東京でカラヴァッジョ 日記

美術館訪問や書籍など

花の静物画の下に隠された「ふたりのレスラー」 - 【その2】「ゴッホと静物画」(SOMPO美術館)

2023年11月06日 | 展覧会(西洋美術)
ゴッホと静物画 - 伝統から革新へ -
2023年10月17日〜2024年1月21日
SOMPO美術館
 
 
 17世紀から20世紀の静物画の流れのなかで、ゴッホを位置付けようとする展覧会。
 
 出品作品数は、69点。ゴッホの静物画が25点(すべて油彩画)、17世紀オランダおよびゴッホの時代の画家たちの静物画等が44点となっている。
 
 
 本作に近づいていくときは、ゴッホではない画家の作品だろうと思っていた。
 
ゴッホ
《野牡丹とばらのある静物》
1886-87年、100×80cm
クレラー=ミュラー美術館
 
 ゴッホ作との表記に驚き。
 
 展示室内の作品解説によると、
 
 キャンヴァスの大きさ、構図、軽いタッチ、署名の位置(ゴッホは右下に署名することが多い)など、ゴッホとしては特異な作品である。
 しかしX線写真から、本作がふたりの格闘家(レスラー)の絵の上に描かれていることが判明し(「ふたりのレスラー」を描いた、というゴッホの手紙も残されている)、さらに別の科学的調査でも、ゴッホが使用した絵の具が確認されている。
 
 確かに、作品のサイズ、署名の位置、そして署名の書体は、ゴッホらしからぬなあと私でも思う。
 そして、「ふたりのレスラー」って何? 
 
 
 
 本作は、クレラー=ミュラー美術館の所蔵であるが、ヘレーネ・クレラー=ミュラーのコレクションに由来するものではなく、1974年にクレラー=ミュラー美術館が購入したものであるようだ。
 
 本作は、当初からその真正が疑われてきたらしい。
 2003年発行のクレラー=ミュラー美術館の収録品目録には、「過去にヴィンセント・ファン・ゴッホ作とみなされた」作品として掲載されているという。
 
 
 次の「X線写真」は、クレラー=ミュラー美術館HPより。
 1998年に撮影されたもの。
 確かに、「ふたりのレスラー」だ。
 ゴッホらしからぬ画題だ。
 
 
 「ゴッホの手紙」は、1886年1月に、ゴッホから弟テオに宛てたもの。
 当時のゴッホは、アントワープに住んでいた。
 
今週は二人の裸体のトルソを主題とした大作を描いたフェルラトがポーズさせた二人のレスラーの絵で、ぼくは大いに気に入っている。
 
 また、キャンヴァスのサイズについて、ゴッホのテオ宛て手紙(前掲の手紙より前に出したもの)にて、次のように触れている。
 
来週の月曜日にはモデルが新しくなる。実際、そのときからぼくは本格的に始めるつもりだ。月曜日のためには大きなカンヴァスを取っておくべきだった。
 
 1883年10月からニューネン(ヌエメン)の両親のもとにいたが、1885年3月、牧師である父が死去、一家は後任の牧師が決まったら牧師館を出なければならない。
 ゴッホは、これを機に、1885年11月、アントワープに移る。
 1886年1月、アントワープの王立美術学校に登録し、油彩画とデッサンの教室に通い始める。
 パリに行くための準備のつもりである。
 
 なるほど、教室での課題なのか。
 であれば、「ふたりのレスラー」という画題や作品のサイズ、その後のキャンヴァスの再利用も分かる。
 
 
 2010年のマクロ・スキャニング蛍光X線調査により、本作には、ゴッホが他作品に用いていた絵の具と筆致が確認される。
 加えて、レスラーの風体(全裸ではなく腰布をつけている)が当時の美術学校の記録と一致すること、キャンヴァスの再利用方法が1886年4月から87年初頭のゴッホに特徴的なものであることなどから、本作は再びゴッホ作品に位置づけられる。(展覧会図録参照)
 
 
 
 1886年2月から1888年2月まで2年間のパリ時代、ゴッホは「花の静物画」を集中的に制作している。
 「色彩のための習作」として格好の主題であること、モデル代が不要であること、売れる期待もあったことなどによるようだ。
 
 本展には、パリ時代制作の「花の静物画」が、上掲の作品のほか、6点出品されている。
 
 以下4選。
 
《カーネーションをいけた花瓶》
1886年、46×37.5cm
アムステルダム市立美術館
 
《ばらとシャクヤク》
1886年6月、59.8×72.5cm
クレラー=ミュラー美術館
 
《青い花瓶にいけた花》
1887年6月頃、61.5×38.5cm
クレラー=ミュラー美術館
 
《結実期のひまわり》
1887年8月〜9月、21.2×27.1cm
ファン・ゴッホ美術館
 
 
 最後の「ひまわり」であるが、ゴッホはこの時期、同じような《ひまわり》を本作を含め4点制作している。
 他の3点は、クレラー=ミュラー美術館、メトロポリタン美術館およびベルン美術館が所蔵する。
 本作は、メトロポリタン美術館所蔵作品の習作と考えられているようだ。
 
 
【参考(出品作ではない)】
 
ゴッホ
《ひまわり》
1887年、43.2×61cm
メトロポリタン美術館


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。