jump in the box

この小さな箱の中で飛んだり跳ねたりしてみます(笑)

細く小さな手

2005年01月29日 | 家族
深夜仕事を終えて帰宅すると嫁さんはまだ台所で洗い物をしていて
背中をこちらに向けたまま「おかえり」と言った。

「風呂いける?」背中に話しかける。
「うん、最後に入ったのチーちゃんだからお湯少ないかも」
嫁さんは今度はこちらに向き直って答えた。
「ん。了解」
ネクタイを緩めながら風呂場の電灯を点けた。

お風呂に水を加えながら追い炊きするのは無駄だよなといつも思う。
するといつも嫁さんとチーちゃんは「お湯が少ないんだからしゃーないやん」と言う。
おっしゃる通りなのだけれど
それでも何だか無駄な気がして少ないお湯をケチケチ使って風呂に入った。

狭い湯船に浸かってもまだ肩が少し水面から出てしまう。
ま、いいか半身浴だと思えば。
普段よりちょっと長めにお湯に浸かった。

脱衣所であらためて自分の体を見た。
太ったのはわかっているのだけれど
あまりの惨状に「マジでダイエットしなきゃヤバイ」と思った。

部屋着兼寝間着の Dickies のツナギに着替えて一息ついた。
昔、引越屋さんに2週間監禁されて(笑)
働いた時に一日中ツナギを着ていたのだけれどそれがとても楽だった。
それから家の中でもツナギを愛用している。
楽なのはもちろんだけれど汚れても平気だから家仕事やお絵描きにも便利なのだ。

テレビのチャンネルをぽちぽち押していたら
「はい、お疲れ様」と嫁さんが熱燗を1本つけてくれた。
いつもながらこの人のこういう行動のタイミングは絶妙。
アテは冷蔵庫に眠っていたさつま揚げと明太子。
これで惚れない男がいたら嘘だと思う。

ほろ酔い気分はこのところの会議でこわばった心を少しほぐしてくれた。

PC立ち上げてメールなどちょこっとチェックして
描きかけの絵をちょっとだけしようとファイルを開く
が、すぐに飽きる。

ホットカーペットにゴロンと横になったが最後
嫁さんの話を子守唄代わりにして眠ってしまった。


トン トン トン

階段の足音で目が覚めた。
小さく細い足音はチーちゃんだ。
「パパ、怖い夢見た」半泣きで抱きついてきた。
「一緒に寝るからトイレ行っておいで」
僕は起き上がってチーちゃんをトイレに誘導して
点けっぱなしだったPCの電源を落とした。

チーちゃんがトイレから出てくると
二人で二階に上がって布団に潜り込んだ。
チーちゃんの布団にゴソゴソと手を伸ばすと
同じようにチーちゃんも僕の布団に手を伸ばしていた。

冷たくて細くて小さな手をぎゅっと握った。
「ちょっと痛い」チーちゃんが笑った。
そのまま僕らは眠りの森に引き込まれて行った。


朝、けたたましい目覚ましを左手で制すると
目を開き意を決して起き上がり
家族を起こさないようにそっと階段を下りようとすると
「パパいってらっしゃい」チーちゃんが寝ぼけた声で小さく言った。
「ありがと」僕は背中を向けたまま答えた。
「気をつけてね。頑張ってね。」
「うん、いってきます」
今度は向き直って僕は小声で答えた。