(続き)
2012年、ロンドンのダリッジ絵画館にて開催された、ヴァン・ダイクの展覧会。
Van Dyck in Sicily
1624-1625 PAINTING AND THE PLAGUE
2012年2月15日〜5月27日
Dulwich Picture Gallery
1624-25年のペスト禍のパレルモに滞在していた画家の活動を提示する。
出品点数は16点。
出品点数的には小規模企画と言えようが、その内容が凄い。
16点中11点が、ヴァン・ダイクが約1年半のパレルモ滞在期に制作したと考えられている作品なのである。
・パレルモ訪問の主目的である、副王エマヌエーレ・フィリベルトの肖像画。
・老齢の女性画家ソフォニスバ・アングイッソラの肖像画、およびスケッチ。
・パレルモ滞在期に制作した肖像画1点と宗教画2点。
・「パレルモのため代禱する聖ロザリア」など、聖ロザリアを描いた作品5点。5点というのは、現存が確認されている全ての作品ということ。
聖ロザリアの図像は、1624年のペスト禍までは、それほど多くはなかった。そのため、ペスト禍のパレルモのためにとりなしてくれる聖ロザリアの図像を新たに作り上げる必要があった。
先人は、ヴィンチェンツォ・ラ・バルバラ(1577頃〜1653頃)。
ジェノヴァ出身家系でパレルモ近郊に生まれ、地元で活動する画家である。
聖ロザリアの遺骨が発見された12日後の1624年7月27日、市議会はラ・バルバラに聖人の図像を委嘱する。
絵は8月24日に完成し、9月4日にペスト退散祈願の行列がその図像を掲げて市内を練り歩いている。
ヴィンチェンツォ・ラ・バルバラ
《パレルモのため代禱する聖ロザリア》
1624年、154.5×103.5cm
司教区博物館、パレルモ
天使が持つバラ、地面に置かれた百合、頭蓋骨と書物、パレルモの街や港を背景に天にとりなす聖ロザリア。
ラ・バルバラは、聖ロザリアを特に深く帰依していた。画家の娘は、聖ロザリアのとりなしにより、ペストから奇跡的に回復したと言われている。また、画家の息子は、画家が所有していた聖ロザリアの小さな遺物を初めて見たとき、まだ1歳半であるにもかかわらず、聖ロザリアの名を唱え、遺物の前にひざまづいたと言われている。
その後、画家は、1625年にも市議会からの委嘱によりもう1点同主題の作品を制作している。
ヴァン・ダイクは、先人の図像をベースとしつつ、聖ロザリアの図像を完成させる。
パレルモ滞在時に制作した図像は、現存が確認されているのは5点であるが、おそらくそれ以上制作したものと思われる。
ヴァン・ダイク
《パレルモのため代禱する聖ロザリア》
1624-25年頃、172.1×146.1cm
ポンセ美術館、プエルトリコ
ヴァン・ダイク
《2人の天使に薔薇で戴冠される聖ロザリア》
1625年頃、117.2×88cm
アプスリー・ハウス、ロンドン
ヴァン・ダイク
《パレルモのため代禱する聖ロザリア》
1625年頃、165×138cm
メニル・コレクション、ヒューストン
ヴァン・ダイク
《聖ロザリア》
1625年頃、106×81cm
プラド美術館
ヴァン・ダイク
《パレルモのため代禱する栄光の聖ロザリア》
1625年頃、99.7×73.7cm
メトロポリタン美術館
1625年9月にパレルモを離れたヴァン・ダイクは、ナポリでの一時滞在を経て、拠点としていたジェノヴァに戻る。
1627年にイタリアを離れ、故郷アントワープに戻る。
シチリアを離れてからも、ヴァン・ダイクは、聖ロザリアを2点制作している。
そのうちの1点、祭壇画《ロザリオの聖母》は、パレルモ滞在時にパレルモの教会のために注文を受けたもの。
当初期限内には間に合わず、結局アントワープに戻ってから完成させ、1628年4月にパレルモに届いている。
教会は、それまであったマリオ・ミンニッテイ(カラヴァッジョの悪友)の祭壇画を取り外し、ヴァン・ダイクの祭壇画を設置する。同祭壇画は今も同教会が所蔵する。
もう1点、祭壇画《聖ペテロ、聖パウロ、聖ロザリアとともにいる聖母子》は、1629年に、ヴァン・ダイクが所属するアントワープの慈善団体の礼拝堂のために制作したもの。
その前年1628年、その慈善団体は、シチリアから聖ロザリアの聖遺物を獲得することに成功し、一般公開している。
幼児イエスから薔薇の冠を受ける聖ロザリアを描いた本祭壇画は、現在、ウィーン美術史美術館が所蔵する。
さて、2021-22年に大阪・東京で開催予定の「メトロポリタン美術館展」。
その前の巡回地であるオーストラリア・ブリスベンの美術館の4/27付のブログ記事に、ヴァン・ダイク《パレルモのため代禱する栄光の聖ロザリア》の画像が掲載されている。
創設2年目の1871年に購入したMETの最初期コレクションの一つであり、新型コロナ禍でその制作経緯が注目されたところの本作品。
本作品も出品されるのか?
芸術新潮2021年4月号やブリスベンの美術館のHPを見る限り、出品画家の中にヴァン・ダイクの名前は出てこない。
また、上記ブログ記事も、本文で本作品に触れておらず、出品を示唆されることすることもない。
ただ、METのHP上、本作品には「NOT ON VIEW」と表示されているので、ひょっとしたらあるかも。