国際監査基準240(改訂)「財務諸表監査における不正」の公開草案の翻訳の公表について
日本公認会計士協会は、国際監査基準240(改訂)「財務諸表監査における不正」の公開草案の翻訳を公表しました。
この案が確定基準になれば、日本の監査基準や協会の実務指針にも反映されるのでしょう。
「公共の利益課題表— ED-240で提案する主な変更点とプロジェクト・プロポーザルの公共の利益に資する行動及び目的のマッピング」という資料(全28ページ)に主な変更点が記述されています。
例えば、「テクノロジーに関する検討事項」という項目では、以下のような変更点を挙げています。
「テクノロジーの利用を反映し、説明するため適用指針を追加した。これには、以下が含まれる。
• 自動化されたツール及び技法を用いて統制を無効化し、経営者がどのように不正を働くのかを説明する例
• 監査人が不正による重要な虚偽表示リスクの識別及び評価に関する監査手続を実施する際の自動化されたツール及び技法の活用法を説明したガイダンス
• 監査チームが然るべき適性及び能力を有しているかどうかを判断する際にITシステムの専門知識を検討する場合があることを説明したガイダンス
• 監査チームが、その企業の財務諸表について不正による重要な虚偽表示リスクの生じやすさを話し合う際に有用な方法として自動化されたツール及び技法を用いる場合のガイダンス
• 企業内の不正を防止し、発見するための自動化統制に関するガイダンスと例
• リスク評価手続において当該企業のIT環境の変化がもたらす影響を監査人が検討する際のガイダンス
• 職業的専門家としての懐疑心の行使を含め、財務諸表レベルで評価した不正による重要な虚偽表示リスクに対して行う全般的な対応の一環として監査人が自動化されたツール及び技法を用いる場合のガイダンスと例
• 監査人が仕訳テストのために自動化されたツール及び技法を用いる場合のガイダンス
• 監査チームが会計上の見積りに経営者の偏向がないか検討する際に自動化されたツール及び技法を用いる場合のガイダンスと事例」
仕訳テストについては...
「• 監査人が以下に関する理解を得る際の要求事項と関連する適用指針を追加した。
o どのように仕訳が開始、処理、記録され、必要に応じて修正されるか
o 不正の防止又は発見を意図した仕訳入力に関する内部統制
これらの要求事項は、ISA 315(2019年改訂)の関連する要求事項に基づき策定されている。
• 財務諸表作成に当たり監査対象期間中に行われた全ての仕訳入力及びその他の修正の母集団の網羅性について、監査人が監査証拠を得る際の要求事項と関連する適用指針を追加した。
• 期間中の仕訳入力及びその他の修正をテストする要求事項について、作業度合いを表す動詞を「考慮する(consider)」から「判断する(determine)」に変更し、強化した。
•以下を目的として、適用指針を追加した。
o 仕訳入力及びその他の修正のテストを実施する理由を明確にする。
o 監査人が仕訳入力及びその他の修正について監査手続を立案し、実施する際に、例えば次から情報を得られることを説明する。
企業とその環境、適用される財務報告の枠組み、企業の内部統制システムに関する監査人の理解に基づく見識を活用する。
監査責任者又は監査チームの他の主要メンバーの経験や洞察を活用する。
o 監査人が仕訳テストを実施する際の自動化されたツール及び技法の利用法を説明する。
• テスト用仕訳及びその他調整を選ぶ際に監査人の判断材料になり得る追加考慮事項を示した付録を追加した。」
確認については...
「• 以下を目的として、適用指針を追加した。
o 監査手続としての確認の有用性を強調する。また、契約条件に対して確認手続の利用がより効果的である、又はより確かな心証を得られる監査証拠が入手できる場合があることを強調する。
o ISA 505第15項との関係を明確にする。適用指針に以下を目的としたガイダンスと例を加える。
最新の実務とテクノロジーの進歩に応じた更新を行う。
確認手続に際しての不正関連の考慮事項を取り扱う。」
監査報告書については...
「• 不正に関する監査報告書の透明性の重要性を強調するため、ED-240に別途セクション(監査報告書に及ぼす影響)を追加した。
• ISA 70119をより詳しく説明し、監査人に不正に関する監査上の主要な検討事項を報告することを求める要求事項を強化するため、要求事項及び適用指針を追加した。これには、監査人に対する以下の要求事項を含む。
o TCWGとコミュニケーションを行った不正に関する事項のうち、監査を実施するに当たって監査人が特に注意を払った事項を決定する。
o 監査を実施するに当たって監査人が特に注意を払った事項のうち当年度の財務諸表の監査において特に重要な事項であり、よって監査上の主要な検討事項に該当するものを判断する。
o 監査報告書の「監査上の主要な検討事項」区分内に、不正関連事項であることを明確に示すための適切な小見出しを使用する。
o 監査報告書の「監査上の主要な検討事項」区分で報告すべき不正に関連する監査上の主要な検討事項がない場合は、その旨を追記する。」
外部からも見える変更は、最後の「監査上の主要な検討事項」のところでしょう。
ちなみに、3月に開催された企業会計審議会では、今後のテーマとして、継続企業の前提や不正に関する国際監査基準の改訂を踏まえた対応を取り上げることが決まりました(→当サイトの関連記事)。
アクセスFSA(金融庁広報誌)第248号 2024年4月16日 発行(金融庁)(3月の企業会計審議会を取り上げている)
「併せて、開示・会計・監査を巡る最近の動向について事務局より説明した後、議論が行われ、「継続企業の前提や不正に関する国際監査基準の改訂を踏まえた対応」について、今後、監査部会で審議することが承認されました。」