東京でカラヴァッジョ 日記

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「KING & QUEEN展ー名画で読み解く英国王室物語ー」(上野の森美術館)

2020年11月09日 | 展覧会(西洋美術)
ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵
KING & QUEEN展 
ー名画で読み解く英国王室物語ー
2020年10月10日~2021年1月11日
上野の森美術館
 
   肖像画で見る英国王室の500年。
 
   展示品は二の次で専ら解説文を読む展覧会だろうと正直期待していなかったのだけど、とんでもない。期待以上の展示品で、大いに楽しむ。
 
 
【本展の構成】
1   テューダー朝
2   ステュアート朝
3   ハノーヴァー朝
4   ヴィクトリア女王の時代
5   ウィンザー朝
 
 
   本展会場は1階から始まる。
 
   印象に残るのは、英国王朝と美術史の変遷がほぼ一致している感があること。
   章が変わると、展示品の雰囲気ががらっと変わる。
   LDN展(ロンドン・ナショナル・ギャラリー展)出品画家との共通性も意識させられる。
   
 
   第1章「テューダー朝」は、1485〜1603年。
   美術史では、ルネサンスとそれに続くマニエリスムの時代。
   展示室には、「北方ルネサンス」らしい肖像画が並ぶ。
   LDN展では「北方ルネサンス」は完全にスルーされている。
 
   第2章「ステュアート朝」は、1603〜1714年。
   美術史では、バロックの時代。
   展示室には、「バロック」らしい主に大型の肖像画が並ぶ。ヴァン・ダイク(ただしコピー)やホントホルスト(オリジナルらしい)によるチャールズ1世・関連の肖像画。クロムウェルのデスマスクの石膏原型もある。
   LDN展でも、ヴァン・ダイクやホントホルストの肖像画が出品されている。
 
   第3章「ハノーヴァー朝」は、1714〜1901年であるが、本章ではヴィクトリア女王即位前の1837年までを対象とする。
   美術史では、ロココ(と新古典主義)の時代。加えて、イギリス美術史的には、外国出身の画家に依存していた状況から、自国から優れた画家が輩出する状況に変わってくる。
   展示室には、まず「ロココ」風の作品、そのあとに、「イギリス人」画家、レノルズやトーマス・ローレンスによる肖像画があり、風刺肖像画も加わる。
   LDN展でも、レノルズ、トーマス・ローレンス、さらにはゲインズバラなど、イギリス人画家による肖像画が出品されている。
 
   2階に上がる。
 
   第4章「ヴィクトリア女王の時代」は、1837〜1901年。
   美術史では、ロマン主義・写実主義・印象派・象徴主義など多様化する時代。イギリス美術では、ターナーやラファエル前派の画家たちがよく知られているところ。一方で、写真技術の登場・発展により、絵画の役割が変わっていく時代。
   展示室では、展示品が「写真」一色となる。まだまだ強い需要があったはずの従来型肖像画の展示が1点のみであることに違和感を覚える。
   一方で、写真技術が初めて発表されたのが、女王即位の2年後の1839年であることを考えると、英国王室の変遷が連動しているのは、美術史の変遷ではなく、王室をアピールするメディアの変遷なのかもしれない。
 
   第5章「ウィンザー朝」は、1917年〜現在。
   美術史では、百花繚乱の時代。
   展示室には、写真を主としつつ、絵画の肖像画も相応数並ぶ。アンディ・ウォーホルによるエリザベス2世の肖像が興味深い。それら肖像画は概して、前時代のような威厳・崇高・豪華より、親しみやすさに重きが置かれる。
 
 
 
   私的に一番のツボは、第1章「テューダー朝」。
 
《ヘンリー7世》
   ウェストミンスター寺院の彼の墓の肖像装飾(1512-19年頃制作)を、19世紀後半に型取り鋳造したもの。
 
《ヘンリー8世》
   ハンス・ホルバイン(子)が1536年に制作した作品の17世紀頃のコピー。
   これが思いのほか良い。コピーでも良いのだから、マドリードのティッセン・ボルネミッサ美術館が所蔵するオリジナルはどれほど素晴らしいのだろうか。実見する機会のないホルバインに対する興味が俄然増す。
   隣展示の12年後の国王の容姿を揶揄った版画も面白い。
 
《アン・ブーリン》
   作者不詳、現存しない作品(1533-36年頃制作)の16世紀後半のコピーと考えられていて、彼女の肖像画のなかでは最も知られるものであるらしい。
   画面左上に「ANNA BOLINA」とあって、ドニゼッティのオペラに「アンナ・ボレーナ」があったことを思いだす。
 
《レディ・ジェーン・グレイ》
   作者未詳、1590-1600年頃の制作。
   レディ・ジェーン・グレイ(1537〜1554)と言えば、同じく上野の森美術館の「怖い絵」展に出品されたドラローシュ《レディ・ジェーン・グレイの処刑》(LDN蔵)を思いだす。ドラローシュ作品における可憐な若い女性とは違って、極細身で神経質な感じ。
 
《エリザベス1世(アルマダの肖像画)》
   スペイン無敵艦隊に対する勝利を祝して1588年頃に制作された作品。作者未詳。この時代のイギリス美術らしい、豪華な衣装・宝飾を纏った平面性の強い肖像画。
 
 
 
   以下、余談。
 
   
   混雑状況。
   チケット購入列(私は現地で当日券を購入)や入場待ち列は全く無かったのだが、展示室内は密の印象。訪問した土曜日の午後2時半過ぎは、1週間で最も混む時間帯なのかもしれない。ゴッホ展やフェルメール展、怖い絵展と比べると相当マシであることは確かで、入場者もLDN展ほどには入れていないと思うけど、私がCOVID-19禍以降に行った展覧会のなかでは体感的には一番の印象。大半の展示品に付された解説文を私を含め皆さんしっかり読むし、展示室が小ぶりで動線も良いとは言えないことから、そんな印象を受けたのだろうか。
 
 
   本展唯一の撮影可能作品は、即位の年の26歳の《エリザベス2世》は、白黒写真に着彩した作品。
 
 
   ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリーは、2020年6月29日から2023年春まで長期休館。本展は、その期間を利用した国際巡回展であるらしい。この後の巡回先は知らないが、おそらく巡回先によって展示内容が変わるのだろう(本展は美術館のキャパも踏まえての日本向けの小型バージョンだと想像する)。このご時世、今後の運営の無事を祈りたい。
 
 
本展のナビゲーター中野京子氏のブログ記事
・是非借りたかったのに作品状態により実現できなかった作品。
・逆にギリギリになって借りられることが決まった作品。
・使用料が高くて宣伝には使えない作品。

 



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