武田薬品工業の定時株主総会で、株主提案により、1兆円を超える買収について株主総会の決議を義務付ける定款変更が議題になるという記事。
「今回の総会で定款変更を提案したのは武田の既存株主やOBの有志らでつくる「武田薬品の将来を考える会」。7兆円の買収による財務リスクや、大量の新株発行による希薄化を問題視している。議案は武田が30日までに株主に発送した招集通知に記載された。提案では、今後も大型買収を進める可能性があり、「取締役会の権限に一定の制限を付ける」とした。
具体的には買収の対価が1兆円を超える場合、目的や買収後の1株あたりの利益(EPS)見込みなどを示して、株主総会の決議を義務付けるように求めた。取締役会は招集通知で、取締役会の権限や機動性を縮小・制限する提案は不合理だと反論。今回の買収は「財務体質の改善に短期的・中期的に寄与する」とした。」
シャイアー買収は、新株発行について、臨時株主総会の特別決議が必要だそうです。
「シャイアー買収については4兆円規模の新株発行が必要となるため、武田は定時株主総会とは別に2018年末~19年上期に臨時株主総会を開く。新株発行にむけて、3分の2以上の賛成を集める必要がある。」
買収に反対という提案ではなく、株主総会における詳細な説明を求めるという定款変更案を出すというのは、可決の可能性を高めるためでしょうか。株主として、無謀な買収を心配するのは当然でしょう。株価も、買収発表後、大幅に下がっているそうです。
武田のケースは、スルガ銀行のシェアハウス融資と似てなくもありません。もちろん、武田は素人ではありませんが、銀行が貸さない親切を発揮せず、巨額資金を調達できてしまい、高い買い物をしてしまったのではないかという疑念を感じます。
武田薬品の7兆円買収 笑うのは「武田」か「銀行」か(文春オンライン)
「市場関係者は「買収価格が高すぎ、武田の財務内容が大幅に悪化する」と懸念する。今回の買収で、有利子負債は、1兆円から6兆円規模に膨れ上がる。かつて無借金経営で名を馳せた武田からは隔世の感がある。さらに、武田のウェバー社長は、配当を維持することも明言しており、重くなる武田の財務負担をマーケットは嫌ったのだ。
その一方で、今回の巨額買収に笑みを隠し切れないのが、銀行だ。武田が調達する約3兆円の現金は、半分の1.5兆円を米大手銀のJPモルガン・チェースが出し、残りを三井住友銀と三菱UFJ銀の2メガバンクが半分ずつ供与する。メガバンク幹部が解説する。
「当座の融資は期間1年のブリッジローンで、その後、長期の融資に転換するか、社債に振り替えられる。短期のつなぎ融資は緊急性が高い分、高金利が得られる一方、長期融資や社債に転換する段階でアレンジメントフィーも入る。銀行にとっては非常に美味しいディールです」
支払う利息は少なくとも年1000億円を超えると見られる。
また、売り手、買い手の双方に、野村証券やゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーなどの投資銀行が財務アドバイザーに入っている。
「内外の投資銀行が得る報酬総額は空前の200億円規模となる」(市場関係者)」
武田薬品の巨額買収、市場の懸念は日本電産との比較でよくわかる(DOL)
「AT&Tワイヤレスの買収に1兆円以上をつぎ込んで失敗したNTTドコモをはじめ、ウェスティングハウスの買収(5800億円)を原因として危急存亡の秋を迎える東芝、最近でも日本郵政によるオーストラリア物流会社トール・ホールディングスの買収(6200億円)の失敗など、日本企業の大型海外M&A案件はなぜか失敗のオンパレードだ。
だが一方で、永守会長が「失敗したM&Aは一つもない」と豪語する日本電産のような会社もある。
この違いは資本の論理が貫徹しているかどうかなのだ。」
「株主利益の観点から見ると、日本電産の株価、時価総額はこの10年で約8倍になったが、武田薬品のそれらは1倍未満と逆に減少している。
資本効率でみても日本電産のROEは12.9%から、さらに向上して16.5%になったが、武田薬品のそれは13.6%から5.9%と激減し、両社の優劣は完全に逆転している。
研究開発から商品化までのリードタイムが長い医薬品会社は、M&Aのリターンを得るまでには長くかかるとしても、この10年で武田薬品は1兆6476億円あった現金を1兆3000億円以上使い、さらに負債を1兆8000億円増やした。
総額2兆6000億円のM&Aを実行してきたのに、株主価値は実績として全く向上しないどころか減少したのだ。
この武田薬品が今回さらに負債を増やして7兆円近い日本企業史上最大のM&Aを実行するというので、資本市場は驚き反応したのである。」
週刊エコノミストの6月5日号でも、会計評論家の細野氏が「M&A 会計士と銀行はなぜ、 武田薬品の巨額買収を止めないのか」という記事を書いています。
日本発グローバル製薬への期待と課題 (日経社説)
「武田は1781年に大阪で和漢薬の仲買商店として誕生した。老舗企業が放った乾坤一擲(けんこんいってき)の策である。」
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