100万回のキッス

先週のある日、あいにくの雨模様の中、
娘と私はランチの為に、近所の村人がこよなく愛する、
安くて美味しいパン屋さんに行った。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
豊富な種類の中からパンをえらんで、
店先のテーブルで食べていたら、
かなりお年を召した小柄なおばあちゃま登場！

パンに熱中する娘を見て、
「あなたはどこの国の人？チャーミングね」
と、娘の手をわしわし握った。
娘と私はにっこり。
後から連れの50代の女性が来て微笑みながら言った。
「驚かせてごめんなさい、母はアルツハイマーなので…」

おばあちゃまは、次に私に目を留めた。
「あら、私あなたのこと好きよ。大好き。　
あなたの顔も手も大好き。ステキだわ」
とわたしの手や顔に触り始めた。そして
「あなたが大好きだから、100万回キッスするわね」
そう言うとわたしの手に立て続けにキッス。
その後顔を両手ではさんで、おでことほっぺにもキッス連打
おばあちゃまの手と唇のなんとやわらかいこと！
たははは…照れちゃうな～

「また雨になるから、もう帰りましょうか」
照れてる私を見かねて、娘さんがやさしく促すと、
「私まだたったの10回しかキスしてないわ、100万回キッスしたいのに」
とすねちゃった。 　
「この人たちは毎日ここに来るから、
また明日キッスしにここに来ましょうね」
バッグから水色綿菓子みたいなふわふわ帽子を出した娘さん、
おばあちゃまの頭にひょいっとそれをのせた。
帽子に気を取られ一気にゴキゲン回復なおばあちゃま、
「食事の邪魔をしてごめんなさい」
とその手を引いて歩き出す娘さん。

2人を見送った後、
20年後にはあんな風で宜しくお願いします、
と娘にたのむ私であった。

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