日本IBMの日本における持ち株会社(最終的な親会社は米国のIBMと思われます)が、国による課税処分(約1200億円)の取り消しを求めた訴訟で、持ち株会社側が勝訴したという記事。
ちょっと複雑なスキームのようです。
「問題となったのは、自社株売買に伴って一定の税務上の損失を計上する制度と、連結納税制度を組み合わせた取引。
日本IBMの持ち株会社「アイ・ビー・エム・エイ・ピー・ホールディングス」(東京・中央)は、米IBMから購入した日本IBM株(非上場株)の一部を日本IBMに売却し、その際に計約3995億円の巨額損失を計上。その上で2008年から連結納税制度を導入し、日本IBMの黒字とエイ・ピー社の赤字を相殺した。
国側は「エイ・ピー社はペーパーカンパニーで、株売買の条件も経済合理性がない」などとして、こうした取引が税逃れ目的だったと主張。IBM側は「法的に問題ない」と主張していた。
八木裁判長は判決理由で「エイ・ピー社はグループ内で資金を柔軟に移動させるなど、持ち株会社としての一定の機能があった」として、ペーパーカンパニーだったとの国側主張を退けた。
また株の売買条件などについても「不合理、不自然とは言えず、事業目的のない行為をしたとは認められない」と判断。こうした手法を明確に禁じた当時の法規定も見当たらないとして「制度を乱用して税逃れを図ったとまではいえない」と結論付けた。」
繰り返しになりますが、記事によってスキームをおさらいすると、
(1)日本における持ち株会社(となる予定の会社)が、事業会社である日本IBMの株式を最終的な親会社である米国IBMから購入し、その一部を日本IBMに買わせる(日本IBMからすれば自己株式の取得)、その際、(当局の見方では)意図的に大きな損失が出るような値段で取引する(多額の欠損金の発生)、
(2)その持ち株会社を親法人として、日本IBMを含めた連結納税を始める、
(3)その時点における持ち株会社の繰越欠損金は、連結納税における連結欠損金になるから、連結所得の計算上損金にできる、つまり日本IBMで発生する所得と相殺できる、
(4)全体としてみれば、架空の欠損金をおかしなスキームによって作り出したのではないか
ということのようです。
たしかに、持ち株会社で発生した欠損金は、グループの外部との取引で発生したものでなく、実現したものではないともいえます(連結納税導入後であれば欠損金にはならないはず)。また、日本IBMにすれば自己株式の取得は資本取引ですから、一般的な資産とちがって、いくら安く買っても、将来の原価(損金)が減る(利益が増え、税金が増える)心配はありません。課税の繰り延べではなく、永久的な節税です。
あやしい感じはしますが、憲法上、租税法律主義ですから、判決で言っているように、法律で明確にだめだと書いていないグレーゾーンまで課税するわけにはいかないのでしょう。(連結納税には行為計算否認規定があるようですが、その適用も認めなかったのでしょう。)
とはいっても、国際的に租税回避に対して社会の目が厳しくなっているので、会社側も「IBMは納税者としての責務を真剣に受け止めており、ビジネスを行う全ての国で引き続き納税義務を果たしていく」というコメントを出しているそうです。
(なお、現行制度では「グループ法人税制」があるので、こういうスキームは使えないかもしれません。)
こちらの記事に図が出ています。
日本IBMグループへの課税取り消し 東京地裁判決(朝日)
詳しくは税務の専門誌等でご確認ください。
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