東京でカラヴァッジョ 日記

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アンジェロ・モルベッリ《たった80チェンテジモのために》

2020年11月13日 | 西洋美術・各国美術
えっ、田植え?
 
 
 
   ああ、初めて知る名前だが、イタリアの画家か。
   北イタリアでは米を作っているらしいからね。リゾット美味しいし。
 
   女性たちの色とりどりのスカートが水面に映って、花のようで、綺麗。
   農村の田植え風景を詩情豊かに描こうとした作品かなあ。
 
 
 
   作品名を見て直ぐに、思い違いを知る。
 
アンジェロ・モルベッリ
《たった80チェンテジモのために》
1895年、124×70cm
ヴェルチェッリ、市立ボルゴーニャ美術館
 
   題名が、これは社会問題を描いた作品なのだと語る。
 
   気づく。遠景にも同様の格好の女性たち、1人の男性に指揮された女性たちの一糸乱れずの隊列が描かれていることに。
 
 
 
   そんな感じで、画家(というよりも美術館の学芸員か)の思惑どおりの過程を素直に辿って、強いインパクトを受けてしまったという思い出のある作品。
 
   確かBunkamuraで観た。調べると、2003年開催の「ミレー3大名画展-ヨーロッパ自然主義の画家たち」。ミレーの3大名画とは、《晩鐘》《落穂拾い》と《羊飼いの少女》。19世紀ヨーロッパ自然主義の系譜を体系的に紹介するとのことで、ミレーのほか、クールベ、バスティアン=ルパージュ、さらにはゴッホ、ゴーギャン、ピカソ、ピサロまで展示されていたようだ。入場者数400,765人は、大ヒットの展覧会である。しかし何も覚えていない、この作品《たった80チェンテジモのために》以外は。
 
 
 
   アンジェロ・モルベッリはどんな画家だろうと調べていて、同展にはもう1点彼の作品が出品されていたことを知る。
   その画像を見て、この作品も確かに観たと思い出す。
 
アンジェロ・モルベッリ
《水田にて》
1901年、183×130cm
個人蔵
 
   1890年代初頭の米価暴落と深刻な農業危機。稼ぎがもともと不安定だった田植え女性たちの生活は、さらに不安定になる。それでも、女性たちは来る日も来る日も足を水田につけて背を曲げて強い太陽の光を浴びるしかない。
    そんな当時の社会情勢を画題とする両作品を見ると、題名の効果というのも侮れないものである。
 
 
 
   アンジェロ・モルベッリ(1851〜1919)は、ピエモンテ地方出身で、ミラノで学び、活動する。当初は歴史画を制作したが、やがて社会から疎外された人間の苦悩をテーマとするようになる。1890年頃から色彩を無数の細かい糸に分割し、小刻みなタッチを重ねていく技法で描くようになる。イタリア分割主義である。
 
   自然の光、明るさの追求を第一とする技法により、社会問題を画題とする。画題が社会問題=暗めの画面ばかりではないと知らされる。もう一度見たい作品である。


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