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理不尽ゲーム

2021-05-24 13:00:42 | 読書

サーシャ・フィリペンコの『理不尽ゲーム』(集英社・奈倉有里訳)を読了してから少し時間が経ってしまったが、感想を書く。西欧以外の翻訳文学を読むのは初めてかもしれない。ベラルーシを舞台にした小説だが、私のベラルーシについての知識はソ連から独立したロシアの妹国というぼんやりしたものだけだ。

帯の“目を覚ますと、そこは独裁国家だった”という衝撃フレーズに目がいき、手に取った。『理不尽ゲーム』というタイトルとこの帯のフレーズを見て、この本はフィクションかと思った。しかし、よくよく見ればこの本はベラルーシの“現状”を書いた小説だという。

パラパラめくって、思い出したのは映画『グッバイ・レーニン』だった。この作品で描かれた東ドイツと『理不尽ゲーム』のベラルーシが全く同じ状況なわけではないが、こんなことは生まれる前の昔の話だと思っていた。海外ニュースを見ないわけではないので、そういう状況があることを一応知っていたが、それは記号のようなもので、当事者の、そこに暮らす人の思いが籠った文を読むのは初めてだった。

群衆事故に巻き込まれた青年フランツィスクが10年間の昏睡状態から目覚めると、そこは理不尽な独裁国家だった。というのが話の筋だが、日本に住んで何不自由なく暮らしている私からすると、昏睡前のフランツィスクもそんなに自由ではない気がする。だからか、目覚めてからの彼の衝撃はあまり理解できないと感じた。

昏睡状態から目覚めたのはフランツィスクだけでなく、ベラルーシの国民でもあり、今実際に目覚めた彼らは戦っている。ということをこの本は1度目に読んだときに教えてくれる。隠喩的なところも多かったので、この現実を念頭に置いてもう一度読んだとき、著者の思いがより伝わってくるだろうと思う。

 

理不尽ゲーム/サーシャ・フィリペンコ/奈倉 有里 | 集英社の本 公式

欧州最後の独裁国家ベラルーシ。その内実を、小説の力で暴く。 群集事故によって昏睡状態に陥った高校生ツィスク。老いた祖母だけがその回復を信じ、...

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