2月最初の「おうち de CD Concert」。女性が主人公の物語を題材にした音楽を集めてみました。ジェンダーが叫ばれている昨今ですが、登場する女性は皆強い。演奏は、すべてバーンスタイン/ニューヨーク・フィルでまとめてみました。
1曲目は、ベートーヴェン(1770-1827)の「レオノーレ」序曲第3番Op.72a。
ベートーヴェン先生は、人並み以上に女性を愛しておりましたが、心を寄せる女性の多くが貴族や富豪の令嬢など、貴賓で優れた女性が好みだったようです。べートーヴェン唯一の歌劇「フィデリオ」に登場するレオノーレも理想の女性だったと思われます。物語は、愛する夫(フロレスタン)の苦難を救うため、妻レオノーレは男装してフィデリオを名乗り、夫が幽閉されている監獄へ潜入して地下牢から救い出すという、夫婦愛をテーマにしつつ悪を糾弾するというもの。誠実で貞節で、知と勇気を持ったレオノーレのような女性を求め続けていたのでしょうか。
- レナード・バーンスタイン指揮/ニューヨーク・フィルハーモニック
1960年の録音。バーンスタインとNYPのノリに乗った忙しい時期で、多少やっつけ仕事のような印象も受けますがなかなかノリの良い演奏。この演奏も良いですが、個人的には70年代にウィーン・フィルと録音したものの方が、余裕がある盛り上がり方をしていて好きです。
2曲目は、ワーグナー(1813-1883)の楽劇「トリスタンとイゾルデ」~前奏曲と愛の死。
ワーグナーは女好き。この「トリスタンとイゾルデ」を作曲中、ヴェーゼンドンクの妻マティルデと恋愛関係にあったと言われています。同時期に書かれた『ヴェーゼンドンク歌曲』の中の第5曲『夢』は第2幕の愛の二重唱が延々と続く音楽、第3曲『温室にて』は第3幕前奏曲に転用されています。
前奏曲と愛の死は、楽劇の最初と最後の場面をつなぎ合わせたものです。前奏曲は、この楽劇のテーマである許されない恋に堕ちたトリスタンとイゾルデの望みのない愛の憧憬と苦悩を表現しています。冒頭の調性の限界を超えた『トリスタン和音』が印象的です。愛の死は、傷ついたトリスタンがイゾルデに抱かれて息を引き取った後、イゾルデは放心したように歌いだす音楽です。官能的な盛り上がり方が、なんとも言えない。
- レナード・バーンスタイン指揮/ニューヨーク・フィルハーモニック
1967年の録音。響きが明るい都会的なワーグナーといった感じ。後の1981年の3幕ずつ演奏された全曲演奏の方が、ゆっくりと重い演奏なので、その変貌ぶりに驚きます。
最後は、リムスキー=コルサコフ(1844-1908)の交響組曲「シェエラザード」Op.35。
アラブ民族の数世紀にわたる民間伝承の集大成として知られる「アラビアン・ナイト」の物語。R.コルサコフはスコアの冒頭に、
『サルタン・シャーリアール王は、女性たちが虚偽と不安の塊であると信じて、その妻に迎えた女性たちを、ことごとく初夜を迎えた後に殺してしまおうと誓った。しかし、シャーリアール王の妃となったシェエラザードは、毎晩、王に興味深い物語を話して聞かせ、千一夜の間、生命をながらえた。そして王は、その話の面白さに心を惹かれ彼女を殺すのを1日1日と延ばし、ついにはその残酷な誓いを完全に放棄してしまった。シェエラザードはシャーリアール王に語った物語は、世にも不思議な物語ばかりであり、彼女は、その中に詩人たちの詩や民謡の歌詞などを織り交ぜて、物語をいっそう面白いものにしていたのである』
という序文を記しています。4曲からなっており、それぞれ副題が記されていますが、作曲家は「それ以上の立ち入った解釈については、聞き手の自由に委ねたい」とも語っており、物語をそのまま音楽にした訳ではないようです。
- レナード・バーンスタイン指揮/ニューヨーク・フィルハーモニック/ジョン・コリリアーノ(vn)
1959年のバーンスタイン唯一の録音。冒頭からスケールが大きい。大きな波に乗るようで、生き生きとした映像が頭の中で流れるようです。
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