ハマスホイとデンマーク絵画
2020年1月21日〜3月26日
東京都美術館
2008年の国立西洋美術館の企画展。春の「ウルビーノのヴィーナス」展、夏の「コロー」展に続いて、秋は「ハンマースホイ」展。
「ハンマースホイ」? 初めて聞く名。デンマークの100年前の画家で室内画で知られるらしい。地味そう。
1回だけ行く。どんな作品を見たのか覚えていない。特に感銘を受けたという記憶もない。ただ、独特のハンマースホイ色に覆われた展示風景、室内画でも同じ部屋を少し部分部分を変えながら描いた絵が何点も並ぶ、日本の西洋美術の展覧会では珍しく、ディープ、という印象が強く残る。
東京都美術館で12年ぶりにハマスホイ展が開催されると知り、そんなことを思い出す。
2008年の展覧会は、口コミで評判が広がり、会期末頃は盛況であったらしい。入場者数を確認すると179千人。多い。2014年のホドラー展(100千人)や2015年のグエルチーノ展(89千人)よりずっと多く、2016年のクラーナハ展(174千人)をも上回る。私の感覚をはるかに上回る人気ぶりであったようだ。
2020年の「ハマスホイとデンマーク絵画」展は、ハマスホイ作品37点と同時代のデンマークの画家の作品49点の全86点。よく構成されていて楽しめる展覧会である。しかし、2008年のハンマースホイのディープをもう一度という向きには物足りない感があるかもしれない。むしろミュージアムショップのほうがディープ感があるかも。
あのディープは何だったのだろう。
2008年の図録をネットで見ると高値。2020年の展覧会にあわせて書籍2冊が刊行、1冊は2008年の、1冊は2020年の展覧会の企画者が著者。ハマスホイを知るには絶好の書籍だろうし、値段も古図録に比べればずっと安い。しかし私が気になるのは2008年のディープ。
そんなとき、某書店で2008年図録を見かけてしまう。状態も良好で、衝動的に購入する。値段はネットと同じような水準である。
2008年図録を眺めながら、2020年の展示風景を頭のなかに置いて、この場所にこれらの作品を展示したら、これらの作品を追加したら、この作品とこの作品を入れ替えたら、どんな風景になるだろうと思い描く。東京都美術館の展示風景をベースとした追体験の試みである。
2008年のハンマースホイ出品作のうち16点が2020年にも出品されている。
逆に、2020年の展覧会は、21点が2008年にはなかった作品。そのなかには、2008年が習作で2020年が完成作が出品される《聖ペテロ聖堂》のような作品もある。
2020年の展覧会を見ていて、2008年にも見たことを思い出した唯一の作品。
《ローマ、サント・ステファーノ・ロトンド聖堂の内部》
1902-03年
ブランツ美術館
サント・ステファノ・ロトンド聖堂は、ローマ最古かつ初期キリスト教時代の最大の円形聖堂。
周歩廊の外周壁に、カトリック改革期特有の殉教図サイクルが現存していることでも知られる。
殉教図サイクルは、1583-84年、ニコロ・チルチニャーニ(ポマランチョ)による制作。初期キリスト教時代の殉教を直截でなまなましく描いた31枚からなる。描かれた殉教者たちは血みどろになりながら、苦悶どころか、平静な表情をしており、ときには笑みさえ浮かべる。
当時の修練士たちは、この殉教図を見て、将来の海外布教時の殉教への心構えをしたということらしい。
ハマスホイは3度イタリアを訪問したが、イタリアを題材に描いた作品は本作品1点のみとのこと。本作品での殉教図サイクルは、そうと認識できないほど省略されて描かれている。