生誕200年記念 伊豆の長八
ー幕末・明治の空前絶後の鏝絵師
2015年9月5日~10月18日
武蔵野市立吉祥寺美術館
素晴らしい。
幕末・明治期の超絶技巧「鏝絵」(こてえ)。
伊豆の長八(入江長八、1815~89)による漆喰彩色の鏝絵や漆喰細工など全49点に感嘆。
住みたい街ランキングNo.1の街の市立美術館、入場料100円にも感嘆。
初めて知る、鏝絵という芸術作品、そして、伊豆の長八という名工の名。
西伊豆の松崎町生まれ。11歳のときに左官に弟子入り。19歳のときに江戸に出る。狩野派の絵師に学んだ技法や彫塑の技法を応用し、漆喰壁に鏝を使った浮彫に彩色を施した、長八独特の芸術を確立。「江戸の左官として前後に比類のない名人」と高村光雲に称される。
以下、展示概要。
【塗額】18点
漆喰彩色の鏝絵を額装。室内鑑賞用。
図版では認識しづらい漆喰の盛り上がり。
山水画もよいが、玉眼が印象的な人物画に惹かれる。
《二十四孝》
雨の描写に注目して観る。
《焙烙のおかめ》
長八の女性像は皆おかめ顔。それが好ましい。見る人をほっとさせる。
《女人図》
例外的に「写実的な」顔。それが故にか、長八の初恋の女性がモデルとされているらしい。
【塑像】11点
《上総屋万次郎像》は、本展のメインビジュアル。モデルの特徴をとらえようとする緻密な細工に魅入る。
【建築装飾】5点
旧岩科村役場の壁面装飾4点など。
【ランプ掛け】2点
建築装飾の一種、天井に取り付ける「ランプ掛け」は、龍と鷹の2点。
【掛軸】2点
漆喰の要素ゼロ、純粋な日本画たる掛軸。
【特殊作品】13点
上記5区分に属さない作品。
《漣の屏風》は、鏝さばきを楽しむ抽象画。
江戸・東京で活躍した長八。第1回内国勧業博覧会の会場光景を描いた錦絵に出品作が描き込まれたり、各分野の名人を紹介する引札や錦絵に左官の名工として挙げられたりするほど。その後、東京にあった作品は火事・震災・大空襲などで、その多くが失なわれる。
一方、出身地・松崎町周辺では作品の保存が進められ、昭和59年には伊豆の長八美術館をオープンさせている。その建物は、現代の左官技術の粋を結集したものであるらしい。
今回の出品作品は、半数強が伊豆の長八美術館保管作品。あと静岡県内の寺院、個人蔵。東京藝術大学からも3点出品されている。
長八の作品で埋められた、三島市・龍澤寺のパネル紹介もある(本展にも4点出品)。
現地でも鑑賞してみたい。車がないと大変そうではあるが。