金融庁は、「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第二次報告) 」を、2019年10月25日に公表しました。
2016年3月に公表された「会計監査の在り方に関する懇談会」提言において、監査法人の強制ローテーション制度の導入について、金融庁による調査・分析がなされるべきであるとされました。それを受けて、2017年7月に「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」が公表されています。
「本調査報告では、第一次報告後の状況変化等も踏まえつつ、監査法人のローテーション制度に関する論点について、国内関係者へのヒアリング等を中心に、さらなる調査を行ってきました」とのことです。
30ページ弱の報告書です。
以下のような構成となっています。
I.本調査の経緯・目的
II.パートナーローテーション等の実態調査
III.監査法人の交代に関する実態調査
IV.海外の議論の動向
Ⅴ.今後に向けて
第一次報告は、東芝粉飾事件たった1件だけを取り上げて、パートナーローテーションは、効果を十分に発揮していなかった(だから監査法人交代が必要)という結論を出すなど、きわめてずさんなものでしたが、今回は、実態調査を少しやったようです。会計士協会が、社員ローテーションに関するアンケート調査を行ったことにも影響されているのでしょう。
(せっかく、前回東芝事案を取り上げたのなら、あらた監査法人に交代後のドタバタについてもフォローすべきですが、やっていないようです。)
具体的にどういう調査をやったかというと、まず、パートナーローテーションについては、大手4監査法人を対象にアンケートとヒアリングを行っています。その中で、監査法人ごとにそれぞれ 10 社前後を選んで、継続関与状況を見ています。
結論の中では、公認会計士法のパートナーローテーション制度を確実に遵守するための対応は行われているとしながらも、「個々の筆頭業務執行社員・業務執行社員については、...インターバルの間に被監査会社の関係会社等の監査に従事していた事例、業務執行社員として当該企業の監査に従事していた者が引き続き筆頭業務執行社員に就任した事例、10 年以上にわたり監査補助者として当該企業の監査に従事していた者が引き続き業務執行社員に就任した事例など、特に事業規模の大きい企業の監査において、全体として見れば相当な長期間にわたり、当該企業の監査への関与があったと見られる事例があった」と、批判的なコメントをつけています。
監査法人の交代については、公認会計士・監査審査会のモニタリングレポートなどを多く参照しているほか、2018 年度までの 3 年間の交代事例から9社を選び、ヒアリングやメールでの質問を行っています。
その調査結果によると、「監査法人の交代の理由」については...
「調査対象企業のうち、約半数は、グループの組織再編や事業の海外展開等に対応するために監査法人を交代した企業であった。それ以外は、監査報酬の引上げなどをきっかけとして監査法人を交代した企業であった。」
「後者に関しては、「監査法人から『最近の他社での不正事案を踏まえて監査工数を増やしたい』との理由で監査報酬の引上げを打診されたが、当社には不正を疑われる事情は一切なく、納得できなかった」など、監査報酬に関する不満から監査法人の変更を決めた企業や、「現場のパートナーの判断と監査法人本部の判断が食い違うケースがあったことなどから、不信感を持った」など、監査法人とのコミュニケーションに関する不満を背景に監査法人を変更した企業があった。」
「交代の具体的なプロセス」は、概ね 1 年程度をかけて交代のプロセスを進めた会社もあれば、「監査報酬に関する交渉の途上で交代に向けた検討を急遽開始することとしたなど、短期間で行った企業もあった」とのことです。監査法人の選定基準や評価項目、プロポーザル依頼の状況、監査法人間の引継ぎ(前の年度の期末監査について、選任予定の監査法人がシャドーイングを行ったり、共同監査をしたりという事例もあるそうです)についても、調べています。
「監査法人の交代による変化・影響」では、ポジティブな影響を多く紹介しています。しかし、監査報酬は、調査対象の多くで交代前よりも減少したそうです(会社からすればポジティブな影響ですが)。
「交代に際しての実務上の留意点・課題等」については、多くの会社では、日程管理・事前準備を入念に行う必要があったとのことです。一般的な問題点として、「グローバルな対応が可能な監査法人の数が限られていること」や「監査法人側の人手不足」が挙げられたそうです。また、後任の監査法人が前任の監査調書を閲覧する際に、複写機でのコピーや電子データのコピーは原則として認められないという運用があり、「未だにこのような非効率な方法が採られていることには疑問がある」との指摘があったそうです。もっともな指摘ですが、かつては、協会レビューのときですら調書をコピーさせなかったという話もあります。訴訟リスク回避のためでもあり、また、意地でも後任監査人に楽をさせないぞという気持ちの表れでもあるのでしょう。
最後の「今後に向けて」で総括がなされています。
その中から、パートナーローテーションと監査人交代事例の調査結果のまとめの部分。
「パートナーローテーション等の運用実態に関しては、監査補助者として長く監査チームに所属していた者が引き続き業務執行社員に就任するなど、パートナーローテーションを遵守しているが、「新たな視点での会計監査」という観点から適切でない事例も一部に見られたところであり、パートナーローテーションが形式的に運用された場合には、「新たな視点での会計監査」という制度導入時に期待された効果を必ずしも十分に発揮できない可能性がある。この点に関しては、各監査法人において、パートナーローテーションの適用や監査チームの構成等について、制度趣旨を踏まえた適切な運用が行われることが重要と考えられる。
実際に監査法人の交代を行った企業についての調査では、交代に際し、十分な準備期間の確保や体制整備、「シャドーイング」や「共同監査」などの工夫により、監査法人の交代を円滑に行うことが可能であることが明らかになった。一方で、従来から指摘されてきた、監査市場が寡占状態にある中での交代の実務上の困難さという点に関しては、監査法人のローテーション制度の検討に際し、引き続き、重要な課題であることが確認された。」
金融庁として今後どうするのかは書かれていませんが、監査事務所強制ローテーションは、まだまだあきらめていないとみることができそうです。
「監査法人の交代に際して支障となり得る実務面の課題に対処しつつ、監査市場の寡占状態の改善や非監査業務の位置付けという観点も含め、海外の動向を踏まえながら、より幅広く監査市場の在り方についての分析・検討を行う必要がある。」(27ページ)
監査品質(独立性など)の問題のはずが、欧米の動向にひきずられたのか、いつの間にか「監査市場」の問題になっています。
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天見
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