8月1日の午前7時過ぎ、子供3人を乗せた私の愛車は、制限速度の2倍以上と推定される速度で右の車線を走ってきたバイクの体当たりを受けました。
バイクは私の車の運転席ドアと右ボンネットの横付近に激突して倒れました。運転していた20代前半の青年は仕事に行く途中でした。激突して宙を舞うように飛び出したのですが、車のボンネットがクッションの役割を果たしたらしく、彼は道路に軟着陸しました。ヘルメットはしていませんでした。
緑色が私の車で、赤い色が反対車線から愛車の右わき腹に激突してきたバイクです。
一体何が起こったんだろうと、私が運転席のドアを開けると、ちょうど彼が自力で起き上がったところでした。「大丈夫?」と声をかけると、彼は小さくうなずき、驚くべきことに、携帯でどこかに連絡し始めました。携帯は壊れなかったんですね。あとから分かったのは、彼は自分の職場に「交通事故に遭ったので少し遅れる」と電話していたのです。彼の様子を見ると、信じられないことに、腕にかすり傷を負っている以外はとくに変わった様子はありませんでした。
私はどうしていいか分からず、踏切の向こうで交通整理をしていた警察官を手招きしました。警察官は、混んでいる車の整理を一通りつけてから現場にやってきました。数分後には救急車も来ました。その警察官が私に言ったのは次の一言でした。
「あなたの車は保険に入っていますか?」
私が「入っています」と答えると、警察官の表情は安堵の色に変わり、「その保険で車の修理をしてくださいね」とだけ言って、事故の処理は別の警察官に交代しました。
交代した警察官は地元警察の幹部でした。彼はバイクの青年に事情を聴いた後、私の所に来てタイ語で「あなたの責任ですから、保険ですべて解決してください」という意味のことを言いました。えっ?私は自分の耳を疑いました。「バイクはものすごいスピードで横にぶつかってきたんですよ」とだけ抗弁するのがやっとでした。
そうしたやりとりを自力でしていると、私の妻も自転車で現場に駆けつけました。上の娘がとっさに妻に電話したのです。事故が起きて5分後くらいだったでしょうか、妻は洗濯物を干している最中でしたが、そのままにして、子犬のラッキーも檻に入れずに庭にほったらかして、息を切らせながら自転車を漕いできました。私たちがとくに怪我をしていないのを確認すると、妻は少しだけ安堵の表情を見せました。娘からは「交通事故に遭った」というだけの連絡だったので、車と衝突したのかと思い、家族の身体のことが心配だったのです。
妻がやってきたとき、最初にしたことは、私にビデオカメラを手渡すことでした。だから写真が撮れました。家に忘ていたんです。よく気が付く妻です(笑)。
警察官と妻と子供たち、そして後ろ姿は激突したバイクの青年です。
二番目の娘はバイクに横から激突された衝撃で首に痛みを感じていました。息子はわき腹をドアにぶつけ、少しだけ打撲しました。私と上の娘は何にも異常はありませんでした。
この幹部の警察官は、近づいてくる妻の姿を目ざとく見つけました。そして言ったのです。
「この事故は車の責任です。バイクは悪くありません。車は保険に入っているそうだから、それで車の修理とバイクの修理の両方をやってください。この青年は一応救急車で病院に行ってもらいます。当事者はあとで警察署まで来てください。ご主人には500バーツの罰金があります。」
妻の顔色が明らかに曇りました。私は「何て言ってるの?」と妻に聞きました。「あなたが全部悪いんだって。」
私も少し気色ばみました。そんな馬鹿な。妻に事故の状況を説明し、妻がそれを幹部の警官にそのまま言いました。そうすると、この幹部警官は妻と私にこう言いました。
「もし悪くないなら、保険が使えないでしょ。車の修理だけでも相当費用がかかります。この青年には支払い能力がないですよ(青年がうなずく)。もし裁判すれば、ものすごく時間がかかりますよ。そんなことするよりも、お互いのために保険を使ってください。」
不承不承(ふしょうぶしょう)という言葉があります。それでした。無駄な事だと思いながらも、私はその幹部警察官に「本当はバイクの方が悪いってことが分かってるんですよね」と念のために尋ねました。でもやっぱり無駄でした。警察官は私が何を言ってるのかさっぱりその意味が分からないようでした。
小一時間して、警察署に保険会社の担当者がやってきました。事故の直後に高校生の娘が車のダッシュボードを自分で開けて保険証をとり出し、保険会社に電話していたのです。実は電話で妻から指示を受けての行動だったのですが、傍で見ていて「この子にこんなことができるの?」と頼もしく思えてきました。
さて、こんな事故の場合、もし日本だったら、保険会社の担当者はどのような行動を取るでしょうか。私の目の前で書類を作成したり、警察から事故証明書をもらってコピーに走るタイ人担当者の顔には「警察の言うとおりにしか動きません」と書いてあるようにも思えました。
結局私は「不注意な運転」ということで、400バーツの罰金を払うことになりました。駐車違反と同じ最低の金額です。バイクの青年は罰金なしです。でも、青年は駆けつけた母親と一緒に、事故処理をした警察幹部の部屋に相当長く入っていました。何か厳しい注意を受けたのかもしれません。あるいは恩を着せられたのかもしれません。なにしろ自分から激突しておいて怪我らしい怪我もなく無事だったし、相手の車も自分のバイクもすべて相手の保険で何とかなるわけです。青年のバイクは6年前登録のバイクでした。大破して全く使い物にならないようでしたから、ひょっとして事故は儲けものだったかもしれません。
これがタイの事故処理の典型なのでしょうか?タイの交通事故は、大きい車の方に責任があります。そしてお金があったり、ちゃんと保険に入っている方が責任を負うように処理されます。もちろん、それに異議申し立てをして、裁判に持ちこんで相手の非を正すこともできるかもしれません。実際今回のケースでは、事故の一部始終を目撃していた踏切監視所の係員が妻にこう断言したのです。
「もし裁判になれば、100%バイクが負けるよ。あんなスピードで走ってきたからね。俺がちゃんと証言すればの話だけど。」
もし私が裁判をして勝ったらどうなると思います?そうです。保険は使えず、バイクの青年が車の修理費用を負担することになります。でも多分簡単には払えないので、結局私が自己負担することになるのです。それを警察は先刻ご承知なのです。
タイは、ある意味では弱者の味方をする良い社会なのかもしれません。それとも、単に面倒なことを避けたいだけでしょうか?
そういえば、警察署の警官は、上司の書いた事故の顛末書を別の用紙に書き写しながら、「私の兄弟が3人も日本に行ったことがあるのに、私だけまだなんですよ。一度でいいから行ってみたいんです。」と親しげに話しかけてきたのが妙に印象的でした。私も書かれている内容を聞くのがばかばかしくなってきて、愛想よくサインしましたけど、一体、そこには何と書かれていたんでしょう。
妻は警察署を後にするとき、バイクの青年に「あとから身体の具合が悪いと言ってきても、こっちに責任はないからね。よく覚えといてよね」と釘をさすことを忘れませんでした。それに対して青年は「はい、わかりました。」とだけ答え、母親と一緒に私たちに対して「ありがとうございます」と深々としたワイ(相手に手を合わせる挨拶のしぐさ)をして去っていきました。
日本人をカモル、これはタイの基本です。ナンチャッテ、火に油を注ぎました。
あなたも経験すればわかります。
私も70歳が近くなり、やっとわかりました。
確かに、相手が知り合いなのかと思うくらい、優先的に通してくれました。普通の乗用車だったので、どうして役人だと分かるのか、不思議でした。やっぱり知り合いだったのでしょうかね??
「保険に入っていたからではなく、外国人だからそうなった」とナンさんが最初に断定されたので、そのようには思いませんよとレスしたまでです。
交通事故の処理でも、少数民族に対する差別的な扱いが全くないかどうかは分かりません。でも、日本人だからといって差別的に処理されることはまずないだろうと思っているのです。
それ以上に、タイに限らず日本国内でもそうですが、「外国人だから」「〇○人だから」という差別偏見に基づく断定を私は嫌います。
でも、差別とか偏見の問題は、心理学者のフロイドのいう「セルフプロジェクション(自己投影)」の側面が大きいというのが私の基本的な理解です。
それはさておき、現在タイで日本人が差別されている(社会的に不利な扱いを受けている)という事実は、私は確認したことがありません。
この場合は、後方から来るバイクがフェンダーミラーに映ることが多いので事故にはなりにくいですが、見えなければ接触しても不思議ではありませんね。どんな場合でも、警察は車の不注意とするように思います。
結局、車としては自己防衛するしかなく、「バイク様」のわがままを常に許しながら走るしかないということになりますかね(笑)。
今回は、外国人かどうかの確認や免許証の提示を求める前に、警察官は私のところに来るなり保険の有無を確認してきました。外国人だということを警官が知ったのは、私の免許を見たときです。彼は国際免許証を見て「日本人なんですか?」と言いました。
そんなわけで、私は、あまり偏見は持たない方がいいんじゃないかと考えています。
日本だったら、車の方は一旦停止して十分に左右確認したかどうか、バイクの方は速度がどれくらいだったか、ブレーキはかけたのかどうか・・・少なくともこの3点を検証しないと、どちらの責任が大きいかは決められません。
面倒な原因究明を放っておいて、時間のかからない解決方法を選択するのが「タイ式」というふうに私は定義しようと思います。
どちらかが保険に入っていれば、警察がほっとするのも、多少は頷けます。
でも、保険に加入している車に自動的に責任がいくようでは、保険会社もやってられません。タイでは実際に潰れた会社もあるんです。
今回の件では、私よりもタイ人の妻が、バイクの無謀運転と警察の無策を激しく憤慨していました。
いずれにしても、タイに行って車に乗るならちゃんとした保険に入るのは必須だと理解しました。
それからお子さんですが、後から影響が出る場合もありますので、ウォッチしてあげてくださいね。
ところで、後ろから急に車の前に割り込んでくるバイクの多さには慣れてきました。車がブレーキをかけなければ接触しそうな状況は毎日のように経験します。それは、車がブレーキをかければ済むだけの話です。でも横からの体当たりは防ぎようがないです。何しろ相手が見えないんですから。
警察は、車とバイクの事故の大部分の原因がどこにあるか分かりすぎるくらい分かっているはずです。やっぱり、乱暴な運転をするバイクの免許を取り上げる方法を考えるべきでしょう。そうしないと、「危険なわがまま運転」は減りそうにありません。
なんでもかんでも、日本人は被害者(善人)と加害者(悪者)に仕分けしたがりますが、本来はどうなんでしょうか。
タイでの事案は色々考えさせられ所が多いです。
でも、事故の原因だけははっきりさせないと、第二第三の事故が起きてしましますね。
警察の仕事はそこだと思います。
タイ警察には今後も期待したいし、
中進国として頑張って欲しいものです。
続いて事故処理のために駆けつけてきた幹部の方も、最初から事故の原因などにはまったく興味がないようでした。
でも、誰一人悪気がなく、責める気にはなれないから不思議です。タイ人らしい「現実主義」も悪くはないなと、私も内心では思っているからでしょうか。
子供たちが気にしているのは「お父さんが悪かったの?」ということです。子供なりに、お父さんは悪くないと思っているようです。
でも、警察官が、私が悪いと言っているのを現場で聞いていますから、ちょっと割り切れない思いがあるようです。日本的に言えば、教育上はよろしくない経験でしょうね。タイで生きていくんだったら、いい経験かもしれません。
それより、私にとってはいい経験だったと思うしかありません(笑)。
災難でしたね。大事にならなくてよかったですね。
今回のお話すごく興味深かったです。
今回僕が考えたのは、タイの人の「元に戻ったんだからいいでしょう。丸く収めるのが大人というもの」という考えは徹底してるなということです。僕なんかはまだ「権利」「責任」「義務」みたいな考えが染み付いているもので、小さなことなどでたまにトラブルになります。だってたまに「盗人猛々しい」ようなこともあるので。
例えばですが、金を盗まれて捕まえて文句を言うと、返してきて、謝らないので気が収まらずさらに文句を言うと、「返しただろうが。まだ何か問題あるのか」といわれてシッシッと追い返される、というようなことです。
こういう態度は、加害者側が自分の身を守ろうと必死で逆切れしているだけなのかなと思っていましたが、今回の仲裁役である警察官の対応を見ると、タイ人全般が持っている一般的な考えなのだなと思いました。せめてその罰金400バーツはバイクに代わりに払わせて欲しいと思いますが、そうじゃないんですね。
しかし今回のうさぎさんのケースは、自分や家族の命に関わりうる被害を受けたわけだから、「いくらなんでもじょうだんじゃない」と言いたいでしょうね。お姉ちゃんの鞭打ち軽症でありますように。
私なりにこの1点のみが気に掛かります。
マレーシアにロングステイされてた方のブログで『弱者という名の強者』というものがありました。
信号待ちしてた自家用車に現地人のバイクが追突するという物損事故でバンパーが凹む程度の事故だったと記憶してますが~
事故を起こした現地人はタイ語でいう『マイペンライ』と言い立ち去ろうとした事を書き綴った内容でした。
日本の常識とマレーシア(東南アジア)の常識対比が印象的で軽いカルチャーショックを受けた記憶があります。
前置きが長くなりましたが
仕方ないのですよね!?
日本人の基準から言うとお金も権力も持たない東南アジアに住む庶民は同じ庶民同志で一致団結(協力)しないと生きていけない
また其処に住むのなら‥そういう文化も受け入れないといけない・・・
マレーシアの件では謝罪すら無かったと記憶してますが事故の規模が違うとは云え
タイ人の優しさを感じましたよ この事故からは・・・
あと、私なりには子供さん達に良い教訓も授ける事が出来るような そんな気がします。