北斎とジャポニスム
HOKUSAIが西洋に与えた衝撃
2017年10月21日〜18年1月28日
国立西洋美術館

まずは展示量に感心。
物凄い展示量だということは聞こえていたので、相対的に人の少なそうな土曜日の夜間開館時の訪問を狙っていたところ、会期中盤と遅めの出動となる。
北斎作品(版画・版本)が約110点(+図版パネルも多数)と、西洋作品(油彩画・彫刻・版画、書籍、焼き物など多種多様)が約220点。
北斎作品と、北斎作品にインスピレーションを得て制作された西洋作品とが対照されて展示される。対照展示数、おそらく100以上。
最初の展示は、西洋の書籍類。日本や日本美術を紹介する書籍類なので、北斎作品をそのまま挿絵として使用している。
次に、西洋の焼き物類で、北斎作品からお気に入り意匠をそのままデザインとして採用している。
それから、西洋の美術作品となり、北斎作品をほぼ直接参照しているものから、変化させているもの、その先に進んで新たな表現を生み出していると思われるもの、北斎作品と対照させるのはちょっとこじつけ感ありかなあというもの。
北斎作品の多様な西洋美術への影響を見ることができる。
本展への期待の一つは、海外からやってきた印象派・ポスト印象派の作品。
以下、印象に残る作品をお気に入り順に5選。
ゴーギャン
《三匹の子犬のいる静物》
1888年
ニューヨーク近代美術館
柄入りの白を背景にして、平面的に並べられた鍋の水を飲む子犬、青いグラス、碗の中・クロス上の果物。
対照の北斎作品は版本『三体画譜』の「子犬」。可愛い子犬の表現がゴーギャンをとらえたらしい。
カサット
《青い肘掛け椅子に座る少女》
1878年
ワシントン・ナショナル・ギャラリー
2011年の国立新美術館のワシントン・ナショナル・ギャラリー展以来2回目の鑑賞。青いソファーに座って求めに応じて精一杯のポーズを取っている、のではなく、モデルに退屈した少女。隣のソファーには犬が眠る。
対照の北斎作品は、版本『北斎漫画』の「袋にもたれて休む布袋様」。
腹の出た親父と同じ格好と言われているなんて本人が知ったらショックを受けるだろうと思うが、本展の意図は「それまで、幼い女の子は行儀の良いポーズでしか描かれなかった」「北斎によって、子どもの退屈そうな様子は、退屈なままに描かれてもよいと宣言されたかのようで、表現の幅が一気に広げられた」という。
同じ趣旨で、ドガ《踊り子たち、ピンクと緑》と北斎版本『北斎漫画』の後ろ姿の力士とを対照させているのだろう。
スーラ
《尖ったオック岬、グランカン》
1885年
テート、ロンドン
対照の北斎作品は、版画《おしをくりはとうつうせんのづ》。
北斎の「海の波」がスーラの「岬」になる。
このレベルのスーラ作品を見ること自体が貴重であるが、波と岬がここまで似ている様を見せられると感嘆するほかはない。
ゴッホ
《雨中の畑で種を蒔く人》
1890年、素描
フォルクヴァンク美術館、エッセン
ゴッホの油彩画は国立西洋美蔵の《ばら》のみなのは少し残念だが、油彩画なら今東京都美術館で多数観ることができる。
本展は素描1点をドイツから借りてきた。対照の北斎作品は版本『北斎画式』から旅人たちの描写。雨の表現。
セザンヌ
《サント=ヴィクトワール山》
1886-87年
フィリップス・コレクション、ワシントンD.C.
対照の北斎作品は《冨嶽三十六景》の《駿州片倉茶園ノ不二》。なんとも似た構図。本展では、山の「連作」であること、「量塊として認識されていた山を輪郭線でとらえる表現」に影響を見る。
隣にブリヂストン美術館の《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》1904-06年頃。久々の鑑賞だが、やはり魅力的。そういえば、今年4-8月はパリ・オランジュリー美術館でのブリヂストン美術館展に出張していたのだった。

さらにその隣のデトロイト美術館の《サント=ヴィクトワール山》1904-06年頃、は昨年の上野の森美術館のデトロイト美術館展に出品されていた。
西洋美術史上に燦然と輝く巨匠たちは、北斎作品の模写・模倣ではなく、北斎作品からインスピレーションを得て自らの表現の幅を拡大させている、ということが理解できる。
見応えのある展覧会。混雑しない時間帯に2時間以上の鑑賞時間を確保できるなら再訪したいところ。