7/7の朝日新聞夕刊の高階秀爾氏の「美の季想」に取り上げられた作品
ターナー
《奴隷船》
1840年、90.8×122.6cm
ボストン美術館
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/6b/a7402450a4a109ffa10f7ff9260e6d95.jpg)
1840年にロイヤル・アカデミーに出品した時の題名は、《死者や重病患者を海中投棄する奴隷商人-台風の襲来》であったという。
本作品制作の背景には、当時の大英帝国における奴隷貿易に対する批判の高まりがあったらしい。
航海中に奴隷が死亡すれば、それは「商品」の損失として保険でカバーされる。しかし、病人は保険の対象とならない。それを悪用し、死亡者とともに重病人も海に投げ棄てた商人の実例が大きな議論を捲き起こしていたという。
1781年のゾング号事件のことであるようだ。航海時に疲弊した奴隷を海に捨てることは保険金の対象になるかという論点(海に捨てたこと自体ではない)で、法廷で争われた事件。
英国では、1772年、法的な拘束力は限られていたようだが、本国における奴隷制度が廃止された。その後、1807年に奴隷貿易法が成立し、大英帝国全体における奴隷貿易が違法とされる。1833年、奴隷制度廃止法が成立し、英植民地における奴隷制度が違法とされる。
1840年のターナーの作品。奴隷制度を廃止した英国が、国際的に反制度の動きを強めていくことに寄与したようである。
奴隷を海に投げ棄てるというまさしくその場面を選ばれない。
投げ棄てたあとの場面が選ばれる。
奴隷船も既に遠ざかっていて、光の眩しさに隠れてうっすら見えるばかり、乗組員の姿など確認できない。
一方、鮮やかで複雑な色彩の海面、白い波浪、その間をよく見ると、鎖をつけたままの片脚が突き出している。魚の餌になる将来が目前。
ターナーは、海景画でありながら、上記作品のように歴史・物語のテーマを持つという作品を多く制作しているようだ。
国立西洋美術館のロンドン・ナショナル・ギャラリー展に出品されているターナーもそんな感じの作品である。
ターナー
《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》
1829年、132.5×203cm
ロンドン・ナショナル・ギャラリー
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/72/7dbec94cd0f68043c5a98dd281e3eb0b.jpg)
鮮やかで複雑な色彩で描かれた海景画に見えるが、実は、ホメロスの『オデュッセイア』の一場面が描かれている。
洞窟から無事脱出し、島を離れていくオデュッセウスの船。船上の後姿のオデュッセウスがバンザイしてポリュフェモスを嘲笑する。岩山のうえに、何とか分かるかやっぱり分からないかのうっすらさで描かれる単眼の巨人ポリュフェモスのシルエット。船の周りの海面には、半透明色の海のニンフたちが泳ぐ。
本展で人が集まる作品の一つである。