午前8時57分。「はつかり」のヘッドマークをつけた車両583系が上野駅の13番線に入線すると、多くの鉄道ファンがカメラを向けた。
東京都台東区の近藤重樹さん(62)は孫の乃裕(だいすけ)君(9)と「はつかり」に乗り込んだ。2人ともはつかりに乗るのは初めて。乃裕君は「ドキドキしている。景色をゆっくりと楽しみたい」と笑顔を見せていた。青森到着後は津軽鉄道やリゾートしらかみに乗る予定だという。
約50年前、仕事で上野駅から仙台駅まで「はつかり」を利用したことがある千葉県松戸市の高沼恒夫さん(74)は「はつかり」を見ながら、「新幹線が開業して短時間で行けるのもいいけど、長く乗るのもいいじゃない」と話していた。
「はつかり」は1958年に常磐線経由の客車特急として登場。電車化された68年には上野―青森を約8時間半で結んでいた。その後、東北新幹線の開業に伴い、運転区間が盛岡以北に変更されたが、東北新幹線が八戸まで延伸された2002年に廃止された。
今もファンの中で「はつかり」の名前への思いは強い。新型のE5系の愛称が、公募で1位になった「はつかり」を抑えて「はやぶさ」に決まった際、朝日新聞の声の欄に「東北の風土や文化、人々の気質を『はつかり』はとてもよく表している。なんとか復活してもらえないか」という女性会社員の話が載った。
上野駅を午前9時10分に出発した「はつかり」は予定時間の午後8時40分ごろ、青森駅の1番ホームに滑り込んだ。熱心な鉄道ファンが出迎えるなか、妻とともに11時間半の旅を終えた千葉県船橋市の会社員、元木亮さん(33)は「はつかりに乗るのも青森に来るのも初めて。周囲の景色も楽しめ、あっという間に着いた」と満足そうだった。(朝日新聞 有近隆史、鈴木友里子)