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織田邦男
元空将 東洋学園大学客員教授
自民総裁選候補者に問う
自民党総裁選が17日告示された。事実上、総理大臣を選ぶ選挙である と同時に、自衛隊の最高指揮官を選ぶ選挙でもある。かつて「改めて法律 を調べてみたら、首相である自分が自衛隊の最高指揮官であることを知っ た」と述べた総理大臣がいた。この二の舞いは御免被(ごめんこうむ)り たい。
最近の自衛隊は「平和と独立」を守る主任務以外でも、働き詰めの印象 がある。8月下旬は「邦人等の輸送」でアフガニスタンに飛んだ。東京五 輪・パラリンピックでは約8500人の自衛官が駆り出された。8月中旬 の大雨では長崎県および佐賀県で、そして7月には静岡県熱海市の大規模 土石流災害で捜索、救助にあたった。
新型コロナのワクチン接種では5月24日から東京と大阪で大規模接種 にあたっている。余談だが民間の医者は、1回接種で約7000円の手当 が出るらしい。自衛隊医官の場合、何回接種しようと日額3000円とい う。割り切れない思いがあるが、ここでは触れない。国民を助けるのは自 衛隊の役目といえばそれまでだが、自衛官も生身の人間であることを忘れ てもらっては困る。
現在9割を超える国民が自衛隊の存在を支持している。好感度を押し上 げたのは、東日本大震災での活躍が大きい。だが文句を言わぬ自衛隊に甘 えてか、最近では鳥インフルエンザや豚熱の殺処分、ガレキの撤去からゴ ミ処理までまるで「便利屋」扱いが気になる。
「平和と独立」を守る自衛隊を災害派遣に投入するには、「公共性、緊 急性、非代替性」の原則がある。原則から外れた便利屋扱いは、自衛隊の 訓練機会を奪い、練度を下げ、結果的に自衛隊の精強性を奪う。それは抑 止力低下というブーメランとなることを国民には知ってもらいたい。
自衛隊を目の敵にする勢力
未(いま)だに自衛隊を目の敵にする勢力があるのも心を痛める。自衛 隊のオリ・パラ支援を「治安出動態勢を狙う」と言った。訓練で市中行進 する際、「迷彩服、お断り」の横断幕でご丁寧に迎えてくれる。海賊対処 で出航する自衛艦を「自衛隊は憲法違反」の怒号で見送ってくれる。
自衛隊を日陰者扱いしようとするメディアがあるのも事実だ。災害現場 のニュースを「警察、消防など(・・)が捜索活動…」と「自衛隊抜き」
で報道する。最近は大分変わってきたようだ。「など(・・)」が「自衛 隊」に変わるのはOBとして何より嬉(うれ)しい。だが活動中の警察 官、消防隊員を写しながら、「迷彩服」だけは避けるという絶妙のカメラ ワークに苦笑することもある。諸外国ではありえないことだ。9割を超え る国民が自衛隊の存在を認めるとはいえ、未だに憲法学者の約6割が自衛 隊を憲法違反としているからだろう。自衛隊の存在は政治的には解決して も、法的には解決していない。この現実を総裁候補者はどう認識している のか聞いてみたい。
現役時代、いつも思っていた。憲法学者は、自衛隊を憲法違反と主張す るなら、なぜ「解散すべき」と言わないのか。さもなくば「改憲すべき」 と言うべきだ。日本は厳しい安全保障環境に置かれている。災害大国日本 にあって自衛隊を「解散すべき」という勇気はない。さりとて「改憲すべ き」と言うのも立場上できないのだろう。「憲法違反」と言いっぱなしで は、無責任かつ不誠実である。
日本共産党はまだ正直だ。志位和夫委員長は「私たちは、自衛隊の憲法 上の判断では、違憲という判断」と述べ、「憲法9条の理想にあわせて自 衛隊の現実を変えること」を選ぶという。だが、自衛隊解散までの間に 「日本に対する主権侵害があった場合には、自衛隊を活用します。あるい は大きな災害があったときには、当然、自衛隊員のみなさんには頑張って いただきます」と言う。大変正直で結構だが、こんな身勝手さが通用する とでも思っているのか。
「命をかけろ」と言えるか
自衛官には事実上、言論の自由はない。それに政治は甘えていないか。 自衛隊を便利屋扱いし、こき使ったあげく50代後半には放り出してハ ローワークに行けという。困った時の自衛隊頼みの割には未だに6割以上 の地方自治体が募集協力を拒否しているという。
自衛隊は志願制であり、いつでも辞められる。志願者が減れば自衛隊は 縮小し、質は低下する。最近では自衛隊パイロットの早期退職が問題に なっているらしい。これに対し訓練費用の返還を義務付ける「償還金」制 度の導入が検討されているという。元パイロットの筆者も正直驚いた。官 僚の浅知恵とはいえ、これでは世界の笑いものになる。
少子化が加速する今、精強な自衛隊は所与のものではない。処遇改善も 必要だが、まずは6割の憲法学者が違憲という状態を解消することだ。こ れを放置しながら、スクランブルに、島嶼(とうしょ)奪還に、災害派遣 に命をかけろというのは、あまりにも身勝手過ぎる。候補者には、自衛隊 最高指揮官としての覚悟を語ってもらいたい。(おりた くにお)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
松本市 久保田 康文
【産経ニュース】採録
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織田邦男
元空将 東洋学園大学客員教授
自民総裁選候補者に問う
自民党総裁選が17日告示された。事実上、総理大臣を選ぶ選挙である と同時に、自衛隊の最高指揮官を選ぶ選挙でもある。かつて「改めて法律 を調べてみたら、首相である自分が自衛隊の最高指揮官であることを知っ た」と述べた総理大臣がいた。この二の舞いは御免被(ごめんこうむ)り たい。
最近の自衛隊は「平和と独立」を守る主任務以外でも、働き詰めの印象 がある。8月下旬は「邦人等の輸送」でアフガニスタンに飛んだ。東京五 輪・パラリンピックでは約8500人の自衛官が駆り出された。8月中旬 の大雨では長崎県および佐賀県で、そして7月には静岡県熱海市の大規模 土石流災害で捜索、救助にあたった。
新型コロナのワクチン接種では5月24日から東京と大阪で大規模接種 にあたっている。余談だが民間の医者は、1回接種で約7000円の手当 が出るらしい。自衛隊医官の場合、何回接種しようと日額3000円とい う。割り切れない思いがあるが、ここでは触れない。国民を助けるのは自 衛隊の役目といえばそれまでだが、自衛官も生身の人間であることを忘れ てもらっては困る。
現在9割を超える国民が自衛隊の存在を支持している。好感度を押し上 げたのは、東日本大震災での活躍が大きい。だが文句を言わぬ自衛隊に甘 えてか、最近では鳥インフルエンザや豚熱の殺処分、ガレキの撤去からゴ ミ処理までまるで「便利屋」扱いが気になる。
「平和と独立」を守る自衛隊を災害派遣に投入するには、「公共性、緊 急性、非代替性」の原則がある。原則から外れた便利屋扱いは、自衛隊の 訓練機会を奪い、練度を下げ、結果的に自衛隊の精強性を奪う。それは抑 止力低下というブーメランとなることを国民には知ってもらいたい。
自衛隊を目の敵にする勢力
未(いま)だに自衛隊を目の敵にする勢力があるのも心を痛める。自衛 隊のオリ・パラ支援を「治安出動態勢を狙う」と言った。訓練で市中行進 する際、「迷彩服、お断り」の横断幕でご丁寧に迎えてくれる。海賊対処 で出航する自衛艦を「自衛隊は憲法違反」の怒号で見送ってくれる。
自衛隊を日陰者扱いしようとするメディアがあるのも事実だ。災害現場 のニュースを「警察、消防など(・・)が捜索活動…」と「自衛隊抜き」
で報道する。最近は大分変わってきたようだ。「など(・・)」が「自衛 隊」に変わるのはOBとして何より嬉(うれ)しい。だが活動中の警察 官、消防隊員を写しながら、「迷彩服」だけは避けるという絶妙のカメラ ワークに苦笑することもある。諸外国ではありえないことだ。9割を超え る国民が自衛隊の存在を認めるとはいえ、未だに憲法学者の約6割が自衛 隊を憲法違反としているからだろう。自衛隊の存在は政治的には解決して も、法的には解決していない。この現実を総裁候補者はどう認識している のか聞いてみたい。
現役時代、いつも思っていた。憲法学者は、自衛隊を憲法違反と主張す るなら、なぜ「解散すべき」と言わないのか。さもなくば「改憲すべき」 と言うべきだ。日本は厳しい安全保障環境に置かれている。災害大国日本 にあって自衛隊を「解散すべき」という勇気はない。さりとて「改憲すべ き」と言うのも立場上できないのだろう。「憲法違反」と言いっぱなしで は、無責任かつ不誠実である。
日本共産党はまだ正直だ。志位和夫委員長は「私たちは、自衛隊の憲法 上の判断では、違憲という判断」と述べ、「憲法9条の理想にあわせて自 衛隊の現実を変えること」を選ぶという。だが、自衛隊解散までの間に 「日本に対する主権侵害があった場合には、自衛隊を活用します。あるい は大きな災害があったときには、当然、自衛隊員のみなさんには頑張って いただきます」と言う。大変正直で結構だが、こんな身勝手さが通用する とでも思っているのか。
「命をかけろ」と言えるか
自衛官には事実上、言論の自由はない。それに政治は甘えていないか。 自衛隊を便利屋扱いし、こき使ったあげく50代後半には放り出してハ ローワークに行けという。困った時の自衛隊頼みの割には未だに6割以上 の地方自治体が募集協力を拒否しているという。
自衛隊は志願制であり、いつでも辞められる。志願者が減れば自衛隊は 縮小し、質は低下する。最近では自衛隊パイロットの早期退職が問題に なっているらしい。これに対し訓練費用の返還を義務付ける「償還金」制 度の導入が検討されているという。元パイロットの筆者も正直驚いた。官 僚の浅知恵とはいえ、これでは世界の笑いものになる。
少子化が加速する今、精強な自衛隊は所与のものではない。処遇改善も 必要だが、まずは6割の憲法学者が違憲という状態を解消することだ。こ れを放置しながら、スクランブルに、島嶼(とうしょ)奪還に、災害派遣 に命をかけろというのは、あまりにも身勝手過ぎる。候補者には、自衛隊 最高指揮官としての覚悟を語ってもらいたい。(おりた くにお)
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松本市 久保田 康文
【産経ニュース】採録