金融庁は、「監査に関する品質管理基準の改訂について(公開草案)」を、2021年6月30日に公表しました。
「監査事務所が、あらかじめ定められた一定の品質管理の方針及び手続を策定し、運用する従来の品質管理から、より積極的に品質管理上のリスクを捉えて、当該リスクに対処し、品質管理体制を改善するサイクルを組織内に有効に展開する品質管理へと変更するため」の改訂とのことです。
令和5(2023)年7月1日以後に開始する年度の財務諸表監査から適用予定です。ただし、公認会計士法上の大規模監査法人以外の監査事務所においては、令和6(2024)年7月1日以後に開始する年度の財務諸表監査から適用です。
品質管理システムの評価については、改訂品質管理基準の実施以後に開始する監査事務所の会計年度の末日から実施することができます。
早期適用可能です。
意見書(案)の前文に改訂の趣旨がまとめられています(別紙1の最初の7ページ)。
それによると改訂箇所は以下のとおりです。(引用は一部のみです。)
1 リスク・アプローチに基づく品質管理システムの導入
「監査事務所自らが、品質管理システムの項目ごとに達成すべき品質目標を設定し、当該品質目標の達成を阻害しうるリスクを識別して評価を行い、評価したリスクに対処するための方針又は手続を定め、これを実施するという、リスク・アプローチに基づく品質管理システムを導入することとした。」
2 品質管理システムの構成
(1) 監査事務所のリスク評価プロセス
「品質管理システムの項目ごとに、品質目標を設定し、当該品質目標の達成を阻害しうる品質リスクを識別して評価を行い、評価した品質リスクに対処するための方針又は手続を定め、実施することを求めることとした。」
(2) ガバナンス及びリーダーシップ
「健全な組織風土の醸成、最高責任者等の品質に関する説明責任を含む責任の明確化、監査事務所において最高責任者等が果たすべき主導的役割等に関する品質目標を設定することを求めることとした。」
(この説明では、ガバナンスについては何もふれていないのでは。ただし、基準案では「適切な組織構造」とあり、ガバナンス的なことにもふれています。)
(3) 職業倫理及び独立性
「監査事務所、専門要員、当該監査事務所が所属するネットワーク、当該ネットワークに属する他の事務所、外部の業務提供者等による職業倫理の遵守や独立性の保持を、品質目標として設定することを求めることとした。特に、独立性の保持に関する品質目標の設定においては、監査事務所の状況に応じて、監査事務所及び当該監査事務所が所属するネットワークに属する他の事務所が提供する非監査業務が独立性に与える影響を考慮することを求めることとした。」
(4) 監査契約の新規の締結及び更新
「監査契約の新規の締結及び更新に際し、監査業務の内容、経営者の誠実性、監査事務所の能力等を考慮するとともに、監査事務所の財務上及び業務上の目的を優先することなく、適切に判断することに関する品質目標を設定することを求めることとした。」
「監査契約の新規の締結及び更新の後に、当該契約の解除につながる可能性のある情報を把握した場合に対処するための方針又は手続を定めることを求めることとした。 」
(5) 業務の実施
(6) 監査業務に係る審査
「原則として全ての監査業務について審査を求めるとともに、品質管理の方針又は手続において、意見が適切に形成されていることを確認できる他の方法が定められている場合には審査を受けないことができることを規定した。 」
「審査の担当者が客観性及び独立性を保持し、審査の担当者としての職業倫理を遵守しているかを確かめることを求めることとした。 」
(7) 監査事務所の業務運営に関する資源
「人的資源に加え、テクノロジー資源、知的資源等の業務運営に関する資源の取得又は開発、維持及び配分に関する品質目標を設定することを求めることとした。人的資源の適切な採用、教育、訓練及び評価に関する品質目標は、公認会計士以外の専門要員も対象とする
ものでなければならない。」
「テクノロジー資源に関する品質目標については、ITの統制を含むITへの対応(監査事務所のセキュリティ対策、監査業務のIT化など)に関する事項を考慮しなければならない。 」
(8) 情報と伝達
「情報と伝達に関する品質管理システムの項目を新たに追加することとした。 」
(9) 品質管理システムのモニタリング及び改善プロセス
「監査事務所自身によるモニタリング、改善活動の実施、監査事務所の外部からの検査及びその他の関連する情報から得られた発見事項の評価を行うことを明確化した。その際、監査事務所が、不備を識別した場合には、識別した不備の重大性及び影響を及ぼす範囲を評価し、適切な改善につながるよう、根本原因(特定の不備に関する直接的な原因や、複数の不備に共通した原因について、原因が生じた原因を検討・分析することで究明される、不備の本質的な原因)を調査・分析し、不備の根本原因に対処する改善活動を実施することも求めることとした。」
(10) 監査事務所間の引継
3 監査事務所が所属するネットワークへの対応
「品質管理システムにおいてネットワークの要求事項を適用し、又は業務運営に関する資源等を利用する場合には、監査事務所としての責任を理解した上で、適用又は利用することを求めることとした。」
「ネットワークが監査事務所の品質管理システムに関するモニタリングを行う場合には、当該モニタリングが監査事務所の品質管理システムのモニタリング及び改善プロセスに与える影響を考慮することを求めることとした。」
4 品質管理システムの評価
「監査事務所の品質管理システムに関する最高責任者に対し、少なくとも年に一度、基準日を定めて品質管理システムを評価し、当該システムの目的が達成されているという合理的な保証を監査事務所に提供しているかを結論付けることを求めることとした。」
「こうした評価の結論や当該結論に至った理由を含む品質管理システムの状況等については、監査報告の利用者が監査事務所の監査品質を適切に評価できるよう、各監査事務所において公表することが望ましい。 」
「改訂品質管理基準の実施に当たっての留意事項」として、中小監査事務所について、ふれています。
「品質管理基準の改訂内容について円滑な導入が図られるよう、特に中小規模監査事務所に対し、基準改訂の趣旨と内容に関する周知が徹底され、中長期的な観点から必要な支援が行われることが重要である。」
今回の改訂案のもとになっている国際基準の翻訳が会計士協会から公表されています。
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