会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

原発廃炉時の会計処理見直しを指示 経産相(日経より)

原発廃炉時の会計処理見直しを指示 経産相

経済産業相が、原発の廃炉費用に関連して、電力会社の会計規則見直しの指示を行ったという記事。

「茂木敏充経済産業相は2日、原子力発電所の老朽化した原子炉の解体を進めやすくするため、電力会社の会計規則を見直すように省内に指示したと正式に表明した。「現行制度では、廃炉費用を確保できないことが想定される」と述べた。引当金や損失の計上方法を見直し、廃炉費用を電気料金へ転嫁する方向で調整する見通し。

横浜市で記者団の質問に答えた。茂木経産相は「廃炉に関する会計制度の見直しを早急に進めるため、体制とスケジュールを検討するよう事務方に既に指示をした」と述べた。経産省は6月中にも会計士や学者による検討会を立ち上げて、年内をメドに新しい会計規則を作る。2013年度中に会計規則に関する省令を改正する方針だ。」

この記事では損失計上のタイミングのことについてははっきりとは書かれていない(大臣からの指示はそこまでは踏み込んでいない?)のですが、6月1日の日経1面記事や他の報道によると、損失を分割して処理するのだそうです。

原発廃炉の損失、分割処理 経産省、決断促す環境整備へ(朝日)

「経済産業省は、電力会社が原発を廃炉にする場合、一度に巨額の損失を出さなくても済むようにする。廃炉にかかる費用や、原発の資産価値がゼロに目減りするのに伴う損失を、長い期間かけて分割して決算処理する仕組みを検討している。」

1.まず前提として押さえておくべきなのは、会計処理方法と電力料金の決定方法とは一応別の問題であるということです。電力料金は政府の規制の対象であり、その決定の際には、会計上の費用や損失も考慮されるわけですが、会計処理を必ず料金決定方法に合わせなければならないという理屈はありません。

ただし、すでに発生し計上された費用や損失と連動するような収益が、将来確実に得られる場合には、それを資産として認識する考え方もあるかもしれません。

国際的にはどうなっているかというと、タイミングよく(?)、IASBから「規制繰延勘定」という新しい会計基準案(本格的に検討されたものではなく暫定的な基準案)が、4月に公表されており、参考になります。

IASBが料金規制に関する提案を公表(企業会計基準委員会)

「IASB は、IFRSを適用している法域の中では、実務の重大な不統一の証拠を見ていない。ほぼすべての企業が、IFRS への移行時に規制繰延勘定を廃止して、IFRS 財務諸表には認識していないからである。」(公開草案より)

「本暫定基準[案]では、次のことを行う。

(a) IFRS を採用する企業が、国内で認められている従前の会計原則での会計方針を、規制繰延勘定の認識、測定及び減損に関して、IAS 第8 号の第11 項の要求事項を具体的に考慮することなしに、引き続き使用することを認める。

(b) 規制繰延勘定を財政状態計算書に独立の表示科目として表示し、当該勘定の残高の増減を純損益及びその他の包括利益計算書に独立の表示科目として表示することを企業に要求する。

(c) 本暫定基準[案]に従って規制繰延勘定残高の認識を生じさせた料金規制の内容及びそれに関連したリスクを明確に識別するための、具体的な開示を要求する。」(同上)

「規制繰延勘定残高(Regulatory deferral account balance)

料金規制機関による将来の料率の設定に含まれる費用(収益)の繰延べ又は差額の勘定で、他の基準に従えば資産又は負債として認識されないであろうもの」(同上)

要するに、現在IFRSを適用している国では、料金規制産業だからといって特別な会計処理を行っていないが、料金規制産業について特殊な会計処理を行っている国が将来IFRSを採用することがあるだろうから、その場合は十分な開示を行わせたうえで暫定的・限定的に認めようということのようです。やはり、費用や損失を繰り延べるようなことはしないというのが原則なのでしょう。

2.現行の資産除去債務会計基準では、資産除去(原発の廃炉など)のために予想される支出は全額「資産除去債務」として、負債に計上済みであるはずです(ただし、割引後の金額)。したがって、廃炉が数年から数十年前倒しで行われることになったとしても、見積りさえ適正に行われていれば負債の金額が大きく膨らむことはないはずです。

(事故を起こした東京電力の原発の廃炉は、正常の状況下での廃炉ではないので、見積り不可の部分が多く、計上済みの金額をはるかに上回る支出が発生すると予想されます。今回出てきた話とは別に考えるべきでしょう。)

廃炉が前倒しになることの影響は、資産除去債務が適正に見積もられていれば、資産側(固定資産)の減損処理という形で主に表れることになるでしょう(資産除去債務の金額は資産の取得原価に上乗せされているため)。

(なお、以上は、電力会社の特殊な会計規則ではなく、一般的な会計基準に基づいた議論です。)

3.電力会社(多くが上場会社)に危ない会計処理をやらせるということになると、IFRS強制適用は当面なさそうです。IFRSを強制適用した途端に、債務超過に転落する電力会社が続発したりすれば、大問題でしょう。

4.東京電力の実質的粉飾決算をアレンジした経産省に、会計処理の検討を任せていたら、再稼働の見込みのない原発や解体作業中の原発が、何兆円もの金額で電力会社の貸借対照表に計上され続けるという事態にもなるでしょう。よく監視しないといけません。

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