よみがえるバロックの画家
グエルチーノ展
2015年3月3日~5月31日
国立西洋美術館
まさかのイタリア・バロックの巨匠の展覧会。
2012年5月の大地震被災により、チェント市立絵画館は現在も閉鎖中。
会場入口前ロビーのビデオを見ると、補強材で支えられてなんとか倒壊しないでいるような建物が実に痛々しい。
収蔵作品は避難中。
会場では、被災のことはほとんど触れられない。
冒頭に2点の写真パネルがあるが、その説明は見当たらない。
1コーナーを設けるかと想像していたが、純粋に美術展に徹している(図録も同様、2点の写真すらない)。
(2点の写真パネル)
1)消防士により運び出される、No.01のルドヴィコ・カラッチ≪聖家族と聖フランチェスコ、寄進者たち≫、
2)床に瓦礫が広がるが、幸運にも絵画には影響がなかったように見える、教会?の内部の様子
初期から晩年まで揃えられた「大画面」の作品たち。
<作者>
グエルチーノ :39点
ルドヴィコ・カラッチ:1点
スカルセッリーノ :1点
グイド・レーニ :3点
<所蔵者>
チェント市立絵画館:11点
チェントその他 :6点
ボローニャ国立絵画館:9点
ボローニャその他 :5点
ローマ :4点
その他イタリア :6点
イタリア以外の外国:1点
国立西洋美術館 :2点
<構成>
1章:名声を求めて(10点)
2章:才能の開花(12点)
3章:芸術の都ローマとの出会い(5点)
4章:後期1 世と俗のはざまの女性像-グエルチーノとグイド・レーニ(9点)
5章:後期2 宗教画と理想の追求(8点)
第1章
No.01のルドヴィコ・カラッチ≪聖家族と聖フランチェスコ、寄進者たち≫の出品は、特筆すべき。
グエルチーノが生まれた1591年にチェントの教会に設置された作品であり、特定の師につくことなく、ほぼ独学で絵画を習得したグエルチーノにとって、真の師となった作品であるとのこと。
なお、ボローニャ派の創始者カラッチ一族、アゴスティーノとアンニーバレの兄弟はローマでも活躍したが、いとこで一番の年長者であるルドヴィコは、ボローニャにとどまり、後進の指導にあたったという。
第2章
階段を下りての1室の、グエルチーノの大画面6作品が並ぶさまは、圧巻。
特にNo.15≪キリストから鍵を受け取る聖ペテロ≫は、本展最大の、縦378cm×横222cm。
イタリアの教会を疑似体験できる。そういう意味では、1点、フィレンツェからのギリシャ神話主題の作品が交じるのが、展示の妙。
第3章
1621年、ボローニャでグエルチーノを重用したアレッサンドロ・ルドヴィージが教皇に選ばれ、グレゴリウス15世となる。
その年の夏、グエルチーノは、彼と甥の枢機卿ルドヴィコ・ルドヴィージによりローマに呼び寄せられる。
1623年に教皇が亡くなったため、ローマでの活動はわずか2年であったが、その画風はローマの影響を受けて変容する。
No.23≪聖母被昇天≫は、チェントのサンティッシモ・ロザリオ聖堂の天井画。同教会も被害を受け、天井画を避難させたらしい。
No.27≪聖母のもとに現れる復活したキリスト≫は、ゲーテも絶賛!の、縦260cm×横179.5cm。
カジノ・ボンコンバーニ・ルドヴィージのフレスコ画≪アウロラ≫も、キャプション紹介。なお、カラヴァッジョの天井画≪ユピテル、ネプトウルヌス、プル—ト≫も同屋敷にある。
第4~5章
ライヴァル関係にあった(グエルチーノのほうが専ら意識していた感)グイド・レーニ(1575-1642)の死を受けて、ボローニャに移住、レーニの地位を襲い、重要な注文を数多く受けるようになる。
ずいぶん画風が変わる。「古典主義的画風」。
歴史的にグエルチーノの評価が凋落したのは、どうやらこの時代の作品によるものらしい。さもありなん。
1巡目は、音声ガイドとともに鑑賞。音声ガイドを借りるのは、実は今回が初めて(520円也)。グエルチーノ展に対する思いがあまっての、私としては思い切った行為。26コマ約45分。操作は簡単。作品鑑賞に確かに役立つ。ただ、自分の世界に入って周りの鑑賞者への配慮が欠けてしまいそうなのが問題。