
リース・ミューズ7番地、アトリエからのドローイング、ドキュメント
フランシス・ベーコン
バリー・ジュール・コレクションによる
2021年4月20日〜6月13日
(臨時休館:4月27日〜5月11日)
渋谷区立松濤美術館
渋谷区立松濤美術館での本展の開催は、当初2020年秋(10/3〜11/23)を予定していたが、延期となり、次の巡回地・神奈川県立近代美術館葉山館での開催が先となった。
神奈川県立近代美術館葉山館では、予定どおり2021年1月9日に開幕するが、1月8日発出の2回目の緊急事態宣言を受け、1月12日からの臨時休館を開幕と同時に発表することとなった。
3月30日付の朝日新聞・天声人語。同館を休館中と再開後に取材したという。
学芸員の方のお話。
「開ける準備をしながら同時に閉める準備も。仕事が倍になりました」
「休館が長く何とももどかしかった」
「東京では開けているのに、神奈川はなぜ一律休館か、という不満も聞こえてきた」
緊急事態宣言は3/21をもって解除され、同館は3/23より再開。
1月9日〜11日の3日間の開催後、実に2ヶ月と12日間に及ぶ臨時休館で、残り会期は3週間となっていた。
そして、渋谷区立松濤美術館。
4月20日に予定どおり開幕するが、4月23日発出の3回目の緊急事態宣言を受け、4月25日まで6日間開催しただけで、4月27日より5月11日まで臨時休館となった。
会期は6月13日まで。一日も早く再開できることを願う。
フランシス・ベーコン(1909〜92)については、2013年に東京国立近代美術館で開催された回顧展を鑑賞している。
それまでフランシス・ベーコンと言えば、(前述の天声人語ではないが)17世紀英国の哲学者を思い浮かべ、画家?誰?という感じだったが、回顧展以降はその逆になってしまった私。
回顧展で印象に残る事柄2件。
1)初期作品について
・ベーコンは、回顧展にて、1944年頃の作品をスタート地点に置いていた。 ・それ以前の初期作品については、クオリティが高くないとして、画家自身が可能な限り廃棄していた。
・本回顧展も、ベーコンの意思を踏まえ、1945年頃の作品から始めることとした。
2)ガラスの反射について
・画家は、ほとんどの作品について、ガラス+金縁の額という仕様での額装を指示した。
・ガラス独特の存在感、見る人と絵の間に隔たりを生むという効果を好んだ。
・画家の意図を尊重し、所蔵者は、当時の仕様の額装をしている。
・反射で見づらいことは問われた画家は、単なる災難にすぎない、将来何も反射しないガラスができることを望む、と答えた。
そして本展。
画家が可能な限り廃棄した筈の初期油彩画作品や、自身の創作プロセスに関する情報を緻密にコントロールしていた画家が、しないと語っていた、絵画のための準備らしき?ドローイング・スケッチなどが展示される。
完成作ばかり・総じて大型の作品が並んだ東近美の回顧展とは全く異なる作品・資料群である。
これら資料は、画家のアトリエの近所に住んでいた縁で、1978年より画家から様々な仕事を引き受けていた隣人バリー・ジュール氏に1996年になって画家から死の直前に突然贈られたという約2千点のドキュメントの一部であるという。2000年以降、ダブリン、ロンドン、パリ、南京、温州、ソレントで展覧会が行われ、2004年にはテート・ギャラリーに約1.2千点が寄贈されたという。ところで、何者だろう、バリー・ジュール氏は?

展示品は大きく4部構成。

1)「Xアルバム」と呼ばれるドローイング11葉。
叫ぶ教皇、ゴッホ・シリーズ、人体の部分を集めたコラージュなど。表裏両面に描かれる。1950年代後半から1960年代前半のもの。

2)「ワーキングドキュメンツ」と題される、写真上・複製画上へのドローイング。
展示点数的には、本展の6割以上を占める。次の3部に分類されている。
2a)画家が生きた世紀の、あらゆる人々の姿
・政治家、芸能人ほか著名人の写真が多いが、「ジョージ5世の馬車に施しを乞う男の写真」など社会的な写真や、写真家の作品もある。
2b)人間という動物:その筋肉運動について
・ダンサー、アスリートの写真。
2c)他のアーティストのイメージの複製を利用する
・ドガ、ゴッホ、ベラスケスなど。
私にはその辺りの悪戯書きと区別できないけれど、画家は他人のイメージを創作に活かすべく写真をひねくり回していたこととなる。1970年代から1980年代のもの。
3)初期作品
1930年代頃に制作したキュビスムの影響を受けた初期油彩画10点。
4)その他参考作品
ベーコンにかかるロンドン・ナショナル・ギャラリーで開催された2つの展覧会ポスター、どんな展覧会だったのか気になる。
1つが、画家のキュレーションによるナショナルギャラリーの所蔵品展である模様。どんなコンセプトでどの作品を選択したのだろうか。
・「美術家の眼 フランシス・ベーコン」展(1985/10/23〜12/15)
もう1つが、ローマのドーリア・パンフィーリ美術館が所蔵するベラスケス《 イノケンティウス10世の肖像》とベーコンの教皇シリーズを並べたと思われる展覧会。
・「ベラスケスとベーコン:教皇の絵画とドーリア・パンフィーリ美術館の傑作」展(1996/5/2〜5/19)
「Xアルバム」は見ておきたいが、全体としては、美術館推奨どおりの1時間以内の鑑賞時間で充分な感じ。
(神奈川会場のチラシ)